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四重奏⑧

狩人には二種類ある。


人々をグリムから守るという大義のため、協会に所属する狩人。

そして様々な理由から協会に所属せず、個人で依頼を受けるフリーの狩人だ。


フリーの狩人の利点としては、まずなによりも報酬の高さだろう。

協会に依頼できない訳アリの依頼がほとんどであり、当然依頼人も報酬に関しては相応のものを出してくれる。

ただデメリットとしては協会のようなサポートがない分、事前調査から討伐までを全て一人でこなすことが求められる。

つまりは腕のいい狩人でなければ死ぬ確率が高いということだ。


そして狩人たちは協会所属であれば最近設立されたアカデミーというものがあるが、大抵は協会所属、フリーに限らず徒弟制度というものによって師を得て腕を磨き一人前の狩人となる。

その中でもトップクラスに優秀な狩人を輩出しているのが御三家と呼ばれる三つの家だ。


一つ目はキングストン家。

歴史が最も古く、御三家の中で協会に狩人を輩出している数は最多だ。

伝統的な戦闘方法は協会のアカデミーでも採用されており、現在の当主は北アメリカ支部の本部長である。


二つ目はシャムロック家。

霊薬の調合に秀でており、ほかの狩人にはない特殊な霊薬を数多く保持している。

グリムに関する知識も豊富だが、研究のためならばどんな非合法な手段もいとわないと言われており、現在の当主が多数の養子を抱えているのは霊薬の被験体にするためではないかともっぱらの噂だ。


三つ目はスノーボール家。

狩人とグリムは表に出ない存在だが、この家の狩人は俳優に歌手など世間に顔が知られている者が多い。

表の職業と裏の狩人という二足の草鞋を器用に履きこなし、表の職業を含めた豊富な財源による装備の潤沢さと多彩な人間関係などが特徴だ。


どれも優秀な家ではあるが、どんなものでも例外というものはある。

現在倉吉雄大の豪邸にたどり着いたこの男もまたその例外の一つだ。


名はブロンクス・キングストン。

歴史あるキングストン家の三男にあたる男だが、彼は協会の理念に共感ができず、自身の欲望を叶えてくれる金というものがたっぷり得られるフリーの狩人になることを選んだ。

通常のフリーの狩人とは違ったキングストン家というネームバリュー。

そしてキングストンの名に恥じない腕前によって彼の名は協会に依頼できない薄暗い感情を持った金持ちたちにすぐさま知れ渡った。


とはいえ協会との関係が深いキングストン家はそんな彼のことを恥じているに違いないが、ブロンクスからすればそんなことはどうでもいい。

自分の腕が高く売れるのであればキングストンという名家の誇りだろうと使い倒すだけのことだ。


ブロンクスの特徴はキングストン家の人間であるということだけではない。

彼は自分の眼鏡にかなったフリーの狩人をスカウトし、彼を頂点としたグループを作り出したのだ。

それが「ヘルメス」である。


フリーの狩人が一人で危険な狩りを行うのに対して、グループでの狩りはグリムに対して数的優位が取れるほか、多種多様な装備や霊薬などの幅広い対応ができる。

とはいえもちろん報酬は頭割りとなるし、フリーの狩人は誰も彼もが一癖も二癖もあるようなものばかりだ。

普通ならば仲間割れを起こすに違いないが、そんな狩人たちを統率しているというだけでブロンクスの能力が卓越しているとわかる。


そしてそんなブロンクスの金づるの一人である倉吉雄大の招集によって、今回はヘルメスのメンバーの約半数が参加している。

ブロンクスを含めて総勢十三名。

そのうち十名はすでに対象の狩りに向かっている。


「いないな」


電話で事前に依頼内容は聞いていたが、緊急だから詳しい報酬は後程夜帽から伝えるとのことだった。

通常であれば報酬を聞かずに依頼を引き受けることなどあり得ないが、これまでの付き合いから倉吉が金を渋るような男ではないと理解しているため、こうしてすでにメンバーを招集し狩りに向かわせたのだが出迎えるはずの夜帽の姿が見当たらない。

