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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん


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第68話 イル・ソーレからの旅立ちと、北の都市のジンギスカン

イル・ソーレの活気ある広場を吹き抜ける風が、少しだけ秋の気配を帯びてきた頃。


俺は星降る海猫亭の自室にある、石造りの広いテラスで、青く澄み渡る美しい内海を眺めながら大きく息を吐き出した。


「なんだかんだで、この国……この街には、結構長く滞在したなぁ。」


思わず漏れた感慨深い呟きに、足元の最高級の絨毯で丸くなっていたメイが顔を上げ、同意するように「ワフッ」と短く吠えた。


頭の上のシルクも「キュイッ」と喉を鳴らし、俺の胸ポケットの中からはベルがひょっこりと顔を出した。


「本当にいい街よね。海はどこまでも綺麗だし、ご飯は美味しいし。魔族の人たちもみんな優しかったわ。」


「……おふとん、ふかふかだった。」


いつの間にか空中に召喚した水の枕に寄りかかっていたウンディーネも、とろけるような顔で呟いている。


オレンジ色のテラコッタ瓦と真っ白な石造りの家々が並ぶ、美しい地中海風の街並み。


星降る海猫亭で味わった、魔法のチートに頼らない超一流の職人技術による極上の小麦料理の数々。


そして何より、イザベラ陛下やセバスさんをはじめとする、手厚く温かい人々との出会い。


一億ゴールドという莫大な資産と、王家の短剣という強固な後ろ盾を得たことも大きいが、それ以上に、俺の作った味噌や醤油の屋台を心から楽しんでくれた街の人々の笑顔が忘れられない。


(いずれ世界を回り終えたら、ここにずっと定住してもいいかもしれないな……。)


そんな風に思えるほど、イル・ソーレは俺たちにとって居心地の良い素晴らしい街だった。


だが、俺の【探求者】としての本能が、そろそろ新しい土地の新しい食材を探しに行けと囁いているのも事実だ。


「よし。そろそろ新しい土地に行ってみるか。まずはセバスさんに相談して、情報収集をしよう。」


俺の言葉に、相棒たちも嬉しそうに飛び跳ねた。


その日の午後、俺は王城の貴賓室でセバスさんに極上の紅茶を淹れてもらいながら、旅立ちの相談を持ちかけた。


「西のイル・ソーレをこれほど堪能していただいたのでしたら……フトシ様、これから我々が向かう『北の都市』に行かれるのはいかがでしょうか?」


セバスさんは上品なティーカップを静かにテーブルへ置き、穏やかな笑みを浮かべて提案してきた。


「北の都市、ですか?」


「ええ。アストラーレ魔王国の王族は、二週間ほどの間隔で国内の主要都市を巡回し、直接政務を執り行います。もし差し支えなければ、我々の次なる巡回にお供しませんか? 都市によって気候も食べるものも全く異なり、それぞれに極上の美味がございますよ。」


「それは……すごく魅力的ですね。ぜひご一緒させてください!」


俺が即答すると、セバスさんは嬉しそうに深く頷いた。


イザベラ陛下やセバスさんのような、この国の最高権力者たちと一緒に旅ができるなんて、これ以上安全で確実な情報源はない。


それに、魔王国は東西南北の主要都市すべてに王城が用意され、有事には避難所として機能するという。


合理的で民を第一に考えるこの国のシステムを、他の都市でも見てみたいという思いもあった。


そして数日後。


俺たちはイル・ソーレの温かい人々に見送られ、イザベラ陛下の乗る巨大で豪華な馬車に同乗して、北の都市へと出発した。


広々とした馬車の車内は、最高級の絨毯が敷き詰められ、強力な魔導具によって振動を全く感じさせない見事な作りになっていた。


向かいのふかふかの席に座るセバスさんに、俺は早速質問を投げかけた。


「セバスさん。次に私たちが向かう北の都市『ノース・グラン』は、どんな特産品があるんですか?」


俺が目を輝かせて尋ねると、セバスさんは待っていましたとばかりに微笑んだ。


「ノース・グランは、広大な牧草地が広がる酪農と畜産の街でございます。非常に質の高い牛肉や牛乳、そして発酵バターや多種多様なチーズが名物ですね。ヤギの乳から作った濃厚なチーズや、ヒツジの肉もよく食べられています。」


(おお……酪農の街か。チーズやバターは料理の幅を広げるのに最高だな。)


アイテムボックスに大量にあるオーク肉や海鮮系の食材も、濃厚な乳製品と合わせれば、さらに暴力的な旨味を生み出してくれるに違いない。


「特に有名なのは、新鮮なヒツジ肉を果汁や独自のスパイスをブレンドした特製のタレに漬け込み、ドーム状に盛り上がった専用の鉄板で豪快に炒め焼きにする料理です。ドームの下のくぼみには野菜をたっぷりと敷き詰め、肉から染み出した旨味の脂とタレで野菜を煮焼きにするんですよ。」


「…………ッ!!」


俺は思わず息を呑んだ。


(それって……完全に『ジンギスカン』じゃないか!)


