異常行動
♭
「本当に早乙女の同僚なんですよね?」
「ええ」
トバリは小野上に作り笑いのまま答える。アウローラから教わった処世術の一つだ。自身のことをなにも知らない相手には決して見破れないと自負している。
「日頃から勤勉なのですが、少しばかり経歴に気になるところがありまして。それで早乙女を知る方からお話を伺いたく思いまして。彼女はどんな女性でしょうか? ここで話した内容は記録しません。彼女にバレてしまえば信用を失ってしまいますからね。あくまで彼女の同僚として、今後も信頼を置いて同じ職を続けていけるのかどうかを知りたいだけです。実は会社にも内緒で来ているんですよ」
だが、コミュニケーションについては下の下であることもまた自負している。かなり無茶苦茶な導入であり、無茶苦茶な話の振り方だ。しかし小野上は疑いの眼差しをゆっくりと解いていき、どこか納得したような表情を見せる。恐らく彼もまた世間というものを知らない。知らないがゆえにトバリの話にすら応じてしまう。その無知さに感謝しなければならない。なにせこんな偽造された名刺で信頼してくれるのだ。ミイナと名刺交換の練習をしたという体で、彼女の偽造した名刺を見せたことも効いたのかもしれない。
「一言で言い表すなら、化け物です」
「化け物? 女性に対して使う言葉ではないように思いますが」
「いやー化け物です。あいつは中学に入ってすぐに女子から仲間外れにされたことがあって」
「イジメ、というやつですか?」
「に、なりかけていました。まー割とキツい時期だったと思いますよ」
「それで?」
「球技大会の二週間前にバスケかサッカーかを組み分けするってなって、まぁどんな話し合いがあったか男子の俺にはさっぱりなんですけど、女子の方で早乙女はバスケに決まって。で、そのバスケのグループに早乙女を物凄く嫌っている奴がいたんですよ。なんとなく男子たちも嫌ってんだろうなーみたいな感じで、まぁでもそういうのって俺とかが言ってどうこうなるもんじゃないじゃないですか」
「そうでしょうか?」
トバリは早乙女の先ほどまでの言動とはどこか異なる冷たい一面に呆れる。動じるのではなく呆れてしまう。
「男子が言ったら早乙女が男子に媚びを売ったみたいな話になって、言った男子は早乙女のことが好きなんじゃないのかーみたいな空気になるんですよ。すっげぇ嫌な感じになりますけど、関わりたくないじゃないですか。知らないフリ、したいじゃないですか。んでも、球技大会当日にそれもできなくなったんですけど」
「なにがあったんですか?」
「バスケの人数であいつ、補欠要員だったんですよ。まぁ俺もなんですけど。暇だから友達と女子のバスケをチラ見してたんですけど……あー、いや、下心満載で見てたんですけどね」
そこは隠してもいいところであるが言ってしまう小野上の正直さと、それを正直だと思い込んでいる部分にトバリは辟易する。
「『勝つ気ないクセにボール拾ってんなら私と替われ! 敗退行為なんてするな!』って叫んで。あーこりゃもうあいつの中学生活終わったなって。で、それを聞いたあいつを嫌ってる奴がイヤミで交代したんですよ。そしたら、学年優勝しちゃって。ただの学校行事の球技大会ですよ? みーんなやる気なんてないんです。勝つとか負けるとかより、バスケ部とサッカー部の奴らがイキってるのを見るのがすっげぇくだんねぇって思いながらやってるんですけど、あいつだけガチだったんです。しかもビビるくらい運動神経良くて、やー化け物だわって。交代したら勝っちゃったから、あいつを嫌ってた奴も認めざるを得なくなって、そのあとはなんか普通に話す間柄になってましたね。で、もっと化け物なところを言うんですけど、早乙女はバスケが決まった日から毎日のようにバスケ練習してたんですよ。これ、あとで聞いた話なんですけど小学校の同級生でバスケやってた奴がいて、そいつのところで授業が終わったら夜遅くまでずっと練習漬けだったらしいです。何度も言いますけど、ただの球技大会で、ですよ? ガチでやる奴の方が寒いみたいな空気出ているところで、本気で勝つことしか考えてなかったわけです」
「なるほど……」
空気の読めなさ――トバリが感じたミイナの薄気味悪さの本質が見えてくる。
「これ、俺が言ったこと教えないですよね?」
「安心してください。さっきも言ったように個人的なお話であって記録には残しません」
ミイナは勝ちたいからバスケを頑張ったのではない。自身が虐げられる前に先手を打って黙らせたかった。球技大会は彼女にとって丁度良いフィールドだった。恐るべきはそのためだけに普段からやらないことをやるということ。やれないことをやってしまうということ。
