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わたしのスキルはハズレではありませんよ?  作者: みのみさ
第三章 仮婚約者のエミリアナ

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三十一幕

 淑女科は立派な女主人になるために多岐に渡る教育内容だった。家政に関わる事柄以外にも学ぶことは多い。

 市井の庶民などは『貴族の奥様は優雅にお茶をして、綺麗なドレスを着てダンスでも踊っていればいいお気楽生活だ』などと俗な考え方をしている者が多いが、それは偏見に過ぎない。


 貴族家の女主人は使用人を統率する立場で、家内の人事権を握っている。帳簿を家令につけさせても最終確認で必ず目を通さねばならない。女主人は有事に備えて家の財政だけでなく、領地の財政も把握しておくものだ。

 ダンジョンの多い大陸中央部ではスタンピードを警戒して領主夫人も備蓄管理の仕事がある。もし、自領にダンジョンがなくても近隣には必ずダンジョンがある土地柄なのだから、観劇や物語に登場する浪費家な悪妻など、まともな貴族家には存在しない。

 病弱で社交を行わないルイシーナの母のオクタビアでさえ、毎月報告書に目を通して指示を与えている。必要最低限の義務だけは果たしていた。


 経営科で行われる財政関係の講座には淑女科も参加しており、エミリアナは姉やイラリオとグループを組んでいた。なぜか、カルロスも加わろうとしてきたが、エミリアナが誘った淑女科の伯爵令嬢で定員は足りている。

 アナスタシアたちがいるのに、こちらに関わろうとするカルロスが鬱陶しかった。イラリオが不機嫌そうに唸る。


「チャベス嬢たち候補者が本気でカルロスの配偶者を目指すなら、もっと真剣になってカルロスを引き止めて欲しいよ」

「殿下が加わると候補者争いにわたくしも参加していると思われて迷惑なのですけど?」

 エミリアナも眉間にシワを寄せていた。『侍るな』と命じてきたのはカルロスなのだから、こっちに来んなと言いたい。

「まあ、本当にエミリアナ様は殿下には興味がありませんのね」

 くすくすとおかしそうに笑うのは伯爵令嬢のミランダだ。

 彼女は一つ上の騎士科の生徒と婚約していて、よく練習を見に行ったり差し入れをしている。『好みのタイプは騎士』と公言しているエミリアナを見学に誘ってくれて仲がよくなった。

 ミランダは伯爵家の跡取り娘で彼女もカルロスの婿入り先候補にあがったこともあるが、カルロスが王族に残ることになって幼馴染の伯爵令息と婚約した。婚約者は三男でもともと騎士になって独立するつもりだった。ミランダの領地にはダンジョンがあって、婚約者には騎士となって領地の治安部隊を率いてもらうことになっているそうだ。


 エミリアナが肩をすくめた。

「ええ、殿下は騎士見習いの方々と比べると、どうしてもみおと・・・、いえ、細身に見えますからねえ」

 エミリアナは『見劣りする』と言いかけて言い直したが、あまり意味はなかった。ミランダも姉たちも納得したように頷いている。

「エミリアナ様、今度の練習試合にまたご一緒していただけませんか?

 今、騎士科では外部から講師を招いているそうなのだけど、その講師の方が目に麗しい美形で見学者が多くなっているのです。

 わたくしだけでは他の方々に埋もれてしまいそうで・・・」

 ミランダが困ったように誘ってきた。ミランダは令嬢の中でも小柄で華奢な体格だ。


「ええ、構いませんわ。わたくしもお誘いしていただいて嬉しいですわ」

「その講師はA級の冒険者の方では? 攻撃系の魔法技が得意だと聞いているけど」

 イラリオが会話に加わってきた。ルイシーナもそういえばと思い当たるようだ。

「わたくしも聞いたことがあるわ。なんでもスキルで生活魔法を強化できるのですって。灯火くらいの炎を抱えるくらいの火球に増幅したり、コップ一杯の呼水を大渦ができるほどの竜巻にできるとか。

『属性強化』というレアスキルらしいわ」

「へえ、すごいスキルだね。まさしく冒険者らしいな」

「冒険者の方が騎士見習いを鍛えているのですか?」

 エミリアナが首を傾げた。騎士は対人相手の剣技で、魔獣相手の冒険者とは勝手が異なるはずだ。

 以前、フィデルとマルコスが剣士の訓練を受けていたのを思い出して、エミリアナの胸中は複雑に渦巻いている。


 テオドラの提案した『餅は餅屋、冒険者ギルドのことは冒険者に聞け』をルイシーナに相談したところ、あまり外部には広めたくないから少し待つようにと保留されている。他に打つ手がない場合には頼るしかないが、まだ他の手があるうちはいくらエミリアナの事情を知る相手でも遠慮したいと言われてしまった。

