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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん
南の地メリディアへ

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第124話 陽都の王城と、初めて会う魔王

清水さんとクロエさんが同じ宿へ移り、みんなで市場や果樹園を回った翌朝。


朝食を終えた俺は、今日の予定を考えていた。


メリディアへ来てから、市場を見て、屋台を出して、依頼にも参加した。


キリコも冒険者になり、清水さんたちまで合流した。


随分と色々あったが、一つ残っていることがある。


メリディアへ着いた時、イザベラさんから街を出る前に一度顔を出すよう言われていた。


まだ今日明日で街を出ると決めたわけではない。


それでも状況も変わったし、一度挨拶へ行っておいた方がいいだろう。


「今日は王城へ行こうと思うんですけど、二人はどうします?」


俺が尋ねると、クロエさんはすぐに顔を上げた。


「わたしも行っていいなら行ってみたい」


「もちろん」


隣の清水さんは、すぐには答えなかった。


手元の飲み物へ視線を落とし、少し考えている。


理由は何となく分かる。


清水さんにとって、アストラーレの王城は魔王のいる城だ。


自分で資料を調べ、この国へ実際に入ってからもロドリスで聞かされていた話とは違うものを見てきた。


それでも、イザベラさん本人とはまだ会ったことがない。


「無理に来なくても大丈夫ですよ」


清水さんが俺を見る。


「イザベラさんは俺たちによくしてくれてる人ですけど、清水さんが会わないといけないわけじゃないので」


しばらく考えたあと、清水さんは首を横へ振った。


「……ううん。行く」


声は少し硬い。


それでも、今度は迷わず続けた。


「私も、会ってみたい」


「分かりました」


なら、みんなで行けばいい。


朝食を終えて準備を整え、宿を出る。


俺、ベル、メイ、シルク、ウンディーネ、キリコ。


そこへ清水さんとクロエさんも加わった。


王城が見えてくるにつれ、清水さんは何度か丘の上へ目を向けていた。


「フトシ君って……魔王様と普通に話すんだよね?」


「はい。何度もお世話になってます」


「何度も……」


不思議そうな顔をされた。


クロエさんも王城を見上げる。


「フトシ君が王族と知り合いなのは聞いてたけど、こうやって普通に会いに行くのね」


「約束してましたから」


「その約束がもう普通じゃない気がするけど」


そうだろうか。


王城の門へ着き、警備の兵士へ挨拶する。


「おはようございます。フトシです。イザベラさんたちにご挨拶したくて来ました」


兵士は俺の顔を見ると、すぐに気づいた。


「フトシ殿ですね。少々お待ちください」


同行者の人数と名前を確認され、取り次ぎの人が城内へ向かう。


特別なことはしない。


王家の短剣も出さなかった。


しばらく待つと、入城の許可が下りた。


案内に従って中へ入る。


隣を見ると、清水さんが少しだけ目を丸くしていた。


「どうしました?」


「……本当に普通に入ったなって」


「確認はされましたよ?」


「うん。そうなんだけど……」


よく分からない。


廊下を進んでいると、向こうから見覚えのある燕尾服姿が歩いてきた。


「フトシ様」


「セバスさん、お久しぶりです」


「お元気そうで何よりでございます」


いつもの穏やかな表情だ。


毎朝顔を合わせていた頃からそれほど長く離れていたわけではないが、少し懐かしく感じる。


セバスさんはベルたちにも目を向け、キリコのところで少し表情を和らげた。


「キリコ様もお元気そうですね」


「うん」


挨拶が済むと、セバスさんが俺へ向き直った。


「フトシ様。先日の紅角野牛の件につきましては、改めてお礼を申し上げます」


「ああ……」


ラウルさんから報告が届いたのだろう。


「いえ、四人とも無事に帰れましたから。それが一番です」


「ラウル殿から詳細な報告を受けております。負傷者を含む四名全員を無事メリディアへ連れ帰っていただいたこと、王城としても感謝しております」


セバスさんが丁寧に頭を下げる。


その横で、クロエさんがこちらを見た。


「……紅角野牛を倒したの?」


