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裏切りの代償②


――

 フェリクスがホテルで眠りについていると、不意に電話の着信音が部屋に鳴り響いた。


 なんだ?――。


 不意の電話は良からぬ事しか連想させない。

 フェリクスは飛び起き電話を手に取ると、画面にはクリスの文字が表示されていた。


「いきなりなんだ?どうした?」


 戸惑いながら出ると、電話の向こうからはクリスの朗らかな声が響いた。


「あら、早いわね。浮気してないか心配になってさ」


 クリスのいつもの軽口にも思えたが、突然の連絡に僅かな声の上擦りが気になった。


「こんなに早くか?どれだけ信用がないんだよ俺は?それより何があった?早くも声が聞きたくなった訳でもないだろ?」


「ふふ、わかる?じゃあよく聞いてね。うちの馬鹿な指揮官がさ、かの有名な黒い死神がサリアにいるって息巻いちゃってさ。さすが黒い死神、モテモテね」


 クリスの言葉を聞き、フェリクスはため息をつき頭を振った。


「まじかよ。まさか中立地区に乗り込む気か?」


「ウチの馬鹿はその気だったみたい」


 クリスの答えを聞き、フェリクスが首を傾げる。


 その気〝だった〟?


「おい、どういう意味だ?」


「無理矢理やめさせたわよ。で今そっちに向かってる。一緒に逃げてくれるよね?十五分もしたら着くわ。準備出来る?」


「しなきゃならんだろ。どこまで来られる?」


「ホテル下まで行くからそのまま車に飛び乗って」


「了解した」


 そして十五分後、クリスは約束通りホテルの入り口に車をつけた。


「ぴったりだな」


 フェリクスが扉を開けて飛び乗るとクリスは笑みを浮かべて車を急発進させた。

 タイヤを鳴らし、車はサリアの街を爆走していく。


 ハンドルを握りながらクリスが笑顔を向ける。


「検問所で思ったより足止めされて焦ったわ。『軍用車両は基本的に禁止です』とか言って中々通してくれなかったんだから」


「まぁ仕方ないだろ。ここはサリアだ。彼らも仕事だしな。よく通してくれたな」


 フェリクスの言葉を聞き、クリスは引きつったような笑みを浮かべる。


「はは、まぁ……無理矢理突破してきたのよ」


「おい!本気か?」


「仕方ないでしょ、緊急事態だったんだから。だから出る時も突破よ。気をつけてね」


 クリスがそう告げる頃にはサリアの検問所が見えていた。

 フェリクスは顔を強ばらせながらドアの手すりにつかまる。


「またこの車両だ!セントラルボーデンの車か?止まれ!」


 外では憲兵が叫んでいたが、クリスは更にアクセルを踏み込んだ。

 二人を乗せた車両は唸りを上げ制止する憲兵達に迫っていく。


「駄目だ!逃げろ!」


 憲兵達が叫び、横に飛び退く中、二人を乗せた車両は激しい衝撃音を轟かせ、検問所の柵を突破して行く。


「ふぅー、やったわね」


 気分を高ぶらせて声を上げるクリスを見つめ、フェリクスは小さくため息をついた。


「ふぅー、じゃない。めちゃくちゃじゃないか」


「何よ、意外に細かいのね。仕方ないって緊急事態なんだから。それより私、帰る所なくなっちゃったんだから責任取ってよ」


 微笑みながら言うクリスを見つめ、フェリクスは照れたように頭を搔く。


「まぁそれはいいんだが、クリスは大丈夫なのか?」


「もう今更後には引けないでしょ。それに戦争さえ終わればまた帰って来れるかもしれないし。それで?どこに向かえばいいの?」


「ああ、そのまま東に走り続けてくれ。恐らく三十分程で仲間達が待機している所に着くはずだ」


 フェリクスの指示を聞きクリスはハンドルを切り、アクセルを踏み込む。


 フェリクスは窓の外を見つめながら考えにふけっていた。


 またヴェルザードに小言を言われるかな?


 そんな事を考えながら横で車を走らせるクリスに視線を移す。

 クリスは笑みを浮かべながらハンドルを握り締めていた。


 クリス。思いきりがいいと言うか……めちゃくちゃだな――。


 そんな事を考えると、待ってくれている隊員達の顔が浮かんだ。

 ヴェルザードやリオ。それにエルザやジェーン、ガルシア、レスター。


 問題児ばかりじゃないか?――。


 フェリクスは小さくため息をつくと頭を抱えた。

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