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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん
大聖樹の異変

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第93話 見えない異変の手がかりと、魔王からの依頼

翌朝、目を覚まして最初に感じたのは、やはり空気の冷たさだった。


ベッドから起き上がり、窓を少し開けて外を見る。


空は晴れている。


庭園にも霜は降りておらず、水路が凍っている様子もない。


昨日より急に寒くなったわけではなさそうだが、オリエンス本来の暖かさには戻っていなかった。


遠くには、今日も大聖樹が大きく枝葉を広げている。


この距離から見る限りでは、いつも通りの巨大な緑の樹だ。


俺はしばらく眺めたあと、窓を閉めて身支度を整えた。


「さて、行くか」


部屋を出て、いつもの鍛錬場所へ向かう。


昨日は王城からの報告に対応するため、セバスさんとの鍛錬は休みになっていた。


今日はどうだろうと思いながら歩いていくと、見慣れた姿がすでに待っていた。


燕尾服ではなく、いつもの動きやすい鍛錬用の服を着ている。


「おはようございます、フトシ様」


「おはようございます。今日は大丈夫なんですね」


「ええ。昨日のうちに調査の体制は整いましたので」


セバスさんはいつも通り穏やかな表情で一礼した。


少なくとも、朝からセバスさん自身が走り回らなければならない状況ではなくなったらしい。


「では、始めましょう」


「お願いします」


俺も余計なことは考えず、鍛錬へ意識を切り替えた。


最初は足運びから始め、木棒を使って受け流しと踏み込みを繰り返す。


セバスさんの攻撃を正面から受け止めず、角度をつけて流し、そのまま空いた場所へ入る。


昨日一人で確認した動きだ。


何度か続けているうちに、セバスさんの木剣が右から振られた。


俺は半歩だけ外へずれ、木棒で軌道を逸らす。


そのまま懐へ入る。


(ここだ)


