第134話 星降る湖と、雷紋大鰻の蒲焼き重
第二十一階層へ足を踏み入れると、ひんやりとした湿った空気が頬に触れた。
目の前には薄い霧が広がり、背の低い草と水溜まりがどこまでも続いている。
先ほどまでの森林とは、また随分違う景色だ。
「今度は湿原か……」
足元の土は柔らかく、少し踏み込むだけで水が染み出してくる。
先頭を歩いていたメイも、前脚が少し沈んだところで足を止めた。
「ワフ……」
どうやら、見た目ほど安定した地面ではないらしい。
「ここ、歩きにくそうだね」
キリコの言う通り、水面に草が浮いているような場所もあり、不用意に踏み込めば深みへ落ちそうだ。
「ウンディーネ、足元の様子を見てもらえる?」
『うん。ちょっと待ってね』
ウンディーネが手を伸ばすと、周囲の水が僅かに揺れ、細い水筋がいくつも広がった。
『こっちは浅いけど、あそこは深いよ』
示された場所を避け、比較的安定した足場を選んで進む。
霧で視界は悪いが、水の流れについてはウンディーネがいるので心強い。
メイも鼻先を上げて周囲の匂いを探り、シルクは俺の頭の上で長い耳を動かしていた。
第二十二階層では、水辺に潜んでいた魚型の魔物が突然飛び出してきた。
メイがいち早く反応し、飛びかかってきた魔物を氷の魔力で足止めする。
その隙に俺が金剛棒で仕留めた。
浅い水場に見えても、何が潜んでいるか分からない。
その後も休憩を挟みながら慎重に進み、第二十四階層へ差し掛かった時だった。
幅広い水路の近くで、メイが急に立ち止まる。
「ワフッ!」
低く唸りながら水面を見つめた。
シルクも耳を立てる。
次の瞬間、水面の下で青白い光が走った。
バチッ!
水が弾け、大きな影が飛び出してくる。
現れたのは、俺の身長を遥かに超える巨大な鰻だった。
黒に近い青色の身体には、稲妻のような淡い模様が走っている。
「うわ、大きい!」
ベルが慌てて上へ飛んだ。
俺も距離を取りながら【鑑定】する。
【雷紋大鰻】
詳細:神造迷宮の湿原・湖沼区画に生息する大型の鰻型魔物。体表に走る雷紋へ魔力を蓄積し、水中を通して放電する性質を持つ。厚い皮の下には脂の乗った食用の白身があり、加熱すると柔らかく、濃厚な旨味を持つ。皮にも良質な脂と旨味があり、焼き料理に適する。
「鰻か……!」
かなり立派な個体だ。
厚い身と脂を見れば、料理への期待も膨らむ。
ただし、あの放電は危ない。
雷紋大鰻が身体を捻り、再び青白い光を走らせた。
「みんな、水から離れて!」
俺たちが岸へ下がると同時に、ウンディーネが手を動かす。
水路の水が大きくうねり、雷紋大鰻の周囲だけを包むように持ち上がった。
岸側の水路から切り離された水が、巨大な水球となる。
バチバチッ!
