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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん
南の地メリディアへ

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第104話 南へ近づく街道と、陽蜜果のバタースパイス煮込み

陽蜜果を味わったあとも、馬車はそのまま南へ進んだ。


あの日は夕方まで街道を走り、途中にあった小さな宿場村で一泊した。


特に何かが起きることもなく、宿で夕食を食べて身体を休め、翌朝には再び出発する。


オリエンスを離れて二日目。


窓から差し込む陽射しは、昨日より少し強く感じた。


吹き込んでくる風も暖かく、街道脇には見慣れない形の大きな葉や、濃い色の花が少しずつ増えている。


とはいえ、まだ周囲の大半は普通の林や畑、草原だ。


南へ来たからといって、急に景色が全て変わるわけではないらしい。


「昨日より暖かいね」


ベルが窓辺から外を眺める。


「ああ。少しずつ変わってるみたいだ」


向かいではキリコも窓の外を見ていた。


昨日までとは違う植物を見つけるたびに、視線がそちらへ動いている。


生まれてからまだ日が浅いキリコにとっては、こうして馬車で土地を移動すること自体が初めての経験だ。


最初の頃よりは馬車の揺れにも慣れたらしく、今は落ち着いて外の景色を眺めている。


昼には街道沿いの休憩場所で馬車を止めた。


メイは地面へ降りると身体を伸ばし、そのまま少し離れた草地を歩き回る。


シルクも俺の頭から飛び降り、長い耳を揺らしながら辺りを跳ねていた。


俺たちも簡単に昼食を済ませ、馬と護衛たちが十分に休んだところで再び出発する。


その日の夕方も別の宿場村へ入り、一晩を過ごした。


大きな事件も、珍しい魔物との遭遇もない。


ただ街道を進み、休み、食べて眠る。


旅をしていれば、こういう日の方がずっと多いのだろう。


そして三日目。


朝から感じる空気は、さらに変わっていた。


薄手の服を着た旅人が増え、反対方向から来る荷車には色鮮やかな果物を積んだものが目立つ。


麻袋を積み上げた商人の荷車とすれ違った時には、風に乗っていくつもの香辛料が混ざった匂いも漂ってきた。


遠くの畑には見慣れた穀物や野菜もある。


それでも、人の服装や荷物を見るだけで、少しずつ別の土地へ近づいていることが分かった。


夕方近くになり、一行はこれまでより少し大きな宿場村へ入った。


南北を結ぶ街道沿いにあるためか、村の規模に比べて宿や馬車置き場が多い。


道沿いには商人向けの倉庫も並び、軒先には乾燥させた香辛料らしきものが吊るされていた。


この辺りで大量の南国果実を作っているわけではないらしいが、メリディアから北へ向かう商隊が頻繁に通るため、南方の食材が日常的に入ってくるそうだ。


イザベラさんの巡回予定は事前に伝わっていたらしく、宿へ到着すると村長たちが出迎えてくれた。


だからといって、大げさな宴会が始まるわけではない。


「せっかく南まで来ていただいたので、この辺りでよく食べるものをご用意しました」


村長がそう言い、宿の広い食堂へ料理が並べられた。


俺たちもイザベラさんたちと同じ席に着く。


最初に目へ入ったのは、炭火で焼かれた鳥肉だった。


表面には細かく砕いた数種類の香辛料が薄く付いている。


肉の横には小さな黄色い柑橘が添えられていた。


ほかには、焼いた肉へかける赤橙色のソース。


香辛料を使って軽く煮た野菜料理。


そして、皿より少し小さいくらいの薄い焼きパンが重ねられている。


どれも見たことのない料理だが、食堂に漂う香りは強すぎない。


炭火で焼かれた肉の香ばしさの奥から、少し甘く、爽やかな香辛料の匂いがしていた。


「いただきます」


まず鳥肉を一切れ取る。


そのまま口へ入れると、皮の表面に残った炭火の香ばしさと肉の脂が最初に広がった。


続いて鼻へ抜けるのは、いくつかの香辛料が重なった複雑な香りだ。


辛さはほとんどない。


肉の味を消すのではなく、脂の後味を軽くしている。


今度は添えられた柑橘を少し搾ってみた。


果汁が触れた部分を食べると、鋭すぎない酸味が加わり、さっきより肉の脂が軽く感じる。


「美味しいですね」


思わずそのまま感想が出た。


村長が嬉しそうに頭を下げる。


次に赤橙色のソースを少量取った。


口に入れる前から、果物らしい甘い香りがする。


焼いた肉へ乗せて食べる。


「……なるほど」


熟した果実を煮崩しているらしく、自然な甘味が強い。


そこへ少量の塩気と酸味、それに香辛料が加わっていた。


肉の脂と果実の甘味が重なり、その後に酸味が残る。


甘いソースなのに、肉と合わせても重くない。


むしろ炭火の焦げた香ばしさとよく合っている。


(果物を、ここまで普通に肉へ合わせるのか)


