第74話 大学二年生 夏7~秋1 yui
結衣 yui
圭太くんとは、インターンシップで知り合った。
学部こそ違うけれど、同じ大学の仲間。
打ち解けるのに、時間はかからなかった。
圭太くんは、一浪していて、私より、ひとつ年上のお兄さんだった。
受け入れ先の企業での仕事は、学生にやらせるだけあって、そんなに難しいものではなかったと思うけれど、やさしい先輩役の人もいれば、厳しい先輩役の人もいるという感じで、学びは多かったけれど、プレッシャーもそれなりだった。
厳しい言葉も、たくさん浴びた。
私と圭太くんは、お互いを励まし合いながら、乗り越えることができたと思う。
帰りがけ、いっしょにお茶をしてから帰るのが、日課にもなった。
もちろん、仕事の話が多かったけれど、地方から出てきて、ひとり暮らしをしている圭太くんと、親元を離れて暮らしてみてわかったことや、考えが変わったこと、日常生活の工夫などの話をしていると、価値観が合うなと思って、私はそんな圭太くんに惹かれたのかもしれない。
圭太くんは、誰もが振り返ってしまいそうなイケメン、たとえば、佐倉先輩みたいな感じではなく、素材型っていうか、磨いて光らせているタイプって感じがして、そんなところも、なんとなく親近感がわいた。
入学するとき、お化粧とか、ファッションとか、大学生っぽくするために頑張ったことを思い出したからだ。
どきどきしたり、ときめいたりはしないけれど、いっしょにいて、落ち着く人だった。
運命を感じてしまった出来事もあった。
大学入学前、私が逃げ帰った交流会のことだ。
あの日、私に声をかけてきた男性が、圭太くんだったのだ。
圭太くんは、私のことを覚えていてくれた。
なんとなく、あの場で、いちばん声をかけやすそうだと思ってくれたみたいだった。
「あれさ。新入生の交流会じゃなかったんだよ」
圭太くんは、笑いながら、真相を教えてくれた。
どうやら、とあるサークルの集まりだったらしい。
同じ勘違いをした結果、入学前に、ただひとり出会って、お話していたなんてと思って、これって運命なのかなと、私は思ってしまった。
夏休みも終わりが近づいていた頃。
インターンシップ、最終日。
会社の人に、あたたかい言葉をかけられながら、私と圭太くんは、そのお役目を終えた。
厳しい指摘をたくさんくれた社員さんも、最後ばかりは、仕事で仕方なく、そうしてただけなんだよねと、やさしかった。
これで、圭太くんともお別れなのかあと思うと、なんだかさみしい気持ちになった。
いつもの場所でお茶をした帰り、圭太くんに告白された。
私はその手を握り返して、
「よろしくお願いします」
と、答えた。
その日、家に帰った私は、玲香に彼氏ができたと伝えた。
まじめな男性なのか。
清潔感はあるか。
暴力は振るわないか。
人の悪口ばかり言わないか。
時間にルーズじゃないか。
変態じゃないか。
浮気性じゃないか。
ギャンブルはするのか。
たばこは吸うのか。
酒乱じゃないか。
借金はないか。
金遣いは荒くないか。
おっぱいばっかり見てこないか。
すぐ家に連れ込もうとしてこないか。
あらん限りのダメ男要素を並び立て、私に確認を求めてきた。
ぜんぶ、大丈夫そうだと告げると、玲香はまじめな顔で、
「それなら、いいんじゃない」
と、最後は背中を押してくれた。
私もはじめて付き合う男性だし、圭太くんも、私がはじめて付き合う女性だと話してくれた。
はじめて同士だし、ちょうどいいなと思った。
ここから、ふたりの関係を、時間をかけて、ゆっくり、じっくりと、いっしょに育てていけたらなと、私は考えていた。
◇
10月。
夏休みが終わり、学校が再開した。
圭太くんとは、まだ付き合いはじめたばかりだったけど、夏休みが終わるまでに、何度かデートを重ねていた。
授業の空き時間。
いつものように、仲良しグループ5人で集まって、おしゃべりしていた。
