第64話 大学一年生 夏7 reika
玲香 reika
えっち漫画に出てくるイケメンごっこをしたのは、結衣ちゃんに笑ってほしかったからで。
笑ってほしかったのは、泣き腫らした顔を、見ていられなかったからで。
泣き腫らした顔を見ていられなかったのは、結衣ちゃんが、ご両親から大切に育てられてきたことを、知っていたからで。
結衣ちゃんが、なにを考えているのかは、わからなかったけれど、私はいま、布団の上で、結衣ちゃんに押し倒されて、唇を奪われていた。
こういうとき、結衣ちゃんの顔を見たり、息がかかったら、だめなのかなと思って、私は目を閉じたまま息を止めていた。
結衣ちゃんも、たぶん、そうしてくれていた。
時間が止まったみたいだった。
だけど、水泳をやっていた結衣ちゃんには、どうしても勝てなくて、私は唇を重ねたまま、息を吐いた。
「ん」
息を漏らすと、結衣ちゃんが解放してくれた。
結衣ちゃんは、膝立ちになって、私を見下ろすと、大きく息を吐いた。
私は上体を起こして、いったん、結衣ちゃんから離れようと思った。
私からやりはじめたとはいえ、おふざけがすぎてしまったかなと思ったから。
壁にくっつけて敷かれた布団の上を、お尻をすべらせて移動して、私はその壁にもたれかかって、膝立ちの結衣ちゃんと、見つめ合う格好になった。
遊んでないで、もう寝ようかって、私はそう言おうとした。
結衣ちゃんは、私の伸ばした足の上にまたがって、マウントをとった状態になると、壁際に追い込んだ私に、もう一度キスをした。
私はたぶん、というか、絶対に、結衣ちゃんに力では勝てない。
私の肩に置かれた結衣ちゃんの手の力はやさしく、力強さは感じないけれども、体格が違うんだから、それくらいのことはわかる。
結衣ちゃんの体重をふとももに感じて、どうしようもなく、身体を強張らせていると、結衣ちゃんの顔が離れて、私の顔を覗き込んできた。
「もうだめだよ」
私が言うと、結衣ちゃんは、私の唇に指を押し当ててきた。
指で口を開かせようとしてくるので、私は抵抗してみせる。
「あんってして」
結衣ちゃんは、とろんとした目で、私にそう指示してくる。
なにをされるのかはわかったけれど、結衣ちゃんと、していいのかどうかがわからなくて、なにか言おうと、口を開けたら、すぐに口を塞がれてしまった。
結衣ちゃんの舌が、私の中に入ってくる。
箱入り娘に似つかわしくない強引さで、無理やり舌を絡めてくるから、私は思わず、結衣ちゃんの舌から逃げようとしてしまう。
それでも、強引に追いかけてくる。
この子の気持ちに応えなきゃ、失礼な気がして、受け入れる。
舌を差し出すと、くちゅくちゅと、えっちな音を立てながら、貪るように責めたてられる。
女の子同士で、なにしてるんだろうって思うけど、心臓の鼓動が鳴り止まない。
舌を絡ませることをやめられない。
やめてくれない。
結衣ちゃんの長い髪の毛が、行き場をなくして握られた、私の両手をなでてくる。
両足に、結衣ちゃんの体温を感じてる。
こんなに近くで、結衣ちゃんの匂いを嗅いだことなんてない。
全身が熱くなって、汗が吹きだしてくる。
息が苦しくて、どうしても呼吸が荒くなる。
結衣ちゃんの息が顔にかかって、くすぐったい。
頭のてっぺんが、びりびりしてくる。
からだに力が入らない。
抵抗できずに、されるがままになっていると、結衣ちゃんが、Tシャツの内側に手をすべらせてきた。
「あっ」
お腹を触られた私は、びっくりして思わず、声を出してしまった。
それでも、結衣ちゃんは舌を絡ませるのをやめてくれない。
結衣ちゃんの指が、胸をなでると、身体がぴくんと跳ねた。
こんなの、ただの生理現象だから、恥ずかしくなんてない。
そう思っていると、結衣ちゃんが、ようやく解放してくれた。
Tシャツの内側から結衣ちゃんの手が出ていくとき、くすぐったくて、もう一度、私の身体がぴくっと跳ねた。
「こういうこと、したことある?」
耳まで真っ赤にした顔で、結衣ちゃんが訊ねてくる。
「あると思う?」
ふたつも年上のお姉さんのくせに、ないって言うのは、負けになる気がして、私はとっさに質問で返した。
「私はあるよ」
結衣ちゃんは、悪い顔をしていた。
なんか、見下されているような、そんな気もした。
「さっきしてきた」
