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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん
大聖樹の異変

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第99話 魔人の少女の名前と、大聖樹からの招待

食事と後片付けを終えた俺たちは、再びオリエンスへ向かって歩き始めた。


空は少しずつ夕方の色へ変わっている。


遠くに見える大聖樹は、相変わらず街の向こうへ大きく枝葉を広げていた。


少女は俺の隣を歩きながら、時々森や空へ目を向けている。


さっきまで料理を食べていた時とはまた違って、見るもの一つ一つを確かめているようだった。


その後ろには、ウンディーネの水の拘束具で繋がれたアドヴァースの連中が続いている。


逃げようとしても拘束は外せないので、今のところ大人しく歩いていた。


しばらく街へ向かって進んだところで、前方から複数の人影が近づいてくる。


鎧を着た兵士たちだった。


大聖樹の異変を受けて、街の外周を巡回している部隊だろう。


向こうもこちらへ気づいた。


俺たちの姿を確認した兵士たちは、その後ろへ連なる拘束された集団を見て一斉に足を止める。


先頭の兵士がすぐに剣へ手を掛けた。


「そこで止まれ!」


「俺はフトシです。王命で大聖樹の異変を調査していました」


名乗ると、兵士の表情が変わった。


俺の顔まで知っていたのか、すぐに剣から手を離す。


「フトシ殿でしたか。その者たちは……?」


「地下で異変の原因を見つけました。この者たちは、その拠点にいた者たちです」


それだけで十分だったらしい。


兵士たちの表情が一気に引き締まる。


「地下に拠点が?」


「はい。詳しいことは王城で報告します。全員アドヴァースの構成員です」


周囲の兵士たちが捕虜へ視線を向けた。


先頭の兵士はすぐに部下へ指示を出す。


「ここからは我々が連行します」


「お願いします。この拘束具はウンディーネが作ったものです。本人たちには外せないようです」


兵士が透明な水の拘束具を見て、少し驚いた顔をした。


「水……ですか?」


「見た目はそうですけど、無理に触らない方がいいと思います」


ウンディーネ本人より強くなければ外せないらしいので、普通の兵士が何かする必要もないだろう。


兵士たちは捕虜を引き取り、人数と拘束状態を確認していく。


そのうち一人が先触れとして街へ走っていった。


(やっと任せられる……)


地下からここまで人数をまとめて連れてくるのは、思っていたより気を使った。


これで捕虜の管理は王国側へ任せられる。


俺たちは兵士たちと一緒にオリエンスへ戻り、そのまま王城へ向かった。


王城へ着く頃には、すでに話が通っていた。


捕虜は別の場所へ連れていかれ、俺たちはすぐに城内へ案内される。


通された部屋には、イザベラさん、ザディスさん、セバスさんが待っていた。


「戻ったか」


イザベラさんが俺たちを見る。


その視線が、隣にいる少女で少し止まった。


「随分と増えたようだな」


「そのことも含めて、ご報告があります」


「うむ。聞こう」


俺は今回分かったことを順番に説明した。


大聖樹の異変の原因は、地下へ設置された魔力導出設備だったこと。


大聖樹の根そのものを傷つけず、周囲へ術式を組んで、根を流れる魔力だけを少しずつ抜き取っていたこと。


その設備が地下の複数地点に設置され、奪われた魔力は一か所へ集められていたこと。


そして、その送り先がアドヴァースの地下拠点だったこと。


「なるほど。それで地上から大聖樹を調べても、直接攻撃された痕跡が出なかったわけか」


ザディスさんが腕を組む。


「はい。根を切ったり、杭を直接打ち込んだりはしていませんでした」


イザベラさんの表情が険しくなった。


「随分と回りくどい真似をしてくれたものだ」


「大聖樹と木の精霊から魔力を奪い続けたことで、常春の加護を維持する力も落ちていたんだと思います。街や山が冷え始めたのも、それが原因かと」


「吸収は止めたのか?」


「はい。拠点にあった中枢を壊しました。ウンディーネにも確認してもらって、大聖樹から新しく魔力が抜かれていないことまでは確認済みです」


セバスさんが静かに頷く。


「では、原因そのものは取り除けたのですね」


「少なくとも、魔力を奪い続けていた仕組みは止まりました。ただ、木の精霊がどの程度弱っているのかまではまだ分かりません」


「ウンディーネ殿は?」


「直接確認しに行っています。夜には戻ると言っていました」


イザベラさんは少し考えたあと、頷いた。


「ならば、そちらは大精霊殿の帰還を待とう」


俺も頷き、地下拠点のもう一つの目的を伝える。


「アドヴァースは、奪った魔力を魔神召喚に使おうとしていました」


部屋の空気が変わった。


「やはりか」


イザベラさんの声が低くなる。


以前の件も知っているので、驚きより納得の方が大きいようだった。


「俺たちが中枢を止めようとした時、拠点の責任者が蓄積していた魔力を召喚術式へ強制的に流しました。召喚自体は発動しましたが、必要な魔力量も工程も足りなかったみたいです」