俺が日本にいた頃、旅行で訪れた札幌の大通公園のビアガーデンやビール園で食べた、あの熱狂的なソウルフード。


カンカンに熱せられた凸型の鉄板に、タレ漬けのヒツジ肉を乗せた瞬間、ジュワァァァッ!と弾ける暴力的なまでの香ばしい匂い。


果汁の爽やかな酸味と甘辛い醤油ベースのタレが、ヒツジ特有の野性味あふれる旨味を見事に引き立てるのだ。


さらに、斜面を伝って流れ落ちた肉の脂と極上のタレが、縁の溝に敷き詰められたモヤシやキャベツをクタクタになるまで煮焼きにする。


その旨味の塊を吸い込んだ野菜だけで、白米が無限に消費できるほどの悪魔的な美味しさを誇る料理だ。


まさか異世界で、しかも魔王国の北の都市で、あのジンギスカンに近い料理に出会えるとは思いもしなかった。


俺の手元には、先日作り上げたばかりの手作り味噌と天然醸造醤油がある。


あれを使えば、絶対に究極のジンギスカンのタレが作れるはずだ。


「……すごく、美味しそうですね。」


俺が必死に涎をこらえながら呟くと、セバスさんはさらに追い打ちをかけてきた。


「それだけではありません。新鮮な牛乳やヤギの乳から作られたとれたてのチーズを、熱した陶器の鍋の中で白ワインと共にトロトロに溶かし、そこに茹でたての旬の野菜や硬いパンをくぐらせて食べる料理も絶品です。」


(チーズフォンデュまであるのか……! ノース・グラン、最高すぎるだろ。)


芳醇な白ワインの風味がチーズの重さを切り裂き、黄金色に輝くトロトロのチーズが、香ばしいパンに幾重にも絡みつく光景が脳裏に浮かぶ。


一口食べれば、冷えた体を内側から温めてくれる至高の酪農料理。


頭の中がジンギスカンとチーズフォンデュでいっぱいになり、俺の【探求者】としての血が激しく沸騰し始めた。


「ワフッ、ワッフ!」


「キュイッ!」


俺の足元で話を聞いていたメイとシルクも、肉とチーズの匂いを想像したのか、興奮気味に尻尾を振っている。


「ノース・グランは、冬になると深い雪に覆われ、気温もかなり低くなる地域です。魔王国は国土が広いため、東西南北で全く違う気候を楽しむことができ、どこにいても飽きることがありません。」


セバスさんが窓の外の景色を見ながら、穏やかな声で続ける。


「今は秋の初め頃ですが、北へ向かうにつれて徐々に冷え込んでくるでしょう。ノース・グランでの政務を終え、次の東の都市へ向かう頃には、美しい初雪が見られるかもしれませんね。」


「雪……いいですね。」


俺は旅行で訪れた、あの白く染まった冬の景色を思い出し、少しだけ目を細めた。


寒いからこそ美味しい、温かい料理の数々。


雪景色を見ながら食べる熱々のジンギスカンやチーズフォンデュは、間違いなく至高の体験になるはずだ。


「ノース・グランには、食以外にもたくさんの魅力がございます。温泉が湧く地域もありますし、素晴らしい職人たちもいます。どうぞお楽しみに。」


「温泉! それは絶対に堪能したいですね。」


セバスさんの言葉に、俺の胸は期待で大きく膨れ上がった。


過酷な無人島のサバイバル生活では、温泉に浸かる余裕など当然なかった。


王城や星降る海猫亭の風呂も最高だったが、やはり冷え込んだ空気の中で入る温泉というのは、日本人のDNAに刻まれた究極の癒やしだ。


イル・ソーレでの海鮮と小麦の探求を終え、次なる舞台は酪農と温泉、そして雪の都市ノース・グラン。


俺と相棒たちの賑やかで美味しい異世界探求の旅は、馬車の心地よい揺れと共に、新たな未知の美味へと向かって真っ直ぐに進んでいくのだった。

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