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邂逅⑥


 暫くすると頭上からロープが投げ入れられる。


「少佐、とりあえず今はそれしかない。それで上がってこれそうかい?」


 リオの元気な声が響き渡る。

 フェリクスは「大丈夫だ」と声を張り上げると、ロープを手繰り寄せる。


「さぁ君からどうぞ」


 ロープの端を掴みクリスの方に振り向くと、クリスは一瞬ためらいの表情を見せたが、ゆっくりとロープを握った。


「行けるかな?」


 クリスは呟きながらロープを掴み登り始める。


 クリスならこれぐらい造作もないだろう――。

 そう思い下から見つめていた時だった。


「……っ痛!」


 クリスの声が響くと、ほんの少し登った所から顔をしかめてそのまま落ちてくる。

 慌ててフェリクスが受け止めると、クリスははにかんだような笑みを浮かべた。


「はは、ありがとう」


「いや、大丈夫か?どうした?」


 先程までの戦闘を振り返っても、クリスがこの程度を登れないとは思えず、フェリクスは困惑していた。


「いや、ほら。誰かさんの光魔法、肩と腕にもろにもらったからさ、ちょっと力が入らないのよ」


 そう言って笑うクリスを見て、フェリクスは頭を抱えた。


「……悪かったな。じゃあ掴まるぐらいは出来るか?」


 そう言ってフェリクスは背中を向けてしゃがみこむ。

 クリスは少し戸惑う様な素振りを見せたがゆっくりとその身を預けた。


 クリスの体温が背中に伝わる。

 クリスをおぶったフェリクスは立ち上がるとゆっくりとロープを登り始める。


「ねぇ、重たいとか言って落ちないでよ。色々と傷付くからね」


「落ちない様気を付けるから、ちゃんと掴まってろよ」


 顔は見えないが声を上ずらせるフェリクスに気付き、クリスは背中でニヤリと笑った。


「あれ?照れてるの?なんか変な事考えないでよ」


 耳元でからかうように言うクリスに、フェリクスは歯を食いしばり呟く。


「……落とすぞ本当に」


「はは、冗談でしょ」


 笑うクリスを背中で感じながらフェリクスはひたすらロープを登り続けた。


 やがて地上まで登りきった所でリオが手を伸ばしていた。


「リオ、まずは後ろの女性を引き上げてくれ」


「はいよ。姉さん、とりあえず掴まってくれ」


 手を伸ばすリオの手をクリスが握ると、リオが引っ張り上げる。

 続いてフェリクスも地上に上がると、そこにはリオだけではなく、ガルシアやジェーン達もいた。


「ガルシア達から少佐が行方不明になったって通信が入ったから急いで来たんだぜ。あたいの鷹の目(ビジョンズ)は捜索にうってつけだからな」


 リオが得意気に笑うとフェリクスは「さすがリオだな」と言って笑みを浮かべてリオの肩を叩いた。

 するとガルシアが後ろから顔を出す。

 

「良かった……少佐、無事で何よりです」


 ガルシアがそう言って安堵の表情を見せると、フェリクスも笑みを浮かべた。


「俺は大丈夫だよ。お前達は大丈夫だったか?」


「はい、自分達は全員無事です。敵と交戦になりましたが、互いに決定打もなく最後は敵側が引きました」


「なるほど、そうか」


 フェリクスがガルシアから状況報告を受ける中、後ろにいたジェーンが声をかける。


「それで少佐。この女性、セントラルボーデンの兵士ですよね?何ですか?捕虜でしょうか?」


 フェリクスが振り向くと、座り込んだクリスの横にジェーンとキャスパーが険しい顔をして立っていた。


「ああ、そちらはクリスティーナ・ローレル少尉だ。地下から脱出するのに協力していた。手荒い事はするなよ」


「了解しました」

 

 フェリクスが釘を刺す様に言うとジェーンもキャスパーも少し戸惑いながら、少しクリスから距離を置く。


「さて、どうしたものかな」


 フェリクスが呟きながら苦笑し頭を掻く。

 するとすぐにリオが声を上げた。


「そうだ、少佐!ヴェルザード大尉がマーベリック大佐の策を見つけたって。ダムだって」


 そう言って話すリオを見て、フェリクス隊全員の顔から血の気が引いた。


「ちょっとリオ――」

 

 ジェーンが声を上げ、リオを止めようとしたが間に合わずリオは更に続ける。


「セントラルボーデン軍がある程度迫ったらダムを爆破して一気に飲み込む気らしい」


 リオが話し終わる頃にはクリス以外の全員が頭を抱えていた。

 その光景を見て、リオもしでかした事に気付き、苦笑いする。


「あ、あはは、今言っちゃまずいか……」


 そう言ってクリスの方を見ると、クリスも苦笑いを浮かべながら立ち上がる。


「貴重な情報をありがとう。それで?フェリクス少佐。随分と非人道的な作戦ね。さすがに見過ごせないんだけど」


 ジェーンとキャスパーは手に持つ銃の引き金にそっと指をかけた。一気に不穏な空気が立ち込める。

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