 セルダ家の醜聞になる話だから、関わる人物はできるだけ少ないほうがいいのだ。

 ルイシーナの言うことは尤もだから、エミリアナは素直に引き下がったが、内心ではがっかりしていた。『フィデルに会える!』と期待した分、落差が大きい。淑女教育の賜物で表情にはださなかったものの、後で隠れ家内でテオドラに愚痴って慰めてもらい、アルパカと黒兎のぬいぐるみをモフって気分転換したものだ。


「騎士と言っても、色々とあるんだ。

 近衛騎士は王族警護が主な仕事だけど、神殿騎士は聖職者の護衛だけでなくスタンピードに備えて魔獣を葬ったり、市民を避難誘導して守ったりもする。各家の護衛騎士は家人の護衛や邸の警護の他に領地への移動中は野盗や魔獣を警戒するし。

 騎士の訓練だけでは物足りないというか、対人相手だけでは学べない戦い方を冒険者から教わるようだよ」

「まあ、そうなの。リオは詳しいわね」

「我が家の護衛騎士から話を聞いたことがあるんだ。学園の騎士科をでていたから、入学前に学園の様子を聞いてみたのだけど、騎士科の話ばかり詳しくしてくれてね」

 イラリオが苦笑した。

 一学年の間は高位貴族ほど学習内容を修めているのだから、人脈作りに力を入れるものなのに、その護衛騎士は見事に脳筋だった。訓練以外の印象は希薄であまり覚えていなかったという。


「騎士科では時折外部講師として上級冒険者を招いているんだって。実践教育だって魔獣狩りを行うこともあるそうだよ」

「まあ、騎士科には遠征があると聞いているけど、魔獣狩りに行っているのかしら?」

「民間の騎士訓練校と交流して練習試合をすることもあるそうですわ」

 ミランダが婚約者からの情報を教えてくれた。

 平民でも騎士の試験に合格すれば一代限りの騎士爵を得て国から給与をもらえる。騎士になれなくても兵士の雇用があって、活躍次第では騎士爵を得られる。平民の男児の出世コースになっているらしい。

 エミリアナの感覚では騎士は前世の警察組織で公務員みたいなものだろう。ルイシーナがミランダの話に感心していると、イラリオも見学に手をあげた。


「僕も行ってもいいかな。未成年のうちは冒険者と関わる機会はあまりないからね。セルダ領にはダンジョンがあるから、 A級と知り合いになっておいて損はないし」

「ライネス様は熱心ですのね。ルイシーナ様も心強いのではなくて?」

 ミランダが揶揄うようにルイシーナを見やった。エミリアナも便乗して大きく頷く。

「ええ、お姉様が羨ましいですわ。イラリオ様はセルダ領地に関心をお持ちで色々と考えてくれていますもの。頼もしいですわね」

「もう、二人ともからかわないでよ」

 ルイシーナが赤くなって咎めてくるが、イラリオはニコニコ笑顔だ。まあまあと婚約者を宥めている。

 四人は次の練習試合の見学を約束して待ち合わせすることにした。




「そこのお嬢さん、第二訓練棟への道順を教えてもらいたいのだが、お暇でしょうか?」

 エミリアナは声をかけられて振り向いた。いきなり目の前に現れた優美なご尊顔に思わずのけぞってしまう。

 中性的な美貌な上に細身の体つきだ。金の短髪でなければ男性とはわからないだろう。外部講師として招かれているA級冒険者だ。

「第二訓練棟、ですか? こちらからだと少々遠回りになりますわね。

 説明だけではわかりづらいと思うので、よろしかったらご案内いたしますわ」

「ああ、それは助かります。よろしくお願いします」

 A級冒険者は安堵したようにほっと息をついた。エミリアナと並んで歩くと、彼女より少しだけ背が高い。男性としては小柄な体格だろう。

 攻撃魔法が得意技なのは納得かも、とエミリアナは内心で頷きながら冒険者を案内していく。


「いやあ、この学園は施設が充実していますね。訓練所も一棟単位で用意されているし、第二にはあまり行ったことがなくてうろ覚えだったのですよ」

「そうだったのですね」

 エミリアナが無難な相槌を打っていると、不意に冒険者が足を止めた。

「すまない、靴紐が解けてしまって。結ぶ間、待ってもらってもいいかな?」

「ええ、どうぞ」

 エミリアナは頷いて、通路の端によけて待っていた。靴紐を結んだ冒険者が立ちあがったと思うと、急に距離を詰めてきた。どんと壁に手をつくから、エミリアナはびっくりした。夢の知識では壁ドンだ。