そうこうしていると別棟にグリムを狩りに行ったはずのチームメンバーの一人が僅かな苛立ちを表情に含みながらこちらへと駆け寄ってきた。


「ダメだ。すでにどっかに逃げ出したらしい」

「そうか」


その報告にブロンクスは顔色一つ変えない。

刃物のように鋭利な瞳で夜空を見上げたままだ。


「今回の獲物はメドゥーサが一人に吸血鬼が三人……だったな」

「ああ、電話じゃそういう話だったな。招待した客の中に吸血鬼がいたから狩ってくれって。メドゥーサはこないだ俺らが調べた奴だけど」

「夜帽はいたか?」

「いや見てない。吸血鬼に殺されたのかもな」

「だったら死体くらいあるだろう」

「まぁ確かに。ってか吸血鬼ってどう気づいたんだろうな? それこそ夜帽のじいさんが血を吸われたからとかか?」

「どうだろうな。そのあたりは倉吉に詳しく聞いてみる必要があるだろう。メドゥーサのほうは何人向かわせたんだ?」

「四人。十分だろ」


個体名付き(ネームド)でもないメドゥーサ相手ならば十分すぎる戦力だ。

だが姿を消した三人の吸血鬼というのがどうにも頭に引っかかる。

それにいまだ姿を見せない夜帽もだ。


「吸血鬼に夜帽が連れていかれたという可能性はあると思うか?」

「ないだろ。あの歳までじいさんが貞操を守り切ったってんなら話は変わるけどよ」


夜帽は前の主人の息子だからとあの横暴な男の無理難題に耐えていた義理堅い男だ。

そんな男がまだここに姿を見せないことが気がかかりであり、仮に吸血鬼に襲われたのだとしてもそれを倉吉が報告してこないのはおかしな話だ。

狩人としての性質がほんのちょっとした疑問を見過ごせずにはいられない。


「まーたそんな風に考えてると女どもがキャーキャーうるさいぜ? 隣を歩く俺の身にもなってみろっての」


青い瞳に白い肌。

肩ほどまで伸ばしたホワイトブロンドの髪から除く鋭い眼つきもいいアクセントなようで、こうして顎に手を添えて考え込むと女メンバーの手が止まるからやめてくれとよく注意される。

とはいえそう注意されたところでどうしようもないのだが。


「……吸血鬼側のメンバーは手が空いてるな」

「まぁ獲物がいないからな。これから追えってんなら話は別だが手がかりもねぇしな」

「なら念のためメドゥーサの応援に全員回らせろ」

「いやそんなにいるかぁ? 吸血鬼側のメンバーは六人だぜ? 全員メドゥーサに回したら十人ってそりゃ多すぎないか?」


確かにメドゥーサに対する人数としては多すぎる。

しかしリーダーとして最悪は想定するべきだ。


「念のためだ。それとこれから向かうメンバーには少しでも危険だと感じたら逃げろと言っておけ。先に向かったレナーテにもだ。この依頼はどうもきな臭い」

「気にしすぎじゃねぇか? まぁお前が言うなら俺は従うけどよ」

「頼む。俺は倉吉からもう少し詳しい話を聞いてみる」

「わかったよ。じゃ俺はメドゥーサの応援に行ってくるわ」


ブロンクスと護衛のメンバーを二人残し、ヘルメスのメンバーは車に乗り込みメドゥーサのもとへと移動を開始した。

目的地は富士の樹海。

そこに潜んでいるメドゥーサを狩るのが目的だが、ブロンクスは消えた吸血鬼と夜帽のことが頭から離れなかった。

もし吸血鬼が近場に潜んで狩人の数が減るのを待っており、この瞬間に襲い掛かってくるならばそれはそれで問題ない。

それをあぶりだすためにあえて数を減らしたというのも目的の一つだからだ。


「最悪の場合はどう損害を補填するかだが、その際は倉吉に責任を取ってもらうしかないな」

読んでいただきありがとうございます。

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