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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん
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第113話 自由を求めた勇者たちと、北の道の終わり

何話かサイドが続きます。

カオリが姿を消した翌朝、カイトたちは予定していた南の街道ではなく、王都の北門から外へ出た。


「放っとけよ。あいつがいなくても俺たちだけで十分だ」


カイトは振り返りもせず、王都から離れていく。


昨夜まで同じ宿にいたカオリが、いつ、どこへ消えたのか。


それを心配する様子はなかった。


「地図くらい途中で誰かに聞けばいいだろ」


トウマも気にしていない。


「カイトと一緒なら、どこでも大丈夫でしょ」


リンはそう言って、カイトの隣を歩いていた。


本来、アストラーレ魔王国へ向かうなら、まず南へ進んで海洋国アクアリスを目指す。


それはカオリがギルドの資料を調べて見つけた道だった。


だがカイトには、それが気に入らなかった。


カオリが決めた道というだけではない。


王国側からも、魔王国へ向かうなら南へ進むよう説明されていた。


「なんで俺たちが、あいつらに言われた通りに進まなきゃならねえんだよ」


北へ伸びる道を見ながら、カイトは鼻で笑う。


「俺たちはもう自由なんだ。好きな方へ行けばいい」


「そうだな」


トウマも頷いた。


北へ行って何をするのか。


どこへ向かうのか。


三人とも具体的には決めていない。


誰かに決められた道を選ばない。


今のカイトにとっては、それだけで十分だった。


王都から離れるにつれて、道は次第に細くなっていく。


やがて整備された街道から外れ、三人は北方の深い森へ入った。


王都を出る前に食料や水はある程度持ってきている。


最初のうちは、それで何も困らなかった。


森へ入って二日目。


前方の茂みから数体のファングウルフが姿を現した。


低い唸り声を上げながら散開し、三方向から飛びかかってくる。


だが、カイトは慌てもしなかった。


「ちょうどいいじゃん」


腰の剣を抜く。


最初の一体が飛びかかった瞬間、カイトが踏み込みと同時に剣を振るった。


【勇者】の力が乗った斬撃が、ファングウルフを一撃で地面へ叩き落とす。


間を置かず、もう一体へ手を向けた。


「火よ、敵を焼き尽くせ――ファイア・ボール!」


火球が直撃し、ファングウルフが炎に包まれる。


別方向からトウマへ飛びかかった一体は、盾で正面から受け止められた。


「遅い」


トウマは身体強化を乗せたまま押し返し、その腹へ剣を突き込む。


残った一体へはリンが走った。


「はっ!」


最初の拳が顔面へ入る。


続けて腹。


脇腹。


【拳聖】の連撃が重なるたびに打撃は重くなり、最後の一撃でファングウルフの身体が数メートル先まで吹き飛んだ。


戦いが始まってから、ほとんど時間は経っていない。


「ほらな」


剣についた血を払って、カイトが笑った。


「やっぱり俺たちだけで何も問題ねえじゃん」


「この程度なら、何匹来ても同じだ」


トウマも剣を収める。


リンは嬉しそうにカイトへ近づいた。


「さすがカイト。あっという間だったね」


「当たり前だろ」


カイトは倒れた魔物を一瞥する。


「王国なんかに従ってたのが馬鹿らしくなるよな。俺たちだけで十分やっていけるじゃん」


三人の戦闘能力そのものは高かった。


王国で受けてきた訓練と、それぞれのユニークスキル。


真正面から襲ってくる魔物なら、今の三人でも問題なく倒せる。


その結果が、ますますカイトたちの自信を強くしていった。


だが、戦えることと、旅ができることは別だった。


午後になっても、同じような木々ばかりが続いている。


「……さっきも、この倒れた木を見なかったか?」


トウマが足を止めた。


道の脇には、途中から折れた太い大木が横倒しになっている。


カイトも少しだけ眉を寄せた。


「似たような木なんか、いくらでもあるだろ」


「そうか?」


「だったら、こっち行けばいい」


カイトは分かれ道の片方を指した。


根拠はない。


そのまま進んだが、一時間ほど歩いたところで道は藪へ消えた。


仕方なく引き返す。


翌日は、思っていたより水の減りが早いことに気づいた。


「次の町って、あとどれくらい?」


リンが水筒を手に聞く。


誰も答えられなかった。


カオリなら、地図を確認していた。


