第30話 審判の時
翌朝。
皇宮の大広間――
朝議が開かれる場所。
天井は高く、壁には金色の装飾が施されている。
中央には長いテーブルが置かれ、その周りに椅子が並ぶ。
帝国の重要な決定が、ここで行われる。
リュシアン、ベルナール、ヴィオラが
自信満々の笑みで会議の場に参加している。
三人とも、晴れやかな表情だ。
まるで勝利が約束されているかのように。
リュシアンが椅子に座り、足を組む。
余裕の態度。
ベルナールも、胸を張って座っている。
ヴィオラは立っているが、誇らしげな笑みを浮かべている。
他の廷臣たちも続々と集まり始めた。
有力貴族たちや、大臣たち、将軍・提督たちだ。
帝国の重鎮が、次々と入ってくる。
皆、それぞれの席に着く。
ざわざわと話し声が響く。
「今日は何の議題だ?」
「セリナの再審議らしいぞ」
「またあの反逆者の話か」
その時――
扉が開く。
廷臣たちの話し声が止まる。
神聖皇帝カイゼルが現れる。
白い髪、白い髭――
威厳に満ちた姿、それを見かけた
廷臣たちが一斉に立ち上がる。
姿勢を正して、カイゼルを迎える。
「陛下!」
全員が深く礼をする。
カイゼルがゆっくりと歩いてくる。
足音が広間に響く。
そして――
最上座の玉座に座る。
「着席せよ」
カイゼルの声が響く。
廷臣たちが一斉に座る。
静寂の中、カイゼルが広間を見渡す。
そして――
威厳に満ちた声で議題を宣言する。
「本日の朝議は、そこのベルナールによる発議によって、
先のセリナ・フォンテーヌの反逆罪の再審議を行う」
カイゼルが続ける。
「また、新たに判明したグレイヴ公爵による地方反乱に対する
朝敵指定に関しても議論する」
ベルナールが邪悪な笑みを浮かべる。
(全ては、計画通り……)
そして得意げに発言しようとした。
「では、最初の議題に関して……」
それを遮るようにカイゼルが割り込んだ。
「実は、飛び込みではあるが」
カイゼルが続ける。
「もう1件、議題が挙がっている」
廷臣たちがざわつく。
事前のアジェンダにない話であるため、
皆が一様に不審な顔をした。
「飛び込み?」
「何の話だ?」
カイゼルが厳しい目で言う。
「皇太子リュシアンとベルナール公爵の不正に関する発議だ」
「……!」
リュシアンとベルナールの顔が歪む。
血の気が引く。
会議の場で声が挙がった。
「誰ですか?そんな根も葉もない議題を挙げた者は?」
別の廷臣が叫ぶ。
「皇太子殿下に対する不敬だ!」
焦ったベルナールが声を上げる。
「陛下!これは何かの間違いでは!?」
ベルナールが続ける。
「儂に不正など、あろうはずが……」
カイゼルが――
静かに、しかし力強く言う。
「セリナ、入ってきなさい」
扉が開く。
廷臣たちが一斉に振り返る。
セリナ、ユーリ、カイルが
皇帝直属近衛兵に守られながら現れた。
セリナは堂々と歩いてくる。
桃色の髪が揺れる。
背筋を伸ばし、前を見つめている。
ユーリが隣を歩く。
セリナを守るように。
カイルが後ろを歩く。
廷臣たちがざわつく。
「セリナ・フォンテーヌ……!」
「反逆者が、なぜここに……!?」
「セリナっ!?」
リュシアンが思わず声を上げる。
立ち上がり、信じられないという顔をする。
「なんで、お前が……!」
ベルナールも驚愕の表情で叫ぶ。
ヴィオラも目を見開いて呆然としている。
セリナはそんな三人を見て、静かに微笑む。
そして――
カイゼルの前まで来ると、深く礼をする。
「陛下、セリナ・フォンテーヌ、参りました」
カイゼルが頷く。
「うむ」
