第101話 大精霊の加護と、古き勇者の伝承
大聖樹の森を訪れた翌朝。
朝食を終えたところで、保養宿へセバスさんがやってきた。
「おはようございます、フトシ様」
「おはようございます」
挨拶を返すと、セバスさんはいつも通りの穏やかな表情で一礼する。
「イザベラ様が、昨日の大聖樹でのお話も含め、改めて報告をお聞きしたいとのことでございます」
「分かりました。俺も報告しないといけないと思っていました」
今回の調査を正式に頼んできたのはイザベラさんだ。
昨日は木の大精霊本人から招かれていたため、そちらを優先させてもらったが、分かったことはきちんと伝える必要がある。
身支度を整え、俺はみんなと一緒に王城へ向かった。
案内された部屋にいたのは、イザベラさんとザディスさん。
セバスさんも俺たちと一緒に中へ入り、扉の近くへ控えた。
「来たか、フトシ」
「お待たせしました」
「いや、昨日はこちらから大聖樹へ行くことを優先してもらったのだ。気にする必要はない」
イザベラさんはそう言ってから、表情を少し改めた。
「まずは改めて礼を言わせてくれ。本当に世話になった」
いつもの気安さを残しながらも、声は真剣だった。
「大聖樹の異変は、あの樹一本だけの問題ではない。あのまま木の精霊と大聖樹が弱り続けていれば、常春の気候だけでなく、農地や水、周囲の森にもさらに影響が広がっていただろう」
ザディスさんも静かに頷く。
「しかも地下では、アドヴァースが魔神召喚まで準備していた。原因を見つけただけでなく、設備と拠点を突き止め、構成員を捕らえ、魔力の吸収まで止めたのだ。国としても十分すぎる結果だ」
「俺だけではありません。ウンディーネやベル、メイ、シルクがいたから辿り着けました」
隣ではキリコも静かに話を聞いている。
キリコが生まれたことまで含めれば、随分と色々なことがあった。
それでも、誰か一人だけで解決できた一件ではない。
「分かっておる。全員への感謝も含めてだ」
イザベラさんが俺たちを見回した。
「それで、木の精霊本人の状態はどうだった?」
「まだかなり弱ってはいました。でも、取り返しのつかない傷はないそうです。魔力を奪う設備も止まっていますし、大聖樹と周りの自然から、少しずつ力を取り戻せると言っていました」
「そうか……」
イザベラさんの肩から、わずかに力が抜けた。
「今朝も昨日までより暖かかったです。すぐに元通りとはいかないと思いますけど、悪化は止まっていると思います」
「ならば、ようやく安心できそうだな」
ザディスさんも小さく息を吐いた。
俺も同じだった。
原因を取り除いたあとも、木の精霊本人の状態だけは気になっていた。
実際に会い、本人から回復できると聞けたことで、ようやく一件が終わったという実感が出てきている。
「それと、昨日会って初めて知ったんですが……」
俺は少し言葉を選ぶ。
「大聖樹の木の精霊さん、大精霊だったみたいです」
「……何?」
イザベラさんが目を見開いた。
ザディスさんも表情を変える。
「大精霊、ですか?」
「はい。ウンディーネと同じです」
二人とも、すぐには言葉が出なかった。
「国として、大聖樹に強力な木の精霊が棲んでいることは昔から分かっていた」
イザベラさんが腕を組む。
「だが、本人が人前へ姿を見せることはほとんどない。長い間、ただ『大聖樹に棲む木の精霊』と伝わってきた」
「大聖樹を通してこれだけ広い土地へ影響を与えていたことを考えれば、納得はできますが……」
ザディスさんが少し考え込む。
「現在の存在格までは、こちらで把握できていなかったということですね」
「本人の話では、最初から大精霊だったわけではないそうです」
俺は昨日聞いた話を、そのまま伝える。
精霊は長い年月を生き、自然や土地、自分が司るものとの繋がりを深めていくことで、存在そのものが大きく成長する場合があること。
その中でも特に大きな力と影響を持つようになった精霊が、大精霊と呼ばれること。
