第106話 南国市場の陽冠鶏と、空を駆ける飛竜便
昨日は入口から眺めるだけで終わったメリディアの大市場が、朝から頭に浮かんでいた。
果物だけでも見たことのないものが多かったし、その奥には香草や香辛料、肉、調味料まで並んでいた。
せっかく来たのだから、今日は時間を気にせずじっくり歩いてみたい。
宿の食堂で、焼きたてのパンに卵料理、数種類の南方果実という軽めの朝食を済ませる。
「今日は市場?」
宿を出たところでキリコが聞く。
「うん。昨日はほとんど見られなかったからね。今日はゆっくり回ろう」
「やった!」
ベルが嬉しそうに俺の横を飛ぶ。
メイとシルクも一緒だ。
イザベラさんたちは今日も王城で仕事なので、俺たちだけの自由行動になる。
市場へ近づくにつれ、人の数と呼び込みの声が増えてきた。
大きな日除けの下には、陽蜜果や椰香果、棘蜜果、月房果が籠や木箱いっぱいに積まれている。
さらに奥には香辛料や香草、穀物、肉、調味料、出来上がった料理まで並んでいた。
オリエンスやノース・グランの市場とも雰囲気が違う。
甘い果物の香りがしたと思えば、その先からは乾いた香辛料の匂いが流れてくる。
(これは時間がかかりそうだ)
まず足を止めたのは果物の区画だった。
昨日見た月房果も大量に並んでいる。
ただし、黄色く熟したものとは別に、青くて太い硬そうな実が積まれていた。
俺が少し見ていると、店の女性が声をかけてくる。
「そっちは甘くないよ」
「そうなんですか?」
「料理用なんだ。焼いたり煮たり、油で揚げたりすると芋みたいになるよ」
持たせてもらうと、昨日食べたものよりずっと硬い。
同じような果実でも、そのまま食べる種類と料理向けの種類があるらしい。
両方を少しずつ買ってアイテムボックスへ収納する。
その先では、また見たことのない果物が並んでいた。
丸みのある細長い形で、熟したものは皮が黄色から橙色へ変わっている。
切って見本にしてある実の中には、柔らかそうな橙色の果肉と黒い種が詰まっていた。
(パパイヤっぽいな)
【鑑定】する。
【橙柔果】
詳細:温暖な地域で育つ果実。熟すと果皮が黄色から橙色へ変わり、内部には柔らかな橙色の果肉と多数の黒い種を持つ。完熟した果肉は穏やかな甘味と軽い酸味を持ち、香りも強すぎないため生食しやすい。メリディアでは果物として食べるほか、肉料理のソースや漬け込みにも利用されている。
俺が見本を眺めていると、店主が小さく切った果肉を差し出した。
「初めてなら食ってみな」
「ありがとうございます」
一口食べる。
陽蜜果ほど濃厚ではないが、柔らかな甘味があり、後味にわずかな酸味が残る。
香りも穏やかだ。
「そのままでも美味いけど、こっちじゃ肉料理にもよく使うぞ」
店主が果実を並べ直しながら続ける。
「熟したやつを潰して香辛料と合わせたりな。若い実を肉の下ごしらえに使う家もある」
「なるほど」
(ヨーグルトと合わせても良さそうだ)
香辛料の効いた肉へ添えても、邪魔をせず馴染みそうだった。
食べ頃の橙柔果をいくつか買い、次は香辛料の区画へ向かう。
ここは市場へ入った時から気になっていた。
大きな袋や瓶の中に、種、乾燥した実、根、葉、粉末が色ごとに並んでいる。
クグの実やピリ石とは違う香りも多い。
いくつかの瓶を眺めていると、奥にいた年配の店主が俺を見た。
「兄ちゃん、随分熱心だな」
「初めて見るものが多くて」
店主の視線が、俺の肩から腕へ移る。
「その身体なら冒険者だろ? 香辛料屋より武器屋の方が似合いそうだが」
「一応、冒険者です。でも料理が好きなので」
「料理?」
少し間が空いた。
「その身体でか?」
「はい」