それを聞いて、私は結衣ちゃんが、最後までやっちゃったのかと思った。
電話の向こうで泣いていたし、泣き腫らした顔で、逃げ帰ってきたから。
それって、そういう無理やりな感じでされて、傷ついたってことなのかと思った。
私は、「あなたは大切にされるに値する人なんだよ」って伝えたかったけど、経験がないから、いま、どんな気持ちでいるのかわからなくて、言葉ではなにを言っても、嘘にしかならないような気がしてしまった。
だから、せめて抱きしめて、よしよしって、してあげようとした。
「おいで」
だから、私は、そう言って、両手を広げてみせた。
これが正解なのか、自信はなかったけれど、結衣ちゃんは微笑んでくれた。
なんか、大丈夫そうかなと思った。
私が両手を下ろすと、結衣ちゃんは、
「脱いで」
と、私に指示してきた。
「はい」
と、私が応じると、結衣ちゃんは立ちあがって、部屋の電気を消した。
言われたとおり、汗をかいて身体に貼りついたTシャツを脱いで、ショートパンツといっしょにパンツも脱いで、裸になって、私は布団の上に正座した。
なんか、正座しちゃった。
「え、あ、ぜんぶ脱いじゃった?」
私が顔を見上げると、結衣ちゃんは上着を脱いだところだった。
脱ぐって、上だけのつもりだったのか。
それなら、そう言ってほしいと思っていると、結衣ちゃんも私に合わせて、服をぜんぶ脱ぎはじめた。
いつも、カーテンを開けたまま、外の明かりが差し込む状態で寝ているから、電気を消しても、部屋は薄っすら明るくはあった。
暗闇に目が慣れてきて、結衣ちゃんの身体のラインとか、胸の大きさとか、形とか、意外とむっちりしてるなとか、なんかそういうのが、わかるようになってきた。
女の子同士とはいえ、あんまり、まじまじと見ちゃいけないような気がして、私は目を逸らした。
「さむ」
汗をいっぱいかいたせいか、身体が冷えていた。
さすがに寒いと思って、布団の中に入った。
遅れて、結衣ちゃんも入ってきた。
いつもなら、小粋な冗談でも言って、笑いあおうとするところだけど、今日に限って、そんなの許されない気がした。
この子を安心させてあげなくちゃ、いけない気がした。
パパさんから、頼まれているんだし。
さっきまで、あんなに積極的に私を襲ってきた結衣ちゃんだけど、布団の中でじっとして、私に手をだしてこなかった。
実家の私の部屋で、身を寄せ合って眠った日のことを思い出してくる。
私は大学の先輩に、無理やり、嫌なことをされてしまったのかもしれない結衣ちゃんを、慰めようとした。
「結衣ちゃんが嫌じゃないなら、私でよければ、抱きしめてあげるから」
私がそう言うと、結衣ちゃんのほうから私を抱き寄せてきた。
結衣ちゃんの匂いに包みこまれていく。
結衣ちゃんの身体は、ぽかぽかしていて、柔らかかった。
私の汗をかいた肌が、結衣ちゃんのすべすべのお肌とくっついて、密着する。
結衣ちゃんは、私を力強く抱きしめてきた。
ぎゅうっと結衣ちゃんに抱きしめられたとき、私はいままでに経験したことのない感覚に囚われた。
宙に浮いたような感覚でいた、三上玲香という肉体を離れた私という存在が、私の魂のようなものが、結衣ちゃんに掴まれて、この肉体ごと、抱きしめられているような、そんな感覚に陥った。
私という存在の輪郭が、はっきりしたような、そんな錯覚だった。
「玲香」
結衣ちゃんに名前を呼ばれた私の意識は、いままで感じたことがないほど、明瞭なものだった。
まるで、三上玲香と藤原玲香が、ひとつになっているみたいな、そんな感じがした。
「めっちゃ汗かいてるね」
結衣ちゃんが笑うと、腕の力が弱まって、不思議な感覚はどっかに飛んでいった。
「それね、結衣ちゃんのせいだから」
「え、私?」
結衣ちゃんは、わかっていないみたいだった。
私たちは、裸で抱き合ったまま、いつの間にか寝てしまっていた。
◇
翌朝。
目が覚めたら、布団の中に結衣ちゃんはいなかった。
雑に脱ぎ捨てたはずの私の服が、きれいに畳まれていた。
ショートパンツといっしょに脱いだはずのパンツが、きれいに別々に畳まれていて、なんか申し訳ないなって気になった。
裸のまま、結衣ちゃんの部屋を覗くと、彼女はベッドの上で静かに眠っていた。
いなくなっていたら、どうしようかと思って、心配してしまった。
私も服を着て、二度寝することにした。