青白い光が水球の内部へ広がったが、こちらへは届かない。
『大丈夫。こっちの水とは繋がってないよ』
「助かる!」
雷紋大鰻は激しく暴れていたが、ウンディーネが水流を変えると、その身体がゆっくり岸の方へ押し出されてきた。
俺はタイミングを見て踏み込み、金剛棒で頭部を打つ。
大鰻の動きが止まった。
放電が収まったことを確認してから、必要な処理を済ませてアイテムボックスへ収納する。
「さっき、すごく嬉しそうだったね」
キリコが俺を見る。
「うん。鰻は料理するのが楽しみな食材なんだ」
「うなぎ?」
「焼くと美味しい魚だよ。あとで作ってみよう」
メイがこちらを見上げ、尻尾を振る。
シルクも俺の頭の上で耳を立てていた。
第二十五階層へ進むと、霧の向こうに大きな湖が現れた。
対岸はほとんど見えず、静かな水面がどこまでも広がっている。
岸辺には古い石柱が並び、一部は水中へ沈んでいた。
「随分大きい湖だね」
ベルが上空へ飛んでも、端までは見えないらしい。
ウンディーネも湖へ近づき、水へ手を触れる。
『かなり広いよ。奥まで水が繋がってる』
俺たちは湖畔を調べ、先へ進めそうな道を探した。
だが、石柱の先には深い水が広がるばかりで、通れる場所が見つからない。
しばらく周囲を調べ、その日は岸辺の高台で休むことにした。
そして、辺りが暗くなり始めた頃だった。
「フトシ、あれ見て!」
ベルの声に湖へ目を向ける。
水面の上に、小さな光がいくつも浮かんでいた。
青白い光が一つ、また一つと増えていく。
やがて霧の中から光の粒がゆっくり降り始め、水へ触れると小さく輝いて消えていった。
「綺麗……」
キリコが湖を眺めたまま呟く。
まるで、星が湖へ降っているような景色だ。
メイも俺の隣へ座り、シルクは肩の上から湖を見つめている。
「星降る湖、か」
思わずそんな言葉が出た。
しばらく眺めていたが、途中で別の変化に気づいた。
水面から突き出している石柱が、昼間より長く見える。
「……水が減ってる?」
ウンディーネが湖へ目を向けた。
『うん。向こうへ流れてる』
水位が下がるにつれ、沈んでいた石が少しずつ姿を現していた。
やがて石柱の間から、平らな石畳が見え始める。
「道だ」
どうやら、水位が下がった時だけ通れる道らしい。
俺たちは水の動きをしばらく観察し、翌日も同じ変化が起きることを確認してから進むことにした。
翌日、水位が十分に下がったところで石畳へ足を踏み入れる。
幅はあるが、ところどころ水が残っていて滑りやすい。
メイは俺の少し前を歩き、シルクは頭の上から周囲を見ている。
水が戻り始めても慌てずに済むよう、ウンディーネには流れを確認してもらった。
『まだ大丈夫。しばらくは戻らないよ』
「分かった。ありがとう」
霧の中に続く石畳を進むと、道は湖の中央方向へ伸びていた。
第二十七階層ではさらに霧が濃くなったが、ウンディーネが水の流れを辿ってくれたおかげで、大きく迷うこともなかった。
そして第二十八階層。
石畳の先で、水が不自然に渦を巻いている場所を見つけた。
「ここだけ流れが違う?」
『うん。下に何かある』
ウンディーネが水面へ手を向ける。
周囲の水がゆっくり左右へ分かれ、湖底の一部が見えてきた。
そこには大きな石造りの構造物が沈んでいた。
分厚い石の扉と、周囲へ刻まれた水路のような溝。
どうやら水門らしい。
「水位の変化と関係してるのかな」
『奥で水が動いてる。たぶん、ここを通してるんだと思う』
俺たちは水門の周囲を調べ、扉の近くに円形の操作部を見つけた。
ただし、水圧が掛かった状態では動かしにくそうだ。
「ウンディーネ、水の流れを少し変えられる?」
『できるよ』
ウンディーネが水門周辺の水流を整える。