次の町までの日数。


補給できる場所。


水場。


どの道がどこへ繋がっているのか。


これまで三人が気にも留めていなかったことを、全部調べていた。


だが、その穴を誰かが埋めようとはしなかった。


「そのうち村くらいあるだろ」


カイトは気にせず歩き出す。


「そもそも、この国の道が分かりにくすぎんだよ」


「整備が悪いな」


トウマも同意した。


自分たちが道を調べていないことは、問題にならない。


道が悪い。


森が悪い。


国が悪い。


そう考えて、そのまま北へ進み続けた。


そして三人は、自分たちが王都を出てからずっと、その動きを追われていることにも気づいていなかった。


カオリが昨夜、自分たちは王国から監視されていると警告していたことも、カイトたちはまともに取り合っていない。


少なくとも、自分たちの近くに誰がいるのか。


どこから見られているのか。


そんなことを確かめようとした者は一人もいなかった。


森の中を進む三人から十分に距離を取り、その後方を数人の影が追っていた。


姿を見せない。


近づきすぎない。


焚き火を使う場所も、休む時間も、三人の進路も記録する。


王国の監視役たちは、ただ静かにその情報を王都へ送り続けていた。


その報告が、アルベール・ヴァン・ロドリスのもとへ届く。


「何だと?」


玉座に座るアルベールの声が低くなる。


報告に来た兵が頭を下げた。


「清水カオリ様は宿から姿を消し、現在も所在を確認できておりません。また、残る三名は予定されていた南方ではなく、北門から王都を離れました」


アルベールの顔が険しくなる。


「現在は?」


「北方の森を進んでおります。監視役が距離を取って追跡を継続しております」


莫大な魔力と資金を費やし、異世界から召喚した勇者たち。


一人は消えた。


残る三人まで、王国が用意した予定を無視して勝手に動いている。


「それまでに、そのような兆候はなかったのか」


「三名とも、以前より命令されることに強い反発を見せるようになっていたとの報告がございます」


「……恩知らずどもが」


アルベールが肘掛けを強く握った。


王国が住む場所を与えた。


装備も用意した。


騎士と魔術師を使って鍛えた。


魔物との実戦経験まで積ませた。


それが今になって、自分たちの意思だけで王国を離れようとしている。


「連れ戻せ」


短い命令だった。


「ただし、殺すな。三人とも必ず生きたまま王都へ戻せ」


「はっ。では、ガウェイン団長へ招集を――」


「ガウェインには知らせるな」


兵がわずかに顔を上げた。


アルベールは不機嫌そうに続ける。


「あれは勇者どもに甘すぎる。今までの訓練でも、随分と手心を加えていたようではないか」


「ですが、騎士団長を通さず騎士団を動かすとなりますと……」


「予の命令だ」


その一言で、兵は再び深く頭を下げた。


「副団長を使え。必要な兵もそちらから選ばせろ。王宮魔術師も付ける」


アルベールの目が細くなる。


「必要なのは勝負ではない。三人を傷つけず、確実に回収することだ」


「承知いたしました」


「ガウェインには、全てが済むまで何も知らせるな」


「はっ」


命令は国王直属として、騎士団副団長へ伝えられた。


副団長は勇者三人と真正面から戦う方法を選ばなかった。


王国は三人を育成してきた側だ。


騎士団に残された訓練記録。


魔術師たちからの報告。


実戦訓練での動き。


カイトがどのように剣を振るうか。


トウマがどこへ立ち、どう味方を守るか。


リンがどの距離から踏み込むか。


副団長はそれらを一つずつ確認していった。


それだけではない。


三人が自分より弱いと判断した相手に対して、どのような態度を取るのかも報告には残っている。


能力は高い。


だが、経験は浅い。


これまでの戦いは、ほとんどが正面から魔物を倒すものだった。


ならば、まともに戦わせる必要はない。


三人を生きたまま捕らえる。


その一点だけを目的に、準備が進められた。


それから数日後。


ようやく森が途切れた。


「やっと抜けたか」


カイトが枝を払い、開けた場所へ出る。


そこには、苔の生えた古い石畳が続いていた。


ところどころ割れているものの、森の中の道よりはずっと歩きやすい。


「ちゃんと道あるじゃん」


リンの表情が明るくなる。


「最初からこっちに出ればよかったな」


カイトは、自分たちがどれだけ遠回りしたのかも気にせず歩き出す。


古い街道は北へ続いていた。


両脇には崩れかけた石柱が残り、かつては軍の移動にも使われていたらしい広さがある。


