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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん
神造迷宮

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第145話 神々の居城と、放浪の女神

白い石の回廊を進むにつれて、遠くに見えていた建物の大きさが分かってきた。


最初は巨大な神殿か城だと思っていたが、それだけではないらしい。


手前には広い庭園があり、その間をいくつもの水路が走っている。


白い柱が並ぶ長い回廊。


その向こうには別の建物。


さらに奥には大階段が続き、その先にもいくつもの屋根や塔が見えた。


「……一つの城っていう大きさじゃないな」


王城と神殿と庭園をまとめて、そのまま何倍にも広げたような場所だ。


俺たちが歩いている回廊もかなり幅があり、天井も高い。


人間だけが暮らすことを前提にした造りではないのかもしれない。


しばらく進むと、前方から一人の人影が歩いてきた。


六人とも一度そちらへ意識を向ける。


白い衣を纏った人のような姿だが、背中には翼があった。


第九十階層で会った神庭守護天使とは違う。


向こうもこちらに気づいた。


だが、立ち止まることも警戒することもなく、すれ違う直前に軽く頭を下げた。


俺も反射的に頭を下げる。


「こんにちは」


「ようこそ」


短い言葉だけを残し、そのまま通り過ぎていった。


少し先には別の姿もあった。


庭木の間で枝を整えている者。


水路へ手を向け、流れを調整している者。


何枚もの薄い板を抱えて回廊を歩いている者。


白い布のようなもので床を掃除している者までいる。


翼がある者もいれば、見た目だけなら人とほとんど変わらない者もいた。


身体の一部が淡く光っている者もいる。


誰も俺たちを見て騒いだりはしない。


少し目を向ける者はいても、また自分の仕事へ戻っていく。


「普通に暮らしてるんだな……」


もっと張り詰めた場所を想像していた。


女神の住まいだと聞いたせいもある。


だが実際には、静かではあっても誰もが直立して命令を待っているような場所ではなかった。


それぞれが自分のすることをしている。


ふと隣を見る。


ウンディーネが、いつもより少しだけ姿勢を正していた。


天空古龍を前にした時ほど慎重ではない。


それでも周囲を見回す表情が普段とは違う。


「知り合い?」


小さな声で聞く。


ウンディーネは首を振った。


『知らないよ。でも……ここにいる人たち、普通の精霊とかとは全然違う』


「強いってこと?」


『そういう感じじゃなくて……なんて言えばいいんだろ。いる場所が違うっていうか』


ウンディーネ自身も上手く言葉にできないらしい。


ただ、大精霊であるウンディーネがそう感じるなら、俺には分からない違いがあるのだろう。


そのまま進むうちに、広い中庭へ出た。


中央には噴水があり、その周囲を水路が四方へ伸びている。


そこから先はさらにいくつもの回廊へ分かれていた。


どちらへ進むべきか考えていると、一人の神使がこちらへ歩いてきた。


「お待ちしておりました」


俺たちの前まで来ると、丁寧に頭を下げる。


「俺たちが来るって分かっていたんですか?」


「はい。第九十階層の審判が終わった時点で、こちらにも伝わっております」


なるほど。


あの神庭守護天使から直接知らせが来たのか、別の仕組みがあるのかは分からないが、突然知らない六人が入り込んだ扱いではないらしい。


「上層へ向かわれるのでしたら、途中までご案内いたします」


「ありがとうございます」


素直にお願いする。


案内役の神使について中庭を抜け、大きな建物の中へ入った。


どうやらここからが第九十二階層に当たるらしい。


中も外と同じように広い。


高い天井。


何人も並んで歩ける回廊。


ところどころに中庭へ出る道があり、奥では神使たちが何かを話しながら記録らしい板を確認していた。


別の場所では水の入った容器を運んでいる者もいる。


「神様の住んでるところって、もっと違う感じだと思ってた」


キリコが周囲を見ながら言う。


「俺も」


実際に何を想像していたのかと言われると困る。


それでも、ここまで普通に仕事や生活らしいものがあるとは思っていなかった。


「こちらにおられる方々すべてが神というわけではありません」