木棒の先を止めた時には、セバスさんの胴が目の前にあった。


「お見事です」


そう聞こえた直後、手首へ軽い衝撃が走る。


気づけば俺の木棒は横へ弾かれ、セバスさんの木剣が俺の肩へ触れていた。


「……やっぱり、まだ駄目ですね」


「いえ、入り方は良くなっております。ただ、好機を得た直後ほど、相手の反撃を忘れてはなりません」


「はい」


一本取れそうだと思った瞬間に返された。


まだまだだ。


その後も何度か打ち合い、いつものように鍛錬を終えた。


呼吸を整えていると、セバスさんが木剣を下ろし、少しだけ表情を改める。


「フトシ様。本日の朝食後、再び王城へお越しいただけますでしょうか」


やはり、昨日からの調査についてだろう。


「調査で何か分かったんですか?」


「いくつか確認できたことはございます。ただ……結論については、陛下から直接お聞きいただいた方がよろしいでしょう」


隠しているというより、まとまった内容をイザベラさんから説明するつもりらしい。


「分かりました。朝食が終わったら向かいます」


「ありがとうございます。私もその頃にこちらへ参ります」


セバスさんと別れ、俺は部屋へ戻った。


汗を流して着替えを済ませると、待っていたみんなと一緒に食堂へ向かう。


朝食はいつも通り用意されており、俺たちは空いている席へ座った。


ベルは自分用に用意されたパンを小さくちぎりながら、昨日のことを思い出したように笑う。


「昨日の豚汁、おいしかったね」


「寒い日にはちょうどよかったな」


「また食べたい!」


「そのうちな」


短く返しながら、俺も朝食を進める。


メイは足元で取り分けた肉を食べ、シルクも俺の近くで野菜を齧っていた。


ウンディーネも普段通り朝食を食べている。


食欲が落ちている様子はない。


ただ、時々窓の向こうへ目を向けていた。


その先にあるのは大聖樹だ。


気にはなっているのだろう。


それでも食べるものはしっかり食べているあたりは、いつものウンディーネだった。


朝食を終える頃、約束通りセバスさんが迎えに来た。


俺はみんなと一緒に宿を出て、セバスさんの案内で王城へ向かう。


案内された部屋には、すでにイザベラさんとザディスさんがいた。


中央の大きな机には、オリエンスの市街地や農地、大聖樹の位置が描かれた地図と、何枚もの報告書が広げられている。


「来てもらってすまんな。昨日から調べさせた結果が、ある程度まとまった」


イザベラさんに勧められ、俺は机の近くへ移動した。


セバスさんもその横へ立つ。


「ザディス、説明を頼む」


「承知しました」


ザディスさんが一枚の報告書を手に取った。


「まず、オリエンス市街地の複数地点で、平時より低い気温が続いていることは確認できました」


地図のいくつかの場所を指していく。


「農地でも、周囲より土の温度が低い地点が見つかっています。また、大聖樹の葉にも少量ではありますが黄変が確認されました」


昨日までに俺たちが見たものと似ている。


ただ、山の中だけではなかったらしい。


「湧き水や水路についても調べました。流量が大きく変化しているわけではありませんが、一部で水の流れにわずかな乱れがあるとの報告が上がっています」


ザディスさんは別の紙へ目を移した。


「つまり、異常が起きていること自体は、ほぼ間違いありません」


そこで言葉を区切る。


「ですが、その原因となるものが見つかりません」


俺は地図から顔を上げた。


ザディスさんは淡々と続ける。


「大聖樹には病害虫による目立った被害はありません。農地の土壌からも、毒や異常な物質は検出されていません」


さらに魔術師たちが街と大聖樹周辺を調べたものの、大規模な魔法が使われた痕跡もなかったらしい。


外側から大聖樹へ攻撃を加えた跡や、何かを直接仕掛けた形跡も見つかっていない。


魔力そのものについても、普段とは違う部分がないか何度も調べたという。


それでも、今起きている冷え込みや葉の変化へ直接結びつくような異常は捉えられなかった。


「これだけ色々起きてるのに、原因だけ分からないんですか」


「今のところは、そうなります」


ザディスさんが頷く。


国側も昨日一日でかなり調べたらしい。


何も見つけていないのではなく、考えられるものを一つずつ確認して、それでも原因へ届いていないということか。


イザベラさんが地図へ手を伸ばした。


「もう一つ、分からぬことがある」


指先が、地図に記された何か所かを順番に辿る。


「異変が、大聖樹からの距離に合わせて強くなっているわけではないのだ」


大聖樹に近い場所にも、ほとんど温度の変化が見つからなかった地点がある。


反対に、少し離れた農地や市街地で、周囲より土が冷たい場所も見つかっている。


水路も同じで、異常が確認された場所のすぐ先では特に変化がないこともあるらしい。


「大聖樹の力そのものが全体的に弱まっているだけなら、もう少し違う出方をしてもよさそうなのですが……」


ザディスさんが地図を見ながら呟く。


イザベラさんも頷いた。


「何らかの規則があるようにも見えるが、今の情報だけでは分からん。推測だけで決めつけるわけにもいかぬ」


俺も地図へ目を落とした。


印のついている場所は、確かにばらばらに見える。


どう繋がっているのか、俺には分からない。


その時、それまで俺の隣で黙っていたウンディーネが、水の枕から身体を起こした。