その道も、先へ進むにつれて少しずつ狭くなった。


やがて前方に石壁が見える。


「砦か?」


トウマが目を細めた。


山の間を塞ぐように、古びた石造りの砦が建っていた。


その先へ続く道は見えない。


どうやら、この旧街道はここで終わっているらしい。


だが、三人が足を止めた理由は別にあった。


砦の前に数十人の兵が並んでいる。


全員がロドリス王国の紋章を付けていた。


鎧を身につけ、武器も携えている。


ただし、剣先はこちらへ向けられていない。


その中央に立つ騎士団副団長が、一歩前へ出た。


カイトの表情が露骨に険しくなる。


「……何でお前らがここにいる?」


副団長は落ち着いた声で答えた。


「勇者殿。国王陛下より、王都へお戻りいただくよう命を受けております」


「断る」


カイトは即答した。


剣の柄へ手を置く。


「俺たちはもう、お前らの言うことを聞く気はねえ」


トウマも盾へ手をかけた。


リンも拳を握り、腰を落とす。


副団長は、それでも武器を抜かなかった。


「我々も、勇者殿と争うつもりはありません」


その言葉を聞き、カイトの口元が吊り上がった。


自分たちを恐れている。


そう受け取った。


「だったら、そこをどけよ」


「王命ですので、それはできません」


「まだ分かってねえの?」


カイトが剣を抜いた。


「邪魔するなら、お前らごと吹き飛ばすぞ」


前方の兵たちに緊張が走る。


だが隊列は崩れない。


トウマもカイトの横へ立つ。


リンもいつでも踏み込める姿勢を取った。


数十人の兵。


中央の副団長。


砦。


三人の意識は、完全に前へ向いていた。


王国兵がなぜ自分たちの進路を知っていたのか。


いつからここで待っていたのか。


そこまで考える者はいない。


まして、自分たちの後ろに誰かがいるなど思ってもいなかった。


副団長が静かに息を吐く。


「……では、やむを得ません」


カイトが笑った。


「やってみろよ」


その瞬間。


背後の森から、複数の光が走った。


「――っ!?」


三人の身体へ、ほぼ同時に淡い光がまとわりつく。


カイトが反射的に振り返った。


そこには、今まで存在にすら気づいていなかった人影が並んでいる。


木々の間に潜んでいた王宮魔術師と、捕縛を担当する兵たちだった。


「何だ、こいつら……!」


剣へ魔力を流そうとする。


だが、いつものように集まらない。


身体の中を巡る魔力が細かく乱され、形になる前に散っていく。


続いて足元へ魔法陣が浮かんだ。


光の帯が足首から膝へ絡みつく。


「てめ――」


さらに別の術が重なった。


視界がわずかに歪む。


指先の感覚が鈍くなる。


身体そのものは動くはずなのに、命令へ反応するまでが遅い。


「後ろだ!」


トウマが叫び、自分へ身体強化を掛けようとする。


だが、魔力阻害が重なった状態では普段のように力をまとめられない。


そこへ前方の兵たちも一斉に動いた。


投げ込まれるのは剣や槍ではない。


魔力を帯びた縄。


先端に金属輪の付いた長い拘束具。


三人を傷つけず、ただ動きを止めるための道具ばかりだった。


「ふざけんな!」


リンが足へ絡んだ拘束を力任せに引きちぎった。


そのまま地面を蹴る。


【拳聖】の補正を受けた身体が、一気に兵との距離を詰めた。


「どけっ!」


拳が振り抜かれる。


狙われた兵が後ろへ飛び退いた。


その眼前をリンの拳が通り過ぎ、風圧だけで身体を大きくよろめかせる。


だが、その一撃へ意識を向けた瞬間。


右腕。


左脚。


腰。


別々の方向から三本の拘束が巻きついた。


「こんなの!」


一本を引きちぎる。


だが、その間にさらに一本。


また一本。


拘束を外すたび、新しいものが別方向から加わっていく。


そこへ身体を鈍らせる魔法が重なった。


「っ……!」


リンの脚が止まる。


直後、全身へ痺れが走った。


それでも動こうとするが、今度は強烈な眠気が意識を沈めていく。


「カイト……」


最後まで手を伸ばそうとして、そのまま地面へ倒れた。


「リン!」


カイトが叫ぶ。


その間にも術は止まらない。


トウマは盾を構えたまま耐えていた。


【聖戦士】の身体は頑丈だ。


一つや二つの拘束なら、力で振りほどける。


だが、今回は一つではない。


魔力の流れを乱される。


両脚を縛られる。


感覚を鈍らされる。


麻痺が重なる。


そこへ眠りの術まで続く。


「くそ……っ!」


盾を地面へ突き立てて立とうとする。


