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06.成人式の話①

恋を育んだ秋が過ぎ、愛を育てた冬を過ごし、そしてとうとう春を迎えた。

自分の気持ちに気づいて以来、アレス様と過ごす毎日はふわふわと地に足がついていない。

やらないといけないことが多くて慌ただしい日でもあったけど、アレス様のことを考えれば何でもできる気がした。


「成人おめでとう、シルフレイヤ」

「あらあら。私の可愛い娘はとても美しくなったわね」

「お父様、お母様。ここまで育てて下さってありがとうございます」


今日は成人式。そしてこの式が、子供だった私が初めて社交界にデビューする日…つまりデビュタントになる。

アレス様に用意して貰った漆黒のドレスに身を包み、お父様とお母様から祝福のキスが額に贈られる。

初めて見たかもしれないお父様の涙目につられ、私まで涙が溢れそうになったけどグッと堪えて私からもキスを贈る。

化粧までしてもらって綺麗になったんだ。ここで泣いてちゃ頑張ってくれたリサに申し訳ない。


「おめでとう、シル。今日は一段と綺麗だね」

「おめでとうシル! 成人式なんて大したことねぇから緊張すんなよ!」

「ありがとうございます、セティお兄様、テュールお兄様」


穏やかな笑みを浮かべるセティお兄様に、いつもと変わらない無邪気な笑顔のテュールお兄様。

今日が結婚式ではないのに悲しくなってしまう…。

違う、今日はようやく大人になれる日だ!泣いている場合じゃないっ。

屈んでくれたお兄様達の額にもキスを贈り、二人からも祝福のキスを与えられる。


「それにしても本当に黒のドレスでよかったのかしら?」

「はい、お母様。折角アレス様が贈って下さったドレスですし、アレス様の礼装が黒らしいので!」

「あの野郎…!」


アレス様から贈られたドレスは社交界では珍しい漆黒のドレスだった。

見た瞬間驚いて言葉が出てこなかったけど、アレス様の礼装も黒だと聞いて納得。

皇族の礼装が黒色ならそのパートナーである私のドレスも黒くないと不釣り合いだものね。

それに黒のドレスと言っても腰から下には白のレースがたくさん使われ、銀の糸が使われた刺繍がとても繊細で美しかった。

所々に散りばめられている赤い宝石の装飾も、黒のドレスによく似合っている。

前に贈られた魔法契約指輪や、銀のブレスレットのアクセサリーとも調和がとれていて、とても満足している。

さすがはあの流行を生み出すと言うカルラクールのデザイナー!緊張なんて吹き飛ぶぐらい嬉しいっ。


「シルが満足しているならそれでいいわ。ね、あなた」

「ああ。ドレスのお陰で緊張も解れているようだしな」

「はいっ。このドレスに負けないよう頑張ってデビューしてきます!」

「まぁあいつからの贈り物なのはムカつくけど、確かに似合ってる。何か言われたらカルラクールのドレスだって言い返してやれ!」

「解りました!」

「シルお嬢様。トラキア大公殿下が到着致しました」


崩れないようにクルクルと回って見せると、お父様もお母様も喜んでくれる。

今の私は無敵かもしれない。誰かに何を言われてもなんとも思わない。なんたってアレス様とお揃いになるドレスだ。

珍しく緊張することなくその時まで過ごしていると、リサがやって来た。

今日は私が主役の日。

パートナーと一緒に皇城まで馬車へ向かい、参加者は事前に集まっていなければならない。

そこで皇帝陛下から成人を認められ、その後ようやく家族達が中に入って来れる。

家族と離れているのはやっぱり寂しいけど、アレス様が隣にいてくれるから心強い。

リサの言葉に思わずパッと笑顔になると、テュールお兄様が少し寂しそうな顔をされた。


「先に行ってきます。あとで私と踊って下さいね、テュールお兄様」

「当たり前だろッ!」


抱き着いてダンスの予約をいれると、少し強い力で抱き締め返される。

お父様達にも抱き着いて、アレス様が待っている玄関ホールへと向かう。


