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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第三章 仮婚約者のエミリアナ

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三十六幕

 グラシアン王国の貴族学園では入学式が済んだ後は午後から新入生と在校生との交流会が行われていた。しかし、ブリオネス国でのスタンピード発生で交流会は中止となった。

 代わって学園長から重大な報告があると全校生徒が講堂に集められた。


「例年ならば新入生を言祝ぎ、在校生との交流を図る場なのだが、先日十数年ぶりにスタンピードが発生した知らせは皆の耳にも届いているはずだ。

 場所は隣国ブリオネス北方で我が国とは距離があるが、各ダンジョンは別世界でそれぞれ繋がっている。いつどこでどんな影響が現れるかはわからない。十分に注意する必要がある。

 幸いなことに北方を封鎖して被害を最小限にできた、と公式発表があった。上級冒険者や猛者たちが掃討戦に入ったそうだ」


 学園長の言葉にほっと安堵の空気が広がった。皆、対岸の火事ではないと緊張していたのだ。

 エミリアナも姉たちと顔を見合わせて、肩の力を抜いた。

 スタンピード発生の速報を受けて、上級冒険者には招集がかかった。もちろん、アーロンやダニエルもで彼らは挨拶する暇もなく、冒険者ギルドに設置されている緊急時用の転移陣でブリオネス国へ向かった。

 血統スキル持ちもギルド職員で緊急事態に備えなければならない。ダニエルに護衛という名の監視で付き添われていたが、とんぼ帰りで祖国へ戻った。エミリアナの血筋確認はスタンピードが収まるまでお預けだ。


 スタンピードが発生して今日で五日目だった。カルサダ地方はこれまでスタンピードが起こったことはなかった。参考になる前例はないし、詳しい情報も手に入らなくてエミリアナはヤキモキしていたから、学園長のお話を聞いて一安心した。

 従兄とは会ったばかりだが、力になってくれると言ってもらえて嬉しかった。天涯孤独だと思っていた自分に両親の思い出を語ってくれて、親族なのだなと実感できた。無事に戻って欲しいと心配していたら、フィデルに宥められた。

 どうやら、フィデルはレアスキル繋がりでアーロンと面識はあったらしい。


「あの人なら大丈夫だ。本当ならとっくにS級に上がっているはずだったが、S級だと国からの指名依頼もあるから面倒くさがって昇級を拒否していたんだ。

 ダニエルさんも殺しても死なないタイプだから、心配することはない」

 ダニエルに対しては辛口なフィデルだ。テオドラも同意していた。

「そうよお。あーいう図太くて調子のいいタイプは何かと運がいいのよ。絶対に無事で戻ってくるわよお」

 テオドラはダニエルとは面識がないのに、彼女もまた辛口評価だった。どうやら、娼婦扱いされそうになったトラウマから遊び人タイプは嫌悪の対象らしい。


 エミリアナが二人の言い分を思い浮かべている間にも学園長の話は続いていた。

 新入生と専門コースに分かれる二年生はこのまま学園で学ぶが、最終学年だけは例年とは異なり、早くも実地研修を行うと言われた。

 もともと、最終学年は実習や勤め先候補で研修を行ったりと実技がメインの学びだ。この後、担任と個別相談で実習先を決めると言われた。


「最終学年の諸君、君らがどのような進路を選ぼうともダンジョンと無関係になることはない。スタンピード発生の可能性はいつ何時でもあるのだ。

 この機会に諸君らは緊急事態時の体制に慣れておくとよかろう」

 学園長のお話が済んで、最終学年だけは教室に戻った。

 学科ごとに進路相談が始まり、進路先に関する書類を配られて必要事項を記入していく。爵位が下の者から呼ばれて相談室に入って行った。

 淑女科でエミリアナは一番最後だ。ミランダも伯爵家の中で上位の家だから順番は遅い。ミランダが憂い顔でため息をついた。


「すぐに実習に入ってしまうなんて残念ですわ。まだ学園生活を楽しめるものと思っておりましたのに・・・」

「仕方ありませんわ。しばらくは警戒体制をとらないといけませんもの」

「エミリアナ様はご実家での実習になりますの?」

「ええ、そうなると思いますわ」

 エミリアナは考えながら頷いた。


 まだ公になってはいないが、カルロスの仮婚約からは外れている。貴族籍も残っていることだし、血筋確認まではセルダ家のお世話になるから、姉のお手伝いをしなければならない。