「隙だらけだねえ、お嬢さん。お貴族様はこうして異性に迫られただけでも瑕疵になるんじゃないのかい?」

 ニヤリと悪そうな笑みを浮かべる相手にエミリアナはきょとんと首を傾げた。

「え、死にますよ?」

「はっ?」

「だから、死にますよ。わたくしに不埒な真似をなさると、即座に。もしかして、自殺願望でもお有りなのですか?」

「じ、自殺願望?」

 冒険者は予想外な反応だったようで、目を白黒させている。エミリアナは一度しゃがんでから相手の腕をくぐり抜けた。

「ここではちょっと後始末が大変ですわね。もうすぐ、第二訓練棟に着きますから、そこでお目にかけますわ。さあ、どうぞ」

 エミリアナが促すと、毒気を抜かれたらしい相手が大人しくついてくる。エミリアナは訓練棟に着くと、早速護身術を披露した。

 訓練用の的目掛けて腕を振っただけで、的が凍りついた。一瞬で大きな氷塊となった的に冒険者があんぐりと口を大きく開ける。


「え、なに、今の。何をどうやったの?」

「護身用の魔術具です。魔力を流すと発動してわたくしが願った相手を凍らせるのです」

 エミリアナが少しだけ袖をめくって細い腕輪を見せた。そして、にこりと淑女の笑みを浮かべる。

「学園には使用許可をいただいていますわ。学園内では護衛がつきませんから、危険な目に遭わない用心のためでしたけれど。

 実際に使う機会があるなんて思いもしませんでしたわ」

 エミリアナは目だけは笑んでいない微笑みを向けて、さらに可愛らしく首を傾げた。


「ああ、そうそう。わたくしだけではなく、他にも護身具を身につけている方はおりますから、悪戯(イタズラ)心は封印しておいたほうがよろしくてよ?

 それとも、初見であの攻撃を躱せる自信でもお有りかしら?

