邂逅⑤
まっすぐな視線を向けてくるクリスを見つめて、フェリクスは小さく息をつく。
「いきなり難しい質問だな。俺みたいな一兵士が何か言った所で何も変わる訳じゃないだろ」
「まぁそうかもしれないけど、その一兵士である貴方がどう思ってるのか知りたいの。茶化さないで答えてよ」
微笑むように僅かに口角を上げるクリスだったが、その眼差しは真剣な物だった。
フェリクスは仕方なく頭を掻いた。
「あくまでも俺の意見だが、世界連合やセントラルボーデンのやり方が気に入らなかったんだろうな。蔑ろにされ、ずっと不満を抱えてて、そしてそれがついに爆発した」
「まぁわかるけどさ。きっと私達も悪かった。けれど、今貴方達は私達の領土まで攻め入って侵略してきてる」
クリスの反論にフェリクスは思わず言葉が詰まる。
「……確かにそうだな。きっとクリスみたいに自分達も悪かったと認めてくれてたらもう戦争は終わってたのかもしれない。だけどセントラルボーデンは認めなかった。だから引くに引けなくなり泥沼の戦争に突入しちまったんだろうな。要は落とし所が見つからないんだろうな」
「なるほどね。そんな落とし所探さないで話し合ってくれたら戦わなくて済むのに。それで貴方が戦う理由は?国から命令されてるから?」
クリスからの質問を受け、息をつき、あらためて自身の戦う理由を考えてみる。
当初に抱いていた怒りや不満は既に薄れている。
今思い返してみると、浮かんでくるのはヴェルザードやエルザ達、それにリオの顔。
フェリクスは思わず笑みを浮かべるとクリスを見据えた。
「……仲間を守る為かな。仲間や部下を死なせたくないからな」
「ふ~ん。じゃあ帰ったらいいじゃん。そしたら誰も傷つかなくて済むのに」
苦笑いしながらクリスが言うと、フェリクスも呆れた様に笑った。
「確かに帰れば死なないが、兵士だからそうはいかんだろ。結局戦う事を選んでるんだよな。矛盾してるよな。クリスはどうなんだ?」
「私は貴方達から自分達の居場所を守る為に戦ってる。だけどたまにわからなくなるのよ。自分の戦いが正しいのか……だから敵側である貴方の意見も聞いてみたかったの。こんなチャンス滅多にないじゃない」
そう言って満面の笑みを見せるクリスを見つめ、フェリクスも思わず笑みがこぼれる。
不思議な感覚だった。
本来は敵同士で、先程までは命のやり取りを繰り広げていた相手と今はこうして笑っている。
本当は戦いなんかせずに、こうしていられたらいいのにと、つい願ってしまう。
そんな時、ふと頭上の穴から微かな声が聞こえた様な気がした。
「クリス、静かに……」
互いに黙り耳を澄ます。
すると微かに声が聞こえた。
微かにだが、確実に聞き覚えのある声に、フェリクスは顔をほころばせた。
間違いない、リオだ――。
「おーい!リオ!」
フェリクスは頭上を見上げ声を張り上げる。
だがその声は風にかき消されるのか、リオに上手く伝わらない。
まずい、どうする――。
悩むフェリクスにクリスが問いかける。
「貴方の魔法、光魔法でしょ?もう一度あの光の矢、上に向かって撃ってみたら?」
クリスの意見はもっともだった。だが魔法を使えばまた、あの幻覚に襲われる可能性はある。あの不気味な感覚は出来れば遠慮したいと思うフェリクスは苦笑しながらクリスを見つめた。
「今はちょっとあまり使えないんだ。クリスの火球でなんとかならないか?」
「やりあっててわからない?私の火球は射程が短いのよ。とてもじゃないけど地上までは届かないわ」
首を振るクリスを見て、フェリクスは諦めた様にため息をつく。
「なら仕方ないか……」
そう言って右手を掲げると光球が現れる。
『光熱矢』
フェリクスが唱えると、光の矢が一直線に地上に向かって放たれる。
まるで光の道筋を示す様に地上に向かって光が伸びると、暫くして頭上の穴からリオの声が響いた。
「フェリクス少佐!いるのかい!?」
久しぶりに聞くリオの明るい声にフェリクスの顔もほころんだ。
「ここだリオ!」
リオの声にフェリクスが返すと、暫くしてリオの声が再び響いた。
「今鷹の目で確認した。なんだ?その女、どこから連れ込んだんだよ少佐!?」
「事情は後で話すからとりあえずロープか何かくれないか?」
「待ってなよ」
リオの気配が離れて行くと、フェリクスは苦笑いを浮かべてクリスの方に振り向く。
「まぁ、なんて言うか、ちょっと問題児でな」
「ふふ、そうなんだ。残念、二人っきりの時間終わっちゃったね」
そう言ってニヤリと笑ったクリスを見て、フェリクスは戸惑いの表情を浮かべる。
「ねぇ、冗談なんだからもう少し笑ってよ」
そう言って微笑むクリスの頬も、少し赤らんで見えた。




