妖精②
並みいる手練れの狩人の視線をものともせず、カザリは粛々と報告を行った。
最初に依頼が発生した経緯、次に派遣された狩人の情報、そして帰還した狩人の報告から魔女が関係していたことが分かったこと。
ここから先はカザリも説明していて頭が痛くなってくるのだが、魔女のダンジョンの一部と思われるミュージアムとそこにいたグリムのこと、そして何より魔女同士の邂逅とその結末。
一名を除いてさすがに幹部である特等狩人は顔色をほとんど変えなかったが、その背後の狩人たちは別なようでブリスなんかはドラゴンの話をしたあたりで目を見開いていた。
自分の弟の話を聞いたかもしれないが、まぁそういう反応が妥当なところだろう。
「以上になります」
「ありがとう白神君」
一応報告はひと段落したものの、何か質問があれば答える立場のカザリはそのままモニター脇に佇み狩人たちの反応を待った。
最初に声を上げたのはブリスの前の席の女性だ。
名はアルメル・バルブレア。
年齢は四十代半ばでブリスと同じブロンドの髪を後ろ手に綺麗にまとめている。
目鼻がはっきりしとした顔立ちの女性で仕立てのいい服や傷跡を隠すためであろう手袋などを見ると、弟子であるブリスとは違ってきちんと身なりには気を使っていることがよくわかる。
「バナが無事でよかったわ。よく生きて帰ってきたとほめてやらないと」
「そういえばバナ君はアルメルの教え子だったな。彼が生きて戻ってくれたおかげで貴重な情報を失わずに済んだ。日本の協会本部として非常に助かったと感謝を伝えてほしい。それとぜひ君からもねぎらってくれたまえ」
「言われなくともそうするわよ。最も生き残っただけで戦闘じゃそれほど役には立たなかったようだけど」
そういってアルメルは苦笑する。
生き残ったことは喜ぶべきことだが、魔女相手に手も足も出なかったというのはいただけない。
もう少し鍛えてやらねばと呟くアルメルのサディスティックな笑みを感じたのか、背後のブリスが小さく震えた。
「あまり厳しくするなよ。俺はバナとやらはよく知らんが、ドラゴンにヴィーヴルだ。偶発的な遭遇で生き残っただけでも十分だろう。俺だっていきなり出会って相手をしろと言われても手に余る相手だ」
バナを庇うような発言をしたのは大柄な黒人男性だ。
名はラッセル・ヘブンヒル。
服の上からでもわかるほどに盛り上がった筋肉を見れば彼が大斧などの武器を手にするイメージをしてしまうが、このメンバーの中では狩人としては先進的な考えを持つ人間で他メンバーが斧やボウガンなど古来からの狩人の武器を重要視するのとは異なり、彼は銃などの近代兵器を狩人たちに推進している。
ただ徒弟制度で戦い方を受け継いできた狩人たちに銃火器の評判はよくないため、累のようなフリーの狩人が使う程度で協会の狩人が彼の考える重火器での戦闘を行うことは少ない。
特に今回その銃火器を利用した狩人がドラゴンどころか水精霊程度に敗北したというのも、狩人の近代兵器化を邪魔する結果だ。
「そうですね。バナという狩人はこれまでも一等狩人としてはふさわしい結果を残しています。鍛えるというならば水精霊ごときに殺された狩人もどきのほうでしょう。近代兵器を利用することに反対するわけではありませんが、協会でそういった狩人が増えてからは質の低下が激しいもので」
「言い方は辛辣だが、まぁお前さんの言うとおりだな」
とげのある言葉にラッセルが渋々ながらも頷いて見せる。
しかし言っておかねばならないこともあるため、ラッセルは声の主である遊佐総一郎を睨みつける。
アンダーフレームの眼鏡に髪を後ろに流した釣り目の男。
外見がすべてというわけでもないが、この男は外見通り気に喰わない厭味ったらしい男だとラッセルは常々感じている。
「だが銃火器は狩りの役に立つものだ。それにこの先技術が発展していけばいつか必ず魔女どもを打ち倒せるような兵器が出てくる。その時のためにも今から狩人は近代兵器に慣れておくべきだろうし、俺の主観だがいつまでも古臭い斧や剣に執着しているからグリムの数は減らず魔女どもにも勝てないんだ。遊佐、お前の言う通り狩人の質の低下は問題だが、それと俺が進める近代兵器化は別問題だと言っておくぞ」
「完全に別問題とも言えない気はしますが、まぁいいでしょう。私は結果的にグリムが殺せるなら構いませんよ」
ラッセルの威圧を含んだ言葉に対し、遊佐は鼻で笑うようにして肩をすくめるばかりだ。
場の雰囲気が険悪になったのを感じ取り、この場の代表である山崎は「少し落ち着こうか」と言葉を発する。
山崎の言葉に場が静まったのを見たカザリは誰にも気づかれないよう小さく息を吐いた。
自分は直接関係ないとはいえ、超一級の狩人の威圧は心臓に悪い。
「狩人の教育に関してはアルメルが中心となって設立したアカデミーがその役を担う。ラッセルの言う近代兵器化はそこで検討することにしよう。ただ最も大切なことはグリムを狩る手段ではなく手段を選び取る知識だ。斧でも銃でも罠でも霊薬でもいい。グリムを狩りとる最良の方法を選び取れるよう教育をすることこそが、良質な狩人を生み出すことにつながることだと私は信じている」
山崎の言葉に狩人一同が沈黙しているのは同意しているからだろう。
そうしてアルメルの発言から発した狩人の教育問題に関する議論は終了となった。
残ったのは本来真っ先に議論すべき問題のみだ。
「さて、では改めて議論したいのは上野に現れた瀲の魔女への対応についてだ。率直に聞きたい。瀲の魔女について諸君はどう思う?」
「ミュージアムとやらが閉じているのはもう確認したんだったな? なら危険はないと思っていいんじゃないか」
「私も同感よ。愛弟子の報告じゃ人間に恨みを持っている様子もないし、暁や燎と違って好戦的な魔女には思えないからね」
ラッセルとアルメルの意見は同じだ。
魔女の目的がミュージアムという場所でコレクションの感想をもらいたかった、ということだけなら本来は人を傷つける目的はなかったのだろう。
結果的に犠牲は出てしまったものの、これ以上こちらから手を出さなければ問題はないという認識だ。
「それはどうでしょうか。人への恨みつらみなど関係なく、魔女は気まぐれで人を殺す生き物ですよ? 現に今回もダンジョンに入り込んだ人間や狩人をすべて殺すつもりだったという発言もある。放置するのは危険でしょう」
「上野のダンジョンはもう閉じているんだぞ? それなのにわざわざ入り口を探して魔女を討伐しに行くってことか?」
「それが本来の狩人では?」
遊佐はラッセルとアルメルとは正反対のようだ。
確かに狩人としては危険性のあるグリムを放置するなど本来はあり得ない。
これが魔女ではなく別のグリムであればラッセルとアルメルも討伐を支持しただろう。
二人が静観を支持するのはひとえに魔女というグリムの危険性の高さからだ。
「あなたはどう思いますか?」
遊佐が意見を求めたのは今だ発言のない最後の特等狩人。
ラッセル、アルメル、遊佐と同格の狩人でありこの中で最年少の女性だ。
印象的な紅の瞳に頭をすっぽりと覆ったフード。
意見を求められて困っているのか、フードからこぼれたグレーの髪が胸元でゆらゆらと揺れている。
「あなたは魔女の危険性をこの中では一番理解している狩人ですからね。私と同じ意見ではないですか? クルトさん」
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