 冒険者が冒険中でもないのにお亡くなりに、なんて、間抜けでしょう」

「・・・言ってくれますねえ、お嬢様は。

 危険を感じたなら、先ほど使用すればよかったのでは?」

 冒険者が苦笑するが、エミリアナの笑みは深まるだけだ。


「悪意は感じませんでしたから、抹殺するほどではないと思いましたの。それに後始末が面倒ですし。

 上級冒険者でも素行不良の方はいると聞いたことがありましたし、貴方が大変なのはこれからですしねえ」

「へえ、学園長にでも言いつけますか?」

 冒険者がどことなく嘲るように口元を歪めるが、エミリアナはふふっと余裕の笑みだ。

「いいえ? 告げ口なんてしなくても、十分ですわ。

 この護身具と同じ物を姉と将来の義兄も持っていますの。発動させればお互いに伝わりますから、場所も特定されますわ。

 ああ、ほら、参りましてよ?」

 エミリアナが視線を向けた先には珍しく全力疾走で焦っているイラリオがいた。


「エミリアナ嬢! 何かあったのかい? 護身具が最大出力で使われたようだけど・・・」

 イラリオの視線が隣の冒険者に向けられると険しくなった。

「エミリアナ嬢、こちらの方は?」

「迷子ですわ。道を尋ねられましたのでご案内しましたの。

 上級冒険者のお手前を拝見したくて、護身具のお相手をお願いしたところなのですよ、ねえ?」

「え、ええっと・・・」

 いきなり話を振られた冒険者は狼狽えた。イラリオもまたにこりと貴族の笑みを向けてくる。


「そうだったのか。それではぜひ僕の護身具にもお付き合いしていただきたいな。エミリアナ嬢とはまた違った魔法がでてくるのですよ。

 A級の方ならば余裕でしょう、では参りますね」

 決定事項として告げられた。逃げ場はない。冒険者はイラリオの火炎攻撃にさらされて逃げ惑う羽目になったが、それだけでは終わらなかった。

 学園の護衛騎士を伴ったルイシーナが現れると、またもや目だけは冷ややかな淑女の微笑みが浴びせられる。


「まあ、二人だけでお相手していただくなんてずるいわよ。わたくしもA級の方のお手前を拝見したいわ。

 もちろん、見せてくださるでしょうね?」

 今度は雷撃で散々追い回された上に、雷の檻に閉じ込められてしまった。ちょっとでも触れようものなら、遠慮なく全身麻痺で地べたに転がって立ち直れない。

「ごめんなさい、許してください。ちょっとした出来心だったんですう〜」

 平伏して涙まじりの懇願が聞こえるが、ボロボロの冒険者の前では優雅なティータイムが開催されている。

 訓練棟の休憩所から持ち出したテーブルと椅子を設置して、獲物の鑑賞会を開いているのは三人の貴族令息令嬢、エミリアナたちである。


「使用者との距離が近すぎると、巻き込まれる恐れがあるね。使用者には耐火魔法がかかる仕組みを追加したほうがいいかも」

「わたくしの場合は耐冷措置ですわね」

「それなら、わたくしは絶縁かしら?」

 三人で護身具の問題点を話し合っていたら、ようやく起き上がれるようになった冒険者が胡座をかいて大声をあげた。

「ああ、もう、降参します! おみそれいたしました、本当にごめんなさい。

 ちょっと、義兄の従妹がどんな反応を示すか試してみただけなんです。申し訳ないことをいたしました。

 心より反省しております!」

「その態度で謝られましてもねえ?」

 ルイシーナが冷ややかに睨みつけるが、エミリアナは首を傾げていた。


「従妹? 義兄? わたくしが貴方の義兄の従妹なのですか?

 ・・・もしかして、義兄の方はアーロン・バレロンさんですか?」

 エミリアナの従兄は孤児のエミリアナ同様に母方の姓を名乗っていたはずだ。冒険者は大きく頷いた。

「そうです。義兄は今懐妊中の姉に付き添っていて身動きとれないから。

 義兄は依頼を受けるかどうか悩んでいたから、俺が代わりに従妹の為人を確かめてみようと思いまして」


 冒険者はダニエル・ベラスコと名乗った。

 数カ月前にA級に上った冒険者で、ギルドから学園の技術指導を紹介された。エミリアナが通っている学園だと知って、ちょうどよいと引き受けた。エミリアナと関わり合いになれる機会を狙っていたという。

 ダニエルの両親は早くに亡くなり、姉が親がわりとなって育ててくれた。姉は両親の借金も少しずつ返していたが、姉の結婚相手が一括で返済してくれた。姉とは恋愛結婚で大事にしてくれていたはずなのに、いつの間にかに仕事の鬱憤を妻にぶつけるようになったとダニエルは苦い顔で話した。


「姉さんはあのゴミ野郎に暴力を振るわれて流産したんだ。離縁したかったけど、それなら返済した借金を返せって迫られて別れられなかった。

 姉さんは俺には心配かけたくないって黙っていたんだ。俺は全然知らなくて・・・。

 アーロンが姉さんを助けてくれなかったら、姉さんはあのゴミに殺されていたかもしれないんだ」

「貴方にも事情があったのはわかりましたが、それとエミリアナ嬢に危害を加えるのは別の話でしょう」

 イラリオがすぱっと切って捨てる口調だ。ルイシーナも大きく頷いていて、ダニエルはひたすら頭を下げた。

「それは本当に申し訳ない。ちょっとだけ脅かすつもりで危害を加えるつもりではなかったんだ。

 人はもしもの時に本性がでやすいから、従妹が傲慢で嫌な性格だったらアーロンも諦めやすいと思って」


 アーロンは顔を見たこともない従妹のために妻から離れて元夫(ゴミ)に会うのは躊躇っていたそうだ。

 奴の顔を見れば反射的に()りかねない、と言っていたと聞いて、エミリアナたちの顔がひきつる。


「・・・それほど嫌っているんだ」

「ああ、条件反射だって言ってた。ほら、黒虫を見てつい叩き潰すのと同じだって」

 黒虫とは害虫で有名な黒光りしてカサカサ高速移動する虫だ。どこにでも生息しているが、厨房に現れるのが一番多く料理人から目の敵にされている。厨房に出入りすることのないエミリアナたちでも聞いたことがあるくらいだった。

 エミリアナの夢の知識ではGがつく虫の1・5倍バージョンである。


 アーロンが国外追放を受けたのは八歳の時だった。長兄の子供はまだ三歳か四歳だ。エミリアナは生まれてもいなかった。

 四年後に王太子交代の恩赦がでたが、アーロンたちがそれを知ったのは一年後だった。C級冒険者になった両親に連れられてアーロンは旅暮らしをしていたが、恩赦に飛びつくつもりはなかった。冤罪で国を追われた両親が警戒していたのだ。

 アーロンは十五歳ですぐに冒険者になり両親とパーティーを組んだ。その頃にようやく居場所を突き止めた王家からの使いがきてお家再興の打診を受けたが、アーロンも両親も断った。王家を信用できなかったからだ。

