刑と燎⑮
まぁ久しぶりに会ったのだからじっくり茶でも飲みながら話そうではないか、とロイヤルに連れられてやってきたのは城内にある庭園だ。
少しは落ち着けるかとルシアンが思ったのもつかの間、その庭園に咲く花々や木々ですら黄金で彩られており、中心に置かれたテーブルとイスも負けない金の輝きを放っている。
ここまでくるとセンスというよりも病気だなと感じつつ、見上げた空が普通の夜空だったことにルシアンはひとまず安心した。
「どうだ? クリスの淹れた茶は絶品であろう」
「確かにうまいな」
ルシアンの率直な言葉にロイヤルの背後に控えていたクリスが軽く頭を下げて見せた。
もはや当たり前の金色のカップはともかく、幸い中に入っているハーブティーが金色に輝いているようなことはなく、口に入れた時の芳醇な香りが心地よい。
ハーブティーのおかげかここを訪れてからようやく一息付けたという所だ。
ちなみにテーブルに座ったおかげでロイヤルの全裸面積が視界の上では減って見えるというのも精神的な安らぎが大きいかもしれない。
「バキシェのことなんか放っておけばいいんじゃないですか? 手を出したら面倒でしょう」
「そうもいかん。王として余は愚かな民を導く立場にある。バキシェも余が導いてやらねばな」
「バキシェが聞いたら怒ると思いますけど」
愚かな王に愚かと言われたらそりゃ怒るだろうな、と思ったがルシアンは賢いので当然口には出さない。
「それにバキシェがあの様子ではカカオラも安心しないだろう。カカオラの代わりに我らで止めてやらねばならん。同じ魔女としてな」
「魔女同士の繋がりなんて薄いものですよ」
「そうだろうか。余が思うにカカオラがいたころはもっと皆仲が良かったぞ」
「そうですかねぇ」
「フィズはいなかったからな。ぼっちなら知らなくても仕方ない」
「その言い方止めてください」
「事実ではないか。まぁ嫌なら今度から言い方を変えよう。さて話を戻すが、余が考えるにバキシェはカカオラがいなくて寂しいに違いない。なので余たち生き残った魔女が寄り添ってやればきっと明るくなるはずだ」
自信満々といった様子で頷くロイヤルに対してフィズは生暖かい視線を向けていた。
子供が考えた案を大人がそんなにうまくいくわけあるかと突き返せない時の表情に似ている。
「まぁバキシェをどうにかしたいってことはわかりましたけど、それが何で魔女裁判をすることに繋がるんですか?」
「わからぬか。まぁ仕方ない。では聡明な余がフィズに説明しよう」
「ちょっとイラっとしますね。その言い方」
聡明であるなら服を着るという常識に気付いてほしいところだが、残念なことに王はそこまで万能ではないらしい。
今はフィズに勝ち誇って鼻高々と自分の考えを述べるのに夢中なようだ。
さてどれほど納得感のある答えを聞かせてくれるのか。
「魔女裁判をすれば魔女が集まり親睦も深まるではないか。実に合理的だ」
「それだけですか?」
「それだけだ。フィズが思うよりも物事はシンプルなのだぞ」
確かに物事は突き詰めると意外とシンプルな理由だったりするが、今回の件は特に突き詰めてもいないのにあっさりとした理由だった。
シンプルというよりも単純というべきか。
「……それお茶会でよくないですか?」
「ん?」
「いやだからお茶会。前みたいに魔女同士話がしたいってだけならお茶会すればいいじゃないですか。わざわざ魔女裁判なんて物騒なことしなくてもいいでしょう。余計にバキシェが反発するじゃないですか」
ルシアンからすると魔女裁判とやらが何なのかはわからないものの、言葉の意味から考えればお茶会のほうがずっと穏やかな印象だ。
そんな至極当たり前の指摘にロイヤルはぽかんとした顔で固まっている。
神々しいまでの光は変わらないが、その中心にいる人物は何とも間抜けな顔だった。
「ただ話がしたいだけなんですよね? 逆に何で魔女裁判をしようと?」
「いや、余が魔女同士話をする時間が欲しいなとジンリーに相談したら、魔女裁判がいいと言われたのだ。皆集まるし、余も確かにその通りだなと思ったのだ」
「裁判で何を裁くか話したんですか?」
「バキシェがやりすぎだからちょうどいいとジンリーが言っていて、余も確かにちょうどいいなと思ったのだ」
「……ジンリーに騙されてるとか思わないんですか?」
「む? いやジンリーはいい奴だ。余の相談にも乗ってくれるしな。とはいえ確かに言われてみればただのお茶会でもいい気がしてきたな……」
