第31話 皇太子妃に返り咲き
グレイヴ公爵が仁王立ちしている。
その傍には縛られた黒曜の五影。
レオンとソフィアがロープをしっかりと握っている。
朝議の場で、口々に囁き声が上がる。
「あれは……グレイヴ公爵!?」
「地方で反乱は?」
「なぜ、彼がここに?」
ついにベルナールが立ち上がって叫んだ。
「グレイヴ公!
なぜお前がここに!?反乱はどうした!?」
グレイヴが――
小さく鼻で笑った。
そして、よく通る凛とした声で反論する。
「反乱?」
グレイヴが広間を見渡す。
「馬鹿馬鹿しい。この私が陛下に剣を向けると思うのか?」
ニヤリと笑う。
「まぁ、お前の気を引くために
お前のスパイには少し誤報は流しておいたがな」
「な、なんだと?!」
ベルナールの顔が歪む。
そしてグレイヴが力強く言った。
「私がここへ来た理由はただ一つ!
新証拠を届けに来た」
グレイヴが黒曜の五影を指す。
「こいつらだ!」
ベルナールに明らかな焦りの色が見える。
汗が、額を伝う。
「こいつらに見覚えがあるだろう?」
グレイヴがベルナールを見据える。
「お前の暗部を全て知る者たちだ」
レオンが右腕でロープを引く。
黒曜の五影が前に引き出された。
五人とも、縛られたまま膝をつく。
「アルフレド公の証拠の欠落部分は
全てこいつらの証言で補完できた」
グレイヴが宣言する。
「後から皆にもデータを配布しよう」
そしてそのまま続ける。
「それに、まだまだ色々なことを
こいつらは知っているようだ」
グレイヴが――
ベルナール派貴族を睨みつけて告げた。
鋭い視線。
芋づる式に悪事を暴かれることを恐れたのだろう。
ベルナール派の高位貴族の一人が、慌てた様子で声を上げる。
「そ、そうか!さすがグレイヴ公!
その証拠の補完があれば、もはや疑いはない」
立ち上がる。
「私はセリナ嬢を支持するぞ!」
別の貴族も立ち上がった。
「あ、ああ!そうだ!」
「私もセリナ嬢を支持する!」
ベルナール派だった貴族のほとんどが、口々にセリナ支持を申し出た。
一斉に――まるで示し合わせたかのように。
ユーリが興奮を抑えながら、セリナの手を強く握り返す。
「セリナ」
ユーリが耳元で囁いた。
「お前の勝ちだ」
「ユーリ……」
セリナの目に涙が滲む。
嬉しくて……安堵して。
ベルナールとヴィオラが唖然としている。
「ば、馬鹿な……」
「父上、私は……?」
二人が震える声で呟いた。
一気に逆転したこの場の雰囲気に完全に飲まれていた。
「まずは陛下にだけは、このデータをご覧いただきます」
グレイヴがソフィに目配せする。
ソフィが――
新たな証拠データが詰まった端末を受け取る。
そして、急ぎカイゼルの元へ運ぶ。
そして前まで来ると、ひざまずいた。
「陛下」
ソフィが恭しく端末を差し出し、
カイゼルは無言で受け取る。
画面を開き、
そして――じっくりと目を通す。
時間が、ゆっくりと流れる。
誰も、声を出さない。
ただ――
カイゼルを見つめている。
やがてカイゼルがゆっくりと顔を上げる。
そして朝議参加者に向けて告げた。
「グレイヴ公爵より新たな証拠が提示された」
その場の全員が静かに注目している。
「この証拠は、黒曜の五影と呼ばれる
ベルナールの直属諜報部隊の
任務指示書と報告書のようだ」
ひざまずいたままソフィがカイゼルに口添えする。
「陛下、さらにこのようなデータもございます」
緊張しながらもソフィが続ける。
「そこに含まれる053番の音声データです。
幾重にも暗号化されておりましたが、解除済みです」
ソフィが自身の端末を操作する。
そして――
音声データを再生する。
広間に、声が響く。
ベルナールの声だ。
ベルナール側発議の第一項:セリナ横領事件の
使途不明金について、ベルナール自身が犯人であることを
自白するような内容だった。
アルフレドとセリナに罪を着せるよう命じる所まで
はっきりとベルナールが指示していた。
廷臣たちが、息を飲む。
ベルナールの顔が青ざめる。
「現在、近衛情報局にこの音声の信ぴょう性検証を依頼しています」
ソフィが告げる。
でも――
顔面蒼白のベルナールの様子を見たら、
その音声データが本物であることは疑いようがなかった。
「054から070番のデータも解除済みです」
ソフィが続ける。
「現在、71番以降は解除試行中ですが、
3日もいただければ全て解除いたします」
