最終防衛ライン ケセラン・ハルト⑤
迫る魔法兵団を前に、フェリクスが身を低くし構えた。
「行くぞ。クリス、キャスパー隊ついて来れるか?」
フェリクスが魔法兵団を見つめながら問いかける。
「当然」
「意地でもついて行きます」
二人の返答を聞き、フェリクスは口角を上げると、地を蹴り正面から斬り込んでいく。
――
ラフィン軍を蹂躙するように進軍するセントラルボーデン魔法兵団。
アイリーンは移動基地内の司令室に鎮座し、銃弾が飛び交い、炎がほとばしる戦場を笑みを浮かべて見つめていた。
「報告します。現在我が部隊の前方に、ラフィン共和国軍の第十四独立機動隊と思われる部隊が集結しています。どのようになさいますか?」
フェリクス達を前にして、セントラルボーデン魔法兵団の兵士が指示を仰ぐ。
「ふっ、性懲りもなくまた出て来たか。かまわん蹴散らせ。ただし圧倒的にだ。奴らに恐怖を刻め」
兵士からの報告に、不敵な笑みを浮かべてアイリーン・テイラー大佐が指示を出す。その佇まいに圧倒されつつ、兵士はすぐさまアイリーンの言葉を伝達しようとした。
しかし次の瞬間、前方に光が収束していくのを兵士は確認する。
「大佐、前方に光源が出現!防御体勢に入ります」
兵士がそう叫ぶと同時に、フェリクスの殲滅光焔矢の光弾がアイリーンの部隊を襲った。防御魔法を発動した守備隊だったが、間をすり抜け、光球は編隊を組む兵士達を直撃する。
「ふっ、光魔法か。珍しいな。守備隊は何をしている? ここは敵地、しかも敵の最終防衛ラインだぞ。次は反応遅れるなよ?」
移動基地の外では部下達が火球に包まれているが、尚も余裕のある笑みを浮かべて、アイリーンは部下達に命令を下す。
「も、申し訳ありません。すぐに守備隊には対応させますので――」
「それが遅いと言っている。見てみろ。奴らはもう喉元に噛み付いてきたぞ」
慌てる兵士の言葉を遮り、アイリーンが微笑みながら、外を指さす。そこには既にアイリーンの部隊に取り付き、兵達をなぎ倒すフェリクス達の姿があった。
「ふふふ、なるほど。そうか、第十四独立機動隊はフェリクス・シーガーの部隊だったか。どうりで展開が速い訳だ。面白い、私が出るか」
外の様子を見ながら、嬉々としてアイリーンは腰を上げた。
「よし、では移動基地はこの場に固定し、ここを拠点とする。守備隊を残し他の者は全員ケセラン・ハルト攻略に向かえ。私も出る、第一、第二小隊は私に続け」
アイリーンの指示のもと、セントラルボーデン軍魔法兵団特別遊撃隊は、ケセラン・ハルト攻略に向けて出撃し、ラフィン共和国軍と激しい攻防を繰り広げて行く。
――
「少佐、奴ら次々と出撃してきます!」
キャスパーの報告にフェリクスが顔をしかめる。
「クソっなんとか止めないとまずいな。クリス援護してくれ、もう一発殲滅光焔矢を放って――」
アイリーンを筆頭に次々と出撃して行く敵部隊をフェリクスが阻止すべく、クリス達に指示を出す。しかしその時不意に氷の弾丸が襲いかかった。
咄嗟に身を翻し難を逃れたフェリクスが振り返ると、セントラルボーデンの兵士が一気に襲いかかる。
「クソっやっぱり簡単には行かないか」
フェリクスが襲いかかる兵士を斬り捨て叫ぶ。
クリスも火球を放ちながら、銃を握り締めフェリクスの背後に立った。
「フェリクス、あれはやばいって。魔法兵団を束ねるアイリーン大佐よ」
クリスが耳元で告げると、ちょうどアイリーンと目が合った。
その鋭い眼光に射抜かれ、フェリクスは思わず息を飲む。
視線の先にフェリクスとクリスを見つけたアイリーンは、笑みを浮かべると地を蹴り一気に詰め寄った。
「フェリクス・シーガー!それに……」
アイリーンがフェリクス達の前に立ち、クリスを見つめ首を傾げる。
「ん?貴様はラングレー侵攻時に進言してきた少尉だな?確か名はクリスティーナ・ローレル」
「はは覚えていていただき光栄ですよ、アイリーン大佐」
クリスが顔を引きづらせながら応えると、アイリーンは口角を釣り上げる。
「なんだ?はじめからスパイか?それともその男に惚れたか?恋愛だなんだとつまらん幻想だ。貴様の実力は聞いていた。かなりの使い手なんだろう?上手くいけば私の後継になれたかもしれんのに」
アイリーンの言葉を聞き、クリスも笑みを浮かべる。
「後継ですか?私が?非常に光栄ですがお断りしますよ。だって行き遅れちゃうじゃないですか」
クリスの言葉にアイリーンは眉を一瞬ぴくりとさせて、口角を釣り上げた。
「面白い。後悔するなよクリスティーナ少尉」
アイリーンが腰に携えた剣を抜くと、同時に背後には轟音を立てて、青白い雷が落ち、大地を砕いた。
「怒らせてどうするんだよ」
「はは、ごめんついね」
フェリクスは剣を握り締め、クリスもその手に炎を灯す。