案内役が振り返る。


「多くは御方へ仕える神使や神属です。それぞれ役目を持ち、この居城を維持しております」


「第九十階層の神庭守護天使も?」


「はい。同じく御方へ仕える神使です」


神そのものではない。


それでも普通の人間や精霊とは違う存在ということか。


「じゃあ、女神様のところへ案内してもらえるんですか?」


ベルが聞いた。


案内役は上を見上げる。


「御方は最上部におられます」


「最上部?」


「この居城は、第九十一階層から第百階層まで続いております。ここから先も上層へ進んでいただくことになります」


戦闘は終わったが、そのまま百階層へ行けるわけではないらしい。


「また試練があるんですか?」


「いいえ。第九十階層までで、試すための領域は終わっております」


案内役は穏やかに答える。


「ここからは、この居城を進んでいただくだけです」


それなら、これまでとは随分違う。


階層という言葉は残っていても、十個の別々な場所を抜けるわけではないようだ。


回廊をさらに進んでいると、ふと香ばしい匂いがした。


足が少しだけ緩む。


何かを焼いている。


肉か、それともパンのようなものか。


それとは別に、温かい飲み物を淹れた時のような柔らかな香りも混じっていた。


匂いのする方を見ると、大きな扉の向こうへ何人もの神使が出入りしている。


「厨房……ですか?」


案内役へ聞く。


「ええ」


思わずそちらをもう一度見る。


「神様や神使も料理を食べるんですね」


「必要としない者もおります。ただ、食事そのものを好む者はおりますし、客人を迎えるために用意することもあります」


天空古龍も、食事そのものは必要ないと言っていた。


高位の存在だからといって、食べられないわけではないらしい。


中を見てみたい。


どんな食材があって、どう料理しているのか。


少し気になったが、今は女神に会うために進んでいる途中だ。


立ち寄る理由はない。


匂いを背にして、そのまま歩く。


長い回廊の先で、空気が少し変わった。


俺には何が違うのか分からない。


だが、ウンディーネが先に反応した。


歩みを僅かに止める。


案内役だけではない。


周囲にいた神使たちも、向こうから歩いてくる一人の人物へ自然に頭を下げた。


見た目は人に近い。


翼もない。


派手な光を纏っているわけでもなかった。


落ち着いた衣を身に着け、何枚かの薄い板を片手に持っている。


それだけなら、ここまでに見た者たちと大きく変わらない。


だがウンディーネが静かに頭を下げた。


俺もそれを見て姿勢を正す。


相手が近づいてくる。


案内役が横へ退いた。


「こちらは、御方より記録を任されている神です」


「神様……?」


思わず聞き返した。


女神以外にも神がいるとは考えていなかった。


相手はこちらを見て、軽く頷く。


「そう畏まらなくても構いません。私はこの方より役目と神格を賜り、この領域の記録を預かっているだけです」


この方。


おそらく、放浪の女神のことだろう。


隣を見ると、ウンディーネはまだ普段より少し丁寧な姿勢のままだ。


天空古龍と向き合った時のような緊張はない。


それでも、相手を自分より上の存在として扱っていることは分かる。


神というだけで、全員がウンディーネより戦いに強いのかは分からない。


目の前の神からも、天空古龍のような圧倒的な戦闘の気配は感じなかった。


それでも存在そのものの違いがあるらしい。


記録を任された神が、俺たち六人を見る。


「第九十階層を越えられた方々ですね」


「はい」


「ようこそ。ここまでの歩みは記録に届いております」


全部を見られている、という意味ではないだろう。


だが、迷宮内でのことは少なくとも何らかの形で残っているらしい。


せっかく女神に仕えている神と話せるなら、聞いておきたいことがある。


「一つ、聞いてもいいですか?」


「どうぞ」


「この迷宮を造った女神様って、どういう神様なんですか?」


神庭守護天使には答えてもらえなかった。


だが、今回は少し違った。


「御方は、放浪と自由を司る上位神です」


「放浪と自由……」


記録の神が頷く。


「自ら道を選び、まだ知らぬ場所へ踏み出すこと。誰かに定められた道だけに縛られず、何を選び、誰と共に歩くかを己で決めること。そのような営みを尊ばれる御方です」


旅人を目的地へ運ぶ神、というわけではないらしい。


