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求められる

 シグネラを倒したあと、私たちは『魔女の大釜』へと帰された。『六月作戦』をたった一日で終わらせたのは師匠以来らしく、組織全体が色めき立ったらしいんだけど肌感ではあまり分からない。あと『六月作戦』自体は二週間ほど掛かった。その間も魔物や魔女狩りの発生は後を絶たず、多くの魔女が忙しなく施設内を駆けずり回っていた。

「ニャーシィさんが『ウチの弟子がもういなくなっちゃった~』って寂しがっていましたよ」

 カルカが私の部屋に書類を置きつつ、当時の師匠の様子について語る。

「まさか一日でシグネラさんを倒すなんて思いませんでした。いえ、シグネラさん自体は思っていたかもしれません。だって私自身も『六月作戦』の突破口は短期決戦にあると思っていましたから。現に私は二日目でクリアしています」

「みんな『六月作戦』を経験するんですか?」

「ここの『魔女の大釜』ではそのようになっています」

 知ってはいたんだけど、カルカのみならずシグネラやルルル、そしてウェンディまでもが『六月作戦』に挑戦した過去があるなんてとてもじゃないけど考えられない。全員が相応の才能を持っていて、あんな突拍子もない無茶苦茶なイベントなんて経験せずにパスしていたんじゃないかってずっと疑っている。

「ミイナさんも短期決戦という答えに行き着いたんですね?」

「行き着いたと言うか、自然とそうなりました。魔女と比べて魔女候補生の私たちは圧倒的に魔力量で劣っています。長期戦になればガス欠になるのは私たちですから、ほぼ対等に渡り合えるのは初日から二日目までの間ぐらい。野外での生活は慣れていなければ精神力を消耗させますし、集中力だって一日目と比べれば絶対に劣ってしまいます」

「ですが、初日のアタックはほぼ全身全霊を懸けた魔女の魔法を浴びることになります。魔女候補生同士のいざこざも踏まえれば、初日は可能な限り温存して二日目に仕掛ける。私はそのようなプランを掲げましたが、どうしてミイナさんは初日に全てを懸けたんですか?」

「私が必要とした共感は無力という部分にあります。この感情は初日が一番だと思いました。だって私以外のみんなはアウトドアの経験が浅いんで、日を跨げば跨ぐほど私が体力や精神力でみんなを上回ってしまいます。そんな状態で無力を感じることなんて出来ません」

 もしかしたら頼られる場面だってあっただろう。そうなると私は逃げ口を作り出す。魔力や魔法では劣っても、私には別の面でみんなを支えていられるんだと言い訳する。その言い訳の余地がない内にシグネラと当たらなきゃならなかった。

「あとは一ヶ月の調査の間にシグネラさんがインドア派であることは確定できましたから。仕事でもそうですが、アウトドアでも神経が尖っていてきっと数日の間に全部を終わらせたがると」

「だったら長期戦で精神的に参ったところを狙えば?」

「別の魔女候補生に取られてしまうじゃないですか」

 ああ、とカルカは納得の声を零す。

「皆さんの最適解がたった一人、あの場所には居たってことですね」

 私の答えに満足してカルカが部屋を出るため扉を開ける。

「昼食前にホールに集まってください。『六月作戦』の結果についてアイリスさんからお話があるはずです」

「『六月作戦』は昨日、終わったばっかりじゃ」

「ええ、ですから結果報告に移るわけですが」

「疲れてないんですか?」

「……あー、どうなんでしょう。私は師匠に二週間は野外で生活できるように訓練を受けていますので、多少なりとも疲労感はあれど消耗している感覚はほとんどありません。ルルルさんは推しの配信が一週間まともに見られなかったのでかなり機嫌を悪くしていましたが、注文していた推しのグッズが部屋に届けられていることを知ったらすぐに満面の笑みを浮かべていらっしゃいましたし」

 そりゃ生活の中で推しが欠乏していたところに推しのグッズが届いたとなれば一瞬でテンションは上がる。チートデイに食べるスイーツやお肉がたまらないほどに美味しいのと理論的には同じだと思っている。でも、加減を間違えるとその味やテンションに囚われることになるから、あんまり良いことじゃないとは思う。思うけど、美味しいものは美味しいんだから逃れられないし抗えないのが悲しい。

「まぁさほど気にしないでください。『六月作戦』に参加した魔女の数だけ普段、だらしない生活を送っていた他の魔女たちが魔女狩りに駆り出される形になったので、良い意味で組織が循環しました。意図せずして自浄作用が起こったとも言いますし」

