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刑と燎⑯

「問題? よい。余に隠すところはないのだから、二人にも聞こえるように話せ」

「少しくらい隠してくれてもいいですけどね。肌面積とか」

「先輩いいこと言うなぁ」

「ではご報告します。ロイヤル様が所有している城のうち二百十二番目の城で問題が発生したようです」


二人の言葉を聞こえていないのか無視しているのか、まったく意に介さずクリスがそう報告してきた。

しかし具体的な問題とやらが何なのかはまだわからないが、今の発言だけでもルシアンには疑問に思う所が多々ある。


「城の数多くねぇか?」

「世界中の城を勝手に自分のものにしてるんですよ。しかも城の残骸みたいなものも含まれてますし、見た目が城だからって理由で某テーマパークの城も入ってます」

「某テーマパークってあれか。いや確かに城だけどマジの城じゃねぇだろ」

「余は世界で唯一の王なのだから世界中の城も余の城であるのは当然の理だな。フィズたちが言っている城はきっとアレだろう。夜に行けば花火がよく見えるところの。余のお気に入りスポットなのだぞ」


この調子であればおそらくこの間旅行で訪れた首里城も城だからとカウントされているに違いない。

下手をすれば外見が城だからと男女が休憩するホテルなどもカウントされているのではないだろうか。

王というにはあまりにも節操がなさすぎる。


「それで余の城で起きた問題とは何なのだ。というかその城はどこのだったか」

「二百十二番目の城は堅牢な城壁に鮮血を模した屋根や壁が特徴的で、ロイヤル様が保有される中でも特に巨大です。建築したのは真祖の一人ですが、その彼が狩人に狩られて以降は吸血鬼たちが年に一度マスカレードナイトを開く場所として利用されています。マスカレードナイトを訪れる吸血鬼向けに港や線路なども敷設されているのが特徴的ですね」

「え? マスカレードナイト?」


それは随分とタイムリーな城だ。

ルシアンが視線をフィズへと向ければ先ほどまでと打って変わって興味深そうにクリスを見つめている。

累がいる場所で起きた問題ともなればその気持ちは察してしかるべきだ。


「ああ、吸血鬼たちが大騒ぎするアレか。そういえば時期的に今ごろだったか……人の城で勝手に騒ぐのは止めてほしいのだがな」

「そういうことであれば追い出しますか?」

「いや吸血鬼も余の民には変わりない。数年に一度の祭りくらいは大目に見てやるべきだろう」

「さすがはロイヤル様。寛大な心に吸血鬼たちも涙を流すに違いありません」

「そもそもロイヤルの城でも民でもないですけどね」


まったくもってその通りなのだがフィズの言葉は二人には聞こえなかったらしい。

さっきのよく聞こえるロバの耳はどうしたんだという言葉を飲み込むようにルシアンはティーカップに残った紅茶を喉へと流し込んだ。


「では報告を続けます。先ほどロイヤル様の話にもありましたが、現在吸血鬼たちによる宴が催されております。しかしどう侵入したのかそこを狩人が襲撃したようで、おかげで現地は大混乱となっている様子です」


例の件だ。

となれば今頃累やハクたちはヨーロッパの狩人とともに吸血鬼を狩っているはずだが、それが問題だということならばフィズやルシアンからすれば想定通りのことである。

だがクリスの言う問題はそれで収まらないようだ。


「狩人が。ふむ。民同士で殺しあうのは困るのだが、狩人はグリムを狩るのが仕事だからな。まぁそういうことなら仕事をしているだけだ。特に問題とすることはないだろう」

「結構いろいろ言うの我慢してたんだけどよ、狩人もグリムも民扱いなのはおかしくねぇか? しかもその民が殺しあってていいのか?」

「おかしいですよねぇ。言っても無駄なんですけど」


これまたロイヤルとクリスには聞こえなかったようで、話はルシアン達を無視して先へ進んでいく。


「はい、それだけであれば問題ないのですが、吸血鬼と狩人の戦闘にバキシェ様も参戦なさったようです」

「何? バキシェが?」


件の魔女がとはこれまたタイムリーなことだ。

しかし気になるのは累やハクがいる場所に吸血鬼だけでなくそのバキシェという魔女が現れたことであり、二人の安否が——ルシアンにとっては特にハクが——気になるところだ。


「バキシェが我が城に……」

「ちょうどいいじゃないですか。今すぐそこに向かいましょう」

「やっぱりそう言うと思ったぜ……。いいのかよ。家で静かにしてるようにって言われてたのに。ここにいること自体結構グレーゾーンだぜ」

「緊急事態なのでセーフですよ。第一バキシェがマスカレードナイトに参加したなら、もう私が行ったところで魔女だなんだと騒がれることもないでしょう。一人二人増えても一緒です。ルシアンだってハクのことが気になるでしょう?」

「それはそうなんだけどよ」


確かにフィズが行けない理由としては吸血鬼に魔女だとバレるからということだったので、バキシェの参戦によってそれが意味をなさなくなった今ではフィズを止める理由がない。

