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煽り合い

 自分自身を綺麗に着飾るのは嫌いじゃない。女の子は可愛く綺麗で美しくあるべきだと思ってる。だから普段からのナチュラルメイクに限らず、ドレスコードや場所に合わせたメイクの仕方は身に付けている。

「ヒヨ・オノウエ? まだ終わら……」

 声がしたので振り返るとナタリアさんが息を呑む。

「驚いた。素材は良いと思っていたけれど、それほどまでに化けることができるなんて」

「少しは見直しました?」

「その服を貸しているのは私だってことを忘れないでくれる? でもまぁ、服を着飾っているだけのマネキンにはなってはいないわね」

「それ褒めてくれます?」

「褒めている方よ? 私、綺麗な子にはちゃんと綺麗と言えるタイプの人間だから」

 誇らしく言うことじゃないのになんでそんな誇らしげに言えるんだろう。要はルッキズムってことでしょ?

「あんまりそういうこと言わない方がいいですよ。今時は叩かれたり炎上したりしますから」

「SNSで発信しない限りは叩かれたり炎上もしないわよ。そもそもやってないし」

「えー企業や各国の首脳陣ですらSNSで発信していますよ? もうSNSをやらなきゃ最新のニュースすら入ってきませんのに。スマホのゲームも最新情報はSNSなんですから」

「スマホゲーなんてやらないし、書かれていることに感化されてしまいそうなのが嫌なのよ」

 嫌なものは嫌なものとして遠ざける。全く間違っていない。自身に悪影響があるのなら尚更だ。

「でも大人になったらナタリアさんも情報発信を求められることがきっとあると思うので、SNSの知識ぐらいは頭に入れておきましょうよ」

「例えば?」

「落ちるところまで落ちた人間がメンタル終わらせながら喘鳴みたいな書き込みとか最高のエンターテインメントですよ」

「そういうこと言うからサイコパスとしか思えないのよ。一意見として受け入れてはおくけど、決して実現はしないわ。それと、服も問題なく着れてメイクも済んだならさっさと行くわよ」

「え、あ、はい」

 フィッティングルームから強引に出されて、私はナタリアさんに手を引かれながら廊下を歩く。

「ナタリアさんもバッチリな服装にバッチリなメイクじゃないですか。食事会って男性もいらっしゃるんですか?」

「男がいようといなかろうと関係無いわ。私たちにとって綺麗に着飾ることは武器を装備するのと一緒。イベントにおいて甘えた衣装やメイクをする奴から落ちていく。綺麗に着飾れない奴は社交界でも落ちこぼれるしかないのよ」

「見目麗しくなければ生き残れないと?」

「綺麗で可愛らしくて美しく、甘え上手であることは社交界において一番の武器だと思っているわ。けれど、容姿一つで全てが決まる社交界は浅い。大切なのは自らをベストな状態で着飾ることができるんだっていうアピール。それをどんな時も忘れなければいずれ誰かが拾ってくれる。ちゃんとイベントごとに気を抜くことなく継続すればあなたですら」

「だからってそんな背中を開けたドレスを着るなんて」

「シースルーだから別に良いじゃない? お尻のところまで切れ込みがあるわけじゃないんだから」

 隠したがる私と感性が違うみたいだ。やっぱり背中までスキンケアは完璧ってこと? でもこの人、普段は大雑把で着てる服の隙間から色々と見えることがあるから、ただ単に見せたがりの可能性も捨てられない。

 ナタリアさんは私と手を繋いでいることを忘れているんじゃないかってくらい強く強く握ってくる。いや、分かっているから握ってくるのかな。そんなアピールの仕方、されたことないからちょっと意地悪したくなってしまう。