「はぁ。ジンリーは縄張りを増やしたいからバキシェが邪魔なんですよ。もうちょっとよく考えてください」
凛々しい顔をしているくせになんとも抜けた魔女である。
子供らしい外見のスロージアのほうがよほどしっかりしていたし、こんなに浅い考えでは民が苦労するのでこのまま永遠に自称王様でいてほしいところだ。
少なくとも自分の上には立ってほしくないなとルシアンは思うのだが、ロイヤルの背後に佇むクリスは違うらしい。
「ではお茶会に変更ということでよろしいでしょうか」
「うむ! お茶会に変更だクリス!」
「かしこまりました」
「そんな簡単に変えるのかよ」
「ロイヤルは昔からこうです」
「優秀な王は一つの案にこだわらず、常に配下の意見を取り入れるものだ。これも余の懐の大きさ故よ」
「配下になった覚えはないですけどね」
「ほかの王には真似できない柔軟な判断。さすがはロイヤル様」
どことなくクリスの発言が皮肉めいて聞こえるが、言われた本人は喜んでいるようなのでまぁいいのだろう。
「ところでバキシェだけでなくフィズのことも余は懸念していたのだが、久しぶりに会ったら随分と雰囲気が変わったな。最初は別人かと思ったぞ」
「私はバキシェと違って今の生活に満足してますからね」
「ふむ。あの噂の人形のおかげか?」
「そういう言い方止めてくださいよ。ロイヤルだってクリスのことを物みたいに言われたら嫌でしょう」
「クリスは余にとって優秀な処刑人だからな。確かに物みたいに言われるのは嫌かもしれん」
魔女というものはパートナーを自分で創造するのだと、ルシアンは累から直接聞いたことがある。
フィズの累に対する執着ぶりを見て魔女とパートナーというのはこういうものなのだと思っていたが、ロイヤルとクリスの関係はフィズたちとは少し違うようにも思えた。
少なくとも部屋中にパートナーの写真を貼ったり、一分一秒離れていたら会いに行こうとするような雰囲気はない。
思い起こせばスロージアとプラムの関係性もフィズと累とは違っていたようなので、魔女ごとにパートナーとの関係性は異なるもののようだ。
とはいえ魔女にとってパートナーが重要な存在であるということは間違いないに違いない。
「それに最近はルシアンみたいに傍にいる人も増えましたからね。昔よりは居心地がいいですよ」
その一言はルシアンにとっては少し意外だった。
フィズは累以外に興味がなく、ハクも含めてその他扱いされていると思っていたのだが意外と大事に思われているらしい。
であれば皇居の時などはもう少し優しくしてくれてもよさそうなものなのだが。
「何ですかその顔?」
「いや意外だなと思って……あ、言っとくけど嬉しいんだぜ?」
「それはどうも。ランクとしては累さんのずっと下ですけどね」
まぁそれはそうだろうなと思ったのでルシアンも特に言い返したりはしない。
ひとまずその他大勢の括りでないというだけでもバーでの働き甲斐があるというものだ。
「そういえば二人は同僚だと言っていたな。結局何をしているんだ?」
「言いません」
「なぜだ」
「言ったら面倒なことになるからです。ただでさえおかしな客が多いのに全裸の痴女が現れたら困ります」
「別に余は痴女ではない。王として相応しい格好をしているだけだ。それにしても客ということは何か店でも経営しているということでよいのか?」
ロイヤルの視線がルシアンへと移動した。
フィズが話さないならお前が話せということなのかもしれないが、ルシアンの答えは決まっている。
「先輩が言わないのにアタシが言えるわけないだろ。言ったら殺されちまうよ」
おそらく冗談ではなく殺されてしまう。
いや先ほどの言葉からすると殺されないかもしれないが、痛い目にあわされるのは確実だろう。
それにルシアンとしてもあの店は気に入っているのでそこに全裸の痴女が現れて客が減るようなことは避けたい。
「そこまで断られては仕方ないな」
「スロージア様がご存じのようですので、今度折を見て聞いてみてはいかがでしょうか」
「なるほどそれはいい! そうしよう!」
問い詰められて嫌な顔をするスロージアと光に眼を潰されて苦しむプラムの顔が脳裏に浮かぶ。
バーの平和のために彼女たちには頑張ってほしいところだ。
そんな風にルシアンが内心で双子を応援していると、クリスが眉をひそめて手に持っていた羊皮紙を何枚かめくりあげた。
そうしてロイヤルへと囁く。
「ロイヤル様。少々問題が」
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