それにこれまたフィズの言う通りなのだが、ハクがそんな状況で無事なのかと考えればルシアンとしてはここで落ち着いて座ってもいられない。

そんな二人の様子をぽかんと見つめているのはロイヤルだ。


「むう。二人は何の話をしているのだ?」

「こっちの話なので気にしないでください。それよりロイヤルならすぐその城に行けるでしょう?」

「余の城だから当然だな」

「じゃ連れてってくださいよ。ロイヤルだってバキシェをお茶会に誘ういい機会ですし」

「ふむ。確かにいいタイミングだな。よし。フィズもいることだし、久々に魔女三人で交友を深めるとするか」

「……交友を深められるかは知りませんけど」

「こんなことならスロージアとジンリーも呼べばよかったな。今からでも間に合うか?」

「いや止めて下さい。絶対面倒なことになるので。ほら人数が多いとまとまる話もまとまらないでしょう。まずは少数で話したほうが効果的ですよ」

「そうか? そういうことなら止めるか」


余計な手間を増やすなというフィズの思惑が透けて見えるようだったが、ひとまずロイヤルは納得したようでほかの魔女が呼ばれるようなことはなくなったようだ。

ルシアンからするとほかの魔女を見て見たかった気もするが、フィズの表情からするとよほどの面倒が起きると思われたためこれはこれで構わない。

とにもかくにも今は現地に向かうほうが優先だ。


「では早速向かうとするか。来い! わが愛馬!」


ばっと立ち上がったロイヤルは片手を夜空に掲げるように突き上げる。

もう裸体を見せつけるようなポーズは止めてくれないかなとルシアンが辟易していると、どこからか馬のいななきが響いた。

見れば夜空に流れ星のごとく光り輝くものがある。


「ふははは! 見よ! あれこそ我が愛馬! ヘッドレスだ!」


その名の通り頭部がなく、頭があるべき場所では青白い炎が燃え盛っている。

馬体はサラブレットのしなやかな体つきとは異なり強靭で逞しく、風にたなびくたてがみは艶があり品格が感じられた。

デュラハンが騎乗する首なし馬というイメージそのものだが、名前が一般的に広まっているコシュタ・バワーではないのはロイヤルのオリジナル性によるものなのか。

とはいえ唯一にして最大の問題点を除けば名前の違いも些細なことだ。


「まーた金ぴかかよ」

「眼が疲れますねほんと」


ヘッドレスも光り輝いているのだ。

金色のたてがみはもちろん馬体も主であるロイヤルに負けず劣らず光り輝いており、下手をすれば吸血鬼などは太陽の光と間違えて灰になるのでは、などと馬鹿な考えが浮かんでしまう。

ペットは飼い主に似るというがここまで似なくてもいいだろう。


「首なし馬のおどろおどろしいって感想より眩しいって感想が先に出るのおかしいよな」

「首がないことに目がいかないですからね」

「もう一生分の光を浴びた感じだぜ。これ以上付き合うと体に異常が出るんじゃねぇかなぁ……」

「マスカレードナイトにつくまで我慢です」


颯爽とヘッドレスにまたがるロイヤルはその動作だけを見れば凛々しいのだが、いかんせん鎧どころか下着すら身に着けていないのだから格好がつかない。

ぴかぴかとまぶしい痴女がぴかぴかとまぶしい馬にまたがる様はもはやデュラハンの恐ろしさなど微塵もなく、ただ単にまぶしく目が痛い。

ルシアンの内心に「あれ股間が痛くならないだろうか」という疑問や「これでマスカレードナイトに参加して笑われないだろうか」という不安が沸き上がる。


「二人は後ろの馬車に乗るがよい。特別に余が御者として案内してやろう」


そう告げられて視線を動かせばヘッドレスの後方に馬車がいつのまにか用意されており、ヘッドレスとは青い炎で繋がっている。

馬車自体も例のごとく光り輝いているがもはや今更なので、二人は黙ってその馬車へと乗り込んだ。


「中も金色っておかしいだろ。落ち着かねぇ……」

「ロイヤル様は人も物も輝いているのがお好きなので」


そう言いながら馬車へと後から乗り込んできたのはクリスだ。

中へと入ってルシアンの隣に座るとぱたりとドアを閉める。


「あれ、クリスもついてくるんですか?」

「魔女が三人も集まるわけですから、パートナーである私もご一緒したほうが良いかと。さて、ロイヤル様。全員乗り込みましたので出していただいて大丈夫です」

「そうか! では行くぞヘッドレス! はいや!」


高笑いとともにロイヤルがヘッドレスの脇腹を蹴れば、いななきとともにヘッドレスが中庭の大地を力強く蹴り空へと駆け出した。

馬車も続いて空へと舞い上がり、死を運ぶという首なし馬に相応しい速さで夜空を駆ける。

あまりの速さに一筋の光となりながら、一行が向かうはマスカレードナイトの居城。

そこで宴を楽しんでいたはずの吸血鬼たちにとって、狩人以上の絶望が輝きとともに近寄ってきていることを、彼らはまだ知らない。

読んでいただきありがとうございます。

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