「ですが、早乙女さんからは家からあまり出ない方だったと聞いています」
「それ、中二の夏休みが終わったくらいからです。中一の頃は普通でしたよ。いや、普通なのかどうかは微妙なんですけど」
「親の都合、とかでしょうか」
「さぁ? そんなのは話したことないので。だって自分のことより親のこと訊かれる方が辛いじゃないですか。プラスならまだしもマイナスなことだったら地雷ですし」
そこは肯ける。その気遣いは正しいとトバリも思う。
「ありがとうございました」
「いえ…………あの、早乙女はなにか悪いこと、してないですよね?」
「心配なさらないでください」
悪いことはしていないが、正しいこともしていない。いいや、魔や魔女狩りを倒すことは正しいことだろう。トバリは自身の中の価値観を調整する。
「では、最後の質問になります。早乙女さんは中学時代に誰かに告白されましたか?」
「え……?」
小野上はキョトンとした表情となり、続いて首を横に振る。
「無いですよ、無い。あいつの顔、見たことあります? ガチのマジでメイクさえ間違えなきゃヤバいくらい綺麗じゃないですか? 誰かあいつにマジなメイクを教えたら街中でスカウトされるぞとは男子の間では言ってましたね。イジメが始まりかけた理由も澄まし顔が綺麗すぎるとかいう意味分かんない理由だったと思います。でも、知っていらっしゃると思うんですけどキツい性格をしているじゃないですか。誰も怖くて告白なんてできませんよ。もしフラれたら晒されそうですし」
「告白されたことが、ない?」
「はい。俺、なにかおかしなこと言ってます?」
「え……いえ」
「それじゃ、これから塾に行きますんで。あ、でも、なんで俺が小野上だって知っていたんですか? いや、早乙女から聞いただけか。じゃ、あいつに俺も元気しているとは言っておいてください。そんな報告、あいつが聞きたいとは思えないですけど」
彼はトバリに別れの挨拶を会釈をして駅へと駆けていく。見送ってから、トバリは大きく大きく息を吐いた。
「人を騙すことに良心が痛みますか?」
遠くで見ていたカルカが近寄ってきてトバリへと訊ねる。
「いいえ」
「嘘を仰らないでください。本心では嘘なんてつきたくないのですよね?」
その問い掛けにトバリは肯く。
「私もですよ。嘘なんてつかないで済む生き方をしたい。ですが、私たちは嘘で塗り固めた経歴の中で社会に溶け込まなければなりません」
「分かっています」
「収穫はありましたか? いいえ、収穫がなければ困ります。ミイナさんに共感できますか? できないようであればこのままずっと合流はさせません」
「…………はい、少しだけ」
ミイナの薄気味悪い部分の正体がほんの少しだけ見えた。それだけでトバリにはありがたい。
「少しだけですか。まぁ悪くはないです。人って嫌ってた相手をそうすぐに共感できる対象に捉えられません。ジルヴァラさんを嫌っていたのにすぐに共感できてしまったミイナさんだけが異常なんです。あなたはとても普通で正常。ですので、もうミイナさんたちと合流してください」
「はい」
トバリはアウローラ以外の魔女候補生と共感ができない。
だからこそ知りたかった。ミイナに共感できる過去があるかどうかを。
「けれど、セルバーチカのホムンクルスから伝えられている情報と違う部分がありました。誰もミイナに告白はしていない。そして、まるで再会したことがないかのような口振り」
トバリが疑問を言葉として並べる。
「二人は、本当に彼に会ったんでしょうか?」
もしかすると、小野上ではないなにかと彼女たちは接触したのかもしれない。
「…………まさか」
カルカはハッと顔を上げ、異様なまでに焦りだす。
「時間がありません。あなただけでなく私も対処するため向かいます」
「なにをそんな焦って、」
「ジュエヴィエ」
「……え、っと?」
「説明している時間はありません。急いでください」
カルカはトバリを急かし、先導するように前を走り出した。
*
小野上から『悪霊の棲む家』について様々なことを教えてもらったけど、それで私たちにハウスクリーニング代を請求してきた未知の存在を突き止めることはできなかった。いや、未知の存在っていうか魔物か魔女狩りなんだけど、もうちょっと得られるものがあると思ってた。