ただし、すべての精霊がそうなれるわけではないこと。
ウンディーネも昔は普通の水の精霊で、木の大精霊とはその頃からの友人だったことも話した。
「木の大精霊さんは色々な森を巡ったあと、大聖樹を気に入ってここへ住み始めたそうです。それから長い年月、大聖樹や周りの森と一緒に過ごすうちに、今の大精霊になったみたいです」
「なるほどな……」
イザベラさんが感心したように頷く。
その横で、セバスさんが少し考えるように目を伏せた。
「古い記録には、似た話がございます」
「セバスさんも知っているんですか?」
「精霊が長い年月を経て力を増すことや、古き精霊が通常の精霊とは異なる大きな力を持つようになった、という伝承はございます。ただし、現在では断片的な記録しか残っておりません」
ザディスさんも続ける。
「魔術師の文献にも似た記述はあります。ただ、普通の精霊が長い時間を経て大精霊と呼ばれる存在へ至ることがある、と大精霊本人から直接説明された記録は……少なくとも私は知りません」
「昔から全く知られていなかったわけではないんですね」
「ええ。ですが、確かな知識として残ってはいなかったのでしょう」
長い年月の間に、実際にあったことと昔話の境目が曖昧になってしまったのかもしれない。
俺は頷き、もう一つ報告しておくべきことを思い出した。
「それと……お礼だと言われて、加護もいただきました」
「加護?」
イザベラさんが俺を見る。
「はい。【大精霊の加護(翠樹の恩寵)】というものです」
部屋が静かになった。
さっき木の精霊が大精霊だったと話した時とは、少し違う静けさだった。
「……大精霊の加護、と言ったか?」
「はい」
「普通の精霊の加護ではなく?」
「木の大精霊本人から、そう聞きました」
イザベラさんとザディスさんが顔を見合わせる。
セバスさんの表情もわずかに引き締まっていた。
「どのような加護なのですか?」
ザディスさんに聞かれ、昨日教えてもらった内容を説明する。
大精霊は、自分が特別に認めたただ一人へ、自らの本質の一部を託す固有の加護を与えることができる。
一柱の大精霊につき、同時に一人だけ。
誰かが受けている間は、別の誰かへ同じ固有加護を与えることはできない。
「効果は大精霊によって違うみたいですが、共通して魔力の量や回復力、身体能力が上がるそうです。それと、その大精霊が司るものとの親和性もかなり高くなると聞きました」
「それだけではないのでしょう?」
「はい。大精霊の力と、受けた人が元から持っている資質や技能が結びついて、その人だけの能力が発現するそうです」
セバスさんがゆっくり顔を上げた。
「……お待ちください」
「どうした、セバス」
イザベラさんが尋ねる。
「陛下。古い勇者の伝承に、極めて似た記述がございます」
「勇者?」
俺も思わず聞き返した。
セバスさんは頷く。
「遥か昔、国家の力だけでは抗えぬほどの大災厄へ挑んだ勇者が、各地を巡り、大精霊たちから祝福を授かったという伝承です」
それなら、昔話としてはありそうな内容だ。
だが、セバスさんはそこで終わらなかった。
「祝福を受けるたびに勇者の魔力は増し、肉体は強靭となり、その精霊が司る力への適性を得た。さらに、それまで持っていなかった特別な力を授かったとも記されています」
「……それって」
今説明した加護と、ほとんど同じだ。
ザディスさんも気づいたらしい。
「属性への親和性、魔力量の増大、身体能力の強化、そして固有の能力……一致しすぎていますね」
イザベラさんの表情も真剣になる。
「これまではどう考えられていた?」
「勇者伝説を彩る誇張か、大精霊が戦いへ協力したことを後世で大きく表現したものだと考える者が多かったかと」
セバスさんが答える。
「ですが、フトシ様が実際に得た加護の内容が伝承とこれほど一致するのであれば……あれは大精霊の固有加護を記したものだった可能性がございます」