ついに、私にも彼氏ができたことを告白すると、みんな驚きつつも、
「パーティしなきゃじゃん」
と、祝福してくれた。
「これで、あとは綾乃だけだねえ」
そう言われた綾乃は、苦笑いを浮かべていた。
ギャルたちは、みんな、はじめて付き合った彼氏と、順調に交際を続けていた。
出会って三日で合体した子なんかは、もう結婚の予定まで話し合っているらしい。
来年から彼氏とふたりで、同棲しようと話し合ってもいるんだとか。
展開の早いふたりが、たまたま出会ってくっついたんだなあと、しみじみ思わされた。
私もみんなのように、圭太くんとの関係をいいものにしたいと、気持ちを新たにした。
「で、どこまでやったの?」
「もう合体した?」
ゲスな話題が好きなギャルたちだ。
「キス、くらいは」
私は、おしとやかさを見せつけるように言ってやる。
「え、つまんない」
「はやくしろ」
「揉ーめ! 揉ーめ!」
野次が飛んだ。
「結衣!」
圭太くんの声がして、私は振り返った。
手を振ると、圭太くんがこっちに駆け寄ってきた。
みんなに紹介する、絶好のチャンスだなと閃いた。
「圭太じゃん!」
私より先に、綾乃が声をあげた。
「え、知り合い?」
「綾乃じゃん!」
かぶせるように、圭太くんが声をあげた。
「え、ふたりって友だちなん?」
圭太くんが驚いたように言う。
私は頷いた。
綾乃が困惑しているのがわかる。
冷静沈着な綾乃が、明らかに狼狽していた。
しきりに、髪の毛を触っている。
「結衣の彼氏ってことだよね?」
ギャルが確認してくる。
「うん」
私は小さくそう答えた。
「おめでとう」
ギャルが圭太くんの背中を叩きながら言う。
私も、ギャルに背中を叩かれる。
無理やり、並ばせられる。
「え、お似合いじゃん」
「いつ結婚すんの?」
やいのやいの言ってくる。
私と圭太くんは、困惑しながら見つめ合った。
「結衣、借りてっていい?」
圭太くんが言うと、ギャルたちが、いっせいに、どうぞどうぞとジェスチャーしてみせた。
綾乃だけは、無言で髪の毛を触って、顔を隠していた。
それが、なんだか無性に気になってしまった。
◇
「別に付き合ってたとかないよ」
圭太くんと、ふたりきりになった私は、綾乃との関係を問い詰めた。
「なんだ、よかった」
「高校の同級生なんだよ。お互い、浪人で、予備校もいっしょ」
「え、なんか運命みたいなの感じるんだけど」
「そんなんじゃねえよ」
圭太くんは、両手をぶんぶん振って、否定した。
「なんていうか、幼馴染?」
「え、それも運命感じる。むしろ、そっちのが運命力高い。少女漫画界隈では」
「だから、違うんだって」
圭太くんは、首をぶんぶん振って、否定した。
「あいつはそういう対象じゃないっていうか」
「え、それって、綾乃はどう思ってるの?」
綾乃の言ってた好きな人って、まさか圭太くんじゃないよね。
私は女の勘を頼りに、問い詰めた。
「なんとも思ってねえだろ」
「怪しいなあ」
私は疑惑の視線を向ける。
私とチューまでしておいて、ほかに女いるって許せないんだけど。
「ほんとに、お互いなんでもないって。よく考えてみろって。付き合い長いんだし、そういう気があるんだったら、とっくにそうなってるだろ」
私は天を仰いだ。
「それもそうか」
「そうそう」
「ほんとに、ただの友だちだから」
「んん」
ただの友だちでも、ほかの女と繋がってるの嫌だなあ。
私って嫉妬深いのかなあ。
「綾乃じゃなかったら連絡先、消去させてた可能性あるわ」
「え、こわ」
「圭太くんは、女心がわかってないんだねえ」
「あ、すいません」
素直に謝る圭太くんに、私はふふっと笑った。
それを見て、安心したように、圭太くんも笑ってくれた。
「じゃあさ、お昼ご飯、奢ってよ」
「えぇ。まあ、いいけどさあ」
私は、圭太くんとふたり、お昼ご飯へと向かった。
私たちの交際は、まだ、はじまったばかりだった。




