第27話 高校卒業後 田舎町1 yui
結衣 yui
正直に告白すれば、私はレイくんと同棲できると、浮かれていたに過ぎなかった。
彼と結ばれることは、私の中では決まっていたから。
そこに至るまでに、どんなドラマがあるのかだけが、私の妄想力次第という段階だった。
親元を離れるのも、ある種の試練。
ふたりでなら乗り越えられる、結婚に向けたハードルのひとつ。
レイくんなら、私をお姫様抱っこしながら、ひょいと飛び越えてくれるはず。
そして、ゴールの先で、ふたりは幸せなキスをして、家族や友だち、みんなに祝福されながら、ワイハで挙式だ。
盛大にやるぞ。
えっちなことをするなら、家族がいないところがいいという、邪な気持ちがあったことも、この際だから否定はしない。
なんなら、ほぼ、それが理由だ。
なにが悪い。
様々な妄想を繰り広げ、脳内どころか、全身ピンク色で、おしゃれをして、のこのこと東京駅にお出迎えに行った、やべーやつなのだ、私は。
そんなこと、パパやママに言えるか。
このひみつは、墓まで大事に持っていくしかない。
「みんなに会わせたい人がいるの」じゃないんだよ。
「どんな人かは、会ってみてのお楽しみ」じゃないんだよ。
「絶対、みんな気に入ると思う」じゃないんだよ。
私は、一週間前の私に、そう言ってやりたい。
「大人の女性として、自立していくためにも、実家を離れて、その人と暮らしながら、大学に通いたい」とかなんとか言った、あの発言。
なかったことにできないか。
東京駅で、長身のイケメンを上目遣いで見上げるつもりでいた私は、自分よりひと回りも小さい、年上のお姉さんを見下ろす結果になった。
レイくんが女性だったと知って、一瞬にして、現実に引き戻された。
青春とは。
私は家族が大好きだ。
マザコンだし、ファザコンだし、重度のシスコンだ。
なにが悲しくて、家族と暮らすこの家を出なければならない。
実家から、大学に通えるのに。
なんなら、実家からのが近そうなのに。
同棲ではなく、同性とのルームシェアで。
愛する両親に、経済的な負担を強いてまで。
だから、私は、どうすれば三上玲香との約束を、なかったことにできるか思案した。
私が同居を約束したのは、レイくんであって、三上玲香ではない。
しかし、レイくんの正体は、紛れもなく、三上玲香だ。
男の子でもなければ、同い年ですらない。
気さくで、おちゃらけたお姉さん。
それが、彼女の第一印象。
はじめて会った気は、まったくしなかった。
ずいぶん前から、あの人のことを、知っていた気がする。
この一年間、その息づかいに、耳を澄ましてきたせいなのかもしれない。
どうしても、彼女の中のレイくんを、私は見つけてしまう。
だから、より一層、私は彼女が傷つかないで済む、断り方を探した。
東京で、その答えは見つからなかった。
むしろ、既成事実と化していった。
私はその答えを見つけるために、彼女の暮らす町を訪れることにしたのだった。
「うちは、そういうの必要ないから」
三上玲香は、ご両親に、私との同居を話してもいない雰囲気だった。
なにかしらの糸口を見つけて、誰も傷つかずに済む、終わらせ方を選びたかった。
パパのせいでも、ママのせいでも、なんなら妹のせいでもいいから、やさしい嘘なら、いくらでもついてやる予定だった。
しかし、私の家族は、三上玲香との同居に、むしろ乗り気まであった。
「絶対、みんな気に入ると思う」
私の言葉どおり、みんな、すっかり、三上玲香のことを好きになってしまっていたみたいだ。
妹なんて、「次はいつこっち来るの? 会いたい」とか言ってくる。
私も、三上玲香という人のことは好きだ。
いっしょにいて、楽しいし、気が合うし、なにより、気持ちが穏やかになる。
同居はしないまでも、今後とも、素敵な友人として、お付き合いはしていきたい。
家族みんな、彼女のことを気に入っているから、また家にも遊びにきて欲しい。
この状態から、うちの家族の誰かのせいということにするのは、ちょっと難しい。
誰かを悪者にしてしまうのは、しのびない。
現実的な話をすれば、玲香が大学に受からなければ、自動的に消滅する話ではある。
合格発表の日は、まだ迎えていない。
玲香は自信がありそうだった。
私も、彼女と東京で遊んだりしたいし、ずっといっしょに勉強してきたから、彼女の不合格を望む気持ちなんて、ない。
手詰まりだった。
そんなとき、パパやママから、こちらからも相手のご両親に、ご挨拶に行かないと悪いよと促された。
だから、私は一縷の望みをかけ、彼女のご両親に、私との同居をお断りしてほしくて、彼女の暮らす町を訪れることにしたのだ。
三上玲香の暮らす田舎町へと向かう新幹線の車内で、私はひとり考える。
誰も傷つけることなく、三上玲香との同居を断ることのできる、その方法を。




