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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん
北の酪農都市ノース・グラン

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第69話 平原の襲撃者と、相棒たちの圧倒的な力

イル・ソーレの美しい港町を出発し、イザベラ陛下の豪華な馬車に揺られること数日。


窓の外を流れる景色は、豊かな広葉樹の森から、見渡す限りの広大な平原へと変わっていた。


吹き抜ける風は秋の深まりをはっきりと感じさせ、北へ向かうにつれて空気が少しずつ冷え込んでいるのがわかる。


だが、魔石を動力源とする強力な魔導ヒーターが完備された馬車の車内は、上着がいらないほどに暖かく快適だった。


セバスさんに淹れてもらった温かい紅茶を飲みながら、俺はほのぼのとしたスローライフのような旅を満喫していた。


ここまでは道もよく整備されており、何事もなく順調に進んでいたのだ。


しかし、やはりここは未知の魔法と魔物が存在する異世界だった。


ヒヒィィィンッ!!


突如として、馬車を引いていた強靭なトカゲウマたちがけたたましい嘶きを上げ、急ブレーキがかかった。


「おっと……!」


俺は手にしたティーカップの中身がこぼれないようにバランスを取り、窓の外へと視線を向けた。


馬車の周囲を固めていた数十人の王国近衛兵たちが、一斉に武器を抜いて陣形を組んでいる。


「どうした、何事だ!」


イザベラ陛下が窓を開け、鋭い声で外の近衛隊長に問いかけた。


「陛下! 前方および左右の草むらより、ゴブリンの群れが現れました! その数……ざっと百体以上はおります!」


近衛隊長の切羽詰まった報告に、車内の空気が一瞬にして張り詰めた。


「百体だと? いくら繁殖力の強いゴブリンとはいえ、こんな開けた街道沿いにそれほどの数が群れを成しているなど、異常事態ですぞ。」


セバスさんが眉をひそめ、窓の外に広がる緑の平原を睨みつけた。


「普段はここまで群れになって襲ってくることはあまりありません。……何かしらの陰謀や、生態系の異変を感じますね。」


確かに、窓から見えるゴブリンたちは、統率の取れていない普段の群れとは少し様子が違った。


濁った赤い目を爛々と輝かせ、奇妙なほど規則正しい動きで馬車の周囲を包囲しつつある。


近衛兵たちが盾を構えて応戦の準備を進めているが、相手は百体以上。


被害を出さずに切り抜けるのは難しそうな状況だった。


その時、俺の足元や頭の上で、相棒たちがウズウズとした様子で動き始めた。


「ワフッ! ワオォォンッ!」


「キュイッ、キュイイッ!」


「ねえフトシ、最近ずっと馬車の中で退屈だったのよね。あいつら、わたしたちで片付けてきてもいい?」


メイが前足をダンダンと床に打ち付け、シルクが耳をピンと立て、ベルが胸ポケットから飛び出して俺に提案してきた。


空中の枕で二度寝を満喫していたウンディーネも、騒がしさに目を覚ましたのか、スッと身を起こしている。