「そんなにも綺麗に着飾られると、まるでアミューゼ・ドライトさんのようですね」


 私の手を力強く払い、汚物でも触っていたかのようにハンカチでゴシゴシと拭く。


「あなた、あの『ドライト家の面汚し』からの差し金?」

「違いますよ」

「だったらなんで『ドライト家の面汚し』の名前を知っているのよ」

「それは偶々です。私は外から来た魔女候補生だって話したことありませんでしたっけ?」

「ないわ」

 あーだったら説明不足だったんだ。

「『魔女の大釜』から実験的に交流候補生として送られてきたのが私なんです。『ポインティハット』からも数人、『魔女の大釜』に送られていると思います」

 嘘八百。普段なら見抜かれるけど、頭に血が上っているナタリアさんにこの嘘は見破れない。

「そう、だったら『ドライト家の面汚し』を見たことがあるってわけ」

「はい。あなたとあの方は姉妹ですから、どことなく似通っている部分があるように見えたんです」

「それは……容姿だけかしら?」

「それ以外は全く似ても似つかないと思いますが。私の言葉は容姿以外には向けていません」

 さすがにここで嘘をつくと色々な意味で空気が凍り付いてしまうからあくまで容姿に向けての発言であることを告げておく。

「そう…………なら、まだマシ。容姿はいつか整形で変えることができるもの」

「そんな、こんなにも可愛らしさと綺麗さを内包しているお顔をしていらっしゃるのに」

「どんなに美しかろうとどんなに可愛らしかろうとどんなに綺麗だろうと、『ドライト家の面汚し』と重なる部分があるのだけは嫌」

 怒り……? 違う、この感情の波は……恐怖と悲しみと寂しさだ。

「私は『ドライト家の面汚し』を殺さなきゃならない。私のことをナターシャと呼ぶ唯一の存在を。そう運命づけられているのよ、ドライト家によって」

 洗脳教育でも施されていそうなことを言う。言いたくて言っているのか言いたくないけど言っているのか判断できない。

「ナタリアさんもサイコパスなんじゃないですか?」

「は? だから私は違うわよ」

 雰囲気が軟化する。多分だけど深く聞こうとしなかったからかな。私だって聞かれたくないことを聞かれるのが一番、腹が立つ。意図したわけじゃないけどナタリアさんを刺すことにならずに済みそうだ。

「くだらないこと話してないで急ぐわよ」

「あ、待ってくださいよ。ハイヒールなんて履いたことがなくって」

 パンプスやスニーカーなら幾らでも履いた経験はあるけど、これでも少し前まで中学生だったんだから色んな靴との出会いが未経験なままだ。なので手を引かれていただけでも既に足先が若干痛い。

「もう、なにからなにまで庶民ね」

「庶民でしたから」

 むしろ庶民以外のなにに見えていたんだって話だ。

 ナタリアさんが私の歩調に合わせてくれる。なんだかんだで面倒見は良い方、なのかな。なんにせよ、『ポインティハット』の施設内で迷子になることだけは避けられた。

 施設に備え付けのダイニング・ホール。普段は大衆料理を提供する『ポインティハット』の食堂なんだけど今は装いが異なる。普段から異国情緒溢れる内装で綺麗な造りをしているんだけど、それに更に磨きが掛かっている感じ。要は大衆向けの雰囲気から格式高いレストラン風へと変貌を遂げている。


 そこかしこにドレスで着飾った魔女候補生の姿。隅っこの方でドレスコード的には問題ないけど着る物を間違えたとでも言いたげな表情で絶望している子たちも見える。ナタリアさん的にはああいう子たちが蹴落とされる対象ってことなのかな。でも私もナタリアさんに用意してもらわなかったらあの人たちの仲間だったし嘲笑うことはできそうにない。


「こっちよ~」

 柔らかく甘く、そして穏やかな声。あまりにも姉、母を感じずにはいられないフランシーさんがこちらに手を振ってアピールしてくる。でもドレスは姉や母というオーラとは真逆で、大胆にも胸元が開かれたものだ。もし姉妹や本当の母親がそういう格好をしていたら私だったら恥ずかしくて他人のフリをしてしまうくらいなんだけど…………ああでも、凄いな。私も二十歳を過ぎるまでにはあれぐらいに育ちたい。