 カラカはウェンディの代わりに『六月作戦』に参加したのにピンピンしている。幾ら野外生活への順応力が高いからといって、魔女候補生に命を狙われているってだけでメンタルに結構来るものがあるはず。それでどうしてこんなにも普通にしていられるんだろ。

「私の師匠は?」

「ホールでの報告後、『魔女の大釜』を出るそうなのでそのときが話をするチャンスです。ただ、あんまり期待はしちゃいけませんよ? 師匠というのは、なんだかんだで面と向かって私たち弟子を褒めたりはしてくれないものです。お師匠様も私がメンタルが限界だったり傷付いているとき以外はなかなか褒めてくれませんから」

「べ、別に話したいとかそんなのは言っていません」

「そうですか。まぁ、そういうものだと受け取っておきます。では、お伝えしましたので準備をなさってください」

 含み笑いを浮かべながらカルカは私の部屋をあとにした。

「信じて送り出したマスターが一日で帰ってきたときにはどう声を掛けたらいいものか分からなかったな。トーナメントにおける初戦敗退並みの衝撃があった。まさか一日で『六月作戦』を越えてくるとは思わなかったからな」

 部屋に備え付けの物置きへ段ボール箱を運びながらファルシュは言う。『六月作戦』のために色々とプリントアウトし、資料としてファイルに保管していたんだけどそれももう不要になったから目に見えないところへ収納してもらっている。焼却処分するのが正しいんだけど、それらは私たちの汗と涙の結晶みたいなところがあって、なかなか捨てる方向へと踏み切れない。なのでまだ残しておきたい。こういうので多分だけど物置もパンパンになっていくんだろうなと今からその兆候が表れているので少しばかりの憂鬱を感じている。

「私と記憶をある程度共有しているから分かってたんじゃないの?」

「追い詰められたときに限られると前に伝えたはずだが? 俺たちホムンクルスは集まってどうマスターたちを励まそうかと話し合ったくらいだ」

「そんな心配してくれてたんだ?」

「……まぁ? 大事なマスターだからな」

 照れている。可愛らしい奴だ。でも、そそるものはない。やっぱりストライクゾーンに年下とかショタが入ってないっぽいんだよなぁ、私。


 ファルシュと一緒に段ボールを物置きに放り込み、ミニマリストを心掛けていた割に思いのほか溜まりに溜まってしまった私物の整理を行う。別に今日が『魔女の大釜』からの旅立ちになるわけでは全くないんだけど、こういう機会でもないと整理すらしないから。ゴミ部屋にだけはしたくない、切実に。

 いつもより落ち着かない時間を過ごし、私はローブを纏ってファルシュと一緒にバンケットホールに行く。入った直後に一斉に視線が向けられるものの、『六月作戦』前のような陰口が向けられることはなかった。物凄く安堵したし、これで一人でも気楽に過ごすことができることへの喜びが少しだけあった。

「諸君、『六月作戦』の感触はどうだ? 手応えはあったか? いや、手応えが有ろうと無かろうと呼び出したのだから集まっているのは当然か」

 アイリスが私たちよりもあとにバンケットホールに現れて、テキトーな挨拶をしながら壇上に立つ。

「努力した者、努力しなかった者、死んだ者、死ななかった者、裏切った者、裏切られた者、策を立てた者、返り討ちに遭った者、その他大勢。とにかくお疲れ様と伝えておく。しかし、たった一日で課題をクリアしてしまう者たちが出るとまでは思わなかったがな」

 巻物を開き、『六月作戦』の説明をされたときと同じように紙面が床に広げられる。

「そこに記されている者たちは今期の『六月作戦』における特別条件をクリアした者だ。事前に伝えていたように才能は掬い上げる。たとえ色を出せていなくとも、たとえ魔女を倒せていなくともだ。逆に言えば、そこに記されていない者たちは来期を待て、それだけだ」

 紙面を見て一喜一憂する魔女候補生たち。一応ながら私も紙面を確認するが、特別条件とやらには含まれていないらしい。課題はクリアしているから、脱落ってわけじゃないんだろうけどちょっと緊張する。

「次に格別評価を魔女より下す。呼ばれた者は問答無用で今年度の魔女候補生の卒業が確定する。自分には才能が無いと思っていようとも、これは絶対だ」

 そうアイリスが告げるとウェンディが辺りに手を振りつつ壇上に立つ。

「ウェンディ・カーペンターがアンテオ・キーングレントとジルヴァラ・テイラーを魔女へ繰り上げることを認証する。家柄及び継いでいる色も含め、極上の逸材であることは間違いない。なにより気高き理想への執念、叶わぬ現実を見ても尚、戦うことを諦めない姿勢に感服する。私は彼女たちに共感可能だ。魔女の世界に早々に立ち、魔女狩り討伐の矛となれ」

