グランディアス③
フェリクスが研究室でクリスタルを前にして苦戦していると、研究室の入口の方から声をかけられた。
「おやおや、フェリクス少佐。貴方ほどの方が苦戦ですか?やはり研究室を飛び出して、戦場ばかり駆け巡ったツケが来ているのでは?」
少し鼻にかかった声に嫌味な口調。フェリクスは顔をしかめて振り返る。
そこには白い研究着を着た、小柄な女性が立っていた。
女性は赤く短いボブカットだが、前髪は長く彼女の目元まで覆っていた。長い前髪の隙間からニヤついた目つきでフェリクスを見つめ、口元は微かに歪んでいた。
「ネルソン博士か。何か用か?」
フェリクスが冷たく問いかける。
「ははは。いやいや、天才と称されたフェリクス少佐がクリスタル如きに手を焼いているのに驚きましてね。クリスタルを使い、魔力を貯めてソルジャーでも魔法が使えるようにする。そんな私の研究は既に次のステージへ進もうとしているのに、貴方はまだクリスタルの運用に手こずってるんですね」
「そもそもお前が扱ってるクリスタルとこの魔力が秘められてるクリスタルとでは物が違うだろ」
フェリクスは眉根を寄せて嫌悪感をあらわにするが、ネルソンは気にする素振りも見せず更に続ける。
「まぁそうかもしれないが、いいですか少佐。そもそも貴方のやり方では一部エース級の戦力の向上しか望めません。その点私が開発したクリスタル内蔵バトルスーツなら魔力を込めれば一般の兵士でも魔法が使える。そうすれば――」
「ああ、今バトルスーツのメンテナンス中なんだ。後にしてくれないか?」
講釈を垂れるネルソンを遮り、フェリクスが声を上げると、ネルソンは粘着質な笑みを浮かべた。
「おやおや、それは失礼しました。まぁせいぜい己の能力を上げるだけのバトルスーツを頑張って完成させて下さい。私はバトルスーツなしで、誰でも魔法が使えるように実験をしていくので」
「バトルスーツ無しだと?触媒もなしに……何をするつもりだ!?」
「ふふふ、企業秘密ですよ。そんな簡単に教える訳ないでしょう。では私は忙しいのでこれにて」
一方的に話をして勝手に去って行くネルソンの背中を見つめながら、フェリクスは大きなため息をつく。
するとネルソンと入れ替わるようにして、クリスが顔を覗かせた。
「あれ?何か疲れてる?今すれ違った人誰?浮気相手とかじゃないよね?なんかちょっと嫌な感じしたけど」
「クリス……あんなのが浮気相手は勘弁してくれ。さすがだな。その直感は当たりだ」
クリスの顔を見て、フェリクスは顔を綻ばせた。
「それで?愛しの彼女が会いに来たんだけど、貴方はまだクリスタルの相手するの?」
「いや、ちょうど今、クリスに会いたいと思っていた所だ」
「……怪しいな。まぁいいか」
クリスはフェリクスを見つめながら冷たく笑う。
フェリクスはそのままクリスを伴い、基地の屋上へと足を運んだ。
フェリクスは煙草を咥え、屋上からグランディアス全体を見渡した。
「一人にして悪かった。隊には慣れたか?」
フェリクスの問にクリスは小さく笑う。
「さっきリオにも同じ事聞かれたわよ。貴方の名前に守られてるようにも感じるかな。じゃないとセントラルボーデンから来た女をそう簡単に受け入れてくれるとは思えないし」
リオも気にしてたか……あいつはそういう視野も広いんだよな。
フェリクスは微かに笑うとクリスを見つめた。
「この戦争は恐らく終盤だ。終わればそんなしがらみも気にしなくてよくなる」
「そうね。もうひと踏ん張りって所ね」
そう言ってクリスはフェリクスの傍らに立ち、笑みを浮かべて身を寄せる。
数日後、変わらず研究室に篭っていたフェリクスだったが、外の騒がしさに気付き研究室から顔を覗かせる。すると少し先の研究室前に人だかりができており、憲兵が集まっていた。
「ネルソン博士、中止命令が出ている!速やかに実験を中止して同行するように!」
「ここに来て今更中止とか馬鹿げている!この実験が成功した暁にはウィザードが作り出せるんだぞ!」
憲兵が厳しい口調でネルソンに実験の中止を求める。ネルソンは一応従いながらも、悪態をつき不満をあらわにしていた。フェリクスも事の顛末を見届けようと思わず人だかりに近付いて行く。
その後ネルソンが連行されるような形となり、騒動は収まりを見せた。
暫くしてネルソンの解雇が通達されネルソンの研究室は封鎖され、データ等は抹消される事となった。軍から正式な発表等は無かったが、彼女は秘密裏に犯罪者や囚人達を見繕って、非人道的な人体実験を繰り返していたようだった。それが原因だろうとまことしやかに噂された。