「みんな、体を動かしたいのか。」


俺は相棒たちのやる気に満ちた顔を見て、イザベラ陛下とセバスさんに向き直った。


「陛下、セバスさん。護衛の方々だけで戦うと怪我人が出るかもしれません。うちの子たちが戦いたいと言っているので、加勢させてもよろしいでしょうか?」


俺の申し出に、イザベラ陛下は少し驚いたように目を見張った。


「そなたの従魔たちがか? 相手は百以上の群れだぞ。いくらなんでも危険ではないか?」


「いえ、大丈夫です。うちの子たちは、俺が保証するくらい強いですから。」


俺が自信を持って頷くと、イザベラ陛下は少し迷った後、「……よかろう、頼む」と許可を出してくれた。


俺は馬車の扉を開け、相棒たちに指示を出した。


「よし、お前ら。怪我だけはしないように気をつけてな。」


「任せなさいって!」


ベルが力強く頷き、相棒たちは馬車の外へと飛び出していった。


俺は効率よく敵を殲滅できるよう、彼女たちを左右の二手に分けることにした。


「右側はベルとシルク、左側はメイとウンディーネで頼む!」


相棒たちは俺の指示通りに分かれ、それぞれが迫り来る緑色の小鬼の群れへと突撃していった。


まずは右側、ベルとシルクのコンビだ。


「さあ、いくわよシルク!」


「キュイッ!」


ベルが空高く舞い上がり、小さな両手を前方に突き出した。


「風よ、切り裂きなさい! 『妖精の風刃』!」


ベルの固有魔法である不可視の真空の刃が、凄まじい速度で放たれる。


ヒュンッ! ヒュパパパパッ!!


音すら置き去りにする鋭利な風の刃は、前列にいた十数体のゴブリンの胴体を、粗末な革鎧や武器ごとまとめて両断した。


「ギギャアアアッ!?」


突然の不可視の攻撃に、ゴブリンの群れがパニックに陥る。


その隙を突いて、シルクが白い弾丸のようなスピードで敵陣へと突っ込んでいった。


シルクは固有スキル『幸運の加護』を自身に展開しながら、ウサギ特有の強靭な脚力を活かした肉弾戦を挑む。


「ギギッ! 殺セ!」


数体のゴブリンがシルクを取り囲み、一斉に錆びた剣や棍棒を振り下ろす。


だが、それらの攻撃は『なぜか』当たらない。


ゴブリンが石につまずいて勝手に転んだり、仲間同士で武器がぶつかり合って自滅したりと、シルクには指一本触れることができないのだ。


「キュイイイッ!!」


その絶対的な幸運による回避の隙を突き、シルクの小さな体から放たれる強烈なドロップキックが、次々とゴブリンの頭部や顎を粉砕していく。


ベルが風魔法で遠距離から敵の数を減らし、シルクの死角をカバーする。


そしてシルクが敵陣をかき乱し、物理攻撃で確実に仕留めるという、息の合った完璧な連携だった。


一方、左側ではメイとウンディーネのコンビが動き出していた。


「ワォォォォンッ!!」


メイが漆黒の毛並みを逆立て、雄叫びと共に『氷と闇の魔法』を解放する。


彼女の周囲の空気が一気に凍りつき、絶対零度の冷気が平原を覆い尽くした。


「グルルル……!」


メイが前足を振り抜くと、無数の鋭い氷の槍が空中に生成され、ゴブリンの群れに向かって雨のように降り注いだ。


ズドガガガガッ!!


