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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん
南の地メリディアへ

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第129話 中央都市と、国を囲む大峡谷

商人ギルドを出た俺たちは、そのままメリディア王城へ向かっていた。


次の目的地は、北方の砂水王国オアサリア。


行きたい場所は決まったが、まだ具体的な道順までは決めていない。


今のところ分かっているのは、ここから北を目指すということくらいだ。


「まずはイザベラさんたちに知らせて、それから道を考えよう」


「うん」


キリコが隣で頷く。


王城へ着くと、いつも通り門で名乗った。


王家の短剣を使って無理に通してもらう必要はない。


「フトシです。イザベラ陛下に、次の旅先が決まったことをご報告したくて来ました」


門衛はすぐに確認を取り、しばらくして俺たちは城内へ案内された。


通された部屋には、イザベラさんとセバスさんがいた。


「来たか、フトシ」


「お時間をいただいてありがとうございます」


俺が頭を下げると、イザベラさんは俺たちを見回した。


「カオリとクロエは出発したのだったな」


「はい。二人でイル・ソーレへ向かいました」


「そうか。自ら行き先を決めたのであれば何よりだ」


そこでイザベラさんの視線が俺へ戻る。


「それで、お主たちも行き先が決まったのか?」


「はい。次は北のオアサリアへ行ってみようと思っています」


「ほう」


イザベラさんが少し楽しそうに眉を上げた。


「砂水王国か。面白いところを選んだな」


「商人ギルドで話を聞いたら、気になることが多くて」


砂漠。


水魔法を生活へ使う国。


水路に沿って広がる畑や果樹園。


食べられる棘植物や、まだ知らない料理。


理由はいくつもある。


ウンディーネも水魔法の使われ方を見てみたいと言っているし、キリコも初めて見る砂漠を楽しみにしていた。


「それで、オアサリアまではどのような道をお使いになるおつもりでしょうか?」


セバスさんに尋ねられ、俺は少し困った。


「そこまではまだ決めていません。とりあえず北へ向かおうかと」


「でしたら、一度国内の地図をご覧になりますか?」


「お願いします」


「少々お待ちください」


セバスさんが棚から大きな地図を取り出し、机へ広げた。


アストラーレ全土と、その周辺まで描かれた地図だ。


南に今いるメリディア。


西にイル・ソーレ。


北にはノース・グラン。


東にはオリエンス。


これまで実際に歩いた街が、一枚の地図の上に並んでいる。


その中央へ目を移したところで、以前聞いた話を思い出した。


「そういえば、中央にも王城があるって前に聞きましたけど……あの辺ってどうなってるんですか?」


東西南北の主要都市だけではなく、国の中央にも王城があること自体は知っている。


ただ、そこへ行ったことはないし、どんな場所なのかも詳しく知らなかった。


「街はあるぞ」


イザベラさんが答える。


「中央都市と呼ばれている。中央王城もそこにある」


「やっぱり都市なんですね」


「もちろん人も住んでおる。ただ、お主が喜ぶような場所ではないと思ってな。今まで特に勧めなかっただけだ」


「俺が喜ぶような?」


「大きな市場や、その土地ならではの産物を探すなら、東西南北の都市の方が面白いということだ」


中央都市は、国の政治や行政を動かすための街らしい。


中央王城を中心に、国政を支える施設や各地方との連絡を扱う機関、騎士や魔術関係の国家施設が集まっている。


そこで働く官吏やその家族が暮らす区域もあり、普通の住民もいる。


市場や宿、飲食店も当然存在するそうだ。


ただ、イル・ソーレやメリディアのように、大きな市場やその土地独自の産物で賑わう都市とは少し性格が違う。


「そもそも中央都市は、大峡谷の内側にあるからな」


イザベラさんが何気なく続けた。


「大峡谷?」


思わず聞き返す。


地図を見ていたキリコも顔を上げた。


「知らなかったのか?」


「中央に王城があることは聞いてましたけど、大峡谷の話は初めてです」


セバスさんが地図の中央を指した。


そこには中央都市を囲むように、細かな線が幾重にも描かれている。


「アストラーレの中央部には、広大な岩盤台地がございます。その周囲を取り囲むように、大地が深く裂けた大峡谷が存在しております」


「周り全部が谷なんですか?」


「完全に均一な形ではございませんが、大まかにはそのようにお考えいただいてよろしいかと」


一本の長い谷が伸びているわけではない。


巨大な台地を残し、その周囲をぐるりと囲むように大地が裂けている。


その内側に残された広い中央台地の上へ、中央都市と中央王城が築かれているという。


「こんな地形になってたんですか」


改めて地図を見る。


(なるほど。だから大きな街が中央に集まらず、東西南北に分かれているのか)


もちろん理由はそれだけではないだろう。


それでも国の中央にこれほど大きな峡谷があれば、人や物の流れへかなり影響するはずだ。


「中央都市へは、どうやって入るんですか?」


「橋がある」


イザベラさんが答えた。


「東西南北の主要な方角に、それぞれ大峡谷を渡る大橋と街道が整備されておる」


馬車も徒歩も通れる。


国の役人や騎士の移動にも使われ、通常の荷物を運ぶ程度なら問題なく利用できるらしい。


ただし、大峡谷を跨ぐ橋なので、好きなだけ荷を通せるわけではない。


「橋の通行量や荷の重量は管理されております。特に大規模な商隊は、荷の量によっては中央を横断せず、大峡谷の外側を回る街道を利用する場合もございます」


セバスさんが地図の外周を指で示した。


「そのため中央都市は政治と行政の要ではございますが、国内すべての物流が集中する場所ではございません。東西南北の主要都市が、それぞれ商業の中心として発展しております」