俺は少し戸惑った。
「でも、この加護は勇者専用じゃないですよ」
三人の視線がこちらへ向く。
「木の大精霊さんは、特別に認めた一人へ与えるものだと言っていました。職業が勇者じゃないと駄目だとは言っていませんでした」
「そうであろうな」
イザベラさんが静かに頷く。
「ならば昔の勇者は、勇者だから自動的に大精霊の加護を得たのではないのかもしれぬ」
ザディスさんが続ける。
「各地を巡る中で大精霊から認められ、その結果として加護を得ていった……ということですか」
「可能性の話ではあるがな」
伝承しか残っていない以上、今ここで断定することはできない。
ただ、大精霊本人から聞いた話と古い勇者の記録が重なるのは確からしい。
イザベラさんは少し黙ったあと、俺を見る。
「フトシ。そなたは以前、大地の守護熊殿からも加護を受けておるな」
「はい」
「我が国では、精霊から加護を授かるというだけでも極めて大きな意味を持つ」
それは、この国へ入った時から何度も感じている。
大地の守護熊から加護をもらったと分かっただけで、門番の態度が大きく変わったほどだ。
「精霊は自然そのものに近い存在だ。我らは古くから、その意思を人や魔族の都合より軽く扱うべきではないと考えてきた」
イザベラさんの声には、王としての重みがあった。
「そなたは大地の精霊から加護を受け、水の大精霊様と対等に旅をし、さらに木の大精霊から、一人にしか託せぬ固有加護まで与えられた」
そこまで並べられると、自分のことなのに妙に落ち着かない。
「だからといって、そなたが余より上の身分になるという話ではない」
イザベラさんは俺の顔を見て続けた。
「だが、精霊たちが自ら認めた者を、王家や貴族の都合で囲い込み、縛るような真似はできぬ。それは我が国が大切にしてきたものに反する」
セバスさんも静かに頷いた。
「フトシ様は、王家の臣下でも所有物でもございません」
イザベラさんの視線が、俺の腰元へ向く。
「以前渡した王家の短剣も同じだ。あれはそなたを余の配下へ置くためのものではない」
俺は短剣が入っているアイテムボックスを思い出す。
「我が王家がそなたの後ろ盾となり、困った時にはこの国を頼ってよいという証だ。今まで通り、この国はそなたを守る」
イザベラさんはそこで少し笑った。
「だが、その代わりにそなたを縛るつもりはない」
ありがたい話だ。
ありがたいのだが、話がどんどん大きくなっている。
俺自身は、昨日までと何かが大きく変わったつもりはない。
「……あの、一つお願いしてもいいでしょうか」
「なんだ?」
「できれば、今まで通りに接していただきたいです」
イザベラさんが少し目を瞬く。
「大精霊の加護がどれほど大事なものなのかは分かりました。でも、俺自身は昨日までと何も変わっていません」
身体や魔力量は実際に変わった。
それでも、やりたいことまで変わったわけではない。
「俺はまだ、この国も全部見ていません。南の街にも行ってませんし、知らない場所も食材も、まだたくさんあると思います」
オリエンスだけでも、まだ見ていない店や市場はある。
この先にも知らない料理があるはずだ。
「普通に街を歩いて、市場を見たり、屋台に寄ったり、冒険者として依頼を受けたりしたいんです。特別扱いされすぎると、それがやりづらくなってしまうので……」
イザベラさんは何も言わず聞いている。
「それと、セバスさんとの鍛錬も、今まで通りお願いしたいです」
俺がセバスさんを見ると、すぐに一礼が返ってきた。
「もちろんでございます」
迷う様子すらなかった。
「大精霊の加護を得られたのであれば、その変化を含めて把握する必要がございます。今後も遠慮なく鍛錬させていただきます」
「よろしくお願いします」
少し安心した。
イザベラさんが小さく笑う。
「そこまで心配しておったのか」
「急に扱いが変わったら困るなと思いまして」
「分かった。ならば今まで通りでよい」
イザベラさんはあっさり答えた。