日本にも果物を使った肉料理はある。


だが、この辺りではもっと自然に食文化へ組み込まれているようだ。


薄焼きパンをちぎり、野菜の煮込みから出た汁をつけて食べる。


こちらにも香辛料が使われているが、やはり刺激より香りが中心だった。


柔らかく煮えた野菜の甘味を、小麦の素朴な味が受け止めている。


隣ではキリコも、薄焼きパンへ肉と果実ソースを乗せながら食べていた。


メイとシルクにも同じ料理を、食べやすい大きさと温度にして取り分けてある。


ベルも小さな皿の上で、薄焼きパンをちぎって果実ソースをつけていた。


食事を進めるうちに、さっきから頭の片隅にいくつかの食材が浮かび始める。


昨日食べた陽蜜果(サン・マンゴー)。


大玉葱。


トマト。


フォレスト・フォウル。


ノース・グランで買い込んだヨーグルトや生クリーム、発酵バター。


それに手持ちの香辛料。


(……合いそうだな)


村の料理をそのまま作るつもりはない。


でも、果物と香辛料を肉料理へ合わせるという考え方は面白い。


そこから、俺が日本で知っている料理が一つ浮かんでいた。


食事が終わり、用意された部屋へ戻ってからも、その考えが頭に残っていた。


「あれ?」


ベルが俺の顔の前まで飛んでくる。


「フトシ、さっきから何考えてるの?」


「いや……ちょっと作りたいものが浮かんで」


「ふーん」


ベルはそれだけ言うと、特に追及せずキリコの方へ飛んでいった。


俺はベッドへ腰を下ろす。


材料はある。


香辛料も、完全に同じものではないが近い方向へ持っていける。


陽蜜果(サン・マンゴー)もまだ残っている。


(明日、作ってみるか)