そこで、俺は隣の少女を見る。


少女もこちらを見上げた。


「その結果、生まれたのがこの子です」


イザベラさんたちの視線が少女へ集まる。


少女は特に怯えることもなく、三人を順番に見ていた。


「【鑑定】では、種族は魔人と出ました」


俺は分かっている範囲だけを説明する。


魔人は魔神とは別の存在で、精霊に近い性質を持つこと。


自然属性よりも、魔力そのものに近い存在であること。


魔力操作能力が非常に高く、老化による寿命も持たないこと。


この少女は大聖樹から奪われた大量の魔力を使って生まれたため、生まれたばかりでも普通の精霊を上回る魔力を持っていること。


ただし経験は何もなく、召喚時に言語や生活に必要な基礎知識を与えられているだけだということ。


そして魔人は、悪意や憎悪などの強い負の感情を意図的に大量に取り込み、自分の魔力へ同化させながら変質すると、魔神へ至る場合があるらしいことも伝えた。


「ですが、今のこの子はそういう状態ではありません」


イザベラさんが少女をじっと見る。


「召喚された後も争いにはなりませんでした。普通に話が通じますし、ここまで一緒に行動していて問題もありません」


俺が言えるのは、実際に見てきたことだけだ。


この先も絶対に何も起こさない、なんて保証まではできない。


「それと、この子自身が、これからも俺と一緒にいたいと言っています」


「ほう?」


イザベラさんが少女へ視線を向けた。


「それはお主自身が望んでいることか?」


少女は迷わなかった。


「うん。フトシと一緒にいたい」


「そうか」


イザベラさんはそれだけ答え、今度は俺を見る。


俺は姿勢を正した。


「もし何かあれば俺が責任を取ります。この子を、このまま俺たちと一緒に連れて行くことを許可していただけないでしょうか」


イザベラさんが瞬きをした。


少しの間、本当に何を言われたのか分からないような顔をしている。


やがて口元が緩んだ。


「お主は本当に妙なところで律儀だな」


「え?」


「その者は何か罪を犯したのか?」


「いえ」


「誰かを害したのか?」


「いえ」


「ならば、余が何を許すというのだ」


言われて、俺の方が黙ってしまった。


イザベラさんは少し笑いながら少女を見る。


「魔人という珍しい種族だからといって、何もしておらぬ者を拘束する理由にはならん」


その声は、すぐに王としての落ち着いたものへ戻った。


「しかも、この国の中で生まれたのであろう?」


「はい」


「ならばなおさらだ。この国で生まれた者を、珍しいからというだけで牢へ入れたり、勝手に扱いを決めたりするつもりはない」


少女もイザベラさんの話を静かに聞いている。


「本人がお主と行きたいと言い、お主もそれを望んでいるのなら、好きにせえ」


ようやく肩の力が抜けた。


「ありがとうございます」


「礼を言われることでもない」


イザベラさんは苦笑した。


隣ではセバスさんも少しだけ口元を緩めている。


ザディスさんは少女を見てから、ふと首を傾げた。


「ところで、その子の名前は何というんだ?」


「……あ」


俺は少女を見る。


少女も俺を見る。


そういえば、まだ名前がない。


ずっと少女、この子と呼んでいた。


イザベラさんも気づいたらしい。


「まだないのか?」


「はい」


「これから一緒に行くなら、いつまでも『魔人』では不便であろう。名をつけたらどうだ」


「名前……」


少女が小さく呟く。


名前というものが何なのかは知っているはずだ。


ただ、自分自身を指す名前はまだ持っていない。


その視線が俺へ向いた。


「フトシがつけるの?」


「俺でいいのか?」


「うん」


そう言われて、少し考える。


黒い髪に黒い瞳。


角はあるが、見た目は普通の少女にかなり近い。


今まで一緒にいて、日本人っぽい名前の方が自然に似合いそうな気がしていた。


いくつか頭に浮かんだ中で、一つが残る。


「キリコ……っていうのはどうだ?」


少女が瞬きをする。


「キリコ……」


自分で確かめるように繰り返す。


それから、自分の胸元へ手を当てた。


「わたしが、キリコ?」


