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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん
神造迷宮

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第143話 神域の庭園と、白き巨樹

第八十一階層へ続く道の前で、俺たちは一度足を止めた。


十分に休んだおかげで、天空古龍との戦いで残っていた身体の重さはほとんど消えている。


ベルも普段通りの高さを飛び、メイとシルクの動きにも疲れは見えない。


キリコとウンディーネも大丈夫そうだ。


振り返ると、少し離れたところに天空古龍がいた。


昨日は同じ料理を食べ、そのまま近くで休んだが、第八十階層の守護者であることに変わりはない。


「いろいろ教えていただいて、ありがとうございました」


俺が頭を下げると、天空古龍は静かにこちらを見る。


「ここより先は我の預かりではない」


それだけだった。


先のことを教えるつもりはないらしい。


「分かりました。行ってきます」


ウンディーネも天空古龍へ一度きちんと視線を向けてから、俺たちの側へ来る。


古龍は何も言わず、翼を畳んだまま六人を見送っていた。


通路を進んでいくと、前方から柔らかな光が差し込んできた。


その中へ抜ける。


「……また随分変わったな」


目の前には緩やかな草地が広がっていた。


その間を白っぽい石で作られた細い道が通り、脇には澄んだ水路が流れている。


淡く光を帯びた花がところどころに咲き、その奥には背の高い樹木が並んでいた。


空も明るい。


ただ、天空域のような強い日差しではなく、昼とも夕方とも言いにくい穏やかな明るさだ。


「庭みたいだね」


ベルが周囲を見渡す。


「そう見えるね」


花壇や柵があるわけではない。


樹木も草も自然な姿をしている。


それなのに、水路も道も植物も、不思議なくらい調和していた。


誰かが細かく手入れしているというより、長い間この状態が保たれているように見える。


白い石の道を進んでいると、メイが足を止めた。


「ワフ」


視線の先を見る。


草地の向こうに、大きな生き物がいた。


鹿に似た身体に、枝分かれした立派な角。


かなり距離があるのに、身体から感じる魔力は弱くない。


シルクもすぐに気づき、こちらへ少し寄る。


大鹿のような生き物が顔を上げた。


こちらを見る。


俺たちも立ち止まったまま様子を窺う。


しばらくして、相手は再び頭を下げて草を食べ始めた。


「来ないね」


キリコが小さな声で言う。


「こっちを敵とは見てないみたいだね」


それだけ確認して歩き出す。


正体を知るためだけに【鑑定】する気にはならなかった。


あれだけの魔力を持ちながら何もしてこない相手だ。


こちらも同じように通り過ぎればいい。


その先でも、樹上に大きな鳥、水路の向こうに四足の獣と、何度か強そうな生き物を見かけた。


どれもこちらを一度見る程度で、近づいてはこない。


「今までと全然違うね」


ベルの言葉に頷く。


魔物と出会えば戦闘になることが多かった迷宮で、ここだけは様子が違う。


むしろ、俺たちの方から余計なことをしなければ、このまま進めそうだった。


第八十二階層へ入ると、植物の種類がさらに増えた。


細い水路が何本も枝分かれし、その間には小さな泉もある。


見たことのない実を付けた低木。


葉が揺れるたびに爽やかな香りを漂わせる草。


地面近くには茸のようなものもまとまって生えていた。


自然と目が向く。


だが、その近くでは小さな獣が枝の実を齧っていた。


香りのする葉の周囲には羽虫のような生き物が集まり、泉へ落ちた実は魚に似た生き物が食べている。


ここにあるものは、ちゃんとこの場所の中で使われている。


それを見ていると、珍しいからというだけで採っていくのは違う気がした。


ここが本当に誰かの庭なのかは分からない。


ただ、人の庭へ招かれて、勝手に実をもいだり草を抜いたりするような真似はしたくなかった。


「採らないの?」


俺が少し足を止めたのを見て、キリコが聞く。


「今必要なものでもないからね」


それで十分だった。


白い道へ戻り、そのまま先へ進む。


何を食べているのか。


どんな場所に集まって生えるのか。


手に取らなくても、見ていれば分かることはある。


第八十三階層へ進むと、道が三方向へ分かれた。


左には、淡く光る花が一面に咲いている。