「叶わない夢を抱いたって無駄になるだけよ」

「ナタリアさんはスレンダーなままでいいと?」

「言っておきなさい。将来、あなたを嘲笑ってあげる」

「叶わない夢を抱くのは無駄になるだけですよ」

 そのままの言葉でお返ししておく。実際問題、私は今の段階で出るところが出る成長を体がしてくれないと二十歳になったときに絶望することになる。厄介なのは出るところは出ないのに出ないでほしいものは出てくるところだ。体重という存在が憎い。この世から消せるなら一番最初に消すと思う。いや、消すべきなのはカロリーや脂肪なのかもしれないけど。

「ほら、こっちこっち。ここが私たちのテーブルよ」

 言われるがままに案内され、私とナタリアさんは隣り合う形で座る。別に示し合わせていたわけじゃないけど、なんとなくの流れでそうなった。相変わらず私のことを嫌っている素振りを見せはするんだけど、こういったやや緊張する場面ではどこか安心材料として使われている気がしなくもない。私も同じようにナタリアさんに引っ付いていたらなんとかなるだろうと思っているからお互い様だ。

「こら、オーリー! ナイフとフォークで遊ばない! ほら、ヒヨ・オノウエさんに挨拶して」

 カチャカチャとナイフとフォークを持って遊んでいる女の子――どこからどう見ても小学生ぐらいの子が私を見て、分かりやすいくらい不機嫌な顔をしてみせる。さすがに低学年ではないし、高学年くらい。ひょっとすると私と二、三歳くらいの差かもしれない。赤髪に紫色の瞳、ドレスは……魔法少女風だ。可愛すぎるし抱き締めたいと思うんだけど、本能がやめろって言ってる。

「しみったれた女だな。場違いにも程があるだろ」

「な……」

「同じ班のメンバーになんてこと言うの! ほら、ヒヨさんに謝りなさい!」

「イーヤーだーね! 絶対にイーヤーだ! そいつがあたしよりも強かったら謝るけど、どうせあたしよりも弱っちぃだろうから謝るだけ損なんだって! どうしてそういうところが分かんないかなフランシーは!」

 この表現は間違っているんだろうけど本質的には似ているところがあるのでオーリーの第一印象をそれで表そう。メスガキ。大人の男性に対しても上から目線で笑いながら煽って争いの火種を撒くタイプ。でもこの子はメスガキよりももっともっと攻撃的な感じがする。言葉だけじゃない実力での捻じ伏せ方を知っている。大抵の二次元ではメスガキはワカラセられるんだけど、オーリーに関してはそれがなさそう。

「刺していいですか?」

「落ち着いて、ヒヨ・オノウエ」

 小声で呟いたんだけどナタリアさんに聞こえたらしく反射的に動いていた右腕を両手で抑えられてしまう。

「オーリーとあなたの相性は最悪よ。あなたじゃオーリーには勝てない」

「……そうですか」

 私は魔道具を握りそうになった右腕の力を弱めたのでナタリアさんも両手の力を緩めて椅子に座り直した。いつもだったらここで虚を突いて刺しに行くんだけど、私はまだ煽られたり舐めて掛かられているだけで肉体的に傷付けられていない。精神面に攻撃された気もするけど、まだこれは我慢の範疇だ。明確な攻撃意図を持っていないから反撃の条件は満たしていない。