 この二人は当然だ。なにも驚きはない。むしろ呼ばれなかったらどうしようかと思うレベルだ。

「続いて、カルカ・ラポラ」

 やや緊張気味にカルカがウェンディの隣に立つ。

「カルカ・ラポラがセルバーチカ・ラスティーを魔女へ繰り上げることを了承します。テイラー家への嫉妬、届かぬ力量の差への絶望を抱きながらも尚もその闘志は潰えていないようです。届かせたい力の先の先、高みに見据えている目標。それらに私は共感可能です。お師匠様が仰っているように、共感可能ということは即ち、私たちは共に立って戦えることを意味します。あなた方は命を預けるに足ると、そう判断しました」

 セルバーチカは口を両手で覆う感じで感無量となりその場にうずくまる。

「はいはーい、次は私私私」

「……ニャーシィ・フェネット。どうせならお前は最後にしておきたかったが」

「いやいや、それはちょっと勿体無い」

 いつかに見た師匠と変わらぬ出で立ちで師匠は壇上に勝手に立つ。

「ニャーシィ・フェネットの名に於いて、アウローラ・ガルシアとトバリ・アメノ、そしてエリナ・トキダを魔女へ繰り上げることを認めまーす。先に呼んだ二人は私を標的と定め戦い、私を倒せこそしなかったものの私が指定した三十分を生き切ったから。課題クリアこそしてないけど課題クリアと私が勝手に決めました。あなたたちに私はちっとも共感不可能だけど、魔女の中ではあなたたちに共感できる人たちが多分いる。そして、私の魔力をずっと追跡していた上に、戦闘において感情の色まで用いることのできたエリナ・トキダを私は認めなきゃならない。あなたの才能は魔女狩りを討つ過程において必須になる。捕らえた相手をひたすらに追い続ける執念、仲間のために自らの魔力の全てを注ぎ込む情熱。そこに私はひょっとすると共感できてしまうかもしれない」

 エリナは顔をパッと上げ、アウローラとトバリが顔を見合わせて互いに微笑んでいる。けれど二人は体の至るところに包帯を巻いていて、なんなら血が滲んでいるところもあって、ひょっとすると今日まで意識不明だったんじゃないだろうか。師匠は殺しこそしなかったけど、殺しには掛かったんだということが分かる。それでも手を抜いていたのは間違いないけど。

「次、ルルル・ラウド」

 呼ばれ、スマホで配信を見ながらルルルが壇上に立つ。

「私、ルルル・ラウドはアミューゼ・ドライトを魔女にすることを望みます。『ドライト家の面汚し』などと囁かれていましたが、私が見た彼女の働きはどれも決してドライトの名に恥じぬものばかり。むしろどうしてそのような蔑称が噂されるようになったのかと憤慨してしまいそうになります。ささやかに平穏を願いつつも、その内に秘めている誰にも未だ明かしていない腹黒さ。私はその表裏の極端さに共感可能です。いずれ見せてください、あなたが内に秘めている闇を」

