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瀲の魔女⑫

フィズが事前に言っていた通りスロージアの見た目はプラムそっくりだ。

異なるのは暗色の赤髪とドレス、そしてプラムとは明確に異なる大人びた雰囲気と所作。

ティーカップを優雅に持ち上げじっくりと味わい、ほうと満足げに一息つくのをプラムが横で嬉しそうに眺めている。

なんとなくフィズもあんな感じで自分を見ているときがあるなと累が考えていると、フィズが一歩前へ踏み出した。

いつもとは逆の庇われるような立ち位置に戸惑っていると、フィズは気さくにスロージアへと言葉を投げかける。


「お久しぶりです。スロージアは累さんと合うのは初めてでしたよね?」

「そうね。話には聞いたけど合うの初めてよ」


海に浮かぶ夕日のような色の瞳が累の足先から頭までをじろりと見渡した。

敵意のある視線ではないが値踏みされているようで居心地が悪い。


「まぁ悪くないんじゃない。中はともかく外はあんたが作ったんでしょ? だったら綺麗なのは納得だしね」

「言っときますけど私は忠実に再現しただけで外見は累さんそのままですからね。変にいじってないですから。累さんは最初から美しいという話です」

「はいはいどっちでもいいよ。別に興味ないし。あんただって私がプラムの自慢したって興味ないでしょ」

「それはとても興味ないですね」

「なんかムカつくけど……まぁそういうことよ」


にこにこと紅茶を注いでいる今の姿はともかく、入り口で狩人を入れた挙句に嘘をつこうしたプラムの自慢できる点ってなんなのだろう。

累としてはスロージアがプラムのどんな自慢をするのか気になったのだが、フィズが興味ないらしいのでそれを聞く機会はもらえなそうだ。


「ところで私たちのミュージアムはどうだった? 感想聞きたいんだよね~」


ふと思い出したように質問をしてくるスロージアの顔は明るい。

まともに見たのは最初のエリアだけなのだが、なんとなくこのミュージアムは問題が多いように思う累はどう答えようかちょっと考え込んだ。

フィズなら思ったことをそのまま言いそうだが、累はバーテンダーとしてお客と会話することもあるので思ったことをそのまま口に出してはいけないということを知っている。


「私とフィズが見られたのは最初のエリアだけなんだけど、展示してあった美術品は面白かったよ。もう少しゆっくり見たいなと思ったくらい」


これは本当だ。

一応仕事中だからと急ぎ足に見たせいで順路に近いものしか見ることができなかった。

離れた場所には絵画以外にも石像や骨とう品に武具のようなものも見えたので、もし次回があるならきちんと見たいなと思っていたのである。


「あ、そうかタイミング的にそこしか見れてないか。でもいいじゃん。いい反応だね」

「よかったねスロちゃん!」

「しいて言えば誰の作品とか、何を題材にしたのかとか、そういう記載があるとよかったかな」

「なるほど。プラムメモってる?」

「メモってるよ。えへへ。えらいでしょ?」

「えらいえらい。累もえらいよ。いいアドバイスじゃん」

「累さんですからね。まぁ私の感想としてはあの魔女の絵はちょっとどうかと思いましたけど」


そういえばあの絵をフィズは嫌がっていた。

あの時は邪魔が入って聞けなかったが、どういう背景で誰が描いたのだろうか。

とそんなことを累が考えていると、予想外にスロージアがその話をしてくれた。


「なんでよ。あれは私たち魔女が初めて全員そろったときのことだし、せっかくだから記念に残そうと思ってわざわざルビエルに頭下げて描いてもらったんだから」

「あれルビエルが描いたんですか。なるほど、だから自分だけ美化されてたんですね……」

「そうそう。まぁ描いた本人だしそれくらいはさ。ルビエルのことは正直苦手なんだけどいい絵を描くのよね~。まぁこの話はいいよ。そっちの人間はどう? このミュージアムの感想は何かない? この二人よりはいろいろ見て回れたでしょ」