扉へ押し付けられていた水の勢いが弱まり、俺は金剛棒を使って操作部をゆっくり回した。
ゴゴゴッ……。
重い音とともに石の扉が動き、奥へ続く通路が現れる。
「開いた!」
キリコの声に、俺も頷いた。
力任せではどうにもならなかっただろう。
ウンディーネが水流を細かく調整してくれたおかげだ。
『このくらいなら簡単だよ』
そう言って、いつものようにふわふわと戻ってくる。
本当に頼もしい。
水門の先を慎重に進み、第二十九階層を抜ける。
そして第三十階層へ入った。
そこには、これまでの湖よりも深い青色をした水場が広がっていた。
中央には、大きな岩のようなものがある。
だが、近づくとそれがゆっくり動いた。
巨大な亀だった。
青みを帯びた分厚い甲羅に、大きな四肢。
太い首を伸ばし、周囲の水を押し分けるように身体を起こしている。
【鑑定】する。
【蒼甲巨亀】
詳細:神造迷宮の湖沼区画深部に生息する大型の亀型魔物。青い硬質甲羅で身を守り、水流を操って接近する外敵を押し流す。甲羅や四肢には強い防御力があるが、首や関節周辺は比較的柔らかい。肉は食用可能で、適切に血抜きと下処理を行うことで臭みが少なく、煮込むと旨味のある出汁が取れる。甲羅周辺の軟骨質部分にはゼラチン質が多い。
「亀も食べられるのか……」
だが、まずは戦闘だ。
蒼甲巨亀が首を伸ばし、周囲の水を巻き上げた。
巨大な水の塊がこちらへ迫ってくる。
キリコが魔力壁を展開する。
だが、水が壁へ当たる直前、ウンディーネが片手を上げた。
『……それ、邪魔』
水の塊がぴたりと止まった。
次の瞬間、流れが反転し、蒼甲巨亀の周囲へ戻っていく。
相手も必死に水を操ろうとしているようだが、周囲の流れはほとんどウンディーネの思い通りに動いていた。
『水で押すなら、わたしの方が得意だよ』
巨大な水流が巨亀の四肢を包み、その動きを抑え込む。
「今のうちに!」
俺が動くと、メイも反対側へ駆けた。
巨亀の頭がメイを追う。
その隙にシルクが甲羅の側面へ跳び、強い蹴りを入れた。
硬い甲羅が低い音を立て、巨亀の注意が一瞬そちらへ向く。
俺は首の付け根へ回り込み、金剛棒を構えた。
甲羅を無理に砕く必要はない。
狙うのは柔らかい部分だ。
金剛棒を振り抜く。
巨亀の身体が大きく揺れた。
続けてもう一撃。
水面へ激しい波が広がったが、ウンディーネが流れを押さえ、こちらへは届かなかった。
やがて蒼甲巨亀の動きが止まる。
しばらく様子を見て、討伐を確認した。
「よし、終わった」
メイとシルクが戻ってきたので、二匹を撫でながら全員の無事を確かめる。
怪我人はいない。
「ウンディーネ、すごかったね」
キリコがそう言うと、ウンディーネは少し笑った。
『水だからね』
その一言が、何とも頼もしかった。
蒼甲巨亀も必要な処理をして収納する。
奥に現れた通路を進むと、見覚えのある小広間へ出た。
平らな地面と澄んだ水場があり、周囲を確認したところ危険な気配はない。
「ここで休もう」
魔導携帯テントを展開し、調理設備も取り出す。
ようやく、今回確保した食材を料理できる。
まずは雷紋大鰻だ。
アイテムボックスから取り出し、状態を確認する。
身は厚く、皮の下にはしっかり脂が乗っている。
「今日は鰻を焼いて、ご飯に乗せようと思う」
「ご飯に?」
キリコが興味深そうに覗き込む。
「うん。蒲焼き重って料理だよ」
まずは表面のぬめりを赤塩で揉み、清水で丁寧に洗い流す。
滑りやすい身体をしっかり固定し、背側から包丁を入れて開いた。
内臓を取り除き、血や汚れを残さないように洗浄する。
中骨を外し、身の厚さを確認してから焼き台に合わせた長さへ切り分けた。
ここからは串打ちだ。
【樹器創成】で調理用の細長い平串を作り、身の厚さに合わせて三~四本ずつ通していく。
