第75話 大学二年生 秋2 yui
結衣 yui
新学期になると、また忙しい学校と家との往復がはじまる。
講義の内容も、どんどん専門的になっていくから、ついていくのも大変だ。
みんな、どうやって遊ぶ時間を捻出しているんだろうと、思ったりもする。
幸い、圭太くんとは同じ学校に通っているから、学部が違う関係で、必ずしも空いている時間は合わないけれど、お昼休みとか、一日の授業の終わりとか、積極的に時間を作って、学内やその周辺で、デートを重ねた。
反対に、女の子の友だちとは、遊ぶ時間が減っていくのを感じた。
こうやって、彼氏ができた人から、みんな疎遠になっていったんだなと、逆の立場で実感するなどした。
ようやく、新学期にも馴染んできた頃。
11月。
もうすぐ12月になって、今年もあっという間に終わりだねえ、なんて話していた時期だった。
「結衣って、なんでいつも、夜予定あるって言って帰っちゃうの?」
お休みの日。
いつものように、圭太くんと街でデートしていると、そんなことを言われた。
「晩御飯、作らないといけないからさ」
圭太くんは、煮えきらない顔をしていた。
「それって、毎日やることなの? たまには、俺と遊んだっていいだろ」
圭太くんとは、お休みの日はもちろん、平日の昼間、学校の中でだってデートできるし、付き合いはじめてから、ほかの友だちよりも多くの時間を過ごしてきた認識はある。
それでも、まだ足りないって思ってくれる気持ちは、うれしいけれど、いまひとつ共感できないものがあった。
「義務感とかじゃなく、私がそうしたいんだよ」
圭太くんは、納得いかない顔をしていた。
「いっしょに遊びたいって思ってくれるのは、もちろんうれしいよ。ありがとう」
私が微笑むと、圭太くんも、ようやくその顔をほころばせてくれた。
「結衣がいつも、俺より、同居人を優先しようとするのが、なんか、もやもやするんだよね」
「え、玲香に嫉妬してるの?」
少しだけ、かわいいと思ってしまった。
「嫉妬ていうか。まあ、嫉妬なのかなあ」
「女の子だよ? 玲香」
圭太くんは、頭をわしゃわしゃしている。
なにか言葉にするために、頭を整理しようとしているみたいだった。
「普通さ、恋人って、優先順位のいちばん上に置くものじゃねえ?」
圭太くんは、その思いを、ようやく言葉にできたという顔で私に問う。
人に順番をつけて考えたことはなかった。
私ってどうだったかなと、日常を振り返ってみる。
「俺は、結衣がいちばんだよ」
「あ、ありがとう」
私は圭太くんに、微笑み返しながら、考える。
どっちがどっちってわけでも、ないような気がした。
強いていえば、どっちのことも優先はしているし、優劣はつけれない。
「玲香ってさ。忙しいんだよ」
私は、現実的な話を聞いてもらって、納得してもらおうとした。
圭太くんを、ないがしろにしているつもりはないから。
「あの子さ。自分で学費とか生活費とか、稼いでて。忙しくバイトしながら学校通ってるからさ。夜中くらいしか、なかなか時間が合わないんだよ。最近じゃ、朝もたまに、私が起きる前に出ていっちゃうしさ」
夜、圭太くんと遊んだり、泊まったり、そういうことをしていたら、まるで、玲香の実家みたいに、同じ家に住んでいるのに、まったく顔を合わせない生活になってしまう。
「わかるけど、なんでそれで、俺じゃなくて、その人を優先する理由になるの?」
圭太くんは食い下がってきた。
納得してくれると思っていた私は、返答に困った。
「私がそうしたいから」
圭太くんは、不満そうな顔をして言う。
「それって、そういうことだよね」
私は圭太くんに、申し訳ない気持ちにもなってくる。
逆の立場で、遊びたいのに、いつも遊んでくれないってなったら、もやもやするかなと思ったから。
私は、ふたりの時間はしっかり作れてると思うんだけどなあ。
そんなに、私のこと好きなのかな。
まあ、それは、うれしい。
「私だって、圭太くんのこと、好きだよ」
自分の気持ちを表明するのが、正解だったのかなと気づいて、私はそう伝えた。
圭太くんは、ため息を吐いて、やれやれという顔をした。
まんざらでもないという顔に見えた。
「じゃあさ、クリスマスはいっしょに過ごそうぜ」
「それは、一日中ってこと?」
「そう」
去年、玲香とクリスマスケーキをいっしょに食べたのを思い出す。
食べきれずに何日もかけてホールケーキを消化するはめになったけど、過ぎてしまえば、いい思い出だ。
来年はもっと、小さいやつにしようねって約束してた。
「クリスマスは恋人同士で過ごすものだろ?」
私が考えていると、圭太くんが念押ししてくる。
確かに、私だって、そういうイメージはある。
「わかった」
玲香はおそらく、ああいう行事とかに、こだわりが一切ない。
いつも、私が勝手に、玲香と楽しみたくて、やっているだけだ。
本人に彼氏と過ごしてもいいか聞いても、いいよって言うに決まっている。
そんなことをしたら、きっと、自分が私の交際の邪魔になっているんじゃないかって、考えてしまうと思う。
だから、私は圭太くんに、そう答えた。
圭太くんは、満面の笑みで応じてきた。
それを見たら、私もうれしくなった。
お祝いごとなんて、1年365日で言ったら、わずかな日数にしか満たない。
それを、玲香と過ごす時間に充てるのではなく、圭太くんに捧げて、それで彼の気持ちが収まるのなら、それがいいのかなと、私は考えていた。




