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救援⑥


 魔法を使えば、詠唱や呪文と共に、誰とも知れない記憶や感情まで流れ込んで来る。

 それは魔法の威力に比例する様だった。


 『殲滅光焔矢(メギド)』を唱えた瞬間、また誰かの記憶や感情が押し寄せた。


 それはどうしようもない哀しみや憂い。そして全てを焼き尽くし、破壊し尽くしても消えない程の怒り。


 最後はいつも美しく、可憐な女性が必死に手を伸ばし何かを叫んでいる。

 その女性を捕まえようと必死に手を伸ばすが、焦る気持ちを嘲笑うかのように、女性は遠ざかって行く――。


「……シャーロット!」


 フェリクスが叫び、目を覚ますと車内は静まり返り、全員が驚いた様にフェリクスを見つめていた。

 今どういう状況か、理解する前に背中に衝撃が走る。


「しょ、少佐!駄目ですって!少佐!」


 気が付くとジェーンを力いっぱい抱き締めており、彼女は何度も必死にフェリクスの背中を叩いていた。

 我に返ると、慌ててジェーンを引き離す。


「す、すまない。何か変な夢を見て……」


 そう言って頭を抱え、微睡(まどろ)む頭を必死に働かせる。


 また変な夢を見た。何なんだ一体?……あれは誰なんだ?――。


 哀しみが溢れる表情で必死に何かを叫んでいた女性の顔が忘れられない。


「人が心配してたら、いきなり起きて別の女の名前呼んだ挙句、ジェーンを抱き寄せるとか何考えてんだよ?スケベ」


 状況が理解出来ないまま、頭を抱えていると、横からリオの皮肉混じの声がした。


「い、いや違う誤解だ」


 必死に取り繕おうとリオの方を向くが、リオは片方の口角を釣り上げにやついていた。


「何が誤解だよ。こっちは少佐が寝てる間も働いてたんだぜ」


 そう言って笑うリオだったが、その表情からは疲労の色が色濃く見てとれる。


「いや、すまない。ひょっとしてずっと鷹の目(ビジョンズ)を使ってたのか?」


「はは、しょうがねぇだろ?誰かさんが寝てたらこっちの戦力は大幅ダウンなんだから。じゃあ、あたいは少し休ませてもらうよ」


 そう言ってリオは背もたれに身体を預けると、すぐに寝息を立て始めた。


 静かに眠るリオを見つめ、フェリクスはバツが悪そうに頭を搔く。


「俺はどれぐらい眠っていた?今の状況は?」


 フェリクスの問いかけに、ガルシアが身を乗り出し答える。


「一時間程でした。敵部隊を避ける為少し遠回りしましたが遅れはそれ程ではありません」


「よし、ヴェルザード達との合流を急ごう」


 フェリクスの言葉に全員が頷き、フェリクス達を乗せた車両は更に加速して行く。


 やがて国境付近まで戻ったフェリクス達だったが、そこに広がる残骸や戦闘の跡を見て息を飲んだ。


「これは……ヴェルザードに連絡だ」


 フェリクスが命令すると全員に緊張が走った。

 だが、すぐにリオが起き上がり小さなため息をついた。


「……慌てんなって。ヴェルザードの旦那達は少し下がった所で潜伏してるぜ。向こうもこっちに気付いたみたいだ。もうすぐやって来るぜ」


 リオの言葉を聞き、フェリクスが一息つくと、リオの言う通りヴェルザード達が茂みの奥から姿を現す。


「ヴェルザード、無事だったか」


「はい、勿論です。少佐の邪魔にならないよう、敵部隊は排除しました。ですが数名、こちらにも負傷者が出ました」

 

「そうか、よくやってくれた。とりあえず一旦引くぞ」


 綺麗な敬礼をし報告するヴェルザードの肩を軽く叩いて労い、すぐに指示を出す。


 フェリクス達、第十四独立機動隊はその後ラフィン共和国国境付近まで下がる事になった。

 そこでヴェルザードがフェリクスに語りかける。


「少佐、我が隊もライデル隊も負傷者をかかえています。中立地帯サリアに一度預けた方がよいのではないでしょうか?」


「なるほど、確かにその方がいいか」


 ヴェルザードの進言を受け、フェリクスも頷く。

 

 中立地帯サリア。

 それはラフィン共和国、セントラルボーデン、どちらにも属さない非戦闘区域。

 荒んだ戦闘地域とは違い、綺麗な病院や宿泊施設等が建ち並び、主に戦争での負傷者や行き場を失った一般人等を受け入れている。

 だが非戦闘区域ゆえ、武器の持ち込みは一切禁止され、魔法の使用も原則禁止とされていた。


 その後話し合い、結局負傷者数名をフェリクスがサリアに連れて行く事となった。


「また少し留守になるが頼むぞ」


 フェリクスがヴェルザードに語りかけるとヴェルザードは姿勢を正し敬礼を返す。


「お任せ下さい。少佐もサリアで少しゆっくり休んできて下さい」


 魔法使用後、意識を失ったフェリクスを心配したヴェルザードの気遣いだった。


「ありがとう」


 フェリクスが礼を口にし、サリアに向けて出発する。


――

 サリアの街で一人椅子に腰掛け物憂げな表情を浮かべる女性がいた。


「……いつまで続くの?本当に……」


 湯気が立つ珈琲カップを傾けながら、気だるそうに呟くクリスがそこにいた。

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