「そなたを権力で縛らぬことと、余たちがそなたとの付き合い方まで変えることは別の話だからな。本人が今まで通りを望むなら、そうしよう」
「ありがとうございます」
「ただし」
少しだけ声が真面目になる。
「そなたがそう望んだからといって、国までそなたを軽く扱うという意味ではないぞ」
「はい」
「王家や貴族の立場を使って無理を通そうとする者がいれば、こちらで止める。そなたが自由に旅をしたい場所では邪魔をせぬが、必要な時には国として守る」
保護はする。
でも、そのために行動を制限することはしない。
俺にはそのくらいが一番ありがたい。
「それで十分です」
「うむ」
話が一段落したところで、イザベラさんがふと思い出したように尋ねた。
「ところで、その大精霊の加護によって発現した固有の力とは、どのようなものなのだ?」
「食器を作れるようになりました」
「……食器?」
イザベラさんが止まった。
ザディスさんも俺を見る。
「はい。木製の食器です」
俺は『樹器創成』を使う。
手元へ淡い緑色の光が集まり、一枚の木皿へ変わった。
「こういう感じです」
その隣へ深皿、小鉢、細長い皿を順番に作る。
木目や色も少しずつ変えてみた。
「形や大きさは自由に変えられます。必要な数も作れますし、耐熱や耐寒、防水、防油もあります」
「それだけか?」
「保温と保冷も選べます。使い終わったら自分で消せますし、中身が空になった状態で置いておけば、一日くらいで勝手に魔力へ戻るみたいです」
イザベラさんは並んだ食器を見る。
「……随分と料理に寄った力になったものだな」
「【料理する者】と結びついたからみたいです」
俺は作った皿を手に取り、木目を確認する。
「屋台でかなり使いやすそうなんですよ。大量に客が来ても食器が足りなくなりませんし、保温もできるので」
イザベラさんが吹き出すように笑った。
「大精霊から最高位の加護を受けて、真っ先に屋台の食器を考えるか」
「便利なので」
「お主らしいと言えば、お主らしいな」
一往復で話は終わる。
俺は生成した器をまとめて消した。
「ただ、加護そのものでは他にも色々変わっています。魔力の量や回復力が増えて、身体能力も上がりました。木や植物の魔力も、前よりかなり感じやすくなっています」
さっきまで少し和らいでいたザディスさんの表情が、すぐに真剣なものへ戻る。
「やはり……」
「勇者伝承にある記述と、そこまで一致するのですね」
セバスさんも頷いた。
イザベラさんはしばらく考え込んでから、ゆっくり口を開いた。
「各地の大精霊から祝福を受けていった、古き勇者か……」
ザディスさんも静かに頷く。
「その伝承が事実に近いのなら、彼らがそれほどの力を必要としたということでもありますね」
「国家一つではどうにもならぬ災厄が、実際に存在したということになる」
イザベラさんの表情が少しだけ険しくなる。
つい先日、アドヴァースは魔神を召喚しようとしていた。
無理やり起動したため失敗したが、もし必要な魔力と工程が揃っていたら、何が出てきたのかは分からない。
「ただの昔話として片付けるには、少々気になるな」
「そうですね」
それ以上、話を広げることはなかった。
古い伝承と今回の加護が似ている。
今分かっているのはそこまでだ。
俺に何か使命ができたわけでもない。
しばらくして、イザベラさんが机の上に置かれていた一枚の書類を手に取った。
「さて。本来の話へ戻ろう」
俺も姿勢を整える。
「今回の大聖樹異変調査についてだが、これをもって正式に依頼達成とする」
原因となった魔力導出設備の発見。
地下拠点の特定。
アドヴァース構成員の捕縛。
魔力吸収の停止。
そして木の大精霊本人の無事と、回復可能な状態まで確認できた。
「十分どころか、依頼した時に想定していた範囲を遥かに超えておる」
イザベラさんは手元の書類を確認してから、俺へ顔を向けた。