今、判明していることは『誰にも気付かれずに掃除を行っている』、『侵入の痕跡無し』、『この家のハウスキーパーが精神を病んだ』、『割れたはずの陶器の置き物が割れずに残っている』。不可思議ではあるけど、それと行方不明が繋がらない。だってどれもこの家に対しての現象で、明確に人へ危害を加えるような現象ではないからだ。あるとすればハウスキーパーの感情に共感したか、あとは陶器の置き物から連想できる過去への執着ぐらい。少なくとも姿を現してくれないと倒せない。魔女も魔女候補生も姿を見せない相手を倒す術を持ってはいない。だから姿を晒すように私たちは誘導することで優位性を手に入れる。ルルルのように私たちを囮にしたり、ウェンディのように弟子と私たちに徹底的に調査させる。それができるかどうかは不安だけど、セルバーチカがいるなら心強い。
「じゃぁ俺はこの辺で」
「塾かなんかでしょ?」
「それもあるけど、あんまり早乙女の時間を奪いたくないしな」
は? こいつ何様のつもり? なに数時間一緒にいたからって私のこと分かった気になってんの? ほんと嫌になる。こいつそういうところがあるからウザい。中学のときも『俺だけは早乙女のことを分かってやれてる』みたいな顔していたのが嫌で嫌で仕方がなかった。私のどこに庇護欲を刺激する要素があるんだって話だ。うわべだけの私しか見てないクセに『理解ある俺』を演じるのはやめてくれ。
私の感情を知ってか知らずか――知らないだろうけど、小野上はこちらに手を振ってそそくさと走り去った。その後ろ姿からはどこか嬉しそうな雰囲気があり、言葉では言い表せないほどのムカつきがあった。
「結婚できなさそう」
「小野上が?」
「ミイナが」
「はーぁあああ?!」
声が段々と引っ繰り返ってしまった。
「私常識人ですけどぉ?!」
「自分のこと常識人って言う人を信用するなって私は教えられてるわ。まーミイナは例外とするけど、男嫌いが強すぎない?」
「3Kだったらオーケーって言ったじゃん。私は男嫌いなんじゃなくって私の周囲にいる男が嫌いなだけ」
「私が両親から気を付けなさいって言われている悉くを踏んでいくスタイルやめてくれない?」
物凄い嫌悪感を示されているのは分かっているけど、私はそんな変なことを言っているだろうか。夢や理想は高ければ高いほど良いって教えてきたのは大人じゃん。それに異性へ理想を向けているのは男だって一緒じゃん。
「魔女は頭のネジが外れている。マスターも例に漏れないということだ」
「あー……」
ファルシュの一言にセルバーチカが理解したかのような声を発する。私はこれまで色々なところで彼女への理解を深めようと生き方や価値観を認めようとしたり意見を譲歩したりしてきたけど、なにファルシュと共感してるの?
「私たち絶交しましょ」
「なんでよ!」
突然の宣言に彼女が狼狽える。
「だって、」
「だってもなにもないでしょ! あんただって私のこと散々に言ってるんだからちょっとぐらいは我慢しなさいよ!」
いつかのときにファルシュと話したハムラビ法典を思い出す。私は言葉で普段から殴っているのに殴られ慣れていないみたいだ。いや、自分の中では殴られることに耐性があると思った。でも、それはただ単に私自身に当たっていなかっただけ。
初めて当たったのが『異性への理想の高さ』という弱点だった。だから私は傷付いたし、拗ねてしまっている。
しっかりと自身の感情の起こり方を分析し、深呼吸をして心を静める。
「ワガママでごめん」
「なんかちょっとニャーシィさんに似ているって思っちゃった」
「師匠と一緒にしないで。あの人はもっとワケ分かんないから」
「自分で自分のことワケ分かんないって言っているようなものだけど大丈夫?」
自覚はある。ファルシュが言っていたように頭のネジが外れている面はある。でなきゃ魔女になろうなんて思わない。何度だって言う。おかしくなければ魔女になろうなんて思わない。
「それでカシュー? 私たちが外に出ている間になにか収穫はあった?」
話題が戻った。多分だけど私とこのまま話し続けていたら感情の起伏にてんてこ舞いになると思ったんだろう。まぁ私も話の着地点が見えなくなっていたから強引に戻されてしまった方がありがたかったりするんだけど。
黒服の男は首を横に振る。
「これだけ調べてなんにも出てこないとかある? 調査が足りてないとは私は全く思わないんだけど。見落としがある? あの請求書が実は無関係だったり?」
お手上げだとばかりにセルバーチカは言いつつもテーブルに置いてある請求書を眺めながらブツブツと呟いている。
「ファルシュが請求書を見つけたとき、なにか変なことなかった?」
「変なこと…………あーそう言えば、一分弱だが外に出た瞬間はある。カシューは室内にいたが」
「なんで? 郵便物を調べたり? ここは私の家でもなんでもないのに」
「いや、外で音がしたんだ。その確認だな」
「それで原因は?」
「老婆が隣の空き家の草むしりをしていた」
……なんだって?