 一方、ミランダは伯爵家の跡継ぎで本来ならば経営科に進むはずだった。カルロスの婚約者候補に上がったことがあるため、カルロスの婚約成立までは関わりを避けたほうがよかろうと淑女科に進んだそうだ。もし、カルロスが臣籍降下することになった場合、再び候補に上がるのを避けたかったらしい。

 ダンジョン管理で治安部隊に力を入れているミランダの領地では戦力外の婿は困るそうだ。彼女は淑女科でも経営に関する講座を受講していたので、伯爵位の継承に問題はない。


「試験は行わずにレポートの出来具合で成績をつけると言われましたし。下手をすると、このまま卒業まで皆様と顔を合わせることはないかもしれませんわね」

 ミランダがため息混じりに呟いた。

 一度、スタンピードが発生すると数カ月から半年くらいはダンジョンを警戒せねばならない。ダンジョンのある領地では人手が必要だから早めの実習になったはずだ。スタンピードの危険が完全にないと判断されるまでは半年以上かかることもあるから、ミランダの言う通りになる可能性は高かった。


「ミランダ様、よろしかったらお手紙を差し上げても構いませんこと?

 お互い、ダンジョンのある領地ですもの。情報共有は利があると思いますわ」

「まあ、それはいい考えですわね」

 ミランダが顔を輝かせて賛成した。

 ダンジョンの情報共有ついでに近況を語りあったりできる。実習の悩みも相談できるとあって、二人は連絡先を交換した。


 エミリアナがルイシーナと下校すると、イラリオも帰りの馬車に同乗した。イラリオは婿入りのセルダ家での実習を望んだので一緒に作戦会議だ。

 ルカスはスタンピード発生の速報とともに領地に向かった。今頃は沼地のダンジョンへの対応に追われているはずだ。備蓄や避難経路の確認、冒険者や各ギルドとの調整など、警戒体制を敷くにあたってやることは山積みだった。


