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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん


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第58話 速醸の極上味噌と、異世界に蘇る究極の和食定食

異世界で初めての天然醸造醤油を完成させ、究極の海鮮炊き込みご飯で望郷の涙を流した翌日。


俺は相棒たちと共に、イル・ソーレの東の砂浜にある静かな岩陰に再び拠点を構えていた。


「ふふふっ……醤油があるなら、アレも作れるな。」


手作りの生醤油を手に入れたことで、俺の心は「もう和食なら何でも作れる」という無敵の万能感に包まれていた。


だが、人間の欲というものは底なしに深い。


市場で買い占めた大量の『黄玉豆イエロー・ビーンズ』と、醤油造りの際に選別した有用な麹菌が手元にある。


となれば、醤油と双璧を成す日本の心、『味噌』を仕込みたくなるのが料理人の性というものだ。


「当分困らないように、大量に仕込むぞ。」


俺はアイテムボックスから巨大な黒剛鉄の鍋を取り出し、たっぷりの黄玉豆を水に浸して『時間加速空間』へと収納した。


現実の時間では一瞬にして丸一日の吸水が完了し、豆はふっくらと水を吸って膨張している。


そのまま指先に『ファイア・ヒート』を灯し、豆が指で簡単に潰れるほどの柔らかさになるまで、数時間かけてじっくりと茹で上げた。


「よし、茹で上がったな。ここからが一気に勝負だ。」


熱いうちに茹で汁を切り、巨大なすり鉢に豆を移す。


ユニークスキル『料理する者』の効果②『調理の超加速』を発動し、常人の二倍の速度ですりこぎを振るう。


ドスドスドスドスッ!


凄まじいスピードで豆を徹底的に潰し、形が完全になくなるまで滑らかなペースト状にしていく。


「少し冷まして、人肌くらいの温度になったら次だ。」


潰した豆の熱が落ち着いたところで、あらかじめ仕込んでおいた麹と、たっぷりの良質な岩塩を投入する。


塩分が偏らないように、全体をムラなく、均一にしっかりと混ぜ合わせる。


「よし、混ざったな。ここから『みそ玉』を作るぞ。」


俺は空気を抜くように両手でギュッと力を込めて握り、テニスボールほどの大きさの丸い『みそ玉』を次々と作っていった。


「ねえフトシ、なんでお団子みたいに丸めてるの?」


不思議そうに飛び回るベルの問いかけに、俺はニヤリと笑って答えた。


「これはな、次の工程で空気を完全に抜くための準備なんだ。味噌作りで一番重要な作業だぞ。」


俺は用意した巨大な木樽の底に向けて、手にしたみそ玉を勢いよく投げつけた。


バチィンッ!!


