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サリア②


 二人はサリアの街にある大衆酒場のような所へと足を踏み入れた。

 店内は既に多くの人で賑わっており、あちこちから笑い声が響き渡っていた。


「いらっしゃいませ。あちらの席にどうぞ」


 二人に気付いた店員が声をかけ、二人は小さなテーブル席へと腰をおろした。


「少し騒がしいか?」


 フェリクスが問いかけるとクリスは笑顔で首を振る。


「いいじゃん、楽しそうで。それとも静かに私を口説きたかった?」


 クリスが明るく笑うと、フェリクスも笑っていた。

 二人は酒を酌み交わしながら楽しいひと時を過ごす。


「まぁ貴方はさ、率いる立場だからまだいいけどさ。私は下っ端だからあちこち回されて、この前のラングレーの後もまた再編とか言って今はまた違う部隊だよ。しかも上官は嫌な感じだし」


 クリスが笑いながら愚痴をこぼすと、フェリクスが口を挟んだ。


「まぁ言ってる事はわかるけどな。それより貴方じゃなくて名前で呼んでくれてもいいんだけどな」


 一向に自分の名前を呼んでくれないクリスに少し不満気に投げかけると、クリスは苦笑いを浮かべる。


「いや、名前で呼びたいけどさ。ここ中立地区とはいえ、どこに誰がいるかわからないんだよ。貴方、自分の知名度わかってる?顔が知れ渡ってないだけまだ良かったけどさ」


 そう言って苦笑するクリスを見つめ、フェリクスも理解した。

 確かにここサリアは中立地区とはいえ、元からの住人に加え、セントラルボーデンの兵士やラフィンの兵士もどこかにはいる。

 不要な衝突を避ける為、軍服の着用さえ禁止されている。そんな中、『黒い死神』の異名を持つフェリクスの名前を大っぴらに呼べば、それを聞いたセントラルボーデンの兵士といざこざが起こっても不思議ではない。


 クリスの言葉を聞き、思慮が足りなかったと思ったフェリクスは思わず俯いた。


「確かに……すまない」


「ふふ、フェリちゃんとか呼ぼうか?」


「……やめろ」


 からかうように笑うクリスにフェリクスは鋭く返していた。

 その後二人は楽しく会話を弾ませると、瞬く間に時間は過ぎ去って行った。


「そろそろ出るか」

「そうね、お腹も満足したもんね」


 二人が外に出ると、既に日は落ち、辺りは静かな夜を迎えていた。

 まだ明るかった時よりも、互いに距離を縮めて夜の街を二人並んで歩いて行く。


 そうして二人公園に着いた時、クリスが歩みを止める。


「ねえ、今日は隊に戻るの?」


「いや、今日はサリアに泊まる。帰るのは明日だ」


「……そっか」


 儚い笑みを浮かべるクリスにフェリクスが寄り添うように歩み寄る。


「もうちょっと時間が惜しいね」


「そうだな」


「まぁ私は昼間振られたんだけどさ」


 ニヤリと笑って見つめるクリスにフェリクスは笑みを浮かべながら小さくため息をついた。


「俺だって断りたくなかったよ。……恐らくあと半年もすれば戦争は終わる……たぶんラフィンは負けるだろうな」


「そう……負けるのは仕方ないだろうけど、貴方は死んじゃ駄目よ、フェリクス」


「ふっ、死ぬつもりはないさ」


 静かに二人語り、笑みを浮かべていると、背後から見知らぬ男達の声が聞こえた。


「おい知ってるか?このサリアにラフィンの黒い死神がいるらしいぜ」


「まじかよ?じゃあ出会わないようにしないとな」


 驚く男に、もう一人の男が笑って答える。


「何言ってんだよ。寧ろチャンスだろ。向こうは丸腰だ。上手く不意打ちでも出来れば暗殺出来る。帰ったらかなりの手柄だぜ」


「そんなに上手くいくかよ?」


「わからねぇが、戦場で会うよりはチャンスがあるさ」


 そう言って男達が近付いて来ると、自然とフェリクスにも緊張が生まれる。


 気付かれてるのか?いや、まだ大丈夫か?――。


 フェリクスが顔を強ばらせ拳を握り締める中、クリスが不意にフェリクスの首に腕を回すと、突然キスをした。


 突然の柔らかな感触に硬直するフェリクスの顔を男達から隠すように、クリスはフェリクスを引き寄せ唇を重ねる。

 二人に気付いた男達をクリスは微かに目を開き睨む。


「……おい、いい所みたいだぜ」

「お邪魔みたいだな」


 男達は笑いながらその場を去って行った。


 それを確認すると、クリスはゆっくりと離れる。


「ふふ、ごめんね。他にいい方法が思い浮かばなくて」


 少し照れたように笑うクリスをフェリクスはそっと抱き寄せる。


「いや、謝らなくていいだろ。助かったし、まぁ、その……ありがたいから」


 照れるフェリクスにクリスもはにかんだ笑みを見せる。


「ありがたいって何よ。もうちょっと言い方あるでしょ」


 そう言って笑うクリスを引き寄せ、二人は再び唇を重ねる。


「もう少し一緒にいれるかな?」


「いいよ。じゃあ貴方が泊まってるホテルまでエスコートしてもらおうかな」


 二人の短いようで長い夜は、もう少しだけ続く。

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