話の内容的にルビエルというのは同格の魔女らしい。

累は魔女が初めて全員集まった時の絵、ということをもう少し掘り下げたかったのだがその前にスロージアが別の話を始めてしまった。

またタイミングを逃した形にはなったが、フィズも嫌がっているし無理に聞き出すのも悪いと思い累はそのまま黙って会話に耳を傾ける。


「感想か。何といえばいいのか。正直今まで見てきた美術館や博物館とは大きく異なったものだから比較ができない。端的に言えばとてつもない刺激と興奮を与えてくれた。実に素晴らしいと思う」

「あははは! いい反応! 頑張って造った甲斐があったって感じするわね」

「ただ、ここはとても広いな。私のような老人には少しきつい。ベンチなどの休める場所があると助かるな」

「プラム、メモメモ」

「大丈夫だよスロちゃん。ちゃんとメモってるよぉ」

「あとはこの最後のエリアだが、実にいい体験をさせてもらった。しかし後をついていた家族はいつの間にやら姿を消していたし、怪物がいるような場所なのだろう? 出口もわからぬようでは生きて出るのは難しいんじゃないのか?」


それはミュージアムでは致命的だよね、と累もうんうんと頷いて同意してしまう。

フィズも「そりゃそうですよね」とつぶやく始末だ。

だがそんな入場者たちに対してスロージアはあっけらかんと言い放つ。


「それは仕方ないじゃん。あんたら全員殺すつもりだったから」

「な……なに? 殺す? どういうことだ?」

「いや最初は普通に出してあげるつもりだったんだけどさ、狩人が入ってるってなると面倒で。そのまんま出したら協会に私がいることがばれるしミュージアムに攻め込んでくるかもしれないじゃない? バキシェやジンリーと違って私は協会と真正面からやりあうつもりはないから、だったら今ここに入ったのを全員始末すれば丸く収まるじゃん。普段はちゃんと出られるように道順も作ってあるし看板もあるし入場者を守る精霊だって用意してたんだから」

「精霊って……ウンディーネか。あれほんとは逆の立場だったわけね」

「入場者を守る立場が殺す立場になるって笑えませんね。ってかそれで言ったら狩人をあっさり入れたプラムの責任じゃないですか」

「え!? プラムを責めるの!?」


驚いているけど責任はないと思っているんだろうか、と累は苦笑いしてしまう。

もっともそのプラムを利用して侵入したようなものなので累は責めずに黙っているが。


「プラムはいいよ。もう起きちゃったことは仕方ないし、アップルパイ作ってくれたから帳消し」

「はぁ!? 甘やかしすぎですよ!」

「いいじゃん別に私らの問題なんだから! フィズだってどうせ累に甘いくせに!」

「累さんはこんなくだらないミスなんてしません!」


フィズの白い肌にぴきりと青筋が立っているが、なんだかとてもくだらないことで喧嘩をしているように思える。

もっと話すべき大事なことがあるのでは、と思えてならない。


「な、何が起こってるんだ?」

「この喧嘩自体はくだらないというか……」


私の累さんが、うちのプラムが、と魔女のどうしようもない喧嘩に戸惑っている老人にどう説明したものかと累は頭を悩ませた。

とにもかくにも巻き込まれただけの老人は怒ってもいいと思う。

しばらくフィズとスロージアのうちの子はこれだけ素晴らしいのよ、という親ばか自慢にも似た言い合いが続いた。

海の静かな波音とミスマッチな魔女の言い合いに、これいつ終わるんだろうと累がげんなりとし始めたころ、急な悪寒に累とプラムが空を見上げた。


そこにあるのは太陽と錯覚するほどの灼熱の輝き。

そしてその輝きに満ちているのは明確な殺意。


「フィズ!」

「スロちゃん!」


それぞれの魔女を助けるべく、累とプラムが叫んだ。

読んでいただきありがとうございます。

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