「救援へ行ったら、色々ありまして」


「色々で済ませる魔物じゃないと思うけど」


清水さんがクロエさんを見る。


「そんなに危険なの?」


「Aランク相当よ。普通なら高ランクの冒険者が複数で対応する相手」


「Aランク……」


セバスさんが静かに補足する。


「今回の個体は、肩高約三メートル、全長約五メートルの大型成獣だったと報告されております」


清水さんが俺を見る。


「それを、フトシ君が?」


「俺一人じゃないですよ。メイとシルクとベルにも手伝ってもらいました」


ウンディーネはキリコと救援対象を守ってくれていた。


最初から一人で何とかしたわけではない。


「それでも十分すごいと思う……」


清水さんは小さく呟いた。


俺としては、紅角野牛を倒したことより、救援へ行った四人を全員連れて帰れたことの方が大きい。


セバスさんもそれ以上は話を広げず、今度は清水さんとクロエさんへ目を向けた。


「ところで、こちらのお二方は?」


「クロエさんと、清水さんです」


まずクロエさんを紹介する。


「クロエさんはアクアリスのポルト・ラーラで知り合ったCランク冒険者です」


「クロエ・ポルト・ラーラです。お会いできて光栄です」


クロエさんが礼をする。


「こちらこそ。セバスと申します」


続いて清水さんを見る。


「清水さんは、俺と一緒にロドリス王国へ召喚された人です」


セバスさんの表情が、ほんの少しだけ変わった。


険しくなったわけではない。


ただ、今までより清水さんをしっかり見る。


「ロドリスから召喚された方でございますか」


「はい」


清水さんも少し緊張した様子で頭を下げる。


「少し事情がありまして」


俺がそう付け加えると、セバスさんはそれ以上ここでは尋ねなかった。


「承知いたしました。イザベラ様へお伝えいたします」


案内されたのは、大勢が並ぶ謁見の間ではなかった。


以前にも話をしたことのあるような、小規模な会談用の部屋だ。


中にはイザベラさんとザディスさんがいた。


セバスさんも一緒に入る。


「来たか、フトシ」


イザベラさんがこちらを見る。


「はい。メリディアを出る前に一度顔を出す約束でしたので」


「まだ出ると決めたわけではなかろう?」


「そうなんですけど、色々ありまして」


「ほう?」


イザベラさんの視線が、俺の後ろへ向く。


その前に、ベルがいつものようにふわりと浮かび、メイとシルクも俺のそばへ来る。


キリコも特に緊張する様子はない。


ウンディーネに至っては、普段通りだ。


イザベラさんも一人ずつ見てから、普通に頷いた。


清水さんは、そのやり取りを黙って見ていた。


「こちらが清水カオリさんです」


俺が一歩横へずれる。


「俺と同じ時に、ロドリス王国へ召喚された人です」


続けてクロエさんも紹介する。


「こちらはクロエさん。アクアリスのポルト・ラーラで知り合った冒険者です」


イザベラさんの黄金色の瞳が清水さんへ向く。


「お主が、以前フトシの話していた異世界人の一人か」


「はい」


清水さんが姿勢を正し、深く頭を下げる。


「清水カオリと申します」


「そう硬くならずともよい」


そう言われても、相手は一国の王だ。


清水さんの肩から力は抜けなかった。


イザベラさんはそれ以上急かさず、席を勧める。


全員が落ち着いたところで口を開いた。


「それで、ロドリスに召喚されたお主が、なぜメリディアにいる?」


清水さんが一度息を整えた。


俺が代わりに説明することではない。


少し待つと、清水さんは自分から話し始めた。


「私は、自分の意思でロドリス王都を出ました」


イザベラさんは黙って聞いている。


「今は、同じ時に召喚された三人とも行動していません。アストラーレへ来たのも、魔王を討伐するためではありません」


「うむ」


「ロドリスでは、アストラーレや魔族は人間の敵だと教えられていました」


清水さんは、王城で調べたことも話した。


ロドリス側の記録では、魔族は残虐で、アストラーレは人類へ害をなす国として書かれていたこと。


一方、商人や冒険者側の記録では他国と交易し、普通に人が往来する国として残されていたこと。


「調べるほど、同じ国のことを書いているとは思えなくなって……王国から聞いた話だけを信じることができなくなりました」


イザベラさんの表情は変わらない。


「それで、自分の目で見に来たのか?」