「私が止めるだけで引き下がるんだ……?」

「ナタリアさんの言っていることに真実味があり過ぎますので。勝てない相手を無闇に刺しません」

 取り繕ってみるがこの嘘は見抜かれているらしく「口から出任せは相変わらずね」と呟かれてしまった。

「おい」

 オーリーが粗雑に声を掛けてくる。

「名前」

「はい?」

「だーかーら、自己紹介しろよー。なんで分かんないかな、それぐらい雰囲気で分かるだろ。それとも空気とか読めないタイプ? あーマジウゼー」

 メスガキじゃなくてパワハラ上司かもしれない。段々とレベルアップしているから最終的にはパワハラ社長ぐらいにはなるかも。

「ヒヨ・オノウエです。今後ともよろしくお願いします」

「ん」

「あの、そちらのお名前は?」

「はぁ……これだから」

 呆れたような溜め息。

「もうそっちのナタリアから聞いているだろ」

「そっちのナタリアさんって言ったら他にもナタリアさんがいるみたいな言い方ですね♪」

「ふざけてんの?」

「いえいえ、ふざけてませんよ。それでお名前は?」

「だからもうそんなのナタリアやフランシーから聞いてるだろ」

「人に自己紹介を求めたなら自身も自己紹介を行う。これは社会生活におけるマナーです。私から自己紹介を引き出した以上はあなたは私に自己紹介を行う必要があります」

 えへへ、と笑う。

「拒否権はありませんよ?」

「……オリビア・マーティンだ。なんでこんなしみったれた女が同じ班なんだよ」

「それはこっちの台詞ですよ、しょんべん臭いガキの面倒なんて見たいと思っていませんから」

 ナタリアさんとフランシーさんが口をあんぐり開ける。

「ちょ、ここ不特定多数の人がいるのよ……?! 悪口はもっと上品に!」

 それから慌てた様子で小声ながらの必死の訴えをナタリアさんがしてくる。

「どうします、オーリー? 私はあなたに合わせてレベルを下げているんですよ? 同じレベルで争えるようにと思ってのことです。なので私はもっと悪口を上品な方にレベルアップできますが……? あら、あらあらあら? もしかしてオーリーさんはそんなレベルの悪口しか知識として有していないんですか? なんてボキャブラリーが貧弱なんでしょう。憐れみを覚えてしまいます」

「おいコラ、ふざけんな」

「けれど仕方がありません。あなたはまだまだお子様。SNSや動画で見て学んだ悪口しか持ち合わせていないんでしょうね。読書や座学を捨てるとこうなるという良い見本ですね」

「ちょっと、あなた本気でころされ、」


 オーリーのフォークが私の喉元に触れる。


「それ以上、あたしを侮辱したらその喉に突き刺してやる。さっきまでの言葉を全部撤回してあたしの前で土下座しろ。なんならそのドレスも脱いで全裸でだ」

「加害性を見せましたね?」

 私は自然と笑みを零す。

「傷付けてくるなら私は全力で抗います。それと、人に放った言葉は全て自身に返ってくるものです」

「だったらお前もだろ」

「ええ、ですから私は覚悟した上で悪口を吐き捨てていますよ?」

 自身の放った言葉が原因で別のところで言葉で傷付けられるかもしれない。でもこれほど嬉しいことはない。だって傷付けてくれたら傷付けることができるのだから。

「あなたたち、」


「二人ともいい加減にしなさい!!」


 フランシーの雰囲気に似合わない怒気を込めた大声で空間が震撼し、さっきまで加害性を露わにしていたオーリーがすごすごと引き下がる。私も全身の怖気に耐えられずに椅子の背もたれに体重を預ける。

「御免なさい」

 さっきまでの威勢はどうしたんだと言わんばかりにオーリーは丸くなって謝っている。でもその謝罪は私にではなくフランシーさんに向けてのものなので私は謝らない。

「これから一緒に魔女狩りを討伐するメンバーなのよ? 仲良くしないと」

 仲良しこよしじゃなくてもいいとナタリアさんは言っていたはずだけどな。

「この班分けは魔女狩りを討伐するためのベストメンバーになるように調整がされている……と言われているけど、それは間違い」

 横でナタリアさんが呟いている。

「実際には四人の得意とする戦い方、そして魔法で力関係が成立するようになってる。フランシーの魔法にオーリーは勝てない。でもフランシーの魔法は私の魔法ならどうとでもなる。だから私の魔法を阻止できる者、そして私の魔法を阻止する者を仕留められるオーリーという力関係。その最後のピースがあなた。『ヒテリズ』で一緒に戦った時点で悟ったわ。私の魔法ではあなたを止められない。でもオーリーなら」

