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25.嬉

「ところでこの中は何が入ってるんだ?」

「折角なのでお土産を持って来ました」

「お土産?」

「はい。第一騎士団へ向かう際も甘いものを持って行くと喜ばれるので第二騎士団の方達にもどうかなと思いまして」


どおりで甘い匂いがすると思った。

第一騎士団によく向かっていると前に聞いていたから知ってはいたが、差し入れまで渡していたのか。

やはりシルは女神だな。会うたびに彼女の優しさを知ってしまい、そのたびに確信する。

ただもう第一騎士団に行ってほしくない。そっちに行くぐらいなら俺がいる第二騎士団に来てほしい。

三日に一度会うために魔獣退治にも、西部の防衛戦にも行かなくなったし、何よりシルが来てくれると仕事が捗る。

そうだな、そっちのほうがミリガンも喜ぶしお願いします。


「第二騎士団は帝都から少し離れたところにあるのですね」

「ああ。帝都は第一騎士団がいるしな。第二騎士団は帝都周辺の警備をしつつ魔獣退治や諸々の事情で宿舎がいくつかあるんだ」

「知ってます。帝都を取り囲むように東西南北に拠点を構えてるって」


少し自慢げに語るシルの周りには花が飛んでいるように見えた。

その花ごと抱きしめていいか?婚約者だから抱きしめても問題じゃねぇよな?いや成人になっていないからまだダメか?


「……その本拠点がここです」


理性で抱きしめようとする腕を止め答えると、「なるほど」とご満悦のシル。

ダメだ。うん、ダメだ。成人前の女性に抱き着くのはダメだって決まっている。

それじゃなくても前にみっともない告白をしてしまったのだから、紳士でいなくては!

シルの歩調に合わせて宿舎に戻ると見たくもない顔…ミリガンが待っていた。

こいつ…まさか一緒にシルを案内するつもりか?邪魔すんな。


「初めましてシルフレイヤ・アティルナ公女。私は第二騎士団副団長を務めるミリガン・オットライトと申します」


挨拶をするならその不愛想な顔をどうにかしろ。シルが怖がったらどうする!


「初めましてオットライト卿。お噂は父より聞いております」

「アティルナ公女にお聞かせするほどではありません」


………は?何でシルがお前のこと知ってんだ?


「団長。団長がいない間は私が団長の役割もしていたので第一騎士団ともそれなりに面識があります」

「だとしてもお前…」

「それにアティルナ家とは同じ五大侯爵家ですし知らないほうがおかしいです」

「はぁ!?」


いやだからと言ってシルと何かしら関わりがあるとか許されることじゃねぇ。

おまけにシルと同じ五大侯爵家って…。


「シルがいなくなったら覚えてろ」

「アティルナ公女。ここで立ち話するより休める部屋にご案内致します」

「ありがとうございます。ですが先に皆さまにご挨拶を…」

「それはまたあとにしよう」


持っていたカゴをミリガンに押し付け、シルを執務室へと案内する。

他の野郎どもに見せたくない。折角ここに来てくれたんだから俺が色んな場所を案内して、シルがここにいるという光景を脳内に焼き付け、その思い出を糧に会えない毎日を埋めたい。

遠巻きにいる仲間には寄ってくるなと睨みを入れ、シルに近寄らせないようにする。

きちんと紹介して自慢したいけど、シルを他の男に見られるのが嫌だ。

やるとしたら結婚式を挙げてからだな。今はまだ婚約者だし何があるか解らん。


「第一騎士団とはまた違った雰囲気ですね」


執務室に案内すると興味津々に部屋を眺める。

そんな顔もできるのか。とてつもなく可愛い。ちょっと緊張しているのも可愛い。


「シル、こっちに」

「えっ! ですがそこは…」


軽く手を握って今さっきまで座っていた自分の席に座らせると、困った顔をして立ち上がろうとするのを止める。

無理矢理座らせると先程より緊張をした顔で俺を見上げてくる。

解ってる。この場所は団長しか座らない場所だ。解っているからこそ困惑しているシルが可愛くて、余計に意地悪したくなる。

しかもこの行動は明日の自分の為だ。大嫌いな場所なのにシルが座ったことによって聖地に変わった。

見上げる顔を見続けるのもいいが、自分は正面にあるソファに座り、固まっているシルを眺める。

第二騎士団の団長がシルだったらいいのに…。…いや、そうするか?別に女性が団長だった代もあるし、実力社会の第二騎士団では間違いなくシルが一番強い。俺がシルを傷つけることができないからな。


「あの、アレス様…」

「いい眺めだなぁ…。シルが団長ならもっと頑張れそうだ」


絶対に動かないで。と伝えると、困っているにも関わらず律儀に守るシルが本当に従順で可愛い。

怒ってもいいし、泣きだしてもいいのに強張った顔のまま俺に助けを求めている。

ああ、その顔もいい。どんな顔をしててもシルは完璧に帝国一可愛いから楽しくて仕方ない。


「それはいい考えですね。アティルナ公女には毎日そこに座って頂きましょう」


お茶を用意してきたミリガンが戻ると、今までで一番有意義なことを言った。

勿論、他の野郎に見られるのは嫌だが俺がここまで連れてきたらいいし、ミリガンだけなら…まぁ……頑張れば、なんとか我慢できる。


「オットライト卿までそんな…」


プルプルしている姿も可愛すぎて目が離せない。何を食べたらあんなに可愛い存在になれるんだ?

いやシルと同じ食べ物を食べてもこうはならない。うん、やっぱりシルは天使だ。


「本当に気にしないでくれ」

「アレス様は意地悪なんですね」


は?この程度で意地悪?本当の意地悪を見せてやろうか?


「団長。それ以上近づいてはいけません」


思わず抱きしめて本当の意地悪を見せようとしたが、ミリガンの声によって意識を取り戻す。

危ない。また無様な姿を見せるところだった…。結婚後の楽しみに残しておこう。……我慢できるか不安だが。


「差し入れありがとうございました。全員喜んでいました」

「あ、よかったです。シェフにお願いしてたくさん焼いてもらったんですよ」

「平民上がりが多いので甘いものに目がなくて」

「嬉しいです。また次回も持って来ますね」


他の奴のことなんて考えてほしくないけど、嬉しそうな顔はやっぱり好きだ。このままずっと眺めていたい。


「アティルナ公女はどこか見学したいところはありますか?」

「初めて来たのでどこでも嬉しいです」

「では簡単に主要な場所だけご案内致しましょう」

「何でお前が決めてんだよ」

「団長。まさかとは思いますがこのままずっとここに座らせておく気ですか?」

「外に出したらシルが汚れるだろ?」

「何のための訪問ですが。アティルナ公女も見学したいですよね?」

「お邪魔でなければ」

「シルが邪魔なわけないだろ!」

「アティルナ公女もこう言っていますし、ご案内してあげて下さい」

「アレス様、宜しくお願い致します」


本当は連れ回したくなかったけど、シルにお願いされたなら仕方ない。

なかなか進展しない二人が長々と続いているにも関わらず、評価して頂いて本当にありがとうございます!

かなりのやる気に繋がります。

と言うわけであと一週間は一日2話アップできるのでお付き合いお願いします。

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