「お待たせ致しました、アレス様」


玄関ホールには、私と同じ黒の衣装に身を包んだアレス様が立っていた。

皇族らしく装飾品をいくつか身に着け、いつもとは違う髪型がまるで別人のように見える。

端正な顔立ちと、美しい銀色の髪がさらに彼の気品さを引き立て、言葉だけでなく息まで止まって見惚れてしまった。


「―――驚いた。夜の女神が地上に降りてきたのかと思った」


その言葉にカッと顔が熱くなって、ようやく息をすることができた。

ドキドキと高鳴る胸をギュッと握り締め、私も何か言わなくては!そう思ったのに言葉が出てこなかった…。出来る限り色々と伝えたいのに…。


「シルフレイヤ、成人おめでとう」

「…っありがとうございます、アレス様…」


それだけしか言えなかった…。

情けない自分にガッカリしている私の手をさっととり、外に待たせている馬車へとエスコート。

馬車は皇族象徴の印章が刻まれていた。


「ア、アレス様…この馬車は…」

「折角のデビュタントだ。使える権力は使っておかねぇとな」


ニヤリと笑うアレス様に、ほっと息をつく。

よかった、いつものアレス様だ…。

今の姿が嫌いなわけじゃないけど、見慣れないのもあるし言葉が詰まってしまうからこっちのほうが喋りやすくて助かる。


「寒くないか?」

「全く。フカフカですし、……魔法のお陰で暖かいです」

「最近のシルはどんどん魔法に敏感になっていくな」

「アレス様を支える為には一番魔法を勉強しておかなければいけませんからね」

「優秀だ」


目の前に座るとすぐに馬車は動き出し、皇城へと向かっていく。

道中、意識しないようにいつもと変わらない会話で緊張を解していると、突如何かを思い出したかのように「あ」と話を切った。


「どうされましたか?」

「もう忘れているかもしれないが、正式な許可を貰えたから報告しとく」

「はい」

「魔導士の指輪について覚えてる?」

「勿論です。ただ私の魔導士だって証の指輪は見たことありませんが…」


魔導士として登録されたと言っていたが、その証となる指輪を見たことがない。


「シルには紋章を刻むことになったんだ」

「紋章ですか!?」

「そう。ああ、別にシルを魔導士として危険視しているとかそういうのじゃないから安心して」

「もっ、もちろんです! 私は犯罪に手を出したりしません!」

「でもいつかその力が他人にバレたら「いいよう」に使われてしまうかもしれない危険なのは解るよな?」

「…はい」

「シルが捕まって、俺の魔力を使えばどうなるかも想像できる?」

「はい」

「俺はシルを殺せないからね。だからシルだけに特別な紋章を刻もうと考えてたんだ」

「…なるほど、理由は解りました。それではいつ刻みましょうか。早いほうがいいですよね」

「それも決まってる」

「いつでしょう?」

「結婚式」

「……結婚式、にですか?」

「それに本気で紋章創ってるからそれぐらいが妥当かなぁと。タイミングもバッチリだし」

「そうなのですか?」

「詳しいことは結婚式前に言おう。それまではその銀のブレスレットは外さないように頼んだ」

「解りました、気を付けます!」

「ところで、緊張も解れてきたようだしいい加減抱き締めていい?」

「だっ…! ……うー…」

「俺が贈ってくれたドレスを着てくれてありがとう。この世の誰よりも美しいよ」

「…アレス様も…その、今日は本当に素敵です…。み、見惚れてて何も言えませんでしたっ…」

「ああもう本当に可愛い…。結婚式も楽しみだ」

「あ、あまり強く抱きしめないで下さいっ。その、えっと、乱れてしまいます…!」

「んー…! たまにドキッとする言い方止めてくれ」

「も、申し訳御座いません!」

「はぁ…。他の野郎に見られるなんて耐えらんねぇけど…さすがに我慢しておく」

「婚約者のアレス様しか見ませんのでご安心下さい」

「あーもう早く結婚したいッ!」

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