未来を決めて、その通りに人を動かす存在でもない。


「選ぶこと自体を大切にする方なんですね」


「ええ。御方は、他者へ選択を押しつけることを好まれません」


その言葉を聞いて、少しだけ納得した。


この居城が思ったより堅苦しくない理由も、それなら分かる気がする。


神使たちも、常に命令を待っているようには見えなかった。


それぞれ自分の役目を持って動いている。


放浪。


自由。


未知へ踏み出すこと。


どうしても【探求者】という職業が頭に浮かぶ。


ただ、それだけで俺がここへ呼ばれたと決めるのは早い。


天空古龍も、神庭守護天使も、そこは答えなかった。


「厳しい方なんですか?」


ベルが尋ねる。


記録の神は少し考えた。


「厳しい、とは少し違うでしょうね」


それから俺たちを見回す。


「自ら選んだことへ向き合う者には、寛容な方です。逆に、自由という言葉で何をしてもよいと考える者を好まれるとも思いません」


第八十一階層からの庭園を思い出した。


何をしてもいい場所ではない。


必要なら使える。


必要もないのに奪えば、その結果が返ってくる。


あれも、この女神らしい試練だったのかもしれない。


記録の神の視線が、そこで俺へ止まった。


少し長い。


何か変だろうか。


「……あの、何か?」


「いえ」


相手は僅かに目を細めた。


「なるほど」


「何がですか?」


「御方が気に掛けられるのも、少し分かった気がしただけです」


一瞬、意味が分からなかった。


「女神様が……俺を?」


「ええ」


思わず周りを見る。


ベルもキリコもこちらを見ている。


ウンディーネも少し驚いた顔をしていた。


「俺のことを知ってるんですか?」


「私は、あなたのすべてを知っているわけではありません」


記録の神はそう断った。


「ですが、御方が以前からあなたを気に掛けておられることは存じています」


胸の奥が少しざわつく。


迷宮の入口。


俺だけが妙に気になった岩壁。


【探求者】。


六人まとめての転移。


ここまで来る間、ずっと答えが出なかったことへ少し近づいた気がした。


「どうして俺なんでしょう?」


「それは、私からお話しすることではありません」


やはり、そこまでは教えてくれない。


「御方へ直接お尋ねください」


「……分かりました」


記録の神は俺だけでなく、改めて六人を見る。


「御方は、あなた方がここへ辿り着くのを待っておられます」


あなた方。


そう言ったが、その視線は一度だけ俺へ戻った。


どうやら俺が何かの中心にいることだけは、もう偶然ではなさそうだ。


「女神様は第百階層にいるんですよね?」


「ええ」


記録の神が上方へ視線を向ける。


「この居城は外宮から上層宮まで連なっております。今いる辺りはまだ外側。上へ進むほど御方の領域へ近づき、最上部が第百階層です」


単純な塔ではない。


大階段を上がり、別の宮殿へ渡り、中庭や回廊を抜けながら少しずつ奥へ進むらしい。


「ありがとうございました」


俺が頭を下げる。


「お気をつけて。もっとも、ここから先にあなた方を試す魔物はいませんが」


記録の神はそれだけ言うと、案内役や周囲の神使たちから礼を受けながら、元来た回廊を歩いていった。


俺たちも案内役に教えてもらった道を進む。


第九十三階層の奥。


そこには、これまでよりさらに大きな階段があった。


白い石の段が緩やかに上へ続き、その先から柔らかな光が差している。


ここから先は、第九十四階層へ繋がっているらしい。


一度振り返る。


遠くでは神使たちが変わらず仕事をしている。


水路には澄んだ水が流れ、回廊を何人もの神属が行き来していた。


これまでの旅では、大精霊であるウンディーネですら畏敬を集める存在だった。


そのウンディーネが自然に礼を取る神が、ここでは普通に仕事をしている。


本当に、違う場所まで来たんだな。


そして、この居城の一番上には放浪の女神がいる。


俺のことを以前から知っているらしい女神が。


なぜなのかは、まだ分からない。


聞ける相手はもう決まっていた。


「行こうか」


俺は上へ続く大階段へ足を掛ける。


ベル、メイ、シルク、ウンディーネ、キリコも続く。


俺たちは六人で、さらに居城の奥へ向かって階段を上り始めた。

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