「そう。嫌じゃなければだけど」


少しだけ考える。


やがて少女は頷いた。


「うん。好き」


その返事に、俺も少し笑った。


「じゃあ、これからキリコだな」


「うん。わたし、キリコ」


名前を口にしたキリコの表情は、ほんの少し嬉しそうに見えた。


それで話はまとまった。


俺たちは王城を出る前に、ウンディーネが戻ったら木の精霊の状態も改めて知らせることを伝えた。


捕まえたアドヴァースと地下拠点については、あとは王国側が調べてくれる。


俺たちはそのまま保養宿へ戻った。


キリコにとっては宿を見るのも初めてだった。


受付や廊下、部屋の中まで興味深そうに見ていたが、今は一つずつ説明する必要もないだろう。


部屋へ戻ってからは、ベルがいつもの場所へ飛び、メイも床へ身体を伸ばす。


シルクは俺の頭から降り、近くの椅子へ移った。


キリコはその様子を見たあと、俺の近くに座った。


外はすっかり暗くなっていた。


少しして、部屋の中に水の気配が広がる。


何もなかった場所へ水が集まり、人の形を作った。


『ただいま』


「おかえり」


ウンディーネだった。


俺はすぐにそちらへ身体を向ける。


「どうだった?」


ウンディーネはいつもの落ち着いた顔で頷いた。


『大丈夫だったよ』


その一言で、胸の奥に残っていたものが少し軽くなった。


「木の精霊は無事だったのか?」


『うん。すごく疲れてるけど、ちゃんと元気になるって』


魔力を長く奪われ続けていたので、さすがにすぐ完全に元通りとはいかないらしい。


それでも根や木の精霊自身に、取り返しのつかない傷はなかった。


吸収も止まり、これからは大聖樹や周囲の自然から少しずつ魔力を取り戻していけるという。


「よかった……」


今度こそ、素直にそう思えた。


街の冷え込み。


大聖樹の葉。


水の異変。


ずっと気になっていたものが、ようやく解決へ向かっている。


ウンディーネはそこでキリコを見る。


『名前、ついたんだ』


「うん。キリコ」


『そっか』


ウンディーネは頷いたあと、俺たち全員を見回した。


『それと、みんなに会いたいって』


「みんな?」


『うん。今回助けてくれたみんな』


俺だけではないらしい。


ベル。


メイ。


シルク。


ウンディーネ。


そしてキリコ。


今ここにいる全員に会いたいと言っているようだ。


『わたしが今、一緒に旅してるみんなのことも知りたいって』


「へえ。木の精霊ってどんな人なの?」


ベルが興味を示す。


『おっとりしてるよ』


ウンディーネらしい短い説明だった。


それから、キリコへ視線を向ける。


『キリコにも会いたいって言ってたよ』


「わたし?」


『うん』


キリコが自分を指す。


どうやらウンディーネは、地下で起きたことも木の精霊へ話したらしい。


大聖樹から奪われた魔力が魔神召喚へ使われたこと。


その召喚が途中で終わり、キリコが生まれたこと。


自分から奪われた魔力を大量に使って生まれた存在なのだから、木の精霊が気になるのも不思議ではない。


キリコは少し考えたあと、ウンディーネへ尋ねる。


「どんな人?」


『会ったら分かるよ』


キリコはそれで納得したのか、小さく頷いた。


俺はみんなを見る。


木の精霊が無事なら、それだけでも十分嬉しい知らせだ。


その本人が会いたいと言ってくれているなら、断る理由もない。


「向こうが会いたいって言ってくれてるなら、みんなで行こうか」


「うん!」


ベルがすぐに答える。


メイが顔を上げ、シルクの耳もこちらへ向いた。


キリコも少しだけ興味を持ったように、大聖樹がある方角へ目を向ける。


ウンディーネが小さく頷いた。


『喜ぶと思う』


木の精霊の無事。


キリコのこれから。


そして新しく決まった名前。


気になっていたことが一つずつ片付いた最後に、今度は大聖樹の木の精霊本人から招かれることになった。


俺たちは明日、みんなでその古い大聖樹のもとへ会いに行くことにした。

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