前方の大きなモニタに、二つの相反する発議内容が映し出された。
一つは――
ベルナールによる、セリナの反逆とグレイヴの叛乱。
もう一つは――
セリナによる、リュシアンとベルナールの不正。
廷臣たちが、モニタを見つめる。
静寂が、広間を包む。
カイゼルが――
ゆっくりと口を開く。
「さて」
カイゼルが広間を見渡す。
「どちらが真実か」
カイゼルが続ける。
「これより、審議を始める」
・ ・ ・
カイゼルが宣言する。
「公平を期すため、双方の発言を禁ずる」
カイゼルがセリナたち、そしてベルナールたちを見る。
「審議の間、静粛にせよ」
「陛下のご意向に従います」
セリナが頭を下げる。
ベルナールも、渋々頷く。
「では」
カイゼルが前を向く。
「法務大臣イールマックに議事を任せる」
一人の男性が前に出る。
細身の体、鋭い目つき、
法務大臣イールマック。
帝国の法を司る重臣だ。
「承知いたしました」
イールマックが深く礼をする。
そして――
広間を見渡す。
「これより、審議を開始する」
イールマックが両方の証拠を示す。
モニタに映し出されたものを
一つ一つ、丁寧に説明していく。
「まず、ベルナール公爵による発議」
イールマックが説明する。
「セリナ・フォンテーヌの反逆、
グレイヴ公爵の叛乱に関する証拠だ」
イールマックが続ける。
「次に、セリナによる発議」
イールマックが画面を切り替える。
「リュシアン皇太子とベルナール公爵の不正に関する証拠だ」
廷臣たちが、モニタを凝視する。
静寂。
やがて――
「発言を許す」
イールマックが言う。
一人の廷臣が立ち上がる。
ベルナールの派閥に属する者だ。
「アルフレド公の遺した証拠には、時系列に重大な欠落がある!」
廷臣が声を張り上げる。
「これでは証拠として不十分だ!」
別の廷臣が立ち上がる。
かつてアルフレドと親交があった者だ。
「欠落があるのは当然だ!」
廷臣が反論する。
「アルフレド公爵は命を狙われながら、
これらの証拠を集めたのだ!」
また別の廷臣が立ち上がる。
「ベルナール公爵には、かねてより
悪評があった!」
廷臣が続ける。
「賄賂、横領の噂が絶えなかった!」
ベルナールの派閥の者が叫ぶ。
「それは根も葉もない噂だ!
証拠もない中傷だ!」
議論が白熱する。
声が飛び交う。
廷臣たちが次々と立ち上がり、
それぞれの主張を叫ぶ。
セリナは、ただ黙って聞いている。
発言を禁じられているため、何も言えない。
ただ――
手が震える。
ユーリが――
そっと、セリナの手を握る。
見えない場所、
テーブルの下で。
セリナの震えが、少し収まる。
でも――
握る手に力が入る。
焦りが伝わってくる。
ユーリが――
優しい表情で頷く。
セリナを見つめて。
(諦めるな)
ユーリが心の中で呟く。
(嘘で固められた証拠は、どこかで破綻を生じる)
議論が続く。
時間が経つにつれて――
徐々に流れがベルナール優勢に傾き始める。
「アルフレドの証拠には、粗が多すぎる!」
ベルナール派の廷臣が叫ぶ。
「対して、ベルナール公爵の証拠には
目立った矛盾がない!」
ベルナール肯定の意見が増え始めた。
「最初にセリナを糾弾した内容からも
矛盾が存在しない!」
中立派の廷臣たちも、頷き始める。
「確かに……」
「ベルナール公爵の主張の方が、
整合性がある……」
相対的に考えると、どうしても
ベルナール側の主張の方が信ぴょう性が高かった。
セリナの顔が、青ざめる。
握る手に、さらに力が入る。
(このままでは……)
セリナが不安に襲われる。
(負ける……?)