「きっと、お母様は何もなさっていないと思うのよ。緊急事態には対応できない人だから。女主人の役目をわたくしとエミリアナで果たさないといけないのだけど・・・」

 ルイシーナが眉根を寄せて顔を曇らせた。オクタビアとエミリアナを関わらせたくはないが、緊急事態ではそんなことは言っていられない。

「エミリアナ嬢には冒険者やギルドのほうに関わってもらってはどうかな? 伝手のある頼もしいお相手がいることだし」

 イラリオが提案してきた。伝手のある相手とはフィデルのことだ。

 イラリオは学園内で情報収集を行なっていて、詳しい様子を教えてくれた。

 騎士科では王宮騎士団に仮入団扱いで、応援要請のあった領地に出向けるよう訓練に明け暮れる生活になるようだ。

 文官科は宰相の下で見習い文官となり、スタンピードの詳細や各地のダンジョンの情報収集整理のお手伝いだ。

 侍女・従者科も王宮で見習い待遇で帰る暇もない文官や武官のお世話をしたり、援助物資の確認や手配の補佐をするそうだ。


「経営科は領地経営に関わるし、淑女科は実家か嫁ぎ先で女主人のお手伝いだ。領地経営には僕も関わるから、シーナが女主人の役目を担っても構わないだろう。

 エミリアナ嬢はシーナのお手伝いで外部交渉を引き受けたとすればいいんじゃないかな」

「そうね、そうすればお母様と関わらなくても済むわ」

「お姉様、イラリオ様。心配りしてくださってありがとうございます」

 エミリアナがほっとして笑みを浮かべる。ルイシーナとイラリオはそっと目配せをしていた。

 エミリアナには誘拐未遂がオクタビアの画策だとは伝えていない。貴族籍から抜けるのを望んでいるエミリアナを怖がらせたくなかったからだ。

 その代わりに周りの相手、護衛のフィデルやメイドのテオドラに注意するよう促していた。

 ノックの音がして、ギルドに情報収集に行っていたフィデルが戻ったと報告があった。

 フィデルを招き入れると、彼はなんとも言えない顔をしていた。イラリオが思わず硬い声になる。


「何か問題でも起こったのかい? 浮かない顔をしているけど」

「いえ、悪い話ではなかったのですが・・・」

 フィデルはC級の顔見知りの冒険者から話を聞けたと報告してきた。治癒スキル持ちで後方支援として出向いたのだが、すぐに出番がなくなって戻ってきたのだという。

「その、『生まれて初めて魔獣に同情した・・・』と言っておりまして、詳しく話を聞きましたところ・・・」


 カルサダ地方は荒地が多くて農業に向かない場所だった。ダンジョンしか特徴がない土地で、田舎で不便だと冒険者からも不評だったそうだ。

 先代の統治者、サラサール一族はそれを逆手にとって領地を繁栄させていた。

 冒険者用の訓練施設を設けて、攻撃魔法を使い放題、地形が変わるような無茶な物理攻撃もOKにしたとか。

 捕らえた魔獣を放って魔獣狩りを行えるようにしたり、魔術道具の威力確認も可能にして研究者を招致したりした。領地は訓練施設と狩場と研究施設、その関係者の宿泊施設などを充実させていたそうだ。


「訓練施設にはいつも上級冒険者が出入りするほどの人気で、ちょうどスタンピード時にS級のパーティーが居合わせてボスクラスをすぐに仕留めたそうです。

 新型の攻撃魔術道具の実験もしていたそうで、遠慮なく大判振る舞いしたとか。

 その上、代々の統治者の中には変わり者というか、そのう、変わったスキル持ちが多くいたそうで、地形を利用した罠が多数仕掛けられていたとのことです。その対応マニュアルが領民に伝わっていまして、避難するよりも先に仕掛けを発動させたようです」

「それでは、スタンピードの群れは罠にハマったのかい?」

「ええ、見事に完全に勢いよく仕掛けや落とし穴にハマったそうです」

 珍しく歯切れの悪いフィデルにイラリオが首を傾げると、重々しく肯定が返ってきた。

 魔獣たちは行き止まりの涸れ谷に誘い込まれて退路を絶たれた上に水攻め、落石攻め、火攻めと容赦なく蹂躙されたそうだ。

 カルサダ地方はもともと荒地ばかりの土地だ。後始末など考慮せずに、多少地形が変わろうとも構わなかった。実際、地図を書き換えるほど地形が変わった場所もあったくらい激しい戦闘跡地もあったという。


「そのう、知人は実験の失敗で毒沼になった場所に魔獣を追いやった後に土魔法で埋め立てたのを見たと言っていました。後から浄化魔法をかけておけば問題なかろうと地元民は気にしていなかったそうです」

「・・・なんとも豪快だね。それでスタンピードの封じ込めが早くできたのはいいことだけど・・・。

 なんというか、カルサダ地方の住民って細かいことは気にしないアグレッシブなタイプなのかな?」

「そうですね、もともと変わったレアスキル持ちが多く生まれる土地だったそうで、結果さえ良ければ気にしないらしいです。

 どんな奇想天外なアイディアでも試してみて、『終わり良ければすべて良し』が地元では合言葉になっていると聞きました」

 フィデルの視線がなんとなくエミリアナに向かい、その場の全員がつられた。皆、お互いの顔を見ては納得したように頷き合っている。

 一人蚊帳の外のエミリアナはきょとんとなった。


「え、え、みんな、その反応は何なの? え、なんでえ?」

「・・・いや、何でもない。気にするな」

「そうそう、気にしないで」

「心当たりがなければいいのよ。案外、人って自分のことはわからないものだし」

 フィデルやイラリオにルイシーナまで宥めてきて、エミリアナはぷくうと膨れた。

「ええー、ずるいよ、みんなしてわかり合ってて」

「まあまあ、スタンピードの収束の目処がたちそうでいいことじゃないのお」

 テオドラが新しいお茶を淹れて勧めてくる。エミリアナは不満げだったが、お茶菓子も追加されて機嫌が治った。


 フィデルはイラリオの帰り際に声をかけられた。領地で実習する話を聞かされて、思わず眉間にシワがよる。

「夫人はシーナが抑えてくれるし、私も協力はするけど、私たちも実習で領地内を駆け回ることもあるだろう。いつでも、夫人の動向に目を配れるわけではないからね。

 エミリアナ嬢の安全は君に任せるから」

「もちろんです。危険な目には二度とさらしませんから」

 フィデルが剣呑な目つきになって頷いた。

 フィデルはオクタビアからエミリアナを守るために護衛の指名依頼を受けた。領都の邸でのエミリアナの待遇も承知している。テオドラからも話を聞いて状況は確認済みだ。

 イラリオが安心したように微笑む。


「そうか、彼女に何かあればシーナが悲しむし、私も後悔するからね。

 くれぐれも頼んだよ。助力が必要な場合はレイクスに声をかけてくれ」

「・・・承知いたしました」

 フィデルは丁寧に深く頭を下げた。 

 養子の打診を受けて丁重にお断りをしたのだが、レイクス士爵はまだ諦めていない。どうやら、フィデルは彼に気に入られてしまったようで、いつでも養子にするから気が変われば遠慮なく声をかけろと言われていた。