「私は止められてしまう。そしてそのオーリーをフランシーさんが、そのフランシーさんはナタリアさんが……そういうサイクルなんですね?」

 炎→草→水みたいな。そして水は炎に強い……どこかのゲームみたいなサイクル関係らしい。私はまだその実感はないけど。

「だからオーリーはフランシーに怒られるとああやって静かになる。あなたは私になにかを言われたところで静かにならなそうだけど」

「私、縛られるのは好きですよ?」

「物理的にでしょ? 気持ち悪いことを言わないで」

 軽く流された。でも私は本当に物理的にだけじゃなくって精神的にも束縛されるのが好きなんだけどな。

「でも、あなたがオーリーに相性が悪くても、オーリーの口の悪さに参ったときはあなたをカウンターで出すのが良さそうなのは分かったわ」

 また謎の信頼をされる。

「それじゃ、料理が運ばれてくるまでお互いのことを色々と話しましょう? ヒヨさんは私たちになにか質問はないかしら?」

 フランシーが場を取り纏め、私に聞く。

「えっと、じゃぁ……ご趣味は?」

 ありきたりな質問をした瞬間、隣に座っていたナタリアさんに「陰キャの婚活か」とツッコミを入れられてしまった。けれど共通の会話は見当たらないし、私の出す話題にみんなが興味を抱くのかなって思うところはある。

 なんとも言えない時間――話題を探すことに夢中になり過ぎて現状の空気感を無視した結果、引き起こされた寒すぎる沈黙を破るようにテーブルにオードブルのスープが運ばれてくる。


『魔物発生の報告有り。魔女狩りにより使役されている可能性もあるため魔女及び魔女候補生の出動を命じます』


 コース料理を食べるのは人生で産まれて初めてなのでウキウキでテーブルナプキンを折り畳んでいると、なにやら緊急事態を告げるアナウンスがダイニング・ホールに響くものの私は気にせずにスプーンを手に取る。

「なにをしているの?」

「スープを飲もうと……あっ、マナーがなっていませんでした? 確か(すす)る音を出してはいけないんでしたよね」

「そうじゃなくて、魔物退治のために呼ばれているわ。行きましょう」

「どうしてですか?」

 私は支度を進めているナタリアさんに問い掛ける。

「これだけの人数の魔女候補生がいらっしゃいます。一人や二人や三、四人が残っていても誰も文句を言う人はいらっしゃらないでしょう。あまりにも大勢では逆に現場が混乱します。適材適所もそうですが、適した人数が適した場所に分けられることも大切なことです」

「それはそうかもしれないけれど」


「言いくるめられるなよ、ナタリア。そいつはただ単にコース料理が食べたいだけだ」

 オーリーが私の真意を突く。

「コース料理を食べることと犠牲者を最小限に抑えること。どっちが大切なんだよ」

「どちらも大切なことですよ? ですが」

 スープを飲むために握っていたスプーンを仕方なく置く。

「私たちが早急に駆け付けることと、遅れて駆け付けることで出来ることに違いはありますか? 魔女候補生が出しゃばるよりも魔女に任せてしまった方が色々とよろしいのでは? 後片付けを率先して行えば済む話なのであれば、食事を終えてからでも遅くはないと私は思っただけです」

「頭のネジでも外れてんのか? 一般人が死んだらどうすんだよ」

「これまで普通の人が知らないところで様々な事象によって人が死んでいるというのに、今更、人命を重視しているみたいな言い方はやめてください。あなた方はプライドを維持するためだけに魔物や魔女狩りと戦っている。それ以上でも以下でもない。違いますか?」


「違わないわ」

 そう言ってナタリアさんは私の腕を強引に掴んで引っ張る。

「プライドのために戦っている。そこに間違いはない。だからこそ出遅れるわけにはいかないの。他の魔女候補生を出し抜くこと。このプライドバトルで負けられないのよ」

 言いくるめ方が良くなかった。この人たちと話すときに『プライド』や『誇り』、『矜持』って言葉は狙って使っちゃ駄目みたいだ。

「一つ学びました」

 折れるしかない。私はナタリアさんの手を払い、椅子から立ち上がる。


「手早く済ませてしまえばいいだけよ」

 フランシーさんがニコニコと笑みを維持している。

「そうすればなんの問題もなくコース料理を楽しむことはできるはずだから」

 まるで私を慰めるかのような言葉だったけど、それ以上に緊迫感の無さに僅かばかりの違和感と不快感を抱かずにはいられなかった。なんで私と同じくらいの非常識な余裕を持っているのかが謎である。

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