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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん


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第43話 北の美食都市への誘いと、平原の赤ワインシチュー

獣人帝国ガルディアの冒険者ギルドは、今日も荒々しい熱気と獣人たちの笑い声に包まれていた。


俺は受付のカウンター越しに、顔馴染みとなった虎の獣人の職員と向き合っていた。


「ずっと北にあるという、魔族の街について詳しく教えてもらえませんか。」


俺がそう切り出すと、虎の獣人は少し驚いたように丸い目を瞬かせた。


「お前さん、とうとうこの国を出る気になったのか。」


「はい。市場のみんなも自分たちで工夫して料理を楽しむようになりましたし、探求者として、噂に聞く魔族の料理をこの目で確かめてみたくなりまして。」


俺の言葉に、虎の獣人は豪快に笑って分厚い資料の束を取り出してきた。


「がははっ! お前さんらしいや。俺も行ったことはねえが、行商人の間じゃあ魔族の街の飯は、人間の王都なんかよりずっと美味えって専らの噂だぜ。」


彼は資料をめくりながら、その街の特産品や料理の特徴を語り始めた。


「なんでも、赤い野菜ととろける乳製品を乗せて焼いた丸くて平たいパンや、小麦を練って細長く伸ばし、魚介の汁をたっぷりと吸わせた麺料理なんかがあるらしい。」


(それは……絶対に『ピザ』と『パスタ』のことじゃないか!)


俺の脳内で、現代のイタリアンや地中海料理の鮮烈なビジュアルが弾け飛んだ。


「それに、巨大な平鍋を使って、新鮮な魚介と米を一緒に炊き込んだ黄金色の飯も名物だそうだぞ。」


(パエリアまであるのか……! スペインやイタリアのような、太陽と海の恵みを活かした極上のグルメ都市!)


想像しただけで、口の中にオリーブオイルとガーリック、そしてトマトの鮮烈な酸味が広がってくるような錯覚を覚えた。


「素晴らしいですね。すぐにでも出発したいのですが、馬車の手配はここでお願いできますか。」


俺が身を乗り出して尋ねると、虎の獣人は申し訳なさそうに頭を掻いた。


「それがな、獣人の国と魔族の領土の間には、定期便の馬車が行き交ってねえんだよ。国交が悪いわけじゃねえんだが、種族が違いすぎてお互いあまり干渉しねえってのが実情でな。」


