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なり損ない③

金曜の夜ということもあって駅周辺の繁華街は労働から解放された人々によって大いに賑わっている。

そんな喧騒から離れたこのバーには二階と地下があり、二階は累とフィズが眠る寝室などのプライベートエリアが、地下は倉庫代わりの空き室がいくつかと酒の貯蔵庫があった。

貯蔵庫には趣味で集めたまま封を開けられずにおいてあるボトルが壁一面に陳列されている。

その筋の人間が見れば喉を鳴らせてほしがるようなものから、ラベルが気に入ったという理由で買われた安酒まで種類は様々だ。

上階のバーカウンターに並べれば見栄えもよくなるだろうし飲みたいという客も大勢いるのだろうが、累としては自分用に購入したものであり、おいそれと人目にやりたくない気持ちもあるので地下に長らく死蔵されている。

とはいえ一年の節目などにフィズと少し開ける程度には消費しているのでいつかはなくなる日も来るのだろう。


フィズに引っ張られるような形で地下へと降りた累は、そんな大量のボトルの前へと立った。

ここに立つと一杯やりたくなる気持ちになるがそれは仕事を終えてからだ。

我慢しつつ累は一つのボトルを取り出すと中央のボトルと場所を入れ替えた。

ボトルに記された文字は「Aurora」。

夜明けの女神を意味するそれが中央に設置されると、ボトルで彩られた壁が後ろへとずれるように移動していき上から別の壁があらゆる武器や防具を携え下りてきた。

拳銃、散弾銃、自動小銃、手榴弾、ボウガン、ナイフ、手斧、槍、剣、刀、ボディーアーマー、プロテクター、各種弾薬等々。

コレクションされたボトルに勝るとも劣らぬ品揃えで見る者を圧倒させるそれらは、先ほどのボトルとは異なりどれもよく使い込まれていることがわかる。


「さて、どれを持ってこう」


ベストを脱いで首元のネクタイを緩めながら、どれが今回の狩りに向いているかを累は考える。

いくら酔っ払いが多いとはいえ街中で銃声を響かせるわけにもいかないので重火器を控えるべきだろう。

山や人の少ない郊外ならともかく都会ではそういうところにも気を使わなければならないのが面倒だ。

とはいえいざというときのための切り札は持っておきたい。


「んー」


視線をある一点に向けつつ、今回のターゲットについて考える。

場所のことを考えれば消音機付きの拳銃とナイフがいいかもしれないが、屍鬼はほっそりとした外見に似合わず個体によっては頑丈なものもいるためこれだけでは心もとない。

コートで隠せる手斧あたりも持っていくかと決めたあたりでフィズが服を持って現れた。


「今日はこれがいいんじゃないですかね。必要そうな霊薬もまとめておきましたよ」

「ありがと」


バーテンダーの服を脱いで下着姿となった累にフィズが手慣れた様子で服を着せ始める。

服を着せるのが楽しいのかにこにこと笑みを浮かべたフィズは鼻歌でも歌いだしそうだ。

前に服くらい自分で着るといったら絶望的な表情で泣いてせがまれたので、あれから無駄な抵抗はしないことにしている。

今じゃ歩くのもおぼつかない幼児の如く着替えはすべてフィズの手が入っていた。

そのうちトイレで下着を下ろすのも私がやりますとか言いかねないのでは、と少し戦々恐々としている。


そうこうしているうちにベストとパンツ、そしてネクタイといったバーテンダーらしい服装から細めのジーンズに黒のレザージャケットへと着替えさせられると、消音機が付いた拳銃とナイフをジャケットの内側へとしまい込む。

その間に手斧など累が必要だと思ったものをバックパックへ納めていくフィズはさすがに彼女のことがよくわかっている。

累の先ほどの視線も察していたのだろう、壁に掛けられていた武器の一つもきちんと収められていた。

言われる前にすべての準備を終えたフィズはバックパックを担ぐと一足先に階段のほうへと歩き始める。


「ほかに必要そうなのも全部詰めときました」

「さすが」

「私は誰よりも累さんのことを理解してますから!」


累は壁をもとへと戻すと得意げに笑みを浮かべるフィズの背を軽く叩いた。


「それじゃ、まずはフィズが襲われたとこに行こう」

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