第33話 高校卒業後 田舎町7 yui
結衣 yui
コンビニの裏側は、狭苦しくもあるけれども、きちんと整理された機能的な空間だった。
右手に重たそうな鉄の扉が見える。
たぶん、位置的に、ペットボトル飲料とかが販売されている巨大な冷蔵庫の裏側に通じている扉みたいだ。
通路を形成するように、ペットボトル飲料の在庫の段ボール箱がうず高く積まれている。
壁際には大きな棚があって、売り場に収まらなかったらしいお菓子や加工食品の在庫が並べられている。
棚の隣にロッカーがふたつ並べてある。
従業員が着替えるためのものかな。
男性用と女性用っぽい。
カートや台車、床を磨くマシーン、折りたたみ式のコンテナなどが壁に寄せて置いてある。
空間を使うのが上手だから、このお店の経営者は、几帳面そうだなと思った。
きょろきょろしながら、玲香を追っていくと、大量の廃棄になった食品がビニール袋に詰められているのが目に入って、「あ、もったいない」と思わず言いそうになってしまった。
いちばん奥に事務所スペースのような小部屋がある。
壁に沿ってデスクが配置されていて、椅子が三脚ほど見える。
そのひとつ、いちばん奥のデスクに向かって、店長さんらしき男性が、背中を向けて座っていた。
パソコンの画面に向かって、仕事をしているみたいだ。
店長さんより、頭上にある防犯カメラの映像に目を引かれる。
コンビニの裏って、こんなふうになっているんだ。
「店長、時間を潰しに来ちゃいました」
慣れた様子で玲香が声をかけると、
「あのね。ここ、テーマパークじゃないんだよ」
と言いながら、店長さんが振り向く。
「うお」と、私の顔を見て声を漏らした。
幽霊かなにかだと思われたような感覚だった。
恐怖を抱いたような顔をされて、私も思わず、
「うわ」と、声が漏れてしまった。
頬はこけ、目の下に隈を作っている。
寝てないのかな。
疲れきったシルエットの割に、両目はバッキバキに覚醒している。
まさに、らんらんと輝いている。
人生に希望しかない、小さな子どもだって、こんなに瞳は輝かないと思う。
キマってるという言葉がふさわしい。
アルコール以上のなにかを、やってたりしないかな。
仕事中で、集中しているから、そうなってしまうのかな。
なんか、絶妙に、気持ち悪いおじさん。
失礼を承知で言うならば、だけど。
お客さんの前に立つ仕事だからか、一定の清潔感はある。
そこがまた、なんとも言えない、気味の悪さを引き立たせている。
汚いおじさんのほうが、汚いおじさんというカテゴリーにすっぽりと収まるから、収まりがいいと思う。
この人は、なんのカテゴリーに属するのか。
その他、かな。言うなれば。
玲香は、親しみを持っているかのような風情で、店長さんの顔を見ている。
こんな、どっちかと言えば小柄なほうの、中学生みたいなファッションの女の子を、このおじさんに近づけていいものか、私は戸惑う。
「三上さんって、友だちいたんだねえ」
「友だちっていうか、フレ?」
玲香が私の顔を見ながら言う。
友だちじゃだめなのって思ったけど、ややこしいので店長さんに会釈だけ返す。
「夜遅くに、友だちとコンビニって、珍しく普通の高校生みたいなことやってんねえ」
店長さんはそう言うと、背中を向けて、仕事に戻った。
「店長のおかげで、結衣ちゃんと知り合えたんだよ」
「あ、あの『ゆいちゃん』なの?」
店長さんが、驚いた様子で振り返ってきた。
どの「ゆいちゃん」だよ。
「そうなんです。会わせてあげようかと思って」
「ネカマのおっさんじゃなかったんだ」
「えぇ」
私は苦笑するしかなかった。
私をなんだと思っていたんだ、この人たちは。
「へー。確かにかわいいね」
ぞくっとした。
思わず、真顔になる。
店長さんは気まずそうな顔をして、仕事に戻る。
「よかったね。友だちできて」
「あ、はい」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、玲香が応じている。
真顔なのか、ほんとうに豆鉄砲を食らっているのか、区別はつかない。
「店長」
「ん?」
店長さんはキーボードを叩きながら、玲香の声を聞いている。
「おかげで、彼氏はできませんでしたけど、楽しくて有意義な高校生活になりました」
店長さんは笑いながら、
「三上さん、彼氏作る気なんて、ないでしょうが」
と言い放った。
玲香が笑うと、店長さんも、肩を揺らして笑っていた。
玲香にとって、この人はなにか、大切な人なのかなと、私は思った。