 フィデルはイラリオを見送ってエミリアナの私室を訪れると、ちょうどテオドラがお茶のワゴンを押して出てきた。


「・・・こちらを片付けて参りますので、騎士様にはお嬢様の警護を()()()お願いいたしますわね」

(手をだすんじゃないわよ⁉︎)と副音声が聞こえる目だけは笑んでいない微笑みを向けられて、フィデルの顔がひきつる。

「もちろんです。お嬢様のことはお任せください」

(人のことを何だと思っていやがる?)とフィデルも副音声付きの笑みで応じた。二人の間に目に見えない火花が散っていて、たまたま通りかかったメイドがびくうっと怯えていた。二人ともはっとして、表面上は何事もなかったかのように取り繕った。

 フィデルが部屋に入ると、エミリアナは机に向かって何か書き物をしていた。


「あ、フィデル。アーロンさんにお手紙を出したいんだけど、冒険者ギルド宛でいいかな?」

「そうだな、カルサダ地方支部宛にすれば届けてもらえるだろう。スタンピードも収まってきているというし」

「よかったあ〜、無事だって聞いたけど、一応お手紙で尋ねてみようと思って」

「そうだな、親戚なんだからいいと思うぞ。手紙は俺が出しに行くから」

 フィデルが請け負ってくれてエミリアナは嬉しそうに頷いた。

 エミリアナが手紙を書き終わると、フィデルが宛先を確認してOKを出した。


「これでよし、テオドラが戻ったら、早速出してくるから」

「うん、フィデル。お願いね」

 にこにこ笑顔のエミリアナは素の表情だ。姉たちがいた時はまだ淑女のかけらを引っ被っていたが、今はフィデルと二人だけですっかり気を許している。

 フィデルもまた素に戻って、ポケットから小瓶を取り出した。

「帰りに見かけて買ってきたんだ。エミリ、キラキラ飴が好きだっただろ?」

「うわあ、久しぶりだあ。もらっていいの?」

「ああ、エミリのために買ってきたから」

 エミリアナは飴の小瓶を手に取って嬉しそうだ。庶民の間で人気の小粒のキャンデーは蜂蜜がかかっていてキラキラと光って見える。子供の頃のエミリアナのお気に入りだった。


「なあ、エミリ。前に話したこと覚えているか?

 仮婚約者から外れて平民に戻ったら、大事な話があるって言ったことだが」

「うん。覚えてるよ」

 エミリアナが頷くと、フィデルがその場にひざまづいたからびっくりした。

「スタンピード騒動で延期になってしまったから、はっきりとは言えない。まだ、エミリが仮婚約者のままだと伝えられない言葉があるんだ。でも、俺の気持ちはずっと昔から変わっていない。

 エミリの本当の家族になりたいんだ。それを忘れないでいてくれるか?」

「本当の家族って、もしかして・・・」

 エミリアナはテオドラの助言を思い出して顔が赤くなる。フィデルの赤い瞳が優しく和んで頷いた。

「ああ、予約しておこうと思って。嫌だったら、はっきり言ってくれて構わないが」

「え、イヤなわけないよ!」

 エミリアナが大きな声をあげてしまって、あわあわと慌てていた。戻ってきたテオドラに不審げに見られたが、ご機嫌なフィデルの様子に何があったのかは察したようだ。




 後日、テオドラは呆れ顔で頭を抱えていた。

「串焼きよりは成長したけどさあ、プロポーズ予告で飴の小瓶って・・・。

 あいつの情緒も成長させなきゃじゃないのお」

 テオドラのお悩みは今後も尽きないようである。

これにて、第三章は終了です。次回からは第四章『冒険者のエミリアナ』に入ります。


いつもお読みいただきありがとうございます。

評価やブクマ、いいねなどありがたいです。誤字報告も助かります。

ちょっと追加があって遅刻してしまいました。すみません。お見捨てなきようお願いいたします。

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