「もう一回、もう少し詳しく言って?」
「だから老婆が空き家の庭――いや、柵と家の間にほんの僅かだが土の見えるところがあるんだが、そこの雑草をむしっていた」
「それは、家の敷地から?」
「外から。柵の隙間から手を入れて、雑草に恨みでもあるのかと思うレベルでむしっていた」
「話し掛けたりは?」
「しない。それでマスターの行動に支障が出ても困る。だが、単純に……あれは怖れだった。俺は老婆を怖れた。自分が所有する空き家ならば敷地内から雑草をむしる。だが、外側から、しかも柵の隙間から手を伸ばしてむしっていた。つまりは空き家の持ち主となんにも関係のない赤の他人。人様の敷地内の雑草をどういうわけかむしっている。理由が分からないことが、あまりにも俺の中での恐怖になった。だから一分もしない内に家へと戻ったわけだが」
私はセルバーチカと視線だけで意思疎通をして、ファルシュとカシューを連れて家の外に出る。そして隣の空き家の敷地に目をやる。彼が言っていたように雑草はむしられている。しかもむしった雑草はそのまま敷地内に置かれたままだ。
「景観が悪いとか見栄えが悪かったとか? 連絡が取れないから仕方なくとか」
「それで人様の家に生えている雑草をむしる?」
「空き家の隣に住んでいて、雑草がそっちまで伸びているとか」
「無いわ。だってこの家の方にも伸びていないんだもの」
真っ向から反対されてしまうが、セルバーチカに私は苛立ちはしない。だって正論だもん。彼女の言っていることには合理性というか、私が心の奥底で思っている自身の発言に対する否定が詰まっている。
「全く無関係な人の家の雑草をむしるほど世の中の人たちは暇人じゃないわ。本人はどう思っているかはともかくとして私たちから見れば異常行動」
そこまで言ってセルバーチカはハッとしてカシューを見る。それでなにかを察したらしく黒服のホムンクルスが急いで家の中へと戻る。
「なに?」
「待ってて」
待たされることおよそ一分。カシューが手に紙を持って帰ってくる。
「……これ見て」
ハウスクリーニング代として8,000円を請求する用紙だった。朝にファルシュから見せられたのは5,000円であったからそれとは別物であることが分かる。
「もしかしてなんだけど、家から出て戻ることがトリガーになってない?」
「だったら前日の時点で起こってないとおかしいでしょ。私たち、昨日はコンビニにも一応は寄ったんだから」
夕食の支度において調味料が足りないことに気付いて買い出しに行ったのだ。そのときに家から出て戻っているんだから請求書が出されていないとおかしい。
「異常行動を見たか否か、じゃないか?」
「ファルシュが朝にお婆さんを見たから、5,000円の請求書。じゃぁなんで8,000円の請求書が出てきたわけ?」
「私たちが家から出て、カシューが戻った時点で請求書があったんじゃなかったら? もしかすると、既に請求書は置かれていたのかも」
全員が家から出て、黒服のホムンクルスだけが家に戻った。そこの行動は関係なくて、他の家の出入りによって既にあった可能性は……ある、かもしれない。だって小野上と一緒に家を調べて、彼がここを立ち去るまでファルシュとカシューは一つの部屋から出られなかった。つまり、私たちの目の届かないところにあった場合、請求書を見つけることはできない。
「じゃぁ……私たちはどこかで『悪霊の棲む家』にまつわる異常行動を目撃していた?」
「この請求書はどこで見つけたの?」
セルバーチカが問う。
「……『トイレ』?」
カシューはなにも言わず、セルバーチカが代弁する。
「トイレ……って」
「俺たちは使わない。マスターたちは?」
「そういうこと聞かないでくれる?」
センシティブというかプライバシーの侵害だ。
「でも、トイレは盲点よ。だって小野上がいたんじゃ、私たちはトイレを調べるのちょっと避けるもの」
異性がいるときにトイレは調べたくない。だって前日から家に入っている私たちはトイレを利用している。彼をいるときに、そんな場所を入念には調べにくいし使わないようにしてしまう。
「……ん?」
小野上が……いた?