そう決めると、ようやく頭の中が少し落ち着いた。


翌朝。


宿場村を出た馬車は、さらに南へ向かって進んでいた。


四日目になると、景色の変化もかなり分かりやすい。


街道沿いには色鮮やかな花が増え、林の中にも大きな葉を広げる植物が混じっている。


ところどころには果樹らしい木も見え始めた。


陽射しも強い。


それでも風が通る馬車の中はそれほど暑くなく、窓を開けていれば心地いいくらいだった。


俺は外を眺めながら、昨日考えていた料理の手順を頭の中で簡単に整理する。


昼が近づいた頃。


「セバスさん」


「はい」


「今日の昼なんですが、俺に作らせてもらってもいいですか?」


セバスさんが少しだけ笑った。


「もちろん構いません。昨日から、そのような気はしておりました」


近くにいたイザベラさんもこちらを見る。


「やはり我慢できなかったか」


「……そんなに分かりやすかったですか」


「分かりやすかったぞ」


二人に笑われた。


まあ、昨日からずっと料理のことを考えていたのだから仕方ない。


ほどなくして、隊列は街道脇にある広い休憩場所へ入った。


水場があり、大きな木が何本も生えている。


護衛たちが馬を休ませ始める横で、俺も調理の準備を始めた。


調理台。


魔導コンロ。


黒剛鉄の鍋とフライパン。


魔導パン窯。


必要な道具をアイテムボックスから取り出して並べる。


今日作るのは、日本で食べたことのあるバターチキンカレーを参考にした煮込みだ。


ただし、手元にある香辛料は日本で使っていたものと完全に同じではない。


陽蜜果(サン・マンゴー)も加える。


だから無理に同じものを再現するつもりはなかった。


今ある材料で、美味しく仕上げればいい。


まずはフォレスト・フォウルの下準備から始める。


もも肉を一口より少し大きめに切り、ヨーグルト、赤塩、クグの実、クローブに似た香辛料、それにピリ石の粉をほんの少し加えた。


強い辛さを出したいわけではない。


香辛料の香りと塩気を肉へ馴染ませ、ヨーグルトの酸味も加えて柔らかく仕上げるための下味だ。


全体へまんべんなく絡めたところで、蓋のできる容器へ移す。


本来なら、このまま何時間か置いておきたい。


昼になってから仕込み始めたので、その時間はないが、俺にはアイテムボックスの時間を進められる空間がある。


容器をその空間へ収納する。


時間は六時間ほど進めることにした。


ただ時間だけを早めても、温度が高すぎれば肉の状態が悪くなる。


【絶対温度領域】で容器を置いた空間を低温に保ち、そのまま時間だけを加速させる。


俺たちのいる場所ではほとんど時間を置かず、漬け込みだけを十分に進めた。


すぐに取り出して蓋を開ける。


香辛料とヨーグルトの香りが、さっきより肉へ馴染んでいる。


「これでいい」


次はパンの生地だ。


大きなボウルへ小麦粉を入れ、天然酵母のパン種、ヨーグルト、少量の牛乳、砂糖、赤塩、溶かした発酵バターを加える。


水分を見ながら水も足し、手でひとまとめにする。


そこから【調理の超加速】を使い、表面に滑らかさと弾力が出るまでしっかり捏ねた。


手を止め、生地の状態を見る。


ここから先は腕を速く動かしても意味がない。


酵母が働き、生地そのものが膨らむ時間が必要になる。


生地を丸めて薄く油を塗った容器へ入れ、乾かないように覆いをする。


これもアイテムボックスの時間加速用の空間へ。


今度は【絶対温度領域】で発酵に向いた暖かな環境を保つ。


一時間ほど経過するよう調整してから取り出した。


覆いを外すと、生地は最初より一回り以上大きくなっている。


指先で軽く押すと、柔らかな弾力を残しながらゆっくり戻った。


「うん、十分だ」


待つべきところまで無理に【調理の超加速】で済ませず、本来必要な時間だけをきちんと進める。


こういう使い方なら、仕上がりを崩さずに昼食の準備を進められる。


生地の空気を軽く抜いて分割し、丸め直す。


すぐに伸ばすより少し休ませた方が扱いやすいので、こちらも容器へ戻した。


今度は十分ほど。


同じように暖かな環境で時間を進める。


その間に、陽蜜果(サン・マンゴー)の即席チャツネを作る。


熟した陽蜜果(サン・マンゴー)の果肉を種から外し、細かく刻む。


小鍋へ入れ、みじん切りにした大玉葱を少量、手持ちの黄色い柑橘の果汁、赤塩、果実シロップをほんの少し加えた。


香りづけにはクグの実と、クローブに似た香辛料も少量だけ。


これは熟成させる料理ではない。


火を通しながら水分を飛ばし、果実と調味料を馴染ませる必要がある。


小鍋を弱めの火に掛け、木べらで底から混ぜる。


陽蜜果(サン・マンゴー)が柔らかく崩れ始め、果汁の水分が少しずつ減っていく。


火の入り方と香りを見ながら煮詰め、橙色の濃いソース状になったところで味を見る。