そこまで告げた後、得意げなソフィが皇帝に問いかけた。
「他にも再生致しますか?」
ソフィは得意のハッキングスキルで、
黒曜の五影から入手した任務データの暗号を解除していた。
ゆっくりとソフィがセリナの方へ振り向く。
見つめながら微笑む。
セリナも、涙を流しながら微笑み返す。
「いや、もう良い」
カイゼルが言う。
「ベルナールよ」
カイゼルが厳しい目で見る。
「もはや、反論はあるまいな?」
ベルナールは――
放心して、視線が漂っていた。
何も言えない。
リュシアンも、しばらく呆けていた。
でも――
すぐに作り笑いをして、セリナに歩み寄る。
「は……ははは……
すまなかった、セリナ」
ぎこちない笑みのまま続ける。
「私はベルナール公に騙されていたようだ」
リュシアンがセリナの手を取ろうと近づく。
「お前を傷つけてしまったことは謝ろう。
再び皇太子妃として、お前を受け入れ……」
「お断りいたします!」
セリナが――
凛として断り、手を引いた。
完全な拒絶だ。
リュシアンが顔をしかめた。
「なんだと……?」
そこへ、カイゼルが再び通る声で皆に向けて演説を開始した。
「本議題は、セリナの発議を採用する」
カイゼルが宣言する。
「それと共に、セリナの冤罪は全て晴れたものとし、
再び女公の地位を回復させる」
「おぉ……」
参加者から感嘆の声が上がる。
拍手が起こる。
セリナの冤罪は――
見事、晴らされた。
セリナが涙を流しながら、深く頭を下げる。
「ありがとうございます、陛下……」
声が震える。
ユーリがそっと、セリナの肩に手を置く。
「よかったな」
カイルも笑顔で頷く。
「やったな、セリナ!」
レオンとソフィアも遠くから、微笑んでいる。
グレイヴ公爵が満足そうに頷く。
「アルフレドよ……」
グレイヴが心の中で呟く。
(お前の娘は立派だった。
遺志を継ぎ、皇太子を追い詰めた)
拍手が途絶えたところで、カイゼルが再び声を発した。
「そして朕はここに居る皆たちに二つの発表を行うこととする」
皆が再びカイゼルに注目した。
「一つ……。
この度のことは、皇太子リュシアンも共犯であることは明白である」
「父上!?」
「これは神聖帝国の皇太子には相応しからぬ行為である。
処断が必要なところではあるが、朕も人の親、甘く処遇することを
許してもらいたい。」
リュシアンに安堵の表情が浮かぶ。
「処断は免除するが、リュシアンを廃嫡とし、皇太子の地位をはく奪する。
今後リュシアンは国境ウーニャベル星系の惑星ウーニャルの
ニャルー地方領主として余生を過ごすこととせよ」
「ち、父上ぇ!?」
リュシアンの悲鳴を無視して、カイゼルは手のひらを使ってユーリを指した。
「代わって、第2皇位継承権保持者である皇子ユーリを新皇太子とする」
ユーリとセリナが驚愕して目を見開く。
そして、静寂が一度に歓声に変わった。
「新皇太子ユーリ殿下、万歳!」
祝いの万歳が部屋に満ちた。
リュシアンは再び膝から崩れ落ちて気を失い、従者によって連れ出された。
万歳が落ち着いた頃、再びカイゼルが声を発した。
一気に場に静寂が戻る。
「二つ……。
新皇太子ユーリに皇太子妃を決める必要がある。
最も権威がある公爵家の一つであり、ユーリを支えるに適した者として……」
カイゼルが優しげな目でセリナを見た。
「朕はセリナ・フォンテーヌ女公をユーリの皇太子妃に推したいと思う。
セリナよ、受けてくれるか?」
セリナが瞬きを繰り返すが、言葉の意味が頭に入ってこない。
「セリナ……我が妃になってくれないか?」
今度は耳元でユーリがセリナに呟いた。
その瞬間、セリナが目を見開く。
溜まっていた涙が再び流れ落ちた。
「は……はい、喜んでお受けいたします。
カイゼル陛下、それにユーリ殿下、ありがとうございます!!」
その一言を受けて再び拍手が嵐のように巻き起こった。
カイル、レオン、ソフィ。
この三人が最も盛大に拍手を送っていた。
ユーリとセリナが笑顔で見つめあう。
その時、ユーリがセリナを抱き寄せ、そのままセリナへキスをした。
驚いたセリナだったが、そのまま目を瞑って受け入れた。
再び大きな拍手が上がる。
二人が唇を離すと、ユーリが力強くセリナを抱きしめた。
「もう……離さない。
絶対に手に入らないものだと思っていた」
セリナが微笑みながらユーリの背中に手をまわして、