店主が声を上げて笑う。
「ははっ、見た目じゃ分からんな。魔物を殴る方が本業に見えるぞ」
まあ、否定はできない。
実際に魔物とは戦うし、鍛錬も続けている。
ただ、今気になっているのは武器より目の前の香辛料だ。
「料理するなら、こいつは使いやすいぞ」
店主が小さな丸い種と、その横に束ねて置かれた香草を指した。
葉を少し嗅がせてもらうと、独特の青さを含んだ爽やかな香りがする。
【鑑定】する。
【涼香草】
詳細:温暖な地域で広く栽培される香草。葉には青々しさを伴う強い爽やかな香りがあり、生のまま肉料理や煮込み、汁物などの仕上げに使われる。熟した種子は葉とは異なる穏やかな柑橘を思わせる香りを持ち、乾燥させて砕くことで肉の下味や煮込み、香辛料の調合に利用される。
コリアンダーにかなり近い。
「葉は最後に散らしたり、柑橘と合わせたりする。種は砕いて肉へ揉み込むことが多いな」
店主はそのまま隣の黄色い粉を指した。
【黄金香根】
詳細:温暖な地域で栽培される根茎系の香辛料。乾燥させて砕くと鮮やかな黄色となり、土や木を思わせる穏やかな香りとわずかな苦味を持つ。肉や野菜の煮込み、炒め物、米料理などの色づけと香りづけに使われ、他の香辛料と混ぜて利用されることが多い。
(ターメリックに近いな)
「そいつは単独でたくさん入れるより、他と合わせた方がいい」
さらに、小さな緑色の莢が入った瓶を出してくれる。
軽く潰した一粒を嗅ぐと、甘さを感じるほど華やかで爽やかな香りが広がった。
【鑑定】する。
【翠芳莢】
詳細:温暖な山地や丘陵で育つ香辛料。緑色の莢の内部に香りの強い種子を持ち、爽やかさとほのかな甘さを伴う芳香が特徴。肉料理や煮込みだけでなく、果実を使った菓子や温かい飲み物にも少量加えられる。香りが強いため、一度に多く使うより他の香辛料と組み合わせて使われることが多い。
カルダモンに近そうだ。
「そっちは入れすぎるなよ。肉にも使うが、牛乳を温めて甘くした飲み物なんかにも合う」
「面白いですね」
「だろ? 南の香辛料は肉だけじゃないんだ」
店主は楽しそうに、果物へ合わせる使い方もいくつか教えてくれた。
鑑定で性質を見るだけでは分からない、この土地での使われ方を聞くのは面白い。
涼香草の葉と種。
黄金香根。
翠芳莢。
どれも使い道がありそうなので、少し多めに買っておく。
香辛料区画を抜け、そのまま肉売り場へ向かった。
オーク肉や鳥系魔物、獣系魔物などが並ぶ中で、一軒の店に置かれた鳥肉が目に留まる。
皮は薄めで、腿肉は締まりながらも程よく脂が乗っている。
フォレスト・フォウルとは見た目から肉質が違う。
しかも値札を見ると、思っていたほど高くない。
俺が腿肉を見ていると、店の奥から太い声が飛んできた。
「兄ちゃん、見る目あるな」
顔を上げると、肉屋の主人が腕を組んでいた。
「いい身体してるし、冒険者だろ?」
「はい。一応」
「その腕なら前衛か。大剣か? 斧か?」
「武器も使いますけど、今日は料理の材料を見に来ました」
「料理?」
主人の視線が俺の顔から肩、腕へ移る。
「……その身体で?」
「はい」
一瞬の間があったあと、主人が豪快に笑った。
「ははっ、分からんもんだな! てっきり魔物でも殴りに行く奴だと思ったぞ」
(やっぱりそう見えるよな)
最近は自分でも、この体格に慣れてしまっていた。
昔から大きかったが、鍛錬に加えて身体まで強化され、今では余計に料理好きには見えないらしい。
「料理するなら、そいつはいいぞ」
主人が腿肉を一枚持ち上げる。
「陽冠鶏だ。この辺じゃ腿が一番人気だ」
【鑑定】する。
【陽冠鶏】