焼いた時に身が反り返ったり、返す時に崩れたりしないよう、串の位置を揃えるのが大切だ。
最初の一本は身の状態を確認しながら慎重に通す。
皮を突き破らないよう、身の厚みの中を真っ直ぐ通していく。
位置が決まったところで、残りも『調理の超加速』を使って正確に打ち終えた。
「よし、これで焼きやすくなった」
串の両端が直接炭火へ掛からないようにし、焼き台へ並べる。
まずはタレを付けず、白焼きにする。
ジュウッ……。
皮の下の脂が熱を受け、細かな泡を立て始めた。
身の表面も少しずつ白く締まり、鰻特有の香りが漂ってくる。
『絶対温度領域』で熱の入り方を確認しながら、炭火の強さを調整する。
脂が落ちて炎が上がりそうになったところは、魔法で空気の流れを僅かに変え、火が直接身へ当たりすぎないようにした。
表面へ軽く焼き色が付いたところで裏返す。
串を打ってあるおかげで、厚い身も崩れずに返せた。
両面を焼いたら、一度蒸し器へ移す。
今回の大鰻は身がかなり厚い。
そのまま焼き切るより、一度蒸してから仕上げた方が、余分な脂を落としつつ中をふっくらさせられそうだ。
蒸気の上がった蒸し器へ並べ、身の状態を見ながら火を通す。
適度に脂が抜け、身が柔らかくなったところで取り出した。
蒸している間にタレも用意する。
小鍋へ天然醸造生醤油、手作り本みりん、自家製日本酒、少量の砂糖を合わせる。
そこへ先ほど外した中骨と頭の使える部分を香ばしく焼いて加え、弱火でじっくり煮出した。
最初は酒の香りが立つが、次第に醤油とみりんの甘い香りへ変わっていく。
骨から旨味が移ったところで濾し、もう一度火に掛けて濃さを調整する。
少しとろみと照りが出たところで味を確かめた。
「うん、いい感じ」
ここから仕上げだ。
蒸した鰻を串ごと炭火へ戻し、まず表面の水分を軽く飛ばす。
そこへタレを刷毛で薄く塗った。
ジュッ!
タレが熱を受け、醤油の香ばしさが一気に立ち上がる。
焼き色を確認してから裏返し、反対側にも薄く塗る。
一度焼いて、また塗る。
厚く付けすぎず、焦がさないように何度か繰り返していく。
表面へ綺麗な照りが出て、皮の縁が香ばしく締まったところで火から下ろした。
甘辛い香りが辺りへ広がり、メイが俺の足元で尻尾を振り始める。
シルクも作業台の見える位置まで移動し、耳を立てていた。
「もう少しでできるよ」
合わせるご飯は、イル・ソーレで購入した長粒種のインディカ米だ。
米の特徴に合わせて吸水と水加減を調整し、炊き上がったら十分に蒸らす。
蓋を開けると、ふっくらした米の香りが立ち上った。
日本の米とは違うが、粒がしっかりしていて、これはこれで美味しい。
【樹器創成】で人数分の重箱を用意し、ご飯をよそう。
そこへタレを少量回し掛け、串を丁寧に抜いた蒲焼きを乗せた。
身を崩さないよう、串は回さず、一本ずつ真っ直ぐ引き抜いていく。
最後に蒲焼きの表面へもう一度だけタレを薄く塗る。
艶のある鰻がご飯の上へ並び、甘辛い香りが立ち上った。
「雷紋大鰻の蒲焼き重、完成」
ベルが早速覗き込む。
「すごくいい匂い!」
メイとシルクの分も同じ蒲焼き重だ。
小骨が残っていないか念入りに確認し、体格に合わせた大きさへ切って盛り付けた。
そして、もう一品。
蒼甲巨亀の澄まし鍋を作ろう。
解体した肉を取り出し、脂や筋、甲羅周辺の軟骨質部分を確認する。
肉はしっかりしているが、煮込みに向いていそうだ。
まずは血や汚れを落とし、軽く下茹でしてから清水で洗う。
余計な臭みを取り除いたところで、黒剛鉄の万能煮込み鍋へ移した。
出汁には、メリディアで買った昆布に似た乾燥海藻を使う。
水で戻してからゆっくり加熱し、沸騰する前に引き上げる。