「うわっ、びっくりした!」


「ワフッ!?」


「キュイッ?」


俺がいきなり食べ物を叩きつけたことに、ベルもメイもシルクも驚いて身をすくませた。


「驚かせてごめんな。でも、こうやって樽の底に向けて勢いよく叩きつけて敷き詰めることで、隙間の空気を完全に追い出せるんだ。」


隙間に空気が残っていると、そこから雑菌が繁殖してカビが生え、味噌が腐ってしまう原因になる。


俺は『超加速』の速度で、次々とみそ玉を樽に叩きつけては、隙間なくギュウギュウに敷き詰めていった。


表面を真っ平らにならし、カビ防止のために分量外の塩を薄く振る。


最後に、空気に触れないように大きな清潔な葉っぱで表面をぴったりと覆い、密閉した。


「あとは、味噌の重量の半分くらいの重石を乗せて、熟成させるだけだ。」


アイテムボックスから手頃な重さの綺麗な石を取り出し、布でフタをして埃が入らないようにする。


本来の製法であれば、ここから涼しい暗所に保管し、最低でも半年から一年は触らずにじっくりと発酵を待つ必要がある。


だが、俺にはチートじみた拡張機能がある。


「アイテムボックスに収納。……『絶対温度領域』設定、三十五度。」


俺は樽を収納した空間内の温度を、三十度から三十五度前後の温かい状態にキープするよう魔法をセットした。


菌の活動は、この温度帯で爆発的に早くなる。


意図的に高温を保ち続けることで、一年かかる熟成をわずか一ヶ月から二ヶ月で完了させる『速醸そくじょう』の手法だ。


「よし……期間は二ヶ月。時間加速、開始!」


俺が魔力を流し込むと、指定された空間の時間が凄まじい速度で進んでいく。


現実の時間にしてわずか数分。


魔力の流れが収まったのを確認し、俺はゆっくりと樽を取り出した。


布のフタと葉っぱを取り除いた瞬間、ふわりと立ち昇った香りに、俺は思わず深い深呼吸をした。


「……ッ、完璧な味噌の香りだ。」


樽の中には、発酵が進んで大豆の旨味が極限まで引き出された、黄金色に輝く極上の味噌が完成していた。


少しだけ指ですくって舐めてみると、岩塩の鋭い塩気の奥から、大豆特有の奥深い甘みと強烈な旨味が押し寄せてくる。


「やったぞ……これでついに、アレができる。」


俺は急いでアイテムボックスの中から、さらにいくつかの食材を取り出した。


インディカ米、卵、シロシメジ、ヒールスピン。


そして、マグロほどのサイズがある極上の脂を持った『巨大アジ』だ。


「今日は、究極の和食定食を作るぞ!」


俺の気迫に当てられ、相棒たちも期待に目を輝かせて俺の手元を見つめている。


まずは、巨大アジの干物作りだ。


アジを開き、海水程度の塩水にサッと漬け込んだ後、アイテムボックスの時間加速空間へ入れる。


『料理魔導の適性』で微弱な風を当て続け、数分で完璧な『一夜干し』の状態を作り上げた。


余分な水分が抜け、旨味が凝縮された身の表面には、極上の脂がキラキラと浮き出ている。


次に、インディカ米を炊飯する。


時間加速で一瞬で浸水を終わらせ、魔導コンロでパラリとしつつも芯までふっくらとした熱々のご飯を炊き上げた。


「次は、出汁巻き卵だ。」


ボウルに新鮮な卵を割り入れ、そこにフォレスト・フォウルの鶏出汁と、先ほど完成した生醤油を少しだけ加える。


ミスリル配合の黒剛鉄フライパンを温め、油を引いて卵液を少しずつ流し込む。


ジュワァァッ。


出汁の香りが弾ける中、『超加速』の菜箸捌きで卵を奥から手前へと素早く巻き込んでいく。


火を通しすぎない絶妙な半熟状態で層を重ね、分厚くてプルプルの極上出汁巻き卵を完成させた。


「仕上げは、もちろんこれだ。」


鍋で鶏出汁を沸かし、適当な大きさに切ったシロシメジと、茹でてアクを抜いたヒールスピンを入れる。


火を止め、先ほど完成したばかりの手作り味噌を、おたまの上で静かに溶き入れていく。


フワァァァァッ。


味噌が熱い出汁と混ざり合った瞬間、日本人の魂を激しく揺さぶる、あのホッと安らぐような優しい香りが岩陰を包み込んだ。


「これだよ、これ……。」


最後に、魔導コンロの網の上で、巨大アジの干物をじっくりと焼き上げる。


脂が弾けて焦げる暴力的な匂いが、食欲を限界まで引き上げていく。


「お待たせしました。特製和食定食の完成だ。」


木製の大きなお盆の上に、炊きたての真っ白なご飯、湯気を立てるシロシメジとヒールスピンの味噌汁。


そして、黄金色に輝くプルプルの出汁巻き卵と、ジュージューと脂を滴らせる香ばしい巨大アジの干物が並んだ。


「いただきます。」


俺はまず、お椀を両手で包み込み、味噌汁をズズッと一口すすった。


「…………ぁぁ。」


シロシメジの濃厚な旨味と鶏出汁の深いコクを、手作り味噌のまろやかな塩気と香りが優しく包み込んでいる。


全身の細胞に染み渡るような、圧倒的な安心感。


「美味しいっ! なにこれ、すっごくホッとする味!」


ベルが小さな両手でお椀を抱え込み、目を細めて味噌汁を味わっている。


「ワフッ!」


「キュイッ!」


メイとシルクも、器に顔を突っ込んで無我夢中で味噌汁を舐めている。


続いて、俺は箸で巨大アジの干物の身を大きくほぐし、熱々のご飯に乗せてかき込んだ。


サクッとした皮の食感の直後、凝縮されたアジの旨味と甘い脂が爆発し、パラパラのインディカ米と口の中で完璧に混ざり合う。


そこに出汁巻き卵をかじりつけば、ジュワッと溢れ出す出汁と醤油の香りが、口の中を至福の味覚で満たし尽くす。


「どうだ、お前ら。これがザ・日本の和食で、俺の故郷の味だ。」


俺が誇らしげに語りかけると、相棒たちは口の周りを汚したまま、嬉しそうに頷き返してくれた。


「すっごく美味しい! フトシの故郷のご飯は、世界で一番優しくて温かい味がするわ!」


ベルのその言葉に、俺の胸の奥がじんわりと熱くなる。


醤油と味噌、そして海鮮。


異世界で手に入れた最高の食材と魔法の技術で再現した故郷の味は、俺たち家族の絆をさらに深く、確固たるものにしてくれた。


俺たちは波の音と潮風の中で、何度もおかわりを繰り返しながら、異世界に蘇った究極の和食定食を心ゆくまで堪能し尽くすのだった。

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