四重奏⑬
「なるほど。それで?」
「はい! 今回ここに狩りに来たヘルメスのメンバーは十名です! そのうち四名がメドゥーサ、六名が吸血鬼を狩る予定でした!」
「さっき話に出たリーダーは来ていないんですか?」
「ブロンクスは護衛の二人とともに依頼人に話を聞いています! ここにはいません!」
ならばこれで全員か、とフィズは一息をついた。
話を聞いた限りでは腕の立つ狩人ばかりだというが、累とハクの二人ならば問題ないだろう。
ハクは多少不安だがあれでも上位吸血鬼だ。
なぜかハク自身が自分の強さを自覚していないのだが、なんやかんやと圧勝することは間違いないだろう。
累に関しては何も心配するところはない。
しかも妖精の夜会で負傷したことをずいぶんと気にしているようで、あれから密かに狩人としての訓練を積んでいるのをフィズは知っている。
そういうストイックなところがまた素敵だなとフィズは隠れて応援していたので、本当なら今回もそばで累の雄姿を見ていたかったがその累から依頼人と逃げろと言われたので仕方ない。
とはいえ狩人四人程度ならさっさと片づけてしまうに違いないのですぐに会えるだろう。
「じゃあどうしようかな」
座りながら足を組みなおすと、椅子代わりに四つん這いになっている女狩人があぁっと嬌声を上げる。
気持ち悪いが地べたに座るのも嫌なので仕方がない。
眼前には犬のように褒美を求める目をした狩人が二人跪いており、女狩人を羨ましそうに見つめていた。
「じゃあそこの二人は勝手に死んでください」
「はい! フィズ様がそうおっしゃるのであれば喜んで!」
「ああ、血を私に飛ばさないように離れてやってくださいね」
跪いていた二人は喜びに耐えないといった様子で少し離れた場所に駆けていくと、そこでお互いの首めがけて斧を振り切った。
残ったのは首を失った狩人の死体が二つ、椅子代わりの女狩人が一人、そして離れた場所で木に縛られている狩人が一人である。
「さて」
椅子から立ち上がって木に縛り付けになった狩人を見つめる。
彼を魅了してしまわないよう遠くからだ。
ハクと別れた後に狩人が四人も追いかけてきたが、夜帽の足では到底逃げ切れないと判断したフィズは二人に隠れるよう指示して狩人たちを一気に魅了したのだ。
その際一人だけあえて魅了せずにほかの三人に命令して木に縛り付けさせたのだが、そうしたのは彼にお願いしたいことがあるからである。
魅了した狩人からヘルメスという狩人グループについて細かく話を聞いたが、どうやら彼らはあの男に嘘をつかれたらしく、ここで全員皆殺しにしてしまった場合、愚かなリーダーだとまだ依頼を果たそうと追加の人員を送ってくる可能性があると考えたフィズは、一人だけ生かして脅しを含めた真実を伝えてもらおうと考えたのだ。
「もうわかってるかもしれませんが私は吸血鬼ではありません。協会からは屍の魔女とも呼ばれてますね。吸血鬼はさっきの青髪の子だけで、あなたは見てないかもしれませんが黒髪の美少女は屍人形です。見れば心臓が止まりそうなほどかわいいのですぐわかります。まぁつまり依頼人に嘘をつかれたってことですね。ここまではわかりましたか?」
「ふぁかひまひた!」
うるさいのは嫌なので口を塞がせたのだがそれでも十分にうるさい。
わかっているのであれば首を振るだけでいいのだが、目の前の狩人は涙を流しながら声を上げる。
醜いな、と思いつつもフィズは相手が理解していることに満足して話を先へと進めた。
「で、あなたのところのリーダー、ブロンクスさんでしたっけ、話を聞いた感じ彼は有能そうですが、一応そのことを伝えてあげてください。それと私たちが誰かを理解したうえでまだ狩りに来るようなら容赦はしないと」
「ふぁひ!」
「じゃああなただけは生かしてあげるので、椅子の人、彼を解放してあげてください」
「喜んで!」
ずっと四つん這いでスタンバイしていた女狩人が飛び跳ねて木に縛り付けられていた男を解放する。
「じゃあ椅子の人はもう用はないので死んでください」
「はいフィズ様!」
そして彼女はためらいなく首を切り裂いて倒れこんだ。
唯一魅了されていない男は仲間だった女性の鮮血を顔に浴び、悪夢の中を彷徨うように涙を流し悲鳴を上げながら樹海へと消えていった。
「……あれで無事にメッセージを伝えてくれるんですかね」
あまりに正気を失ってるようでは困るなと思うが今更どうしようもない。
もしメッセージが伝わらずにまだ戦闘を続けるようであれば、ヘルメスを根こそぎ滅ぼすだけの話だ。
ただそうなるといろいろと面倒なので彼には頑張ってほしいなとフィズは思う。
「ついでにあの男も始末してやりましょうか」
思い出すだけで腹の立つ男だ。
人間という生き物の中でもあの男は特に底辺に位置するほどの無能だ。
文字通り脳がないに違いない。
依頼人からメドゥーサを守るよう依頼を受けた身としては、その依頼を拡大解釈できればあの男を殺してもいいのでは、とフィズは思っている。
なぜなら仮にヘルメスが手を引いたとしてもあの男は別の狩人を雇って同じことを繰り返すかもしれないのだから。
「まぁ、そこは累さんに相談ですかね」
許可さえ出れば生かさず殺さず何年でも何十年でもそれこそ死んだ後も苦痛を与え続けてやりたいところだ。
未来永劫自分が愛した女性を馬鹿にした罪を後悔させてやるのに。
そう鬱屈した考えに入り込み始めた自分を切り替えるように、フィズは両ほほを可愛らしく叩くと視線を巡らせる。
どこかに隠れている夜帽たちへ向けてフィズは声を上げた。
「もう出てきても大丈夫ですよ!」
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