 アミューゼは私の顔を見てから、やがて自分のことだと理解して涙を滲ませてセルバーチカのようにうずくまって泣きじゃくる。

「以上とする」

「え?」

 私は誰にも聞こえないくらいの声を発して驚いてしまう。


 呼ばれなかった。私は、呼ばれなかった。

 なにかの間違いじゃ。ううん、間違いじゃ……ないのか。


「俺を医務室で待機させたまま話を進ませているんじゃねぇよ」

 バンケットホールの扉が荒々しく開かれて、気怠そうにシグネラが姿を現す。

「寝ていなくていいのか?」

「魔女候補生の雷魔法の直撃を受けたからっていつまでも寝ていられっかよ」

「だが神経伝達におけるあらゆるパルスが狂い、向こう一ヶ月はまともな生活を送れないと聞いているが」

「知るか。俺は誰よりも治りが早いんだよ。魔女の妙薬さえ飲めば一発だ」

「いつまでも私に頼るな。それと神経の伝達機能と肉体の活性化は別物だろうに。そんな風に強がりで立っていても、杖無しではまだ歩けないのではないのかな?」

「うるっせー、テメェは俺を母親かなんかか? だったら言っておいてくれ。俺の親権獲得したクセに育児放棄して不倫男と一緒に駆け落ちした先で無理心中すんなってな」

 ウェンディがボヤくのを無視してシグネラが壇上に無理やり立つ。

「んで? まさか私抜きでもう終わらせてんじゃねぇだろうな?」

「まさか」

 ルルルが鼻で笑う。

「あなたが来ることを見越して、ちゃんと取っていますよ。飛び切りの逸材を」

 それを聞いてシグネラが私を指差す。

「落ち込んでんじゃねぇぞ、ミイナ・サオトメ。テメェの才能を掬い上げない『魔女の大釜』なんて存在しねぇ。シグネラ・アーケミアがミイナ・サオトメを魔女に繰り上げることを許す。魔女候補期間中に魔女狩り、そしてこの俺という魔女を共感させたのは過去を遡ってもテメェだけだ。不幸に這いつくばりながらも勝者に(なび)かず媚びず、慣れ合わず、だが利用し利用されの協力関係を求められれば過度に期待せずに順応し適応する。テメェの共感力に俺の感情を預けさせてもらう。魔女の奔流に乗れ。こちら側に来い、ミイナ」

 力強く、私という存在を求めている声だった。なにを言っているのかは正直半分以上も分かっていないんだけど、多分だけど貶されているわけではなさそうで、逆に物凄く褒めてもらえている。

「貴様を見過ごし、落とす選択肢など私たちにはない。観念することだ」

「一番最初にあなたの名前が挙がりました。誰が伝えるかで喧嘩した果てで、治療を受けていてもどうせ来るだろうシグネラに任せるという結論に達したのです」

「あなたは間違いなく、あなたを慕う方たちに良い刺激を与えています」

「弟子ちゃんが『魔女の大釜』に染められてしまって師匠は悲しいよ……なーんてね。野良魔女の私の分まで頑張ってねー、ちゃんと師匠の尻拭いはするんだよー?」

 なんだか最後の師匠の言葉だけは私の評価とは違うものだった気がするんだけど、あんまりイラッとは来なかった。それよりも感無量って感じ。嬉しいはずなのに目から涙が零れ出てて、さっきまで胸の内を包み込んでいた暗い感情が全部吹っ飛んだことで、体中に乗っかっていた重さが一気に抜けた。強張っていた筋肉をゆっくり緩めたつもりなのに、なぜか腰が抜けてへたり込んでしまう。

「ま、当然だな」

「ミイナさんが認められなかったらどうしようかと……」

「『六月作戦』の最後を決めたのもミイナさんですもんね。私はほぼ追跡ばかりだったので」

「テイラーとしてクレームを入れようかと思いましたのに」

「なに泣いてんのよ、ミイナ。まだ三月まで私たちは油断できないんだからね!」

 そうやって強がるセルバーチカの目には涙が溢れている。


「貴様たちは人生の多くで裏切り、そして裏切られてきたことだろう。利用し利用されの関係も間違いではない。だが、魔女とは共感し合えない相手とだって共感を強要されることの方がずっと多い。魔女狩りを前にして魔女を裏切る者を私たちは必要としていない。たとえば、『アルカナ』に属していながら早期にアウローラ・ガルシアとトバリ・アメノを裏切ったそこの連中だ」

 アイリスが指差したところに集っている魔女候補生たちが魔法によって拘束される。

「貴様たちは『魔女の大釜』に置く理由がない。家に帰ってもらう。自らの利益のために強者に縋った。それは別に責めるべきところにない。しかし、縋っておきながら強者が危機に陥った途端に逃げ出すのは小心者としか言うほかない。貴様たちは魔女狩りを前にしても平気で逃げ出す。だから、私たちには必要のない人材だ」

 魔女たちが『アルカナ』所属も魔女候補生をバンケットホールから連れ出していく。それをアウローラが少しだけ申し訳なさそうに眺めつつも、決して手を差し伸べようとはしなかった。

 差し伸べたいけど差し伸べられない。そんな感じだと思う。


「さぁ、魔女への道が示されたはずだ。貴様たちにはこれからも『魔女の大釜』で忙しなく働いてもらう。これまでタダ働きだったが、ここからは報酬も出そう。とはいえ、貴様たちの家柄に比べたら出せる報酬の額など雀の涙ほどしかない。それでも自身の働きに対する報酬を得ることが、ある意味でのやり甲斐へと変わる。リターンのない仕事ほど無意味なものはないのだから」