「当初の調査依頼から内容が大きく変わったゆえ、報酬も増額してある。三千万ゴールドだ」
「三千万……」
思っていたより随分多い。
「原因の特定だけではなく、アドヴァースの地下拠点を突き止め、魔神召喚を阻止し、大聖樹からの魔力吸収まで止めたのだ。これでも国として正当に算定した額だぞ」
そこまで言われれば、遠慮する理由もない。
仕事として受けた依頼なのだから、正当な報酬なら素直に受け取るべきだろう。
「分かりました。ありがとうございます」
用意されていた報酬を受け取り、アイテムボックスへ収納する。
木の大精霊から加護をもらったことと、国から頼まれた仕事は別だ。
それは分かっている。
分かっているのだが。
(……これで、前にもらった一億ゴールドと合わせると一億三千万か)
改めて数字にすると、とんでもない。
もちろん、それ以前から持っていた金もある。
旅を続ければ宿代や食材代はかかるし、高価な食材や調理器具を見つければ惜しまず買うつもりだ。
必要なら屋台や店の設備へ金を使うこともあるだろう。
それでも、一億を超える金額となると話が違う。
普通に暮らしているだけなら、一生かかっても使い切れる気がしない。
(……何に使えばいいんだ、これ)
大金をもらっておきながら、真っ先に浮かんだのが使い道への困惑だった。
日本で普通に暮らしていた頃の感覚が、どうやらまだしっかり残っているらしい。
まあ、無理に使う必要もない。
必要な時に必要なものへ使えばいいだろう。
「これで今回の件は終わりだな」
「はい」
随分長く感じた。
最初は山で少し成長の遅い笹筍を見つけただけだった。
そこから冷たい風や水の違和感が繋がり、最後には地下のアドヴァース拠点と魔神召喚にまで辿り着いた。
予想できるはずもない。
イザベラさんが椅子へ身体を預け、少し表情を和らげた。
「ならば、ひとまず予定通りでよかろう。オリエンスでの用事が片付けば、次は南へ向かう」
「はい」
「お主もまだ南の街は見ておらぬのであろう?」
「まだです」
「ならば、道中も含めてゆっくり見て回ればよい。この国で食べるものも、まだまだ残っておるぞ」
その言葉に、俺も少し笑った。
「それは楽しみです」
「うむ。こちらも予定を変えるつもりはない。南までは今まで通り一緒に行くぞ」
「ありがとうございます」
大精霊の加護を得たからといって、これまで決めていた予定まで変わるわけではない。
それが少し嬉しかった。
イザベラさんはそこで表情を少し改める。
「それと、好きなように旅をしてよいという話も変わらぬ」
俺を見る目は真剣だが、距離を置くようなものではなかった。
「今は共に南へ向かう予定だが、その先まで余がそなたの行く場所を決めるつもりはない。好きな場所へ行き、好きなものを見ればよい」
「はい」
「ただし、困った時には我らを頼れ。それだけは忘れるな」
「ありがとうございます」
俺は素直に頭を下げた。
話を終えて王城を出る。
外へ出ると、昨日よりさらに柔らかな風がオリエンスの街を通り抜けていた。
大聖樹の葉にはまだ黄色いものも残っているが、通りにはいつもの活気が戻り始めている。
市場からは野菜を売る声が聞こえ、少し先の屋台からは何かを焼く香ばしい匂いが流れてきた。
大精霊の加護。
古い勇者の伝承。
それに、また増えた大金。
王城で聞いた話は、思っていた以上に大きなものだった。
それでも、俺自身がやりたいことは今までと変わらない。
オリエンスでの滞在が終われば、予定通りイザベラさんたちと南へ向かう。
その道中にも、まだ知らない景色や食材があるはずだ。
俺は漂ってきた香ばしい匂いへ少しだけ顔を向けた。
大精霊の加護を得ても、大金を持つようになっても、急に何か別のものになるわけではない。
これまでと同じように、自分の目でこの世界を見て、美味しいものを探しながら歩いていけばいい。
人々の声が戻ったオリエンスの通りを、俺はみんなと一緒にゆっくり歩いていった。