ゆっくり机へ近づき、地図を覗き込む。


青い瞳が、水路の線と印のついた場所を追っていく。


しばらく黙って見ていたウンディーネが、小さく口を開いた。


『……水』


「水?」


俺が聞き返す。


ウンディーネは地図から目を離さない。


『昨日も変だった。山のお水も、街のお水も……流れ方が、少し変』


「街の水も?」


『うん』


そういえば、最初に異変へ気づいた時もそうだった。


成長の鈍った笹筍。


その周囲だけ冷たかった土。


そして、少し下った場所を流れていた沢。


ウンディーネはその沢へ触れたあと、水の流れが少し変だと言っていた。


「山でも、冷えてた場所の近くに沢がありましたよね」


『うん。あそこも変だった』


ウンディーネが頷く。


ただ、その何が変なのかまでは、まだ説明できないようだった。


大精霊であるウンディーネにしか感じ取れないほど小さな違いなのかもしれない。


「水路か……」


俺が地図の青い線を追っていると、ベルも机の上へ近づいてきた。


大聖樹が描かれている場所の上で止まり、地図を覗き込む。


「でも、大きな木なら、根っこもずっと遠くまで伸びてるよ?」


「根……」


ベルの言葉に、俺は大聖樹の印を見る。


地上から見えるのは、巨大な幹と枝葉だけだ。


だが、あれほど大きな樹なら、当然その下には相応の根が広がっているはずだ。


森で暮らしてきたベルにとっては、当たり前のことなのだろう。


「根から水も吸うよね?」


「そうだな」


俺が頷くと、ザディスさんも地図へ顔を近づけた。


「大聖樹の根が地下でどこまで伸びているのか、正確には把握できていません。水路や地下を流れる水と、どこかで影響し合っている可能性はありますね」


あくまで可能性だ。


水が原因なのか、根に何かあるのか、それとも二つとも今回の異変とは直接関係ないのか。


まだ何も決まっていない。


けれど、次に調べる場所としては十分な手がかりに思えた。


ザディスさんがウンディーネを見る。


「我々も水路の流れや魔力は確認しました。しかし、ウンディーネ様が感じている違和感と同じものを捉えられているかは分かりません」


ウンディーネは地図を見たまま、少し考えるように黙った。


『ここで見てるだけじゃ分からない』


俺はウンディーネへ顔を向ける。


「実際に見に行けば、分かりそうか?」


『たぶん』


ウンディーネはゆっくり頷いた。


『お水を触って、追ってみる』


言い切るような口調ではない。


それでも、今までより詳しく調べられる可能性はありそうだ。


部屋が静かになったところで、イザベラさんが俺へ向き直った。


「フトシ」


「はい」


「正式に、そなたたちの力を借りたい」


落ち着いた声だった。


「ウンディーネが感じている水の異常を実際に追い、その原因……難しければ、異常が強くなる場所だけでも探してほしい」


昨日は、まず国が調べると言っていた。


その通りに調べた上で、人のやり方では原因へ届かなかった。


だから今、俺たちを呼んだのだろう。


イザベラさんは続けてウンディーネを見る。


「無論、無理強いをするつもりはない。そなた自身の力を借りることになるからな」


ウンディーネは窓の向こうへ目を向けた。


そこからも大聖樹の枝葉が見えている。


少しだけ真剣な顔で眺めたあと、短く答えた。


『……行く』


大聖樹に棲む木の精霊は、ウンディーネの昔からの知り合いだ。


気配が薄くなっていることを一番気にしていたのも、ウンディーネだった。


俺はその返事を聞いてから、イザベラさんへ向き直る。


「分かりました。俺たちで役に立てるなら、協力します」


「助かる」


イザベラさんが頷いた。


「今回は兵を大勢つけることはしない。あの森には迷いの結界がある上、精霊の住処へ大人数で踏み込むのは避けたい」


目的も戦闘ではない。


ウンディーネが感じる違和感を、水の流れに沿って追うことだ。


俺とベル、メイ、シルク、ウンディーネで動く方が都合は良さそうだった。


「こちらは引き続き、市街地や農地、大聖樹の外側から調査を続ける」


「魔力の観測も継続します。何か変化があれば、すぐに共有できるようにしておきましょう」


ザディスさんも続ける。


セバスさんは机の上にある地図をまとめ始めた。


「こちらでも、これまでの調査結果を整理した地図をご用意いたします。水路や湧き水の位置も、できる限り詳しく記しておきましょう」


「お願いします」


どこから調べ始めるにしても、地図がある方が助かる。


王国側の情報と、ウンディーネの感覚。


その二つを合わせながら動けばいい。


話がまとまり、俺は机の上に残っている地図をもう一度見た。


街中を巡る水路。


その向こうに描かれた大聖樹。


そして地図には描かれていない、その下へ広く伸びているはずの根。


今の段階では、どれがどう繋がっているのか分からない。


ただ、次に確かめるものは決まった。


隣ではウンディーネが、静かに窓の向こうの大聖樹を見ている。


俺もそちらへ一度目を向けてから、ウンディーネへ声をかけた。


「まずは、水から追ってみよう」


ウンディーネは小さく頷いた。


『……うん。行こう』

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