そこへ下処理した亀の肉と骨の使える部分を加え、弱火でじっくり煮出した。
浮いてくるアクは丁寧に取り除く。
澄んだ汁にしたいので、強く沸騰させない。
しばらくすると、汁へ少しずつ旨味が移り、表面には薄く脂が浮いてきた。
肉が柔らかくなったところで骨を取り除き、軟骨質の部分は食べやすい大きさへ切り分ける。
具には手持ちのシロシメジも少量加えた。
仕上げは赤塩を中心に、天然醸造生醤油をほんの少し。
醤油の色を強く付けるのではなく、亀の出汁そのものを活かしたい。
一口味を見る。
あっさりしているが、口の中へ旨味が長く残る。
軟骨から出た自然なコクもあり、思った以上にしっかりした汁になっていた。
最後に南方柑橘の皮を薄く削り、ごく少量だけ加える。
爽やかな香りが立ち、鍋全体が軽やかにまとまった。
「こっちもできたよ」
蒲焼き重と澄まし鍋を並べ、みんなで食事を始める。
俺はまず蒲焼きを一切れ取った。
箸を入れると、柔らかな身がすっとほぐれる。
口へ運ぶと、甘辛いタレの香ばしさが広がり、その後から鰻の濃い脂と旨味が押し寄せてきた。
蒸してから焼いたおかげで、中はふっくらしている。
皮も柔らかいだけではなく、炭火で焼いた香ばしさが残っていた。
「……うまい」
今度はタレの染みたご飯と一緒に食べる。
粒の立ったインディカ米が、濃いタレと鰻の脂を程よく受け止めている。
日本の鰻重とは米の食感が違うが、これはこれでよく合う。
ベルも一口食べ、すぐにご飯へ箸を伸ばした。
「このお魚、すごく柔らかいね!」
キリコも嬉しそうに頷く。
「甘いタレがご飯にも合う」
足元ではメイが蒲焼きとご飯を勢いよく食べ、尻尾を振っている。
シルクも小さく切った身を前足で押さえ、一口ずつ楽しんでいた。
どうやら二匹も気に入ったようだ。
続いて、蒼甲巨亀の澄まし鍋をいただく。
まずは汁を一口。
……おっ。
澄んだ見た目からは想像できないほど、出汁に深みがある。
乾燥海藻の旨味が下支えし、亀の肉から出た穏やかな甘味とコクが広がった。
柑橘の香りも強すぎず、最後にふわっと抜ける程度だ。
肉はしっかりした歯応えを残しながらも、噛み切れる柔らかさになっている。
軟骨質の部分はぷるんとした舌触りで、噛むほどに旨味が出てきた。
「蒲焼きの後に飲むと、またいいね」
キリコが椀を両手で持ちながら言う。
確かに、濃い甘辛さの後にこの澄んだ汁を飲むと、口の中がすっと落ち着く。
ウンディーネも鍋を気に入ったようで、ゆっくりと汁を味わっていた。
『……これ、美味しい』
短い感想だったが、表情は満足そうだ。
俺も蒲焼き重をもう一口食べ、続けて澄まし鍋を飲む。
濃厚な鰻と、優しい亀の出汁。
同じ水辺にいた魔物なのに、これほど違う料理になるのは面白い。
食事を終える頃には、全員すっかり満足していた。
メイは俺の隣で身体を丸め、シルクも膝の上へ降りてくる。
二匹を撫でながら、俺は奥へ続く通路を見た。
霧の湿原。
星降る湖。
水位の変化で現れた石畳と、湖底に隠れていた水門。
慣れない環境に戸惑うこともあったが、みんなで調べながら先へ進むことができた。
特に今回は、ウンディーネに随分助けられた。
「今回もありがとう、ウンディーネ」
『うん』
ウンディーネはいつものように水の上へ身を預け、こちらへ小さく笑いかけた。
メイとシルクの警戒や、キリコの魔力壁、ベルの見張りにも何度も助けられた。
こうして一緒に進めるのは、本当にありがたい。
今回は、思いがけず美味しい鰻と亀の料理まで楽しめた。
百階層まではまだ遠いが、少しずつ確実に進んでいる。
俺は温かいお茶を一口飲み、隣で休んでいるメイの背中をゆっくり撫でた。
広間には、食後の穏やかな時間が流れていた。




