裏切りの代償④
暗闇に一人、クリスは息を潜めて岩場に身を隠していた。
ふぅ、格好つけたのはいいけど、私も武器は無いし、魔法でなんとかするしかないか――。
クリスは息を整え、拳を握り締めていた。
そんな時、夜の静寂を切り裂き、唸りを上げながら二輪が二台近付いて来た。
クリスは身をかがめてタイミングを見計らうと、先頭の二輪が迫った所で飛び出した。
捉えた!――。
『爆裂火炎』
クリスの右手から放たれた火球が先頭を走る二輪をカウンター気味に捉える。
運転していた兵士は二輪ごと炎に包まれ、激しく転倒しうずくまった。
「くそっ、待ち伏せか」
もう一人の二輪の兵士が二輪を停め銃を構える。
しかしその頃にはもうクリスは岩場に身を隠していた。
もう少し私の魔法に射程があれば楽なんだけどな――。
心の中で愚痴をこぼし、クリスは兵士の前に飛び出す。
突然現れたクリスに驚き、兵士が銃を構えるが、僅かに早くクリスが射程圏内に入れた。
もらった――。
クリスが腕に炎を灯し振りかぶった時、最初に倒れた兵士が立ち上がり銃を構えた。
「させるかよ」
兵士が引き金を引き、銃声が響いた。
迫る弾丸をクリスは咄嗟に身を翻し銃撃を躱す。だが兵士二人に挟まれてしまった。
クリスが辺りを見渡しながら身を低くし、構える。
「なんだ?バトルスーツも無しかよ少尉」
「裏切り者は逃がさねぇからな」
生身のクリスを見て笑みを浮かべる兵士達。
クリスも笑みを浮かべるが、その頬を一筋の汗が流れていく。
普段ならこんな連中どうって事ないんだけど、さすがにバトルスーツも無しでフル装備の奴ら二人相手はきついわね……だったら――。
クリスは突然振り返り走り出す。
だが兵士達は余裕の笑みを浮かべて走り出した。
「だから逃がすかよ」
一人が銃を構え乱射するが、クリスは後方からの銃撃も器用に左右に飛んで躱しながら駆けていく。
「なんで当たらねぇんだ?」
兵士が苛立ちながら叫ぶと、クリスは振り返り笑みを浮かべて挑発するように人差し指をクイクイっと動かす。
「舐めやがって」
兵士達は怒りをあらわにして、クリスを追いかけて行く。
「ふふ、熱くなり過ぎよ。そこ気を付けてね」
クリスが笑うと兵士達の足元に魔法陣が浮かび上がる。
「な、何?」
「しまった――」
兵士達が叫ぶと同時に魔法陣から炎が立ち上がる。
炎に包まれ兵士達は叫び声を上げながら地面を転がり回った。
やがてまとわりつく炎を消し、兵士達は膝をつきクリスを睨んだ。
「許さねぇぞ」
怒りの表情を浮かべ兵士が吐いて捨てるが、クリスは笑みを浮かべたまま立ち尽くしていた。
「そう、でも残念。タイムオーバーよ」
クリスの言葉を聞き、はっとした瞬間、銃声が響き、兵士二人は呆気なく地に転がった。
「待たせたな」
漆黒のバトルスーツに身を包み、フェリクスが駆け寄ると、クリスは満面の笑みを浮かべる。
「まぁいいタイミングよ」
笑うクリスを抱き寄せ車両に飛び乗ると、再び車を走らせる。
すると通信機からリオの声が響いた。
「お二人さんの邪魔はしたくないんだけどさ、更に敵が近付いてるぜ。次は四輪が三台接近中だ」
リオからの通信を受け、フェリクスがハンドルを切る。
「了解した。リオ、敵の正確な位置と方向はわかるか?」
「ああ、少佐達から見て二時方向。恐らくまっすぐ進めば一分以内に接触する」
「了解だ。その地点で叩く。ガルシアやジェーン達もそこに向かわせてくれ」
「はは、もう既に向かってるよ。このままいけば少佐達が最後かもな」
「まじかよ」
フェリクスが慌ててアクセルを踏み込む。
しかしリオの言う通りフェリクス達が到着する頃には既に交戦状態になっていた。
銃声が飛び交い、至る所から煙が立ち上る。
「全員合わせろよ」
フェリクスが通信を入れると、敵部隊の横から飛び込んで行く。
突如現れたフェリクスに敵部隊は驚き、混乱すると、その隙を逃さずガルシアやジェーンが銃弾を浴びせ、ブレイド達の魔法が地を走り敵部隊に襲いかかった。
フェリクスの登場により不意をつかれた敵部隊は呆気なく瓦解し撤退を余儀なくされた。
「追撃しますか?」
ガルシアが問いかけるが、フェリクスは首を振った。
「いや、深追いするつもりはない。放っておけ」
そう言ってフェリクス達はヴェルザードが待つ移動基地まで戻って行く。
戻ったフェリクス達をヴェルザードやエルザが迎える。
「少佐、よくぞご無事で……そちらは?」
フェリクスの横に立つクリスをヴェルザードが険しい表情を浮かべて見つめる。
「彼女はクリス。色々あって行動を共にしている」
フェリクスが紹介すると、クリスは笑みを浮かべながら前に出た。
「クリスティーナ・ローレルです。これからお世話になると思うけど、よろしくお願いします」
満面の笑みを浮かべて声を弾ませるクリスを見つめ、ヴェルザードは怪訝な表情を浮かべたまま静かに口を開いた。
「私はヴェルザード大尉だ。この隊の副官を務めている。君がどういう者かは知らないが――」
警戒感を緩めないヴェルザードの言葉を遮り、フェリクスが割って入る。
「エルザ、クリスをベース内に案内してやってくれ」
「はい。さぁクリスティーナさん、こちらへ。私はエルザ・アンダーソンです。エルザって呼んで下さい」
「ありがとう。私の事もクリスでいいから」
女性二人の背中を見つめ、フェリクスがヴェルザードに語りかける。
「俺の恩人でもある。問題ないだろ?」
「はい、少佐がそうおっしゃるのなら。ですが私は警戒させていただきます。彼女はリオと違い、セントラルボーデン軍の人間ですから」
毅然とした態度を見せるヴェルザードに対してフェリクスは柔らかな笑みを浮かべ小さく頷いていた。
そんな様子をリオは微かな笑みを浮かべて見つめていた。