前方から伸びた拘束具が、その盾を持つ腕ごと固定した。


「正面から……来いよ……」


声が低くなる。


「これじゃ……戦いにも……」


最後まで言葉は続かなかった。


膝が地面へつく。


片手で身体を支えようとしたが、そのまま頭が落ちた。


残ったのはカイトだけだった。


「ふざけんなよ……!」


【勇者】の力を乗せ、身体へ絡んだ拘束を強引に引きちぎる。


一本。


さらに一本。


一歩前へ出た。


兵たちはすぐに距離を取った。


「俺を誰だと思って――」


剣へ魔力を集める。


一瞬だけ炎が生まれた。


だが形になる前に散る。


また背後から術が重なった。


耳鳴り。


視界の歪み。


足の感覚が薄くなる。


それでもカイトは前へ進もうとした。


「こんなの……卑怯だろ……!」


副団長は答えなかった。


勇者と正々堂々勝負をするために、ここへ来たのではない。


王命を無視して離脱した強大な戦力を、生きたまま王都へ戻す。


それだけだ。


カイトが最後の力で踏み込む。


副団長まで、まだ十数メートル。


一歩。


二歩。


三歩目を出そうとして、脚がもつれた。


「っ……!」


地面へ片手をつく。


剣を握る腕も震えている。


さらに背後で、複数の魔法陣が同時に光った。


カイトの視界が大きく揺れる。


(本気さえ出せれば……)


歯を食いしばる。


(本気さえ出せれば、こんな奴ら……)


その考えが途切れた。


剣が石畳へ落ちる。


続いてカイトの身体も、その場へ崩れ落ちた。


すぐには誰も近づかなかった。


王宮魔術師たちは距離を保ったまま術を維持し、前方の兵も配置を崩さない。


三人が完全に動かなくなったことを確認してから、副団長が手を上げた。


「状態確認」


兵たちが慎重に近づく。


呼吸。


脈。


外傷。


一人ずつ確認していった。


「三名とも生存しています」


「重傷もありません」


「よし」


副団長が短く頷く。


「予定通り拘束しろ。通常の手枷では足りん」


運び込まれたのは、黒い金属で作られた重い拘束具だった。


手首。


足首。


首元。


それぞれへ取り付けられると、表面に刻まれた細かな紋様が淡く光る。


「このまま王都へ戻すのですか?」


若い兵が尋ねた。


「ああ」


副団長は倒れている三人を見下ろす。


「王都へ着いたら、指定された場所で王宮魔術師へ引き渡す。俺たちの任務はそこまでだ」


若い兵が少し迷ったあと、声を落とした。


「……ガウェイン団長への報告は?」


副団長の表情がわずかに硬くなる。


「不要だ」


「ですが――」


「陛下から直接、知らせるなと命じられている」


それ以上、若い兵は何も言わなかった。


騎士団長であるガウェインを通さず、副団長へ直接下された王命。


副団長自身も、王都へ戻った後に三人がどう扱われるのかまでは知らされていない。


命じられたのは、傷つけずに捕らえ、王宮魔術師へ引き渡すところまでだった。


少し離れた場所では、王宮魔術師たちが騎士たちから距離を取り、小声で確認を交わしていた。


「地下の部屋は?」


「すでに準備されています」


「術式は」


「王家の禁書庫から必要なものが届いているそうです」


「なら問題ありません」


その内容が騎士たちへ説明されることはなかった。


カイト。


トウマ。


リン。


三人はそれぞれ担架へ乗せられ、砦の裏手へ停めてあった護送馬車へ運ばれていく。


窓はない。


厚い板と金属で補強された、箱のような馬車だった。


三人を中へ収める。


重い扉が閉じた。


ガチャン、と外側から何重にも錠が掛けられる。


「出発しろ」


副団長の命令で、馬車がゆっくり動き始めた。


北へ進むために歩いてきた道を、今度は王都へ向かって戻っていく。


自由になるために王国を離れたはずの三人は、自分たちが追われていたことすら知らないまま捕らえられた。


今度は、自分の意思では扉を開けることも、馬車から降りることもできない。


揺れる暗い車内で、三人は意識を失ったまま横たわっている。


騎士団長のガウェインは、この捕縛命令が出されたことすら知らない。


そして、副団長もまた、その先に何が待っているのかは知らされていなかった。


護送馬車の後方を進む王宮魔術師の一人が、閉ざされた扉へ目を向ける。


「到着次第、儀式を始める」


その声を残し、護送馬車は深い森の中へ消えていった。

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