陽蜜果(サン・マンゴー)の濃厚な甘味。


柑橘の酸味。


後ろから香辛料の香り。


長く保存するようなものではないが、今日の料理へ添える即席のチャツネとしては十分だ。


「よし」


小鍋を火から下ろす。


その頃には、休ませていたナンの生地もちょうどいい状態になっていた。


だが先に煮込みを進める。


黒剛鉄の鍋へ発酵バターを落とした。


ゆっくり溶け始めたところへ、細かく刻んだ大玉葱を入れる。


ジュウッと控えめな音が鳴る。


水分を飛ばしながら、焦がさないように混ぜる。


大玉葱が透き通り、少しずつ甘い香りへ変わってきたところで、クグの実とクローブに似た香辛料、ピリ石を加える。


乾いた香辛料を大量に煎ることはしない。


発酵バターの中で穏やかに温め、油脂へ香りを移す。


調理台の周囲にいれば分かるくらいの香りが、ふわりと立ち上った。


「いい匂いしてきた!」


ベルが近くまで飛んでくる。


「ああ。もう少しかかるよ」


香辛料の香りが十分に出たところで、刻んだトマトを加える。


木べらで果肉を潰しながら火を通す。


最初ははっきりしていた酸味の匂いが、煮詰めていくうちに少しずつ丸くなっていった。


赤い色が濃くなり、全体に軽いとろみが出たところで、先ほど作った陽蜜果(サン・マンゴー)のチャツネを一部加える。


橙色の果肉がトマトへ混ざっていく。


甘い果実の香りが加わったが、昨日の村で食べたソースそのものとは全く違う。


それでも、あの料理を食べていなければ、陽蜜果(サン・マンゴー)をここへ入れようとは思わなかったかもしれない。


次はフォレスト・フォウルだ。


六時間分の漬け込みを終えた肉を、余分なヨーグルトだけ軽く落としてフライパンへ並べる。


ジュッと音が鳴り、肉の表面がすぐに色づき始めた。


全体を煮込むだけでも火は通る。


だが、先に表面へ焼き色をつけた方が香ばしさが加わる。


中まで完全に火を通さず、外側へ焼き色がついたところで鍋のソースへ移した。


少量のフォレスト・フォウルの鶏ガラ出汁を加え、全体を混ぜる。


ここも、時間を掛けすぎて肉を煮崩したいわけではない。


ソースと肉が馴染み、中心へ火が入る程度でいい。


鍋に蓋をして弱火に落とし、実際の火加減を見ながらしばらく煮る。


待っている間にナンを仕上げる。


休ませた生地は、さっきより伸ばしやすくなっていた。


半分はそのまま薄く伸ばす。


残りには、ノース・グランで買った溶けやすいフレッシュチーズとセミハードチーズを細かくして包み込んだ。


包み目を閉じ、チーズが飛び出さないよう手のひらでゆっくり平たくする。


形を整えたあとは、焼く直前に生地が少し落ち着くよう、数分だけ休ませたい。


これもアイテムボックスへ入れ、同じ発酵向けの環境で短く時間を進める。


取り出した生地を、予熱しておいた魔導パン窯へ入れた。


高温の熱を受けた表面がすぐに膨らむ。


ところどころに香ばしい焼き色がつき、焼き上がったプレーンナンには発酵バターを薄く塗った。


小麦とバターの香ばしい匂いが立つ。


チーズを包んだ方も続けて焼く。


表面が膨らみ、中のチーズが柔らかく溶けたところで取り出した。


鍋へ戻る。


蓋を開けると、橙色のソースから湯気が立った。


フォレスト・フォウルを一つ取り、火の入り方を確認する。


中心までちょうど火が通っている。


ここから長く煮込めば、せっかくのもも肉が硬くなる。


仕上げに生クリームを加えた。


赤みの強かったソースが、柔らかな橙色へ変わっていく。


最後に発酵バターを少量溶かし、赤塩で味を整える。


一口味見する。


最初に来るのは香辛料の穏やかな香り。


そのあとにトマトの酸味、陽蜜果の甘味、生クリームと発酵バターのコクが続く。


辛味は最後にわずかに残る程度だ。


その中にフォレスト・フォウルの旨味もしっかりある。


漬け込みの時間を取った肉には、表面だけではなく香辛料と塩気が馴染んでいた。


ヨーグルトのおかげか、噛んだ時の柔らかさも悪くない。


「できた」


【樹器創成】で人数分の深めの木皿と平皿、小さなチャツネ用の器を作る。


煮込みを深皿へよそい、焼きたてのプレーンナンとチーズナンを並べた。


ベルには身体に合わせた小さなもの。


メイとシルクにも、同じ完成した料理を食べやすい量と大きさにして用意する。


熱すぎないよう温度だけ調整した。


キリコの前にも同じものを置く。


「これはどうやって食べるのだ?」


イザベラさんが平たいパンを持ち上げる。


「このパンをちぎって、煮込みをすくって食べてください。こっちはナンっていう平たい焼きパンです」


「なるほどな」


イザベラさんがプレーンナンを一口分ちぎり、バタースパイス煮込みをすくう。


俺も同じように食べた。