「ギガッ……!?」


氷の槍に貫かれたゴブリンたちは、傷口から瞬時に全身が凍りつき、美しい氷の彫像と化して動かなくなる。


広範囲を制圧する、神獣フェンリル亜種の圧倒的な魔法だ。


そして、その残った氷や大気中の水分を利用して動いたのが、ウンディーネだった。


「……ん。邪魔。」


ウンディーネは空中に浮かんだまま、眠たげな瞳で指先を軽く振るった。


すると、メイの魔法によって生成された氷の破片が瞬時に溶け、大量の水となってウンディーネの意思のままに動き始めたのだ。


『水流操作』の極致。


水は鞭のようにしなってゴブリンの足を絡め取り、動きを完全に封じる。


さらに、超高圧に圧縮された水の刃が、身動きの取れなくなったゴブリンたちの首を次々と静かに刎ね飛ばしていった。


血の一滴すら周囲に飛ばさない、あまりにも洗練された冷酷な水の制圧。


ウンディーネの戦い方を初めて見たが、無駄な動きが一切なく、大精霊としての底知れない格と安定感を見せつけていた。


「すごいな……。」


俺は馬車の入り口に立ったまま、全く出る幕がないことを悟り、安心して後方から彼女たちの活躍を見守ることにした。


自分より強いかもしれない相棒たちがいてくれることは、本当に頼もしい限りだ。


だが、俺の背後でその光景を見ていた王族の方々は、全く別の感情を抱いていたようだった。


「……な、なんと。」


セバスさんが、信じられないものを見るように目を見開き、ぽつりと呟いた。


「ただの可愛らしい従魔かと思っておりましたが……ここまでお強いとは。」


「ああ。あの風と氷の魔法の威力……それに、幸運で攻撃をすべて避けるウサギに、そして何より、あの大精霊様。」


イザベラ陛下も、窓枠を強く握りしめたまま、震える声で畏怖を漏らしていた。


「あの大精霊様が戦われるお姿を拝見できるとは……。フトシよ、この子たちだけで、中規模の軍隊くらいなら軽く滅ぼせそうだな……。」


ウンディーネがただの美しい女性ではなく、水を司る大精霊であると知っているからこそ、イザベラ陛下たちの受ける衝撃と畏敬の念は計り知れないものがあったようだ。


俺が「ははは」と愛想笑いを浮かべている間に、平原の戦闘はあっけなく終わりを迎えた。


時間にしてわずか数分。


百体以上いたはずのゴブリンの群れは、俺の相棒たちの圧倒的な力によって完全に殲滅されていた。


「よし、みんなよくやった! 怪我はないか?」


俺が声をかけると、相棒たちは自慢げな顔で馬車へと戻ってきた。


だが、平原に転がるゴブリンの死体を見た近衛隊長が、不意に鋭い声を上げた。


「陛下! これは……異常事態です!」


俺が視線を向けると、驚くべき現象が起きていた。


倒されたゴブリンたちの死体が、ドロドロとした黒い瘴気のようなものを発しながら、文字通り空中に溶けるように消滅し始めていたのだ。


「死体が、消えていく……?」


魔物は死ねば魔石や素材を残すのがこの世界の常識だ。


俺は嫌な予感がして、咄嗟に消えゆくゴブリンの残骸に【鑑定】を使用した。


【召喚体:ゴブリン】

詳細:高度な『召喚魔法』によって一時的に具現化された魔物。術者の魔力供給が絶たれるか、致命傷を負うことで瘴気へと還元され消滅する。


「……なるほど、そういうことか。」


俺は振り返り、緊張した面持ちのイザベラ陛下とセバスさんに事実を伝えた。


「陛下。あれは本物の魔物じゃありません。何者かが『召喚魔法』を使って生み出した、一時的な召喚体です。」


「召喚魔法、だと……!?」


イザベラ陛下の顔が、サッと険しいものに変わった。


セバスさんもすぐに状況を理解し、周囲を鋭く警戒し始めた。


「魔物を生み出すほどの高度な召喚魔法となれば、術者はかなり上位の魔族か、あるいは高位の魔術師に違いありません。」


セバスさんが低い声で分析する。


「ええ。これだけの数を維持していたなら、まだ近くに召喚魔法を使う敵が潜んでいるか……あるいは、召喚したゴブリンの戦果を見届けて、どこか近くの街に紛れ込んでいるかもしれませんね。」


俺の言葉に、近衛隊長が青ざめた顔でイザベラ陛下を庇うように前に出た。


「では、この襲撃の目的は……イザベラ陛下を狙った暗殺、もしくは足止めということですか!」


「その可能性は高いだろうな。」


イザベラ陛下は眉間にシワを寄せ、消えゆく瘴気の残滓を睨みつけた。


のどかだった馬車の旅は、見えざる敵の悪意によって一気に緊張感に包まれた。


俺たちはすぐさま馬車に乗り込み、相棒たちの索敵能力を頼りに周囲への警戒を最大限に強めながら、北の都市ノース・グランへの旅を急ぐことになった。


美味しい料理と雪景色を期待していた旅路に、不穏な暗雲が立ち込めていた。

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