「最初の目的は、フトシ君を探すことでした」


清水さんが一瞬だけ俺を見る。


「でも、実際にアストラーレへ入ってから、街も見ました。宿にも泊まって、市場にも行って、昨日は果樹園にも行きました」


少しだけ声の硬さが抜ける。


「私が聞いていた国とは、全然違いました」


そこで一度言葉を切った。


「少なくとも、私がここまで自分で見た範囲では」


イザベラさんが小さく頷いた。


「それでよい」


清水さんが顔を上げる。


「他人に聞いた話だけで、国の全てを分かったつもりになる必要もない。数日見ただけで、我が国の全てを知ったつもりになる必要もない」


「はい」


「お主が自分で見て、自分で考えればよい」


清水さんが少し驚いたように瞬いた。


イザベラさんは続ける。


「ロドリスを離れたからといって、我が国へ仕える必要もないぞ」


「……でも、私はロドリスに召喚された人間です」


「それがどうした?」


返事は早かった。


清水さんが言葉に詰まる。


「今、お主はここで武器を向けておるのか?」


「いえ」


「我が国で何か罪を犯したか?」


「いえ」


「ならば、今のところ余がお主を拘束する理由はない」


どこかで似たやり取りを聞いた気がした。


キリコが生まれた時だ。


魔人だからという理由だけで拘束する必要はないと、イザベラさんはあの時も言った。


清水さんも、その話を思い出したのかキリコへ一瞬視線を向けた。


キリコは特に気にせず座っている。


イザベラさんは清水さんの【賢者】という職業についても、すぐに何かを命じたりはしなかった。


清水さんは少し黙っていた。


ロドリスでは召喚された直後から、職業によって必要な存在かどうかを決められた。


その違いを考えているのかもしれない。


重くなりかけた空気を変えるように、イザベラさんが俺を見る。


「それでフトシ。メリディアは楽しんでおるか?」


「はい。市場も面白いですし、知らない食材も色々ありました」


「やはりそこか」


「他にもありますよ」


キリコが冒険者登録をしたこと。


昨日は市場で屋台を出し、紅角野牛のブリスケットサンドを百食売ったこと。


清水さんたちと市場や観光果樹園を回ったことも簡単に話した。


「キリコ、お主は冒険者になったのか?」


イザベラさんが尋ねる。


「うん。Fランク」


「そうか。自分で決めたのであればよい」


キリコが小さく頷いた。


その様子を見ていた清水さんが、ふと俺へ目を向ける。


「フトシ君って、王城でも本当に普通なんだね……」


「普通?」


「市場の人と話してる時と、あんまり変わらないから」


「イザベラさんは王様なので、失礼がないようにはしてますよ」


「そういう意味じゃなくて……」


清水さんが少し笑った。


イザベラさんも面白そうにこちらを見る。


「何か気になることでもあるのか?」


「フトシ君って、かなり信用されてるんだなと思って」


その言葉で、イザベラさんが俺を見る。


「そういえば、王家の短剣のことは話したのか?」


「短剣?」


清水さんが首を傾げた。


まだ話していなかった。


アイテムボックスから、鞘に収めた王家の短剣を取り出す。


「これです」


清水さんとクロエさんが見る。


「イザベラさんからいただいたものです」


「魔王様から?」


「うむ」


イザベラさんが答える。


「妾がフトシへ渡した」


清水さんの目が少し大きくなる。


「王家がフトシの後ろ盾となる証だ。困った時には、この国を頼ってよいという意味で渡しておる」


「臣下ってことではないんですか?」


「違う」


イザベラさんははっきり答えた。


「旅をやめて妾に仕えよと誘ったことはあるが、断られたのでな」


「えっ」


「料理人としてです」


俺が補足する。


清水さんがまた驚いた顔をした。


昨日からよくその顔を見る気がする。


「短剣は、俺を王家の配下にするためのものじゃないって説明してもらってます」


「むしろ、こやつは持っていても滅多に使わん」


イザベラさんが少し呆れたように言う。


セバスさんも口元をわずかに緩めた。


「紅角野牛の救援時にも、短剣を根拠として参加を要求することはございませんでした」


「自分の実力が足りないなら参加しない方がいいと思ったので」


清水さんは短剣を見てから、俺を見る。


何か言いたそうだったが、結局小さく息を吐いただけだった。


