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サリア


 中立地区サリアに着いたフェリクスは街の出入口で厳しいチェックを受けていた。

 ここサリアは中立地区である為、一切の武器の持ち込みは禁止されており、街の出入口では厳しいチェックを受けなければならなかった。


「よし通って下さい」


 憲兵が声をかけると、フェリクスは負傷した隊員達やライデル隊を連れ、病院へと向かう。


「じゃあライデル。あとは医師達に任せる。無理せず、しっかり治療を受けろよ」


 フェリクスが声をかけると、ライデルも表情を僅かに崩した。


「ありがとうございます。今回の恩は忘れません。体が治り次第二、三日で少佐の元に駆けつけるつもりですよ」


 力強い視線を向けるライデルにフェリクスが笑みを浮かべると、二人は握手を交わす。

 そんな中、ライデルの後ろから女性の看護師が声をかける。


「さぁライデルさん、こちらにいらして下さい」


 ライデルが振り返ると、そこには若く美しい女性看護師がにこやかに立っていた。


「あぁ……すぐに行きます!」


 満面の笑みを浮かべてライデルが駆け寄って行く。

 するとライデルがいきなり振り返った。


「少佐、すいません。自分、暫く治療に専念します」


 明るい声を上げ、ライデルは看護師に連れられ病院へと入って行った。


 今すぐ連れ戻してやろうか――。


 フェリクスはそんな事を考えながら笑みを浮かべる。


 その後フェリクスはサリアの街を訪れていた。

 華やかさはないが落ち着いた街の雰囲気が感じられる。


 銃声や叫びなどは聞こえず、人々の穏やかな笑い声が聞こえる。普段フェリクスが感じている戦争の殺伐とした空気や悲壮感は感じられなかった。


 サリアの街に負傷者を届けた後、一日はサリアでゆっくりしてきてほしいと、隊員達に言われた事を思い出す。


「……たまには一人ゆっくりさせてもらうか」


 フェリクスは一人呟きサリアの街を歩いていた。


 やがてフェリクスは一件のカフェに入るとテラス席へと案内された。


「ご注文は?」

「珈琲を」


 店員と短いやり取りをし、小さく息をつく。

 街を行き交う人々に目をやると、皆穏やかな笑みを浮かべていた。


 すると街の喧騒にまぎれて聞き覚えのある声が耳に届いた。


「すいません、もう一杯同じ物もらえますか?」


 振り返ると、背後の席では店員に注文している女性がいた。

 その後ろ姿を見て思わず声が出る。


「ク、クリス?」

「えっ?」


 振り向いたクリスと目が合い、互いに固まる。

 互いに驚いた表情を浮かべていたが、すぐにクリスは満面の笑みを浮かべて歩み寄って来た。


「嘘でしょ?何してるの?」


「いや、俺は負傷者を病院にあずけてきた所だ」


 フェリクスはいまだ信じられないような表情を浮かべながら答えていた。


「そうなんだ。私も同じくなんだけど……一人?とりあえず座ってもいい?」


 笑みを浮かべて問いかけるクリスに、フェリクスは戸惑いながらも頷くと、クリスはゆっくりと腰をおろした。


「あっ、店員さん。私、こっちの席に移動で」


 店員に声をかけ、クリスは再びフェリクスに笑顔を向ける。


「まさかこんな所で会えるとはね」


「さすがに俺もびっくりしたよ」


 ようやくフェリクスも笑みを浮かべ話し出すと、二人は暫く会話を楽しんだ。


 やがて一時間が過ぎた辺りで、クリスがおもむろに立ち上がる。


「珈琲一杯でいつまでもいてもなんだしさ。少し歩かない?」


 明るく問いかけるクリスに、フェリクスも笑みを浮かべて立ち上がる。


「ああ、そうだな」


 そうして二人はゆっくりと歩き出した。

 街の通りでは両親に手を引かれた小さな子供が楽しそうに笑い声を響かせていた。


 それを見つめ穏やかな笑みを浮かべるクリスの横を、子供達が笑いながら追い越して行く。


「ここは平和ね」


「ああ、静かだけどいい所だな」


 フェリクスが静かに答えると、少しだけクリスが歩み寄る。

 二人歩く距離が少し近付き、街の中心にある公園のベンチに二人腰掛けた。


 夕日に照らされ、オレンジ色に染まった街を見つめながらクリスが呟く。


「ねぇ。このままこの街にいようか。名前も全部捨てて。そしたら私達、戦わなくてすむよ」


 少し儚い笑みを浮かべるクリスを見つめ、フェリクスも柔らかな笑みを浮かべる。

 フェリクスの脳裏にはヴェルザードやリオ、隊員達の顔が浮かぶ。


「魅力的な提案だな。……だけど難しいな」


「あらあら、私振られちゃった」


 クリスが冗談めかして言うと、フェリクスは微かに口角を上げ小さく首を振った。


「いや、君みたいな美人のお誘い断りたくはないんだけどな」


「だったらもうちょっと付き合ってくれるよね?」


 そう言ってクリスが片手でグラスを傾けるような素振りを見せると、フェリクスも頷く。夕日が作り出す二人の長い影は、寄り添うように街の喧騒へと溶けていく。

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