その時――
扉が勢いよく開く。
バンッ!
廷臣たちが驚いて振り返る。
議論が止まる。
情報官が慌てて入室してくる。
息を切らしている。
「陛下!」
情報官が叫ぶ。
「緊急の報告です!」
カイゼルが――
静かに手を上げる。
「申せ」
情報官が――
震える声で報告する。
「ご報告します!」
情報官が続ける。
「フィンニャルド星系にて……
グレイヴ公爵、反乱!」
「……!」
広間がどよめく。
「グレイヴ公爵が……!?」
「反乱を起こした!?」
発言を禁じられたベルナールが――
思わず声を上げる。
「ほれ、みたことか!」
ベルナールが叫ぶ。
「儂の挙げた議題の通り、
グレイヴ公が謀反を起こしたぞ!」
そして――
慌てて口を閉じる。
(しまった……!)
発言を禁じられていたのに。
だが――
この一声が、場を支配するに十分だった。
廷臣たちが、ベルナールを見る。
そして――
頷き始める。
「グレイヴ公爵が、実際に反乱を……」
「では、ベルナール公爵の証拠は、
正しかったのか……」
「セリナの証拠は、やはり
でっち上げだったのでは……」
一気に、ベルナールの発議が力を持った。
場の空気が、完全に変わる。
セリナの手が――
ガタガタと震える。
顔が、真っ青になる。
(そんな……)
セリナが絶望する。
(グレイヴおじ様は革命を起こしたの!……これは反乱じゃない!
なんでみんな分かってくれないの!
こうやって揉み消そうとするベルナールに対抗するために!!)
ユーリも眉をひそめる。
でも――
まだ、諦めていない。
セリナの手を、強く握る。
遂にカイルも声を上げた。
「まだ、反乱と決まったわけじゃない!
グレイヴ公はベルナールの暴挙を止めるために立ち上がったんだ!」
ベルナールが目をぎらつかせて叫んだ。
「小者が何を言うか!黙っておれ!!」
発言を禁じた者達が罵り合う姿を見て、
カイゼルが黙ったまま不快な顔をする。
「お前達が暴挙じゃないってんなら、
なぜ神妙に出頭しようとした丸腰のセリナに
レイディアント・クラウン・アルマーダを派遣して消そうとしたんだ?
返り討ちにあったけどな。くくく」
顔を真っ赤にしてリュシアンが反論する。
「人聞きの悪いことをいうな!
我々は赤毛猫海賊団の団長の情報を入手したため
懲悪のために派遣したまで!
その場にセリナがいたなら偶然だ!」
「レイディアント・クラウン・アルマーダが返り討ち?」
ボソボソと朝議の場で囁き合う声が聞こえた。
それを聞いてさらにリュシアンが声を上げた。
「黙れ!関係のない話を持ち出すな、下郎!
もし我々が怪しいというならば、お前達の証拠の欠落を
埋める新情報でも提示したらどうだ?」
リュシアンのその一声で再び議場に静寂が流れた。
カイルの機転で盛り返しかけた場の雰囲気も、再びベルナール側へ傾く。
(クソ……どうしようもないのか)
「朕は発言を禁止したはずだが?」
鋭い目つきで睨みつけると、リュシアンとカイルは
肩を落として黙り込んだ。
「そろそろ議論は出尽くしたな?」
その場の全員が黙りこみ、皇帝の判決を待った。
「本件は……」
カイゼルが良く通る声で語り始めたその瞬間――
「新証拠はあるっ!」
聞きなれた声が議場に響いた。
皆がそこに注目する。
そこには、レオンとソフィアが立っていた。
縛られた黒曜の五影が傅いていて、
逃がさないように二人がしっかりとロープを握っている。
声の主は、彼らの前で仁王立ちするグレイヴ公爵だった。
どうでしょう?法廷サスペンスのようなワンシーンに政治駆け引き。
最後にはヒーローの登場。
誰がどう見ても大逆転しか予感しません!
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