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35.重

「アレス様にはああ言ったし、実際に皇太子候補の手伝いをしてほしいと手紙はきていたけど…」


正直気が重い。

本には皇太子妃のことなんて書かれていなかったと思うし(忘れてるだけかもしれないけど)、実際に誰かと結婚したとかも書かれていなかったと思う。

そもそも私は14歳の未成年で、誰かを見る力なんてないのに…。どうして私にこんなことをお願いしてきたんだろう。

狩猟大会で開かれる招待状を机に並べ、皇帝陛下の思惑を考えてみるけど思い浮かばない。

アレス様は「適当でいい」「気負わなくていい」と言ってくれたけど無理…。

多分、皇帝陛下的には親族になるしちょっと見てきてくれる?

なんて軽い気持ちなんだろう。私の頭ではこれぐらいしか思い浮かばない。


「はぁ…」


人様を見て評価するなんて嫌だなぁ。頼まれたからにはやるけど…。


「西部ヘクシオン家、北部カリュオン家は三大公爵家で家格に問題ないから、あとは人柄を見て判断したらいいのかな?」


ロキ皇太子は今年10歳。両家にも近い年齢の公女がいる。

北部に住まうカリュオン家はとても厳格な方が多いと聞くから皇太子妃としてもやっていける。

西部に住まうヘクシオン家は女性であっても精神、肉体ともに逞しい方が多いからこちらも問題ない。

だからこそ既に候補に入ってるもんね。


「あとは伯爵家ね」


アティルナ家が属する南部領の貴族令嬢達とはそれなりに仲良しだし、他領に比べて詳しいからなんとなくわかる。

特にユークリッド伯爵家、デミオラス伯爵家、マシリア男爵家の公女達は大人しいだけじゃなく、自分の意見をハッキリ言える性格の方達だった。

私がアレス様と出会えないことで、他の家門に笑われたときだって盾になってくれたり、励ましてくれる優しい子。

正直に言うと彼女達を推薦したい。でも大公妃も皇太子妃も南部領から出るとなると他の家門から睨まれそうだから難しい…。


「とりあえず南部の家門からは彼女達を推して、あとはお茶会で知り合った別の家門の公女を薦めよう」


そうなると、どこのお茶会に参加したらいいかな。


「シルフレイヤ、少しいいかい?」

「セティお兄様」


ノック音のあとにセティお兄様の声が届く。

侍女のリサが私を見てきたので黙って頷くと、扉を開けてくれた。


「朝から難しそうな顔をしてるね。勉強中?」

「いえ。皇帝陛下のお願いで皇太子妃候補を考えていたところです」


そんなに難しい顔していたかな。まぁ難しい内容なことには違いないけど。

隣に座るお兄様にリサがお茶を出そうとすると軽く断って、机に並べられた手紙を掴む。


「ああ、あのことか。何でシルにこんなことをお願いするのか…。それじゃなくても北部にはあの方がいて神経使うのに」

「ほら親族になるし、皇帝陛下はああいった場所に出ないから…」

「それでもシルを困らせていい理由にはならないよ」


フッと呆れたと言わんばかり笑って、軽く頭を撫でてくれる。

優しくて暖かくて大きなセティお兄様の手はいつだって安心する。


「あ、そうだ。お兄様は他の家門の事情について詳しいですよね?」

「それなりには詳しいつもりだよ」

「どこのお茶会に参加するべきか教えて下さい!」


なんたってアティルナ家の次期当主様。詳しくないわけがない。


「うーん、そうだねぇ。公爵家のお茶会は今回お母様がいないから、さすがにシル一人じゃ参加できない。……そうだね、西部からはディースカウ伯爵家。北部だったらラセッジ伯爵家かな。伯爵家として歴史は長く悪い噂も聞かない。何より皇太子と同じぐらいの公女がいる。この二つで十分だよ」