右には、両手で抱えるほど大きな果実を付けた樹木が並んでいた。


中央だけは特別なものがない。


草地の間を白い石畳がまっすぐ続いている。


さすがに足を止めた。


左の花畑では、小さな羽虫が花から花へ飛び回っている。


右の木の下には割れた果皮や種が落ち、その周囲には小さな足跡も残っていた。


どちらも、この場所にいる生き物たちの生活の中にあるらしい。


「真ん中を行こう」


「そっちは何もなさそうだけど、いいの?」


ベルが聞く。


「うん。今は先へ進もう」


六人で中央の道へ入る。


しばらく歩くと、前方は草木に塞がれているように見えた。


行き止まりかと思って速度を落とす。


だが、そのまま近づいていくと、草の隙間に白い石が見えてきた。


さらに一歩。


その奥にも続いている。


「道、あるよ」


先を見たベルが言う。


派手な魔力光が出たわけでもない。


扉が開いたわけでもない。


ただ、最初は行き止まりにしか見えなかった場所に、いつの間にか先へ進める道があった。


一度振り返る。


左右の花畑と果樹は何も変わっていない。


「真ん中を選んだからかな?」


キリコが首を傾げる。


「分からない。最初から近づけば見える道だったのかもしれないしね」


何も採らなかったことが関係しているのかもしれない。


だが、それだけで条件を決めつけることはできない。


ただ、この場所では、目についたものへ片っ端から手を伸ばすより、周囲を見ながら進んだ方がよさそうだった。


遺跡を歩いていた時とは、自分の中の感覚も少し違う。


あの時は先が見たい気持ちが強くなりすぎて、休む判断まで遅れた。


今は知らない場所を歩いていても、それだけに引っ張られてはいない。


珍しいものを見つけても、一度立ち止まって周りを見られる。


旅をしてきた中で、それくらいは身についたのかもしれない。


第八十四階層へ入ると、周囲はさらに静かになった。


白い道の先に一本の樹が見える。


最初は距離があるから大きく見えるだけだと思った。


近づくにつれて、その考えが間違っていると分かる。


「……大きい」


幹は白に近い色をしていた。


何人並んでも囲みきれないほど太く、そこから伸びた枝が広い範囲を覆っている。


葉の隙間から柔らかな光が落ち、その下には大きな木陰ができていた。


根元には泉がある。


水は驚くほど澄んでいて、少し離れた場所からでも底の石まで見える。


そして、その泉の近く。


巨大な獣が一頭、身体を丸めて眠っていた。


第八十一階層で見た大鹿よりも、さらに強い魔力を感じる。


メイとシルクが足を止める。


ウンディーネも白い巨樹と眠る獣へ真剣な目を向けた。


俺たちもそれ以上近づかない。


ここまでの景色の中でも、この一帯だけはさらに空気が違った。


白い巨樹と泉。


その傍らで眠る強大な獣。


何かを守っているのか、ただここを住処にしているだけなのかは分からない。


それでも、わざわざ刺激する理由はなかった。


「少し離れたところで休もう」


白い巨樹から十分に距離を取り、草地へ腰を下ろす。


誰も泉へ近づかない。


木陰へ入ろうとする者もいなかった。


風が枝葉を揺らす。


さらさらと静かな音が頭上から流れてくる。


遠くでは小さな鳥の声もした。


迷宮の中だということを忘れそうなほど穏やかだった。


俺は白い巨樹を眺めながら、ここまで歩いてきた階層を思い返す。


罠もあった。


襲ってくる魔物もいた。


命を落としていてもおかしくない戦いも何度もあった。


決して安全な場所ではない。


それでも天空古龍は、挑戦者を殺すためではなく、先へ進む力があるかを確かめるために第八十階層にいた。


ここでは強い生き物がいても、こちらが何もしなければ襲ってこない。


三つに分かれた道でも、何もない中央を進んだ先に道が続いていた。


この迷宮は、ただ強い相手を倒し続ければいい場所ではないのかもしれない。


何を見ているのかまでは分からない。


強さなのか。


判断なのか。


仲間とどう進むか。


その全部なのか。


答えを急いで出す必要もなかった。


しばらく身体を休めてから立ち上がる。


白い巨樹の下では、巨大な獣がまだ静かに眠っている。


「そろそろ行こうか」


「うん」


みんなも立ち上がった。


俺たちは眠る獣との距離を保ったまま、第八十五階層へ続く道へ向かう。


背後では、白い巨樹の葉が静かに揺れ続けていた。

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