「馬車がないとなると、歩いて行くしかないんですか。」


「ああ、そうだ。大人の獣人の足でも、丸一ヶ月は歩き続ける距離だぜ。」


一ヶ月の徒歩の旅。


常人であれば、野営の準備や食料の確保、そして魔物の脅威を考えれば二の足を踏む過酷な道のりだろう。


だが、今の俺には神話級の『アイテムボックス』があり、中には時間停止状態で保存された極上の料理や食材が大量に眠っている。


王都の最新技術である『魔導携帯テント』も完備しており、資金に至っては一千万ゴールドを優に超えているのだ。


「問題ありません。食料も野営の準備も完璧に整っていますから。」


俺が自信を持って答えると、虎の獣人は目を丸くした後、嬉しそうに頷いた。


「そうか。お前さんなら、道中の魔物も返り討ちにして美味い飯に変えちまうんだろうな。気をつけて行けよ、人間の兄ちゃん。」


ギルドを出た俺は、善は急げとばかりにその日のうちに市場の顔馴染みたちに別れを告げ、翌朝の日の出と共にガルディアの街を北に向かって出発した。


街の門を抜けると、どこまでも続く広大な平原が視界いっぱいに広がっていた。


「さて、のんびりと行くか。」


「キュイッ!」


「ワフッ!」


俺の頭の上ではフォーチュンラビットのシルクが風を切り、足元では神獣のメイが楽しそうに草むらを駆け回っている。


獣人帝国の荒々しい森とは違い、北へ向かう道は平坦で、背の低い草花が一面に生い茂るのどかな風景だった。


時折、遠くに野生の動物の姿が見えるものの、襲いかかってくるような凶暴な魔物の気配は全くない。


心地よい風を全身に浴びながら、ピクニックのような穏やかな足取りで平原を歩き続けた。


青かった空が次第に茜色に染まり、やがて群青色の帳が下り始める頃、俺たちは小高い丘の上で足を止めた。


「今日はこの辺りで野営にしよう。」


俺は周囲に危険がないことを確認すると、アイテムボックスから『魔導携帯テント』を取り出した。


拳大の魔石にそっと魔力を流し込むと、光と共に一瞬にして頑丈で快適なテントが丘の上に展開される。


「さて、夕飯にするか。今日は移動ばかりで新しい食材を手に入れていないからな。」


俺はアイテムボックスの無限の収納空間にアクセスし、作り置きしてある料理のリストを眺めた。


「よし、今夜はこれにしよう。」


取り出したのは、ポルト・ラーラの宿屋で厨房を借りた時に大量に仕込んでおいた、『ファングウルフの芳醇赤ワインシチュー』だ。


ファングウルフの肉はそのまま焼くとゴムのように硬いが、表面を焼き付けて旨味を閉じ込めた後、赤ワインと香味野菜でじっくりと煮込むことで、極上のシチュー肉へと化けるのだ。


アイテムボックスの『時間停止』の効果により、鍋の中のシチューは火から下ろした直後の熱々の状態を保っていた。


俺は深い木皿を三つ用意し、そこに赤黒く輝くシチューをたっぷりと盛り付けた。


さらに、俺はユニークスキル『料理する者』の力を発動させる。


「少し、ひと手間加えるか。」


アイテムボックスから取り出したフレッシュチーズをシチューの中央に乗せ、人差し指の先に青白い『魔法のバーナー』を灯した。


ゴォォォォッ。


指先から放たれる高火力の炎で、チーズの表面を直接炙っていく。


純白だったチーズが瞬く間に溶け出し、グツグツと泡を立てながら香ばしい焦げ目を形成していく。


赤ワインの深い香りと、炙られたチーズの濃厚な匂いが混ざり合い、静かな夜の平原に暴力的なまでのシズル感を漂わせた。


「完成だ。パンと一緒に食べよう。」


俺は『魔導パン窯』で焼いておいた特製食パンを分厚くスライスし、シチューに添えて二匹の前に置いた。


俺も木のスプーンを手に取り、炙りチーズと柔らかい肉を一緒にすくい上げて口に運ぶ。


「……ッ、最高だな。」


噛む必要すらないほどホロホロに崩れるファングウルフの肉から、赤ワインの酸味と深いコクがジュワッと溢れ出す。


そこに、魔法で香ばしく炙られたチーズの塩気とまろやかさが絡みつき、完璧なハーモニーを奏でていた。


シチューの汁をたっぷりと吸わせた特製食パンの甘みが、濃厚な味わいを優しく中和してくれる。


「キュイイィィッ!」


「ワッフ! ワフッ!」


シルクもメイも、顔をシチューだらけにしながら夢中で木皿を舐め回していた。


星空の下、心地よい夜風に吹かれながら食べる極上のシチューは、一ヶ月の徒歩の旅が全く苦にならないと思わせるだけの幸福感を与えてくれた。


すっかり腹を満たし、温かいお茶で一息ついた後、俺はふと夜の警戒について考えた。


「見張りをどうするかだな。俺とメイで交代するか?」


俺がそう呟くと、メイが「私が全部倒す!」とばかりに鼻息を荒くして立ち上がった。


だが、そのメイの前に、頭の上にいたシルクがピョンと飛び降りてきた。


「フンフンッ!」


シルクは胸を張り、得意げな顔をして俺を見上げている。


どうやら、「夜の警備は私に任せて」と言っているようだ。


「シルク、もしかして悪意のある人物や魔物が近づいてきたら、分かるのか?」


俺が尋ねると、シルクは力強く「キュイッ!」と頷いた。


彼女はSランクの魔物に匹敵する魔力を持つ幻の聖獣であり、固有スキル『幸せを運ぶ兎』には、持ち主に危険を知らせ、悪意を遠ざける力があるのだろう。


「そうか。シルクがそこまで言ってくれるなら、頼りにしてるよ。」


俺がシルクの柔らかな頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに目を細めた。


メイも「シルクがやるなら仕方ない」というように、その場にコロンと寝転がった。


頼もしい相棒たちのおかげで、過酷なはずの野営も、まるで安全な宿屋にいるかのようにくつろぐことができる。


俺はテントの中に入り、ふかふかのベッドに体を横たえた。


まだ見ぬ魔族の街で、どんな未知の食材と極上の料理に出会えるのだろうか。


そんな胸の躍る想像を膨らませながら、俺は静かな平原の夜の闇の中へ、深い眠りへと落ちていった。

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