裏切りの代償③
暗く静かな夜の荒野を、フェリクスとクリスが乗った車両が疾走していた。
「ねぇフェリクス。後悔とかしてない?」
クリスの突然の問いかけにフェリクスは首を傾げる。
「後悔?何のだ?」
「面倒な女と関係持ったなとかさ。今から面倒事増えるよ」
笑って言うクリスを見つめ、フェリクスが微笑む。
「はは、今更面倒事が増えたって後悔なんかするかよ……クリスと会えた事に感謝してるぐらいだ」
「そっか、良かった」
そう言ってクリスはハンドルを握り締めたまま笑っていた。
「クリス、まだ飛ばす理由はあるのか?」
砂埃を上げ疾走する車両の中は激しく揺れ、アクセルを緩めようとしないクリスに、フェリクスがやや困惑しながら問いかける。
「はは、本当はね、ゆっくり貴方と夜のドライブに洒落込むのもいいんだけどね。この車両、セントラルボーデン側から何処にいるのかわかるシステムでさ。私達の居場所は筒抜けなの。多分もう私の悪さに気付かれると思うんだ」
クリスの答えを聞き、フェリクスが小さく頷く。
「なるほどな。そろそろ追っ手が来る頃か」
「そういう事。向こうに気付かれるまでに出来るだけ貴方のお仲間の所まで近付いておきたくてね。でもそろそろ限界だろうから車を捨てて処分しなくちゃ」
そう言って車を止めようとするクリスをフェリクスが制する。
「いや、このまま戻ろう。逃げ回るのは性にあわない。中立地区を襲撃しようとする奴らだ。お灸を据えてやる」
フェリクスがニヤリと笑うと、クリスも微かに口角を上げる。
「いいね、確かに。だけど貴方のお仲間に怒られない?」
眉尻を下げて笑って尋ねるクリスに、フェリクスは笑みを浮かべながら頭を振った。
「心配ない。いちいち細かい事を言う奴なんか……いないさ」
一瞬ヴェルザードの顔が浮かんだフェリクスだったが、すぐに笑みを浮かべてクリスを見つめた。
「今、変な間が無かった?」
クリスの問いかけには答えず、フェリクスは車両にある通信機を手にする。
「ひとまずあいつらにも連絡だ……こちらフェリクス。誰か聞こえるか?」
そう言ってフェリクスが操作すると、通信機はすぐに繋がった。
「少佐?こちらエルザです。何かありましたか?」
「エルザか。夜の番に当たったか?少々厄介事を持ち帰る。歓迎の準備をしといてくれ」
「私くじ運悪いんですよ。了解しました。すぐにヴェルザード大尉とリオを叩き起してきますね」
そう言ってエルザとの通信を終えると、クリスはハンドルを握りながら笑顔で問いかける。
「厄介事って私の事?」
「まさか。追っ手の方に決まってるだろ」
二人揃って笑っていると、次は通信機からリオの声が響いた。
「少佐、あたいの目にもまだ映らないな。まだかかるかい?」
「リオ、すまないな。もう少しだ。恐らく数分でお前の視界に入る」
「OK。とりあえず皆準備始めてる。そっちはどういう状況かいまいち掴めてないんだけど?」
リオの問いかけにフェリクスは一瞬考え、静かに口を開いた。
「……説明が難しいんだが、とりあえず一人ゲストがいる。そしてセントラルボーデンの連中が追って来る筈だ。迎え撃つ」
「OK、厄介事には慣れてるんだ。いつも通りやろうぜ。少佐もやれんだろ?」
「当然だ。バトルスーツの用意だけ頼む」
「あいよ、待ってるぜ」
リオとのやり取りを終え通信機を戻すと、クリスが笑みを浮かべていた。
「さすがね。今ので体制を整えるなんて。貴方だけの部隊って訳でもないみたいね」
「まぁ個性的な奴らだけどな」
フェリクスが笑って言った時だった。通信機からリオの声が響く。
「少佐、見えたぜ。そしてあんたらの後ろから二輪が二台、すげえ勢いで追って来てる。たぶん追いつかれるぞ。ガルシアとジェーンが迎えに行く。それまで凌いでくれ」
緊張感を含んだリオの声に、車内にも緊張が走りフェリクスの視線も鋭さを増す。
だがクリスが思わぬ事を口にする。
「フェリクス、貴方は仲間の所まで戻って。バイク二台は私がここで相手する」
「な、何を言ってる?そんな事――」
「大丈夫よ。たかだか二台、簡単にやれる。武器もない、バトルスーツもない状況で敵に追いつかれたら面倒でしょ?私がここで身を潜めて魔法で迎撃した方が効率的。貴方は完全に丸腰なんだから」
そう言ってクリスは微笑むと、車を停止させ車外へと駆け出して行った。
「おいクリスまだ話は――」
フェリクスが声をかける頃にはクリスの背中は遠ざかっていた。
フェリクスは仕方なく運転席に座ると仲間達が待つ場所へと車を走り出させた。
「リオ聞こえるか?今車から女性が一人降りた。サポート出来るか?」
「降りたのは見えたが通信手段がないって。威勢のいい姉さんだな。監視は続けるよ」
「すまん、頼む」
通信を終えるとフェリクスは目一杯アクセルを踏み込む。