「ありがとうございます、セティお兄様!」

「今回南部領からは僕達の他に三家門しか参加しないらしいよ。友達だったよね?」

「はい、二日目は南部のお友達とお茶会の約束をしています。三日目はお兄様が言われた伯爵家のお茶会に参加して、公女達を観察致します」

「シルの力になれたのなら嬉しいよ。でも気負いすぎないようにね」

「はいっ」


他の招待状にはお断りの手紙と、折角頂いたのだからお花でもつけて返事しておこう。

南部にしか咲かないお花だったら多少は許してくれるかな。


「ところで狩猟服はちゃんと仕立ててある?」

「勿論です。アレス様が贈ると仰ったのですが、これだけはきちんとお断りしてお母様にお願いしました」


これからずっと俺が贈ったものだけを着て欲しい。

そう言われたけど、アティルナ家として参加するのだからこれだけはさすがにお断りした。

少し…いやかなり嫌がってし拗ねていたけど、代々お願いしているところで仕立てるし、家族に合わせたものでないと悪目立ちしてしまう。

その代わりにお茶会用のドレスを頂いた。


「さすがにまだ結婚もしていないのに口出されたくないよね」


ヒヤリとした突き放す言い方に、苦笑いで返すとまた頭を撫でられた。


「それと今年もリボンくれる?」

「去年も言いましたが、お兄様には婚約者であるグリトニル様がいらっしゃるではありませんか」

「ニルからも貰うけど妹からも貰いたいに決まってるじゃないか」


ニコニコと要求してくるリボンとは、狩猟大会の時のみに親しい人に贈る「安全を祈願するお守り」のようなもののこと。

我が家では鮮やかな青のリボンに安全を祈る者のイニシャルを入れて相手に渡す。

今まではあげていたけど、去年に入ってセティお兄様はグリトニル様と婚約式を行った。

婚約者がいるのに、いくら妹であってもあげていいのかな…。

グリトニル様は小さい頃から知っている方だし、なんと言っても南部を納めるゲルデオン公爵家の方だから、これぐらいのことで怒ったりするような人ではないけど…。


「ニルにはちゃんと伝えているから大丈夫だよ。兄の安全を願ってくれないの?」

「そこまで言われたら断れませんよ…。今年も怪我をしないよう祈りを込めて贈ります」

「シルも怪我なんてしないでね」


嬉しそうな顔で優しく抱きしめてくれる。

何歳になってもセティお兄様は頼りになるし、抱きしめてくれると安心できる…。

微力ではあるけどしっかり祈りを込めて贈ろう!

グリトニル様のお守りもあるし今年もきっと大丈夫だ。


「本当は俺からも贈りたいけど、女性の特権だからね。これで許してくれ」

「気にしないで下さい」

「じゃあ僕は騎士団に行くよ」

「はい。今日も頑張って下さい」


最後に額にキスをして部屋を後にした。

とは言え本当にいいのだろうか…。

そう思ってしまうのは、アレス様がとても嫌がっているからだ。

嫌われないよう、勘違いされないよう、その末に殺されないよう気を付けているけど不安が残る。

勿論アレス様のも作るし当日に祈りを込めて渡すつもり。

前に会ったとき受け取ってほしいと言うと、滅多に見せないような純粋な笑みで承諾を貰った。

そのあと「俺以外にはあげないでほしい」と言われたけど、さすがに婚約者がいないテュールお兄様だけにはあげたいと何とか粘って許してもらった。セティお兄様の許可は貰ってないけど…どうか許してほしい。

そんなことを言われるたびに、アレス様は私のことが本当に好きなんだと実感する。嬉しいし恥ずかしいけど、ちゃんと私も好きだから誰にでも警戒してほしくない。

と、伝えたいのだけど口を堅く閉じてしまう。

何でだろう。アレス様と同じような愛情が芽生えていないから?

この感情はまだ解らない。解らないけど少しでもいいから伝えないといけない。


「私はアレス様を裏切りません。絶対に」

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