こちらも強く抱きしめた。
「私もです」
・ ・ ・
しばらく時が経った。
「セリナ様!さぁ、行きますよ!」
「えぇ!……ねぇ、変じゃない?」
「全然!宇宙一美しいです!」
「それは……ちょっと言い過ぎじゃない?」
「ふふ。本当ですって!ほらほら。いきますよ!」
花嫁衣装に身を包んだセリナがゆっくりとソフィの後を追う。
ソフィは皇太子妃付きメイド長として、
今はセリナの傍で支えている。
部屋を出ると、扉の前でレオンが控えていた。
「レオン!ど、どうかな?似合ってる?」
「えぇ、最高です。ユーリ殿下が羨ましい」
レオンがニッコリと微笑んだ。
「おい、レオン近衛隊長、余の妻を口説くな!」
ユーリが笑いながら現れた。
セリナとレオンもつられて笑う。
「口説いてなんていませんよ、私にはソフィがいますから」
そういうとレオンがソフィの肩を抱き寄せる。
「レ、レ、レオン様ぁ……」
レオンは皇太子付属近衛隊隊長としてユーリの側近の一人になっていた。
左手はまだ不自由だが、片手でも十分に近衛隊長として通用する実力を持っている。
そして……レオンとソフィが付き合っていることは公然の事実のようだ。
「ははは、それもそうだな」
ユーリが再び笑う。
その一連のやり取りを終えてユーリが再びセリナの方を向く。
セリナは上目遣いでユーリを見つめた。
ある言葉を期待して。
「……セ、セリナ。綺麗だ……」
望んでいた言葉を聞けて満面の笑みを見せた。
「ソフィ、邪魔者は退散しよう。
会場までは王子様がエスコートしてくれるだろう」
「そうですね」
レオンとソフィが笑顔のまま、手をつないで別のルートで結婚式会場へと向かう。
「あいつら、気を使いやがって。
まぁいい、セリナ行こうか。
段取りの打ち合わせがあるそうだ。」
「はい!」
・ ・ ・
二人は式場に向かう道を並んで歩いている。
「そういえばだが、カイルはこの式典には参加できないらしい。
グーニャン星系で任務中だったんだ。戻ってくるのは半年後だ」
「残念だなぁ、カイルにも私達の晴れ姿は見てもらいたかったのに」
「そうだな」
カイルは今や皇太子用戦艦の艦長に任命されている。
ちょうど海賊退治任務で辺境にいるため、結婚式には参加できない。
「カタリナさんは?」
「カタリナか、さすがに皇宮に奴らを招き入れることは難しいな。
だがパレードには参加してくれると言っていた」
「そうかぁ、じゃあ、どっちが先にカタリナさんを見つけるか勝負ね!」
「あいつのことだから一瞬で分かるくらいド派手に待ち構えてるかもしれないぞ?」
「それはそれで面白いかも?!」
「そういえばだが……。
惑星ウーニャルからの情報によるとリュシアンとヴィオラも
先日結婚したそうだ」
「あ、そうなんだ?あの人たちのことは気持ち的には許せないけど……
心を入れ替えてくれるなら、二人にとっても良かったんじゃないかな?」
「そうだといいが」
ベルナールとヴィオラは今回の件で罪を問われたが、
新皇太子の立太子に伴う恩赦によって命は救われた。
だが、公爵位と領地、財産は没収されて、
かつてほどの豪奢な生活はできないが、
真の愛に気づいたのだろうか。
リュシアンとヴィオラは新生活を開始した。
ベルナールもリュシアンの領地で養われているらしい。
・ ・ ・
二人は会場の傍までやって来た。
窓から外をみると民衆が結婚式を前にして沸き立っている。
「さぁ、いこうか!」
二人は手を繋いで、新たな一歩を踏み出した。
◇ ◇ ◇ 皇太子妃に返り咲き 終幕 ◇ ◇ ◇
「冤罪令嬢、謎のイケメンに溺愛されて皇太子妃に返り咲きます」
完結いたしました!
これでもかと爽快かつ幸せなハッピーエンドに仕上げてます。
(悪役だって真の愛に目覚めたかもしれないんです!)
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
セリナとユーリの物語を最後まで見届けていただき、
心より感謝申し上げます。
もしこの作品を楽しんでいただけましたら、
評価やレビュー、ブックマークをいただけると
次回作への励みになります。
また、これらが新しい読者様への推薦にも繋がります。
ニャニャーン神聖帝国の物語は、これからも続きます。
次回作もぜひお楽しみに!
改めまして、本当にありがとうございました。
著者:ひろの