詳細:メリディア周辺の温暖な丘陵や果樹園地帯に生息する鶏型の魔物。果実や種子、昆虫、香草などを食べながら広い土地を歩き回って育つため、肉には適度な弾力と濃い旨味があり、皮下の脂にはほのかな甘味を持つ。特に腿肉の評価が高い。処理後は風味と肉質が落ちやすく長距離輸送に向かないため、産地以外では非常に高価な食材として扱われる。メリディア周辺では広く飼育され、一般家庭でも日常的に食べられている。
値段を見る。
やはり少し良い鳥肉という程度だ。
「ここでは手頃なんですね」
「そりゃ、この辺じゃ普通に育ててるからな」
主人が笑う。
「果樹園の周りでも飼ってるし、農家でも育ててる。ちょっと美味い地元の鶏ってくらいだ。宿でも食堂でも屋台でも使うぞ」
そこで昨日の夕食が頭に浮かんだ。
「昨日、宿で椰香果の煮込みを食べたんですが」
「ああ、それにもよく使うな。たぶん陽冠鶏だ」
なるほど。
昨日の煮込みは香辛料や椰香果だけでなく、肉そのものにもかなり旨味があった。
あれもこの肉だったらしい。
「ただな、こいつは遠くへ持っていくと急に高級品になる」
主人はそのまま話を続けた。
どうやら自分の扱う肉について話すのが好きらしい。
「時間が経つと、肉の香りも弾力も、皮の下の脂の甘味も落ちやすいんだ。冷やしたり凍らせたりすりゃ腐らせずには運べるが、こっちで食うのと同じってわけにはいかん」
「なるほど」
「最高の状態で遠くへ持っていこうと思ったら、飛竜便でも使わないとな」
「飛竜便?」
聞き覚えのない言葉だった。
主人が少し嬉しそうな顔になる。
「お、知らないか」
「初めて聞きました」
「まあ、普通に暮らしてりゃ使うことなんてまずないからな」
その時、遠くから低く響くような羽音が聞こえてきた。
市場の人たちが騒ぐ様子はない。
俺が音の方へ顔を向けると、建物の向こうの空を大きな影が横切った。
「キュイ?」
シルクも俺の頭の上から空を見る。
少し離れた上空を、一頭の大きな飛竜が飛んでいた。
広い翼を動かしながら、街の外側へ向かっている。
背には騎手が一人。
胴の左右には、鞍と一体になった小型の貨物箱が取り付けられていた。
「あれだよ」
主人が空を指す。
「メリディアの発着場へ降りるところだ」
「本当に飛竜で荷物を運んでるんですね」
「ああ。もっとも、とんでもなく高いがな」
主人はそのまま飛竜便の話をしてくれた。
始めたのは、一人のSランク冒険者のテイマー。
その人物が、本来なら人が従えること自体が非常に難しい成体の飛竜をテイムしたことが始まりだったらしい。
やがて従えた飛竜たちから子が生まれ、その子どもたちは幼い頃から人の近くで育てられた。
ただし、親が従魔だからといって、子まで自動的に従魔になるわけではない。
成長した飛竜一頭ずつと、そのSランクテイマーが改めて正式な従魔契約を結ぶ。
そこから長距離飛行や荷物の運搬、発着などの訓練を重ね、飛竜便という商売ができたそうだ。
今では専門の商会として運営され、荷物を運ぶのは訓練された騎手たち。
それでも飛竜との契約や育成、管理には、創業者であるSランクテイマーが今も深く関わっているらしい。
「簡単には真似できませんね」
「できるなら、とっくに他もやってるさ」
主人が笑う。
野生の飛竜を従えるだけでも難しい。
そこから繁殖、育成、従魔契約、輸送訓練。
さらに騎手や発着場まで必要になる。
確かに、一人の規格外なテイマーがいたから成立した商売なのだろう。
「運ぶのも手紙や急ぎの薬、希少素材みたいなもんだ」
主人が続ける。
「小さくて高い品とか、陽冠鶏みたいに鮮度そのものへ金を払う食材とかな」
飛竜一頭に積める量には限界がある。