 その後、両親が活動中に亡くなって、アーロンは知り合いのパーティーに臨時加入の形で冒険者を続けていた。フィデルのようにレアスキルでソロ活動することがあるそうだ。

 ソロ活動中にダニエルの姉を助けて知り合ったのだという。


 兄弟の中でアーロンの父が一番婚姻が早く、アーロンが最初の子供だ。祖父母や伯父一家に叔父夫妻のことはよく覚えていた。マリセラに抱っこしてもらったこともあって、可愛がってもらった記憶がある。

 エミリアナの境遇には同情するし、叔父夫妻の思い出もあって依頼を受けるかどうか悩んでいるそうだ。


「そうだったのですね」

「ああ、ゴミ野郎はもともと気弱な性格だったんだが、スキルのことで貴族家に脅されたりしてすっかり歪んでしまって。

 だから、貴族相手の依頼には気をつけているんだ。中には傲慢で無茶苦茶な依頼をする相手もいるから」

「そういう相手はギルドから苦情がいくはずだけど?

 冒険者ギルドは国には属さない世界的な機関だ。権力に屈することもないでしょう」

「・・・それは建前ですよ。中にはどうしても断れない場合もあります。

 神殿のお偉いさんとかが出てきたら、厄介ですからねえ」

 イラリオの指摘にダニエルが苦い顔になった。何事にも絶対はないから仕方がないことかもしれない。

 エミリアナたちは顔を見合わせて視線だけで相談しあった。

 ここは被害者?のエミリアナの意見を尊重すべきだとイラリオが瞬きして見せるから、エミリアナも了承で頷いた。ルイシーナは不満そうな顔になったが、しぶしぶとため息で了解の合図をだす。


「本来ならば、学園側につきだして然るべき措置をとってもらうところなのですが。

 まあ、お試し行動だったそうですし、謝意を示してくださっているからにはこの依頼は受けていただけますわね?

 義兄もゴ・・・、いえ、問題の黒虫のようなお方も説得してくださると期待しておりますわ。

 それから、もう一つお願いがありますの」

 エミリアナが実によい笑顔で確認をとってくる。ダニエルは顔をひきつらせながらも頷くしかなかった。




 フィデルは久しぶりに時折パーティーを組む先輩冒険者と出会った。王都のギルドからの依頼を紹介されて一月ほど留守にしていた相手だ。

「ダニエルさん、お久しぶりですね。ギルドの紹介依頼はうまくいきましたか?」

「あ、ああ、まあな〜。ちょびっとばかし、酷い目にあったけど」

 ははははと虚な笑いを漏らす先輩にフィデルが首を傾げる。

「え、何かあったんですか?」

「うん、ちょっと個人的な事情もあって、お試ししたいことがあったんだけど、試したらお貴族様に抹殺されそうになっただけ」

「え、それって大事じゃないですか! 一体、何をやらかしたんです?」

 フィデルが驚いて目を見張る。ダニエルはあははと笑いながらも、頬が少しだけひきつっている。

「まあ、ちょっとな。

 ところでお前さん、前に孤児院時代の幼馴染が貴族に引き取られて離れ離れになったって言ってたよな?

 一目だけでも会えるところをアバズレに邪魔されたって言ってたっけ」

「ええ、その節はお世話になりました」

 フィデルが頭を下げた。ダニエルには手紙を盗み見て付き纏ってきたクララの処罰に協力してもらったのだ。


「ああ、うん。まあな〜、お前も大変だとは思うが、頑張れ。

 俺の勘ではイケるはずだ」

「え、あ、はい。ありがとうございます?」

 フィデルは疑問符を頭に浮かべて答えた。ダニエルが遠くを見る目をしていたので、貴族学園で何かあったのだとは思うが、詳しくはつっこまないほうがよい気がする。


 フィデルと別れた後に、ダニエルはふるっと身震いをした。

 エミリアナのもう一つのお願いは『フィデル・レイクスというC級冒険者に目をかけてほしい。彼が困っていたら、助けてあげて』というものだった。

 実に貴族らしい笑みで『お願いを聞いていただけたら、今日の不敬は不問に致しますわ』とおど・・・、もとい、お願いされた。

 元孤児だというが、すっかりと貴族令嬢が板についていた。

 てっきり、怯えて縮こまると思って脅かした相手に逆に脅かされる始末だ。全くの計算違いだった。


「相思相愛なんだろうから、外野が口を挟むことではないと思うけど。

 ・・・まあ、頑張れよ」

 ダニエルは後輩の恋路の困難さを思って、密かにエールを送ったのだ。

すみません、ちょっと見直してたら遅刻しました。今日が休みだったので、油断しておりました。以後、気をつけます。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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