焼きたてのナンは表面が香ばしく、中には柔らかさが残っている。


薄く塗った発酵バターの香りもいい。


そこへ橙色のソースが絡む。


クグの実を中心にした香辛料の香りが最初に鼻へ抜け、その後ろからトマトと陽蜜果(サン・マンゴー)の甘酸っぱさが広がった。


生クリームと発酵バターが全体を包んでいるので、香辛料を使っていても角がない。


噛めば、フォレスト・フォウルのもも肉から力強い旨味が出てくる。


表面には焼いた香ばしさがあり、中は柔らかい。


ヨーグルトと香辛料へしっかり漬け込んだことで、肉だけを噛んでも味が浮いていなかった。


「ほう……これは美味いな」


イザベラさんがもう一度ナンをちぎる。


「香辛料をかなり使っておるのに、辛い料理ではないのだな」


「はい。今日は辛さより香りを出したかったので」


横ではキリコも、小さくちぎったナンで煮込みをすくっていた。


一口食べてから、皿の中を見る。


「これ、昨日食べたのと匂いはちょっと似てる」


「香辛料と果物を使ってるからな」


「でも、全然違う」


「作り方でかなり変わるよ」


キリコは納得したように頷き、もう一度ナンをちぎった。


途中で陽蜜果(サン・マンゴー)の即席チャツネを少し足してみる。


甘味と酸味が一段強くなり、同じ煮込みなのに印象が変わった。


陽蜜果(サン・マンゴー)の芳香が前へ出ることで、濃いバターのコクも少し軽く感じる。


(うん、これも合う)


昨日食べた果実ソースとは違う。


でも、そこで得た発想はちゃんと今日の料理へ繋がっている。


次にチーズナンを手に取った。


焼きたてを半分へ割る。


中から溶けたチーズが柔らかく伸びた。


「おお」


イザベラさんが少し身を乗り出す。


そのまま一口食べる。


小麦の香ばしさに、チーズの塩気と乳製品の濃い旨味。


これだけでも十分美味しい。


さらにバタースパイス煮込みへつけると、生クリームと発酵バターのコクにチーズまで重なり、かなり濃厚になる。


それでもトマトと陽蜜果(サン・マンゴー)の酸味があるので、くどさは残らない。


『……こっち好き』


ウンディーネがチーズナンをもう一枚取る。


「わたしもこっち好き!」


ベルも小さなチーズナンを持ち上げた。


二人とも乳製品の濃い味が気に入ったらしい。


メイも煮込みを食べたあとにナンへかじりつき、尻尾を揺らしている。


シルクも自分用に小さく焼いたチーズナンを前足で押さえて食べていた。


食事が進み、用意したナンも煮込みも順調に減っていく。


セバスさんが最後の一口を食べ終えてから、静かに俺を見る。


「昨日の夕食から、もうここまで別の料理へ組み立てられたのですね」


「村で食べた果物のソースが面白かったので。陽蜜果(サン・マンゴー)を料理に使ってみたくなりました」


「やはり、昨日から考えておられたのですね」


「はい」


イザベラさんが満足そうに頷く。


「作らせて正解だったな」


「俺も作れてすっきりしました」


昨日から頭の中に残っていたものを、ようやく形にできた。


料理が美味しくできたことも嬉しい。


だが、それだけではない。


知らない土地の料理を食べて、その使い方に驚いて、自分の知っている料理へ繋げてみる。


同じ食材でも、土地や作る人が違えば全く違うものになる。


こういう経験も、俺が旅をしている理由の一つなのだと思う。


食事を終え、空になった器を消す。


鍋やフライパン、魔導パン窯を片付け、アイテムボックスへ収納する。


休憩を終えた馬たちも準備が整ったらしく、護衛隊が再び隊列を組み始めていた。


俺たちも馬車へ戻る。


午後の街道は、午前中よりさらに南らしい景色が増えていた。


暖かな風が窓から入り、大きな葉が道端で揺れている。


畑には見たことのない作物が混じり、遠くの丘には果樹らしい木々も増えていた。


鮮やかな赤や黄色の花が咲く場所もある。


「今日泊まる宿場からでしたら、メリディアまではあと一日ほどでございます」


向かいに座るセバスさんが外を見ながら言う。


「もうすぐですね」


俺も窓の外へ目を向けた。


ちょうど反対側から、果物を積んだ荷車が一台通り過ぎていく。


昨日もらった陽蜜果(サン・マンゴー)とは違う、丸くて黄色い果物が木箱いっぱいに詰まっていた。


まだ名前も知らない。


味も分からない。


街道の景色が変わるにつれて、運ばれている食材も、宿で出される料理も変わってきている。


昼に自分で作った料理の満足感を残したまま、俺は少しずつ見慣れなくなっていく窓の外を眺め続けた。


夕日に照らされた果樹と色鮮やかな花の間を、馬車は暖かな風を受けながら南へ進んでいった。

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