穀物や野菜を大量に運ぶようなものではなく、旅客も基本的には扱わないそうだ。
軽く、高価で、早く届くことそのものに価値がある荷物。
そのための輸送手段らしい。
「陽冠鶏を遠国へ送るなら、肉より運賃の方が高くなることだってあるぞ」
「それはかなり高いですね……」
「だから新鮮なのを遠くで食えるのは、王侯貴族か大商会か、本当に高い料理を出す店くらいだ」
メリディアでは日常的な地鶏なのに、遠くへ行けば高級食材になる。
食材そのものだけではなく、運ぶ時間にも値段が付いているということだ。
(俺なら、そのまま持っていけるけど)
もちろん、それを主人へ説明する必要はない。
「少し多めにいただいてもいいですか」
「おう。料理好きなら色々試してみろ」
腿肉。
胸肉。
丸のままのもの。
ガラ。
料理によって使い分けられる程度に買い、順にアイテムボックスへ収納する。
(まずは腿肉だな)
香辛料とヨーグルト。
柑橘。
今朝買った新しい香辛料も合いそうだ。
肉の味が濃いなら、香りのある味付けにしても負けにくい。
ちょうど昼も近くなっていたので、そのまま市場の屋台区画へ向かった。
そこで見つけたのが、陽冠鶏の炭火串焼きだった。
大きめに切った腿肉を串へ刺し、赤塩と香辛料を軽く振って炭火で焼いている。
最後に小さな柑橘を搾るだけのシンプルな料理だ。
一本買い、焼きたてを食べてみる。
「……美味い」
表面は炭火で香ばしく、中には適度な弾力が残っている。
硬いわけではない。
噛むほど肉の旨味が出てきて、皮の近くには少し甘く感じる脂があった。
香辛料を使っていても、肉そのものの味がしっかり分かる。
(これならいけそうだ)
少し香りの強い下味をつけても、肉が負けない。
ベルたちにも同じ串焼きを食べやすい大きさに分ける。
キリコも一切れ食べて、ゆっくり噛んでいた。
もう一品は、朝見た料理用の月房果を厚めに切って揚げたものだった。
表面には赤塩が軽く振られている。
食べてみると、昨日の甘い月房果とは全く違った。
ほくっとしていて、確かに芋に近い。
甘さはほとんどなく、揚げた表面の香ばしさと塩気がよく合っている。
昼食を済ませ、市場を歩きながら今日買ったものを頭の中で整理する。
陽冠鶏。
涼香草。
黄金香根。
翠芳莢。
橙柔果。
手持ちにはヨーグルト、小麦粉、天然酵母、赤塩、クグの実もある。
それからアイアンキャベジ。
(……挟むのが良さそうだ)
平たいパンを膨らませ、中を袋状にする。
ヨーグルトと香辛料で下味した陽冠鶏の腿肉を焼き、繊維を残して粗くほぐす。
アイアンキャベジは極細の千切り。
橙柔果はヨーグルトと合わせ、肉へかけるソースにする。
それなら屋台でも食べやすい。
「ベル」
「なに?」
「明日、一日屋台を出してみようと思う」
「屋台やるの?」
「ああ。今日買った陽冠鶏を使ってみたい」
ベルの顔が明るくなる。
キリコもこちらを見た。
「売る料理?」
「そう。みんなの分もちゃんと作るよ」
「うん」
屋台を出すなら、先に場所を押さえておく必要がある。
市場の案内板で管理所の場所を確認し、そのまま向かった。
建物の一角には商人ギルドの出張窓口も入っている。
受付で銀色の会員証を出す。
「フトシと申します。明日一日だけ、この市場で料理の屋台を出したいのですが」
職員が会員証を確認する。
すでに商人ギルドへ登録しているので、改めて登録する必要はなかった。
必要なのはメリディア市場での営業申請と、一日分の場所代。
それから火気や調理設備の簡単な確認だけだ。
「屋台と調理器具は自分のものを持っています」
「でしたら、こちらの区画が使えます」