しばらくして、城の人が茶と小さな焼き菓子を運んできた。


南方果実を使ったものらしく、甘い香りがする。


冷たい果実茶も一緒だ。


清水さんはカップを手に取って、少し不思議そうに眺めた。


「どうしました?」


「いや……」


口元が少し緩む。


「ロドリスで倒せって言われてた魔王様のお城で、普通にお茶とお菓子食べてるんだなって思ったら、なんか変な感じで」


俺も一瞬考える。


「確かに」


クロエさんが笑った。


イザベラさんまで口元を上げる。


「毒でも入っていると思っておったか?」


「い、いえ、そこまでは!」


清水さんが慌てて首を振った。


少しだけ部屋の空気が軽くなる。


焼き菓子を一つ食べると、果物の甘酸っぱさが残った。


イザベラさんも茶を一口飲み、改めて清水さんを見る。


「それで、お主はこれからどうするつもりだ?」


清水さんの手が止まった。


昨日も似た質問をした。


その時とは少し違う表情で考えている。


「まだ、何も決めてはいません」


そこまで言ってから、続けた。


「でも……少し、旅をしてみたいと思っています」


昨日より、言葉がはっきりしていた。


クロエさんも隣で頷く。


「そうなったら、わたしも一緒に行こうかなって話してます」


「ほう」


イザベラさんは二人を見る。


「なら、好きに見て回ればよい」


清水さんが少し驚く。


「この国だけでも、お主がまだ見ていない場所はいくらでもある。他国へ行きたければ、それも好きにすればよい」


「【賢者】の力を……使わなくてもいいんですか?」


清水さんが尋ねた。


イザベラさんが眉を上げる。


「使いたいなら使えばよい。だが、妾が今ここで、お主へ我が国のために働けと命じる理由はなかろう」


清水さんは何も言わなかった。


ロドリスでは、召喚されたその日から【賢者】として役目を与えられていたらしい。


今、目の前のイザベラさんは、その力があると知っても手を伸ばそうとしない。


少しして、清水さんが静かに頭を下げた。


「……ありがとうございます」


「礼を言うようなことではない」


それも、キリコの時と同じだった。


会話が落ち着いたところで、ザディスさんが初めて清水さんへ少し身を乗り出した。


「一つだけ、よろしいですか?」


「はい」


「【賢者】という職業には興味があります」


やはりそこだったか。


ザディスさんの水色の瞳が少しだけ楽しそうに見える。


「異世界由来の魔法知識や、この世界でどのように魔法を組み立てているのか。機会があれば、少しお話を伺ってみたいですね」


「私でよければ」


清水さんが答える。


「ありがとうございます。今日は初対面ですし、詳しい話はまたの機会に」


そこですぐ引いた。


今ここで魔法研究を始めるつもりはないらしい。


しばらく雑談をした後、俺たちは席を立った。


街を出る日が決まったら、改めて知らせることも伝える。


「分かった。また顔を出せ」


「はい」


イザベラさんへ頭を下げ、部屋を出る。


セバスさんが城の入口近くまで送ってくれた。


「また鍛錬が必要になりましたら、いつでもお声掛けください」


「その時はお願いします」


王城を出る。


来た時より、清水さんの歩き方が少し軽くなっていた。


しばらく坂を下ったところで、クロエさんが尋ねる。


「どうだった?」


清水さんはすぐには答えなかった。


一度王城を振り返る。


「……聞いてた人とは、全然違った」


それから前を向いた。


「まだ一回話しただけだから、全部分かったとは思わないけど」


「うん」


「ちゃんと自分で会ってみてよかった」


俺はそれを聞いて頷いた。


「それならよかったです」


それ以上、俺からイザベラさんについて何かを言う必要はない。


清水さんが自分で見て、自分で話した。


その上でどう考えるかは、本人が決めればいい。


俺たちはそのまま、メリディアの街を宿へ向かって歩く。


昨日まで清水さんにとって「魔王」は、ロドリスで聞かされた言葉の中にいた存在だったのだろう。


今は少なくとも、実際に会って話した相手の顔と声がある。


そして自分のこれからについても、少しずつ自分で選び始めている。


清水さんは隣のクロエさんと何か話しながら、時々街の店先へ目を向けていた。

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