 そう言ってアイリスは壇上を降りた。

「弟子ちゃん弟子ちゃん」

 いつの間にか壇上を降りていた師匠が私の肩を叩く。

「これまでの頑張りに、偉い偉いをしてあげよう」

 スッと流れるように師匠は私を強く抱き締め、頭を撫でてくる。別に人恋しさとか、師匠に一言声を掛けてもらいたい気持ちとか無かったはずなのに、キューッと胸の奥が締め付けられる。

「なんで、師匠は『魔女の大釜』に所属しないんですか?」

「ちょっと許されないことをやったんじゃないか疑惑があってね。詮索されると困るから離れた。その疑惑は『魔女の大釜』側から掛けられたものだから」

 それをこんな誰でも聞こえる場所で言ってしまうのか。

「で、なんで弟子ちゃんを『魔女の大釜』に置きたいかって言うと、私と違って弟子ちゃんは周りを気遣える魔女になれると思ったんだ。まー最初はスパイになってくれたらいいなーとか思ったけどさ。なんだか結構頑張ってるみたいだから育成方針を変更したわけ」

「なんでハッキリと言っちゃうんですか」

 なにもかも胸の内に置いておけばいいのに。

「私は誰かのために共感することができないから。誰かのためには生きられない。私にできるのは、魔女狩りを倒し尽くすこと。ただそれだけだから」

「……だったら、私がちゃんと師匠の疑惑を晴らしてみせます」

「ホントに? できれば早い方が良いんだけどどれぐらい掛かりそう?」

「具体的には、なんにも言えないんですけど」

「ウソウソ、言ってみただけだって。別に何十年掛かろうと私は待ってるからさ」

 このあと何十年も生き続ける気なのかと、刹那的に生きている師匠の姿しか見てこなかった私からしてみたら唖然とするしかない。

「それじゃ、ね。弟子ちゃんはちゃーんと真面目な魔女になるんだよ。反面教師の材料は沢山見てきたと思うから」

 その最たる例は師匠だ、とはさすがに言える雰囲気じゃなさそう。

 師匠は私を抱擁から解放すると、手をヒラヒラと振りながらバンケットホールを去った。



「これだけ天才の私が力を貸してあげたんだから、もうしばらくは好き放題させてくれるよねー?」

「なにを言っている? 変わらず貴様は監視対象だ。呼ばずともこちらに来てくれて助かったまである」

 アイリスはニャーシィの言葉を鼻で笑いながら答える。

「せっっっっっっっっかく、『六月作戦』まで協力してあげたのにぃ!」

「私は弟子がいるからと『魔女の大釜』まで足を運んだ貴様の道徳心を疑っている。貴様の目的はなんだ? もっと別にあったんじゃないのか? たとえば、猫の仮面の魔女狩りを追っていた……とかか?」

 ニャーシィは分かりやすいほどにそっぽを向く。

「当たりか。やはり『百日魔宴』の、」

「違う違うちがーう! 『百日魔宴』に比べたらあれは凡骨。正直、弟子ちゃんじゃなくて私だったら片手で捻り潰せるくらいの雑魚。逃走したって私だったら追い付ける。でも見逃さなきゃならなかった」

「なぜだ?」

「……教えなーい」

 アイリスは溜め息をつく。

「今のは言う流れだっただろう」

「知らなーい、昔から空気を読んだことなーい」

「だが、安心したよ。貴様がどうやら敵ではないことに」

「そんなこと言っていいの? 突然、私があなたの首を刎ねる可能性だって」

「貴様はしない」

「……まぁ、しないけどさ」

 ニャーシィはアイリスと目線を合わせ、やや恥ずかしそうにしながらヘタクソな作り笑いを見せる。

「弟子ちゃんのこと、これからもよろしくね」

「ミイナ・サオトメには期待している。だが同時に、貴様にも問いたい。どうして拾った? どうして育てた? どこの有名な血もその身に流してはいない子供を一年間も面倒を見たのはなぜだ? そしてなぜ、ミイナ・サオトメは魔力塊を見る『眼』を持っている?」

「簡単な話だよ」

 そう答えつつ、彼女は踵を返して歩き出す。

「弟子ちゃんは暗澹たる魔力側の化け物だから」

「憐れんだ、と? 憐憫など持ち合わせていない貴様が? ただの化け物ごときを拾おうなどと?」

「いーじゃん、気まぐれだよ気まぐれ」

 振り返り、目深に帽子を被る。

「本当にただの気まぐれ。あのとき、私はどういうわけか『かわいそう』と思った。それだけ。だからさ、化け物になる未来しかないあの子をどうにか魔女になれるようにしっかり指導してあげてよ」

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