見せてもらった配置図には、市場の外側に近い広場へいくつもの屋台区画が並んでいた。
市場へ買い物に来る人だけでなく、果樹園方面へ向かう人も通る場所らしい。
空いていた一角を一日借りる。
火気の扱いと通路を塞がないこと、営業後に区画をきれいにすることなどを聞き、特注屋台と魔導パン窯を使うことも伝えた。
「明日の朝からご利用いただけます」
「ありがとうございます」
これで場所も決まった。
市場へ戻り、屋台で使う分の陽冠鶏の腿肉と橙柔果、南方柑橘を追加で購入する。
香辛料は朝買った分で十分。
アイアンキャベジ、ヨーグルト、小麦粉、天然酵母は手持ちを使えばいい。
必要なものを揃えたところで宿へ戻った。
夜。
夕食を済ませたあと、宿の人に断って厨房の一角を借りる。
明日の朝からすぐ動けるよう、今できる仕込みは済ませておく。
まずは陽冠鶏の腿肉。
余分な部分を整え、ヨーグルト、南方柑橘の果汁、赤塩、砕いたクグの実、涼香草の種、黄金香根を加える。
翠芳莢は香りが強いので、ごく少量。
辛味のピリ石も控えめにした。
主役はあくまで陽冠鶏の肉だ。
全体へ馴染ませ、蓋のできる容器へ移す。
漬け込みには時間が必要なので、アイテムボックス内の指定した空間だけ時間を進め、【絶対温度領域】で低温を保ちながら十分に馴染ませる。
状態を確認して、そのまま収納した。
次はピタパンの生地。
小麦粉と天然酵母のパン種、赤塩、水、少量の油脂を合わせる。
【調理の超加速】で滑らかになるまで捏ね、乾かないよう覆いをする。
こちらも発酵に適した温度を保ちながらアイテムボックス内の時間を進めた。
十分に膨らんだところで一度取り出して状態を確かめ、明日使う分として収納する。
続いてアイアンキャベジだ。
外側を整えて洗い、水気をしっかり切る。
【調理の超加速】で一気に極細の千切りへ。
細く切れた葉を軽くほぐし、使いやすい量ごとに容器へ分ける。
赤塩と柑橘を合わせるのは、屋台を始める前でいい。
その方が歯触りを残せる。
蓋をしてアイテムボックスへ収納した。
最後はソースだ。
橙柔果の熟した果肉を滑らかに潰し、ヨーグルトを加える。
そこへ自家製の特製ケチャップを少量。
南方柑橘の果汁。
赤塩。
味を見ながら果実蜜を少し。
混ぜていくと、淡い橙色から薄い桃色に近い色になった。
(オーロラソースっぽいな)
もちろん、日本で作っていたオーロラソースとは材料も味も違う。
一口確認する。
ヨーグルトの酸味。
橙柔果の穏やかな甘味。
トマトの旨味に、柑橘の爽やかさ。
香辛料をまとわせた陽冠鶏へ合わせるなら、このくらい軽い方が良さそうだ。
ベルが近くへ飛んでくる。
「それ、味見していい?」
「いいよ」
小さな器へ少し取り分ける。
ベルが味を見ると、満足そうに頷いた。
「甘いけど、ちゃんと酸っぱいね」
「肉と合わせるから、そのくらいでいいと思う」
配合が決まったので、明日使う分までまとめて作る。
完成したソースを容器へ入れ、アイテムボックスへ収納した。
厨房を見回す。
下味をつけた陽冠鶏。
ピタパンの生地。
極細に切ったアイアンキャベジ。
橙柔果とヨーグルトのソース。
朝に必要なのは、アイアンキャベジへ赤塩と柑橘を軽く馴染ませ、肉とピタパンを焼くことくらいだ。
今日の市場では、新しい香辛料を知った。
地元では普通に食べられているのに、遠くへ行けば高級食材になる陽冠鶏も見つけた。
荷物を積んだ飛竜が空を飛んでいくところまで見た。
それらが今は、一つの料理へまとまりつつある。
俺は仕込みを確認すると、最後に調理台をきれいに拭き、洗った道具をアイテムボックスへ戻した。