「ちょっと待って。私、なんか…………見落として……」
私は小野上と話して違和感を覚えなかった。
覚えなかったのは、おかしくない? だって私たち少なくとも一年以上は顔を合わせてない。学校以外で話をしたことだってない。
なのになんで私は小野上とスラスラと会話ができた? なんで私は違和感を覚えなかった?
答えは簡単だ。私は彼に現在の話をしたし、過去の話もした。でも小野上は私に現在の話はしていなくて、全部が全部、過去の話だった。私が話題を振らなかったせい? ううん、小野上は自分のことをそのあとも一つも話してない。
昔の話しかしていない。昔の話題しか、出してない。高校には行ってなにをしているかとか、どうして平日の昼時に制服のまま出ていられるのかも話してない。だから驚くほど話が合わせやすかった。昔話しかしないから、私が話に乗りやすかった。
「私たちが体験した異常行動って……小野上と話したこと?」
ゾクッとした恐怖があった。
もしかすると、私が見た小野上は小野上ではなく、小野上のフリをした別のなにかだったのでは? 目が合ったときに私は小野上の名前をすぐに出すことはできなかったけど、あいつはすぐに私のことを早乙女だと認識した。中学の制服でもないし、あの頃とメイクも変えているし、なんなら服だって当時の私なら絶対に選ばない黒色で揃えている。なのにあいつは、他人の空似やなんかで終わらせずにダイレクトに直球に私へと接触した。そして私に小野上であることを思い出させた。
その過程が、流れが、あまりにも滞りがなくて……不自然がない。不自然が無いせいで不自然だ。
「セルバーチカ、私から離れないで」
「分かってる」
気を抜きすぎていた。
私たちはもうずっと、それこそ最初から、魔女狩りに標的にされている。いや、ひょっとすると私だけが標的にされている。物凄く気味が悪くて、物凄く不快だ。私はまだ短期的な感情で動けているけど、長期に受け続けることは耐えられない。
「もう隠れてないで出て来たら? 私たちはあんたの存在を認識してる。いつまでも隠れ続けることなんてできないわよ?」
「ジュエビエを刺激しないでください!」
カルカとトバリが私の視界に入り、同時に警告が耳に届く――そして、私のすぐ横で血飛沫が舞った。なにが起きているのか分からないまま呆然と立ち尽くしている私をよそにカルカが血飛沫の元の傍まで駆け寄り、止血を試みている。
「『魔女の大釜』に応援要請! 魔女狩り a.k.a『ジュエビエ』。セルバーチカ・ラスティーの生命活動が危険な状態にあります! 現場にいる魔女と魔女候補生では対処不可能と判断! 誰でもいいから助けてください!」
「ミイナ!」
トバリが私の前に立つ。一瞬、私は自分が自分ではない感覚に陥り、どうにかこうにか自我を保てているけれど真横を見ることができない。怖くて、現実を受け入れることができなくて、視線を向けることができない。
「ジュエビエ……?」
「日本では確か……『根無し草』」
私が零していた疑問をトバリが同じくポトンと零す。
「ミイナ・サオトメに関わる全ての魔女及び魔女候補生に警告。自身が持つ最大の魔力で防御を展開し続けてください。『根無し草』の興味が彼女から逸れるまで、僅かの気の緩みもあってはなりません。死にたくなければ、この警告に従ってください」
かなり感情的にカルカは『魔女の大釜』への魔力による連絡を終えたのち、僅かだが冷静さを装うように声の大きさを調節する。
「『根無し草』は標的を確実に決別させます。そういう特異能力を持っています。これは魔女においても対応不可能とされて、『根無し草』によって多くの魔女が沢山の知己の仲と決別させられました。狙われたのがミイナさんならセルバーチカさんは、」
「聞きたくない!」
けれど彼女の冷静さは頭に入ってこない。私は爪が喰い込むほどに強く強く拳を握り締め、ありとあらゆる怒りの感情を増幅させる。
「絶対に殺す!!」