「なるほど……」


今まで巡ってきた四つの都市の配置が、少しだけ繋がった気がした。


それより今は、大峡谷の方が気になる。


「どれくらい大きいんですか?」


俺が尋ねると、イザベラさんは腕を組んだ。


「場所によるな。幅も深さも一定ではない」


広い場所では、橋の向こう側までかなり距離がある。


深い場所なら谷底が霞んで見え、その遥か下を大きな川が流れているところもあるそうだ。


谷壁には何層もの地層が露出し、途中から枝分かれする支谷や、巨大な岩柱が立つ場所もある。


崖から細い滝が落ちているところもあり、谷間を大型の飛行魔物が飛ぶ姿を見ることもあるという。


「見てみたい」


キリコが地図を見たまま言った。


俺も同じ気持ちだった。


料理でも食材でもない。


ただ、そんな場所があるなら実際に自分の目で見てみたい。


「俺も見てみたいですね」


ベルも地図の中央へ降りる。


「わたしも気になる。そんなに大きな谷なんて見たことないもの」


「ならば中央を通って北へ抜ければよかろう」


イザベラさんが地図の上へ指を置いた。


「メリディアから北上し、大峡谷の南側へ向かう。南の橋を渡れば中央都市だ」


中央都市で一度休み、翌日に北側の橋から中央台地を出る。


そこから北方へ続く街道へ入ればいい。


セバスさんが、その経路を指でなぞる。


「フトシ様方の人数でしたら、こちらの経路で問題ございません。中央都市には宿もございますので、無理に一日で抜ける必要もないでしょう」


「オアサリアへ行くには遠回りになりませんか?」


「大きな遠回りにはなりません」


セバスさんは地図を見ながら続ける。


「大量の荷を運ぶ商隊でしたら、橋の利用条件や隊列の規模から外周街道を選ぶ場合もございます。しかし、フトシ様方でしたら中央経由でも問題なく北へ抜けられます」


それなら迷う理由はなかった。


オアサリアへ向かう途中で、大峡谷を見る。


今まで行ったことのない中央都市も一度歩いてみる。


「じゃあ、中央へ寄ってみたいです」


「決まりね」


ベルが地図の上で頷いた。


キリコも少し楽しそうだ。


シルクが頭の上で耳を動かし、メイも俺の足元からこちらを見上げている。


「中央を通って、そこから北へ向かいます」


「承知いたしました」


セバスさんが丁寧に頭を下げる。


「それでは、中央都市までの街道と南側の橋が分かる簡単な地図をご用意いたしましょう」


「助かります」


その後、オアサリア方面へ向かう際の注意も簡単に聞いた。


中央都市を北へ抜け、そのまま進めばアストラーレ北部へ入る。


さらに国境を越えれば、砂海方面へ続く交易路へ繋がるという。


オアサリアとの交易は今も普通に行われており、国境が閉じられているわけでもない。


ただし砂漠へ入ってからは、今までの街道旅とは勝手が違う。


強い日差し。


昼と夜の寒暖差。


突然の砂嵐。


水の管理。


砂地に適応した魔物。


商人ギルドでも聞いた話なので、危険そのものは分かっている。


「砂漠へ入られる前に、改めて必要な物資や現地の状況をご確認になることをお勧めいたします」


「そうします」


今から全部決める必要はない。


まずは中央都市を目指せばいい。


「それで、メリディアを発つのはいつにするのだ?」


イザベラさんに尋ねられる。


宿へ戻って精算を済ませ、荷物を確認する。


俺の荷物はほとんどアイテムボックスの中なので、準備そのものにはそれほど時間はかからない。


足りないものがあれば今日のうちに買える。


「明日の朝にしようと思います」


「うむ」


これで、街を出る日が決まったら知らせるという約束も果たせた。


セバスさんも静かに頷く。


「承知いたしました。では、先ほどの地図も本日中にお渡しできるよう手配いたします」


「ありがとうございます」


イザベラさんが椅子の背へ軽く身体を預けた。


「メリディアでは随分と色々あったが、お主らしい滞在になったようだな」


「俺も楽しかったです」


市場を歩き、果樹園を見て、屋台を出した。


紅角野牛と出会い、飛竜便も見た。


知らない料理も覚えた。


思い返せば、かなり濃い時間だった。


「また好きな時に戻ってこい」


「はい。また来ます」


まだアストラーレを離れるわけではない。


明日向かう中央都市も、この国の中だ。


だから今は、大げさな別れにする必要もない。


セバスさんから用意してもらった街道の地図を受け取り、俺たちは王城を後にした。


宿へ戻る道を歩きながら、地図をもう一度開く。


最終的な目的地はオアサリア。


その途中には、今まで存在だけ知っていても行ったことのなかった中央都市。


そして、その周囲をぐるりと囲む大峡谷。


キリコが横から地図を覗き込んだ。


「そんなに深い谷、どんな感じなんだろう」


霞むほど遠い谷底。


その下を流れる大河。


何層にも重なる岩壁。


そこへ架けられた巨大な橋と、その向こうにある中央台地。


頭の中で想像してみるが、どうにも実感が湧かない。


「明日になれば分かるよ」


「うん」


キリコが地図から顔を上げる。


俺も地図を畳み、前を見る。


メリディアの暖かな風が、並木の葉を揺らしていた。

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