第52話 大学一年生 春3 reika
玲香 reika
「玲香は、サークルとか、部活とか、入らないの?」
バイトが休みの夜。
晩御飯を終えて、シャワーを浴び、都会のお姉さんから、すっかりお家モードになった結衣ちゃんが、訊ねてきた。
結衣ちゃんは、私の部屋にいつも勝手に入ってくる。
いつの間にか、居座っておしゃべりしている。
私は、結衣ちゃんの気が済むまで、布団の上に寝転がりながら、「おやすみ」までおしゃべりを続ける。
「バイトあるからねえ。週3とはいえ」
オーナーさんは、なんなら週7でシフト入って欲しそうだけど、私の計算なら、東京は時給も高いし、この部屋の家賃とか光熱費も、結衣ちゃんと折半だから、そのくらいで足りるんだ。
その分、夏休み、バイト頑張る計算ではあるけどね。
私だって、働きたくて働いているわけではなく、のんびり過ごすほうが楽でいいんだ。
「月1の参加でもいいってサークルも、多いみたいよ」
「へー」
やけに推してくるなあ、結衣ちゃん。
「私さあ、いま、脅されてるんだよね」
「待って! どういうこと?」
結衣ちゃんが血相を変えて訊ねてくる。
こんな純朴な娘に聞かせるには、物騒な表現をしてしまったなと反省しつつ、私は応じる。
「いや、中学生みたいなやつにね。バイトなんてやってたら、課題終わらなくて留年しますよって」
留年したら、学費1年分、上乗せだから、いろんな意味で卒業が危ぶまれるんだ。
店長みたく、中退になっちゃう。
そうしたら、あの店に帰らなきゃいけなくなってしまう。
「だから、サークルとか、やってる時間ないかも」
「たまに参加するのでもいいよ?」
妙に食い下がるなあ、結衣ちゃん。
「ん? いいよって、結衣ちゃんといっしょのサークルに入るってこと?」
結衣ちゃんは、もじもじしながら言う。
「ほかの大学の人でも、女の子だったら紹介があれば、参加できるっていうからさ」
私は悩まなかった。
答えは明確だったから。
私は布団の上に身体を起こして、まじめな顔をして、結衣ちゃんに説明する。
「結衣ちゃんと遊ぶなら、サークルじゃなくったって、家でもいいし。どうせなら、ふたりきりで遊びたいから」
結衣ちゃんは、畳の上に体育座りしていた。
自分のつま先を見つめたままの、結衣ちゃんが口を開く。
「なんで、ふたりきりがいいの?」
「いっぱい人がいると、疲れるんだよね」
「なんだ、そういう理由かあ」
結衣ちゃんが、ははっと笑う。
「だって、全員分の気持ちを考えないといけないでしょ? 人数多いと頭パンクしてくるからさ。だから、学校でもさ。だいたい、ひとりでいる人と雑談するんだよね」
納得してくれたのか、結衣ちゃんは体育座りを解いて、リラックスした姿勢で足を伸ばしはじめた。
畳の上で伸びをしたり、ストレッチしたりして、黙っているので訊ねてみる。
「結衣ちゃんは、どんなサークルに入るつもりなの?」
「ん。テニスサークル」
「なんか、似合いそうだね」
都会のお姉さんと化した結衣ちゃんには、ラケットとか、テニスコートとか、映えるなと思った。
「玲香。テニスやったことある?」
「高校のとき、体育の授業でちょっとだけ。中学はバドミントン部だったけどね」
「あ、そうだったんだ」
「お母さんに、『そんなお金ない』って言われて、道具、買ってもらえなかったけどね」
思い出したら、いまでも笑えた。
お母さんは私のやることに口を出さないけど、お金も出さないんだ。
「だから、隅っこのほうで筋トレしたり、雑談して過ごしてた。バドミントン、ほぼやってない。たまに、哀れに思った同級生の子が、貸してくれたりはしたけどね。部員に対してコートの数が少ないから、道具持ってても、補欠の子はあんまり打たせてもらえて、なかったなあ。そのうち、行くのやめちゃった」
結衣ちゃんは、苦笑いしてた。
田舎の怪談話になってしまったかな。
私はすかさず、話題を現代に戻してみせる。
「道具、買わなくちゃだね」
「なんか、貸してくれるらしい」
「おお。親切だね」
結衣ちゃんは、苦笑いのまま、天を仰ぐ。
「別にテニスしなくても、いいらしいんだけど」
「ん? テニスするための集まりなのに?」
結衣ちゃんは、ふふっと笑って、私の顔を覗き込む。
「楽しい思い出作り、かな。目的は。友だちづくり、かも。先輩とか、ほかの学科の子と知り合う、いい機会になるからね」
だんだん、結衣ちゃんの表情がとろんとしてくる。
「彼氏、作ったりとかも」
同年代の若者がたくさん集まれば、それはそう、だよね。
「友だちがみんな、入ろうって乗り気だからさ。私だけ入らないわけにもいかないし」
その感覚は、私にはよくわからなかった。
友だちがいないから、友だちに合わせる感覚というのが、わからない。
「みんなも、玲香のこと気に入ってたから、どうかなって思っただけ」
この間のギャルたちの勢いを思い出してくる。
テニスなんかより、ローション相撲、すればいいのに。
「テニスなんかやめて、俺とローション相撲しないか、結衣」
結衣ちゃんは、ころころと笑って、「やだ」と短く拒絶した。
結衣ちゃんに、ローション相撲は、似合わないか。
中学まで水泳やってて、体幹強そうだし、運動神経も良さそうだから、強そうではあるけれども。
私の意識は、いつの間にかローション相撲に引っ張られていった。




