最終防衛ライン ケセラン・ハルト
フェリクスはヴェルザードを連れて、命令通りE-4ブロックへと向かった。
そうして指示された場所に着くと、灰色の軍服に身を包んだ一人の老兵が腕組みをして待ち構えていた。
たくわえた顎髭に、鋭い眼光。その佇まいからして、その人物がイアン・コール将軍である事はおおよそ想像がついた。
「イアン・コール将軍ですね?自分はフェリクス・シーガー少佐です。将軍の部隊と合流してE-4ブロックの防衛にあたるよう指示を受けました」
「ふっ、フェリクス少佐か。黒い死神の異名を持つもんだからもっと早くに駆け付けてくるかと思っていたが、案外遅かったな。部隊の戦力はどうなっている?」
急いで駆け寄り敬礼をするフェリクスに、イアン将軍は冷ややかな笑みを見せ尋ねた。
「はい。我が隊は途中合流したライデル隊を含め二十五名程です。ソルジャー十五名にウィザードが四名。後は戦術士官やオペレーター等――」
「ああ後方に待機する非戦闘員はどうでもいい。今回の作戦は軍本体が指揮を執るんだからな。今回は司令部から出る指示をちゃんと伝えられるなら誰でもいいのだ。それよりも重要なのは実働部隊だ。それだけの戦力があれば、奴ら世界連合に一泡吹かせてやれるわ」
イアン将軍はそう言うと、包帯を幾重にも巻いた右手を自らの顎に添えて狡猾な笑みを見せる。
「……将軍の部隊はどうですか?合同作戦となると、互いの連携も大切になってきます。せめて兵達との顔合わせぐらいはさせておきたいのですが」
「私の部隊?……ははは、私の部隊か。そうか、そうだな……私の部隊は私だけだ。何か不満はあるかね?」
笑って平然と答えるイアン将軍を前に、フェリクスは困惑の表情を浮かべていた。
ジャッカル隊とまで言われ、敵味方から恐れられたイアン将軍の部隊が将軍だけ?――。
「将軍、まさかそれは……」
フェリクスが問いかけるが、イアンは不敵な笑みを浮かべた。
「我が隊は私を残して全滅した。共に戦ってきた仲間や部下達はあの化け物みたいな奴らの前に……私を生き残らせた事を奴らに後悔させてやるわ!」
憤怒の表情を見せるイアン将軍の目には、狂気の炎が燃えているようにフェリクスは思えた。
「フェリクス少佐。君はクリスタルを使って誰でも魔法が使用出来るバトルスーツを開発したと聞いたが?」
「いえ、それはネルソン博士が開発した物です。私はそれの派生したものを研究していますが」
「なるほど。私は今から本部に戻り、そのクリスタル内蔵バトルスーツを受け取ってくる。君にはその使用方法を教えてもらい、尚且つチューンナップも頼みたいんだがな」
「お言葉ですがクリスタル内蔵バトルスーツを扱うのは一朝一夕では難しく、それに使用者にかかる負担も半端ない上――」
「それをなんとかするのが貴様の仕事だ。私は何としてでも力を手に入れ、あいつらの無念を晴らす」
そう言い残しイアンはその場を去って行き、残されたフェリクスは呆れたようにため息をつく。
「上官ではありますが、あまり好きにはなれませんね」
物陰に控えていたヴェルザードが姿を見せると珍しく感情的な事を言い出した。フェリクスはそれが面白かったのか、笑いをこらえるように下を向き口を押える。
「ふふふ、まぁ彼も気が立ってるんだろう。他の隊員達はどうしてる?」
「皆いつも通り備えてます。リオがちょっとぐらい休憩させろと悪態ついてましたが、クリスとエルザがなだめてました」
「まぁいつも通りだな。すぐに世界連合が攻めてくる事もないだろうし交代で休憩を取らせよう。君も休めヴェルザード」
「はい、ありがとうございます。ではローテーションシフトを考えます」
そうしてフェリクス達の部隊は休暇を取る事になる。仲間と共に酒を飲む者、家族に連絡し思いを馳せる者、一人静かに己の趣味に没頭する者、そして恋人や想い人と共に過ごす者。僅か十二時間ずつではあるがそれぞれが思い思いの休暇を過ごし決戦に備えていく。
フェリクスはクリスと二人で兵舎のベッドで横になっていた。
「ねぇフェリクス。お願いだから無茶はしないでね」
クリスが珍しく抱きつきながら懇願するように呟いた。
フェリクスはそっとクリスを撫でる。
「大丈夫さ。あと少しだ」
フェリクスはそう言って抱き締めると、二人は深い口づけを交わす。




