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サリア③


 宿泊しているホテルに着いた二人は部屋に入ると、並んでソファに腰をおろした。


「少佐ともなると、もっといいスイートルームとかかと思ったけど意外と普通ね」


「クリスと二人で来るならもっと良い部屋にした方が良かったかな」


 フェリクスが笑いながら応えると、クリスはゆっくりとフェリクスの首に腕を回して艶のある笑みを浮かべる。


「別にいいわよ普通で。部屋を楽しむんじゃなくて、二人でいられる事を楽しむんだから」


 そう言って顔を近付け目を閉じるクリスを、フェリクスは引き寄せ唇を重ねる。

 そのまま二人重なると、暫くしてクリスが耳元で囁く。


「ちょっと。せめてベッドに連れて行ってよ」


「あっ、そうだよな」


 そう言ってフェリクスは笑い、クリスの手を引きベッドに(いざな)う。


 二人身体を重ね、愛し合った二人は暫くベッドで横になっていた。


「……ねえ、まさか私達今夜限りとか言わないよね?」


「言う訳ないだろ。まぁ明日が来ないでほしいけどな」


「ふふふ、本当ね」


 二人の静かな笑い声が部屋に響いていた。


 暫くすると、クリスは立ち上がり服を着ながら帰り支度を急いでいた。


「どうした?」


 フェリクスが尋ねると、クリスは苦笑いを浮かべる。


「どうしたって、私は帰らなきゃまずいんだって。既に隊の門限は過ぎてるし、これで朝帰りなんかしたら懲罰ものよ」


「そうか、せめて送るよ」


 慌てて立ち上がり支度を始めるフェリクスを見て、クリスが歩み寄る。


「嬉しいけど、誰かに見られたらもっとまずいわ。気持ちだけいただいとく。だから私のお願い聞いてよ」


 フェリクスが戸惑うように見つめると、クリスは妖艶な笑みを浮かべていた。


「まずは少し離れるからって他の女と浮気しないでね。あと、このまま音信不通なんかになったら、それこそ戦場の果てまで追いかけて行くからね」


 そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべるクリスと軽いキスを交わす。


「大丈夫だよ。これでも俺は一途だし、必ずクリスを迎えに行く」


「約束ね」


 そう言ってクリスは再びフェリクスに抱きつき唇を重ねた。


 クリスを見送ったフェリクスは、一人残された部屋でベッドに腰掛け、煙草に火をつける。


「……ゆっくりしてこいと皆に言われたが、いいんだろうか?」


 立ち上る紫煙を見つめ、フェリクスがポツリと呟いた。


――

 その後クリスが部隊に戻ると、見張りをしていた兵士がニヤリと笑って声をかける。


「なんだ少尉早いお帰りだな。朝帰りでもするのかと思ったぜ」


「……ふふ、ここにいるとストレスが半端なくってね。つい深酒しちゃったのよ」


 嘲笑するような兵士に嫌味を返すと、兵士は眉根を寄せて語気を強める。


「新参のくせに。中佐が呼んでいた。帰ったら部屋まで来いってよ」


「中佐が?」


 クリスは首を傾げながら部屋に戻ると、軍服に着替える。


 こんな時間にあのはげ何の用?門限破ったから?まさかね。……何か変な事してきたら思いっきり殴るか――。


 クリスは疑問を抱いたまま中佐の部屋をノックした。


 静かな空間に扉を叩く軽快な音が響いた。


「誰だ?」


 暫くして部屋の中から声が返ってくると、クリスは姿勢を正した。


「クリスティーナ・ローレルです。ただいま戻りました」


「……入れ」


 クリスが中に入ると、暗い部屋で中佐は机に肘をつき、クリスをじっと見つめたまま笑みを浮かべていた。


「ご苦労少尉。少々門限は過ぎていたようだがね」


「申し訳ございません。色々とありまして」


 声を張り、綺麗な敬礼をするクリスを見つめ、中佐は口角を釣り上げ卑しい笑みを浮かべる。


「ふん、まぁ君が街で何をしていたかは不問としよう」


「ありがとうございます」


 姿勢を正したまま綺麗な敬礼をするクリスを見つめ中佐は更に続ける。


「ところで少尉。私の情報網では今サリアにあの黒い死神、フェリクス・シーガーが訪れているようだ」


 中佐の口からフェリクスの名前が出ると、クリスの表情は険しくなる。


 こいつ、まさか……。


 クリスが不穏な空気を感じ取るが、